父と五色温泉。
父とは昔からよく土曜の夜、外食に連れて行ってもらっていた。ご飯を連れて行ってもらってその後、銭湯に行くのがいつものルーティンだ。
そのせいか、小学生時代は肥満児だった。
運動が苦手で、出不精だったせいなのもあると思うが。
中学時代、両親が離婚してからも父は会いにきてくれて、ご飯をよく連れて行ってくれた。
餃子の王将、サイゼリヤ、回転寿司、たまに焼肉屋とか。基本地元のチェーン店中心。
そして、その後決まって銭湯。
よく行ってた銭湯は五色温泉という少し大きめの銭湯だ。
食べる場所もあるけど、スーパー銭湯ではないらしい。小学生の時から一番よく連れて行ってもらった。そこの男湯にはいつも刺青が入った男たちが沢山入っている。
それが普通ではないということはその頃幼かった自分にはわからなかった。
刺青が入れた男達がどういう存在なのか知らない。だから、まじまじと男たちの色とりどりの背中を湯に浸かりながら、眺めていた。
龍や虎が多かった気がする。
でももし、今彼らを見るのは少し怖い。
五色温泉には中で鯉が泳いでいる。
床の中に細長く伸びたガラスが埋め込まれていて、その中も鯉の水槽になっている。
今でもなかなかお洒落な作りだと思う。
風呂上がりに、買ってもらったソフトクリームを食べながら、鳩にコーンをあげるみたいに鯉に、コーンの部分をちぎってあげてた。
鯉「ぱくぱくぱくぱくぱくぱく」
大学生になると、あまりもう父と出かけることが少なくなり、社会人になるとめっきり減った。
でも社会人4年目にして、父に誘われて、本当に久しぶりに五色温泉に行った。
大人になってから行くと、昔大きかった風景がとても小さく感じた。
でも中のものは何も変わっていなかった。
相変わらず男湯には刺青男達がいた。
でも昔より数が減った気がする。
今時ヤクザは食っていけないのだろうか。
風呂から出て脱衣所で服を着ていると、
遠目に誰かが背の高いヤクザ2人組に絡まれている。父だった。
こんなことは初めてだった。
ヤクザが一般人に絡んでくるなんて、
しかもなぜ父に?
僕は遠目でそれを眺めていたら、
ヤクザの1人が「何見てんだ!こら!」と言ってきた。
自分の父親がヤクザに絡まれているのに、
どこの世界にそれを見ない奴がいる?
怖いけど、近づいて行ったら、
その男達から父は解放された。
何があったか尋ねると「人類みんな友達ってやつやな」と父は言ってきた。
訳がわからない。なぜ父がヤクザに絡まれたのか本当にわからない。メガネをかけた中年のおじさんに2人で絡む理由がないだろう。
でも聞いても答えがろくに返ってこなかったので、それ以上聞かなかった。自分の中でなかったことにしたかった。
でも父はよく絡まれるタイプだったのかもしれない。
父は服装に無頓着で、肌が透けて見えるくらい生地が薄くなった白いTシャツを平気で着る。
その格好で高校時代、淀川花火大会を父と自転車で見に行ったら、向こうから走ってきた野球少年達が父に向かって敬礼のポーズをしてイジってきたことがある。
父はよく絡まれる人なのかもしれない。
とにかく今まで無害だったはずのヤクザか?チンピラか?よく分からないけど、あいつらを完全に敵だと感じるようになった。
それからもう五色温泉には行きたくなくなった。
でもそれから少し経った後、何事もなく父に誘われてまた五色温泉に行った。
父はタフなのだ。
そこでまたよく分からない光景が目の前にあった。男湯の脱衣所にはなぜか裸の若い女がいた。
髪は長く、色白の肌。2つの乳房は完全に女のやつだ。
そう、これが五色温泉。
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