『不審者』読後感想

あらすじ

家族4人で平穏に暮らす里佳子の前に突然現れた1人の客。夫の秀嗣が招いたその人物は、20年以上音信不通だった秀嗣の兄・優平だと名乗る。しかし姑は「息子はこんな顔じゃない」と主張。不信感を抱く里佳子だったが、優平は居候することに。その日から不可解な出来事が続き……。家庭を侵食する、この男は誰なのか。一つの悲劇をきっかけに、すべての景色が一転する。緊迫のサスペンス&ミステリ。
『不審者』著 伊岡瞬
集英社文庫


内容の感想

 よく読むタイプの(最後に視点がすべてひっくり返る感じの)ミステリーでした。
 思い込みが激しい人間の一人称視点小説、何度読んでも騙される。ここまでくると自分が素直なのかもしれない。
 書いてあることが全て真実だとは思ってないんだけど、一人称で書かれた内容は「一人称視点の本人にとっては」事実だと思って読み進めてしまうので、本人に錯乱されてるとお手上げです、気付けない。

 オセロって、最初にたくさん取ると大抵最後にバババッとひっくり返って逆転するけど、そんな気分でした。負ける方でしたけど。
 ミステリを書くならこんなふうに書けたらいいよね〜って思う展開。みんな大抵そうなんだろうとは思いつつ、細かいところまで計算された文章な感じがしました。無駄な文がなさそうで、意識しない言い回しがない感じ。それこそ、里佳子みたいな。

 出てくる登場人物は、率直に言うと気味が悪すぎて感情移入どころの騒ぎではなかったです。全員気持ちが悪いし怖いしお付き合いしたくない。
 唯一の良心は洸太くらいなのかな……。でも同年代と比べると抑圧された性格なの、なんかされてんじゃないのと疑ってしまうし、里佳子が二人目ほしいのも普通に怖い。

 あと『リトル』ってあだ名は、ストーリー展開上なんだと思うけど名付け方も定着の仕方もちょっとダサいなと思ってしまった。
 2〜30年前に付けられたあだ名だしな……思ったけどそれにしても「小川→リトルリバー」にたぶんならないし、リトルリバーからリトルにもいかないと思う。精々りばちゃんとかりーちゃんとか?

 それと、里佳子が風が吹いてるか気になるの、何でだっけ? なんかあったかな。
 陽差しが素晴らしく差し込む立地だってのは覚えてたんだけど──って書きながら、そういえば突風が吹いたりビルの隙間風に煽られたりするシーンがあったのを思い出した。
 風が吹くシーンと里佳子が「何か」をするシーンが被ってたりしたのかな……ちゃんと読み返さないと分からないけど、今チラッと探して見た限りではそんなことはなさそう? 通しで読み返すことあったら風描写はちゃんと確認しよう。

 面白くなかったとは言わないんだけど、たぶん読む時期が違ったなぁ。まだ小さい頃に京極夏彦を手に取ったときとか、これは違うな……と思ったのと一緒かもしれない。
 去年書かれたものだけど、新しい感じはしなかったし20代で出会ったのは時期尚早だった。『悪寒』『代償』あたりが広く読まれてそうだったからそっちから手をつけるのがよかったかも、と思いました。

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