またトルコリラが下落している話
すっかり日にちが経ってしまった。申し訳ない。前回予告したので、今回もトルコの話を。今回は経済の目線から探る。
というのも、トルコリラがまた下落中である。
7/24を境に下落基調で、8/7に史上最安値を更新した模様。トルコリラは度々波乱を迎えるので、慣れている人にとっては「またか」という感じなのかもしれないが、今回はどのような事が背景として考えられるか、あまり経済に詳しくない人にも伝わるように、そして興味を持ってもらえるように書ければと思う。(なんという難題)
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経済アナリストの人は、こういう”事件”が起きると過去の出来事と比較して語る。今回のコロナ禍による経済打撃もよくリーマンショックの時と比較して語られていた。というわけで、真似して過去との比較で考えてみることにする。
前回のトルコリラショックは2018年8月。たった二年前である、笑。大和証券の分析によると、2018年のリラショックの原因は以下の3つと考えられるようだ。
① 中央銀行の独立性をめぐる懸念
② インフレ加速や財政拡張などをめぐる懸念
③ 米国との関係悪化など外交をめぐる懸念
(引用:トルコ・リラは史上最安値を更新(2018 年 8 月) )
では今回はどうだろうか。上記3条件が今回も成り立つのか検証してみる。
① 中央銀行の独立性をめぐる懸念
これは今回は特に際立っている印象はない。というかおそらく、前回の2018年8月から懸念は継続中だと思われる。
2018年8月の時点では、エルドアン大統領が娘婿のアルバイラク氏を新財務相に任命したことで、大統領の金融政策介入強化への懸念が広がった模様。
金融政策運営を、政府から独立した中央銀行の中立的・専門的な判断に任せるのが適当であるとの考え方が、グローバルにみても支配的になっています。(日本銀行HPより)
エルドアン大統領は「政策金利の引き下げ(利下げ)」を望む発言を繰り返しており、現在の中央銀行総裁にウイサル氏が就任して以来、今年5月まで9会合連続で「利下げ」が行われてきた。6月に初めて「政策金利が据え置き」されたことで市場には軽くサプライズとなっていた。
現在のトルコの状況は「政策金利引き上げ(利上げ)」を行い、市中に出回るリラの量を減らして通貨安をやわらげる必要があると思われるが、ウイサル総裁にそれを断行出来る見通しは持ちづらいと思われる。リラ安が続くとユーロへの影響も懸念されるため、今回の下落はこれ以上のリラ安を食い止めたい市場からの「利上げ要求」なのかもしれない。
② インフレ加速や財政拡張などをめぐる懸念
これはまさに、今回の下落のきっかけとなったのではと思われる出来事があった。
7/24にS&Pという格付け会社が、トルコ国債については格付けを据え置きしていたものの、「この数カ月、インフレ率が2ケタの伸びとなり、市中の信用供与額も急増、経常赤字も拡大する兆候が再び現れ始めた」と発言していた模様。これもリラ下落のきっかけのひとつになった可能性は十分に考えられる。
また、トルコの財政拡張については、外貨準備高の減少が今年に入ってかなり心配されていた。
外貨準備高というのは、外貨で持っている国の資産のことだ。必要以上に自国通貨安が起きてしまった時は、外貨準備高として持っていたドルを使ってリラを買って通貨暴落を防いだり、外貨建ての債権の返済などに使われたりする。(参考:SMBC日興証券HP)
トルコはこれまで観光で外貨を得ていたため、今回のコロナ禍で観光業が壊滅的になったことで外貨を入手するのがかなり困難になっているよう。とりあえず利上げを行うなどリラの流動性を低下させる策を講じない事にはこの懸念は払しょくされないだろう・・・。
③ 米国との関係悪化など外交をめぐる懸念
2018年8月の時は外国人牧師殺害でまさにトルコに米国が経済制裁を行ったというタイミングでトルコリラショックが起きたが、今回の外交懸念はなんだろうか。
例のアヤソフィアのモスク化に見られるトルコのイスラム国家への回帰路線が強まった件もあいまってか、キプロス周辺で揉めに揉めている天然ガス利権をめぐる争いが引き続き健在中だ。ギリシャは早速トルコへけん制姿勢を打ち出した模様。
リビア内戦でも緊張関係がある。
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ここまで検証してみると、正直いつ暴落してもおかしくない状況ではあった気がする。いまだにレートは戻ってないどころか下がり続けてるようだが、ひとまず次は8/20のトルコ中央銀行政策金利決定の前後に注目だろうか。
イスラム国家路線を突っ走り国民の支持を獲得したいエルドアン大統領だが、経済でつまづくと元も子もないので、中央銀行が頑張るか、エルドアン大統領が態度を軟化させるか・・・かなり苦境に立たされていると思われるが引き続き追っていきたいと思っている。
イスラエルとアラブ首長国連邦の国交復活という大ニュースも飛び込んできたしなぁ・・・これはトランプ大統領むちゃくちゃお手柄だ。トルコは「イスラムでひとつの国家をつくる!」と息巻いているため、この国交復活にはもちろん反対表明・・・これも米国との関係悪化に一花添えないといいが・・・。中東は本当に複雑だ。