Wizardryには財布があったから

 Wizardryはワイヤーフレームの地下迷路で文字だけのキャラクターたちが冒険するが、その世界は想像力の許す限り広がっていた。
 そして、その想像力が広がるきっかけとなっていた最大の要因は
・キャラクターがそれぞれお金を所持していた。
・パーティーの仲間にお金を渡すコマンドがあった。
 ここに尽きたと思う。

 私のトレボー城下町には一人のビショップがいた。いや、作ったのは私だけれど、彼女は確かにそこにいた。
 基本的に種族は人間しか選ばなかった私のトレボー城下町において、珍しいエルフだった。能力値ボーナスは最低。ビショップになるだけの最低限のパラメータだけ与えられて、Lv1ビショップとして生を受けた。
 彼女は馬小屋に寝るなんて考えられなかった。しかし最低の能力値のビショップ、しかも人間の街になぜかやってきたエルフなんてどこの部隊からも仲間にしてもらえなかった。とはいえ彼女には宿代が必要で、だから彼女は鑑定業を営むことにした。

 成功報酬は販売額の10%とした。Long Sword+1の売値は5,000ゴールドで、ボッタクリ商店に持ち込むと鑑定料5,000ゴールドを取られ、売値と相殺されてしまう。だから探索者たちは彼女のもとに持ち込んだ。彼女に頼めば500Gで済むので、探索者の手元には4,500G残ることになる。だから彼女のビジネスはうまくいくはずだった。
 しかしうまくいかなかった。なぜかは、プレイした人ならみんなわかると思う。鑑定の結果呪いのアイテムが身体に貼り付いてしまったら、解呪するためには売値の半額を支払わなければならないのだ。ちまちま稼いだ鑑定料が解呪のために飛んでいく自転車操業だった。

 プレイしていたのは中学生のころ、もう30年も前の話だ。だから彼女が結局どうなったか覚えていない。案外あのフロッピーディスクには、Ring of deathを5つつけてアイテム欄を埋め尽くしたLv1の彼女がさびしく佇んでいるのかもしれない。あるいは誰かがAmulet of Wordnaの報酬経験値をおすそ分けしてくれて、そこそこの鑑定家になれたのかもしれない。中学生が彼女にどちらの人生を用意したのか覚えていない。

 懐かしく思い出すのは、自分には珍しかったその空想と、それを実現した「各プレイヤーごとに所持金(財布)を用意したWizardry」に対する感謝だけだった。ドラクエやFFみたいにお金がパーティー一括管理になってしまったら、とても一人一人の人生を空想することなんかできない。小学生だってお小遣いをもらう年齢になれば自分の財布を持つのよ? 俺のパーティーのせんしやそうりょやまほうつかいは小学生以下なのか?

 個人で金管理をする。それは煩雑だしメリットがないことだろうから、そういうゲームはもう今はないのだろう。
 ただ、今でも、パーティーの間で建て替えてもらったポーション代をちまちま渡したり、報酬を1ゴールドまで等分したり、蘇生代金のない仲間がカント寺院に放置されたり、そういうゲームをしてみたいとたまに思う。

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