見出し画像

バンクシーがパレスチナに作ったホテルに行ってみた。

 イスラエル建国から今年でちょうど70年を迎えました。5月には米国大使館がエルサレムに移転するなど国民にとって喜ばしいできごとが続く中、反発するパレスチナ人による大規模なデモが起きるなど緊張状態が続いています。
イスラエルとパレスチナを隔てるのは巨大なコンクリートの「壁」。延長は約490キロメートルにものぼり、市民の交流を妨げています。そんな分断を象徴する壁ですが、世界各地からアーティストが集まり壁画アートを手がける「大きなキャンバス」にもなっています。ヨルダン川西岸地区にあるパレスチナ自治区・ベツレヘムを歩きました。

(パレスチナにあるWalled off Hotel)

「世界一眺めの悪い」ホテル

  うねるように連なる、高さ十数メートルの壁。その数メートル傍に建つホテルの入り口の前に立つと、ドアマンが扉を開け出迎えてくれました。薄暗いレセプション内には、自動演奏で音楽が流れるグランドピアノや、豪華な飾りが施されたヨーロッパ調の家具が並び、不気味な雰囲気がただよいます。落書き風の壁画で知られる正体不明のの英国人アーティスト、Banksy(バンクシー)が手がけ、昨年3月にオープンしたホテル「Walled off Hotel」です。

ホテルは3階建てで客室は9部屋。30ドルから宿泊が可能です。walled off(遮断された、壁で仕切られた)というホテル名の通り、コンセプトは「世界一眺めの悪いホテル」。客室からは、圧迫感たっぷりの分離壁やイスラエル軍の監視塔が見え、バンクシーならではのブラックユーモアがたっぷり込められています。

(客室からの眺め、ホテルHPより)

ホテル2階のギャラリーでは、パレスチナ問題を伝えるオブジェや絵画などが展示されているほか、併設されたミュージアムでは、イスラエルとパレスチナの衝突の歴史をデザイン性の高い模型や映像とともに学ぶことができます。

(ミュージアムに展示されたパレスチナの歴史)

「安全」か、それとも「差別」か

壁の建設はイスラエル軍によって2002年から始まりました。延長は約490キロメートル。ドイツを分断していたベルリンの壁(約160キロメートル)の約3倍にのぼります。

(イスラエルにより造られた壁)

イスラエルは壁を作った理由として、パレスチナ人の自爆テロを防ぐためと説明しています。つまり壁は「市民の安全のためのフェンス」。実際にテロの件数は大きく減少したようです。
一方、イスラエル人は壁をまたいだ行き来を自由にできますが、パレスチナ人は特別な許可証が必要です。ドライバーのHaniさん(40)は「特に若い男性はテロのリスクが高いとされていて出ることができない。監獄みたいだよ」と話します。パレスチナ側は「アパルトヘイト(隔離)壁だ」と批判しているようです。

難民キャンプにも広がるアート

 銃で狙われるハト、爆弾の代わりに花束を投げる男性、監視塔を抱くトランプ米大統領ーー。市民間の交流を妨げる分断となった壁ですが、一方でそんな壁を逆手にとり「キャンバス」に見立て、世界中から集まったアーティストたちが所狭しと壁画を手がけています。

(壁に描かれた壁画)

 7月上旬に訪れたこの日も、アメリカ人らしき男女2人組がハシゴを使いながら制作活動を行っていました。

こうしたアートは街中のあちこちに散りばめられ、なんと難民キャンプでも見ることができました。アイーダ難民キャンプ内の壁には、縦横で数メートルの大きさにもなる大きな壁画が描かれていました。

ただ、爆撃があったのか黒く焦げついています。ここではたびたびイスラエル軍とパレスチナ人との衝突が行なわれているそうで、約1年前にイスラエル軍の爆撃で破壊されたという工場がそのまま放置されていました。

ホテルのHPでは、反ユダヤ主義の施設や団体ではなく、完全に独立した娯楽施設であることが明記されたあと、こう書かれています。

「パレスチナ人のホテルマネージャーとスタッフは、心を開いてくれるイスラエル人の若者、特に大歓迎です。(Palestinian management and staff offer an especially warm welcome to young Israelis who come with an open heart.)」

アートが文字通り、「敷居を低くしてくれる」ことを願わずにはいられませんでした。

(パレスチナ自治区ベツレヘム)
#パレスチナ #コラム #中東 #アート #イスラエル #バンクシー


いいなと思ったら応援しよう!