【Medical Emergence Talk】#7〜あなたの知らないトウヨウイガクの世界(後編)
前編はこちらから。
東洋医学が伝わり辛いワケ
朱田:一個、言わせてせてもらっても良いですか?今日は川尻さんに東洋医学を背負ってもらうとして・・・
川尻:これは・・・荷が重いな〜〜(笑)
朱田:東洋医学の立場の人たちって、足並みが揃ってない感じがするんですよ。西洋医学のドクターたちは、自分の専門分野に特化してしまっているところはありますが、みんな一つの方向に向かっている。エビデンスを基準にしているから説明が共通しているんですよね。一方で、東洋医学は伝え方があまり上手じゃないという気がします。もちろん、全員とは言わないけど。
例えば、手のツボを押して「いてて」ってなった時に、「心臓の働きが優れないですね」とか言うじゃないですか。でも、川尻さんの言葉を借りると、その「心」は心臓の働きじゃなくて概念的なもののはず。だけど説明する人が、「心臓の働きが・・・」とかって言うから、本質が伝わらない。心臓って、心拍動?心拍出量のこと?と、曖昧でよくわからなくなる。
川尻:受け取り側に東洋医学的な知識があれば、概念を伝えることもできるかもしれないけど、リテラシーの問題もありますね。確かに、何にも考えずに心臓って言ってしまう治療家もいると思います。ドクターがピンキリなのと一緒で、東洋医学の治療家もピンキリなんだと思います。
朱田:まあ、そうですね。
川尻:東洋医学の問題というよりは、お寿司屋さん、弁護士、どんな分野でもピンキリですよね。
朱田:それにしても、概念的な話をする人が表に出てこなさすぎるなっていう印象があります。東洋医学は、足並みが揃わないというか、概念が正しく伝わっていない。
川尻:ただね、僕は足並みが揃うことも問題だと思うんですね。
なぜなら、複雑な人間のシステムを理解するのに一つの視点でいいことって絶対ない。全てのドクターが同じ視点で、同じように説明できることがいいことかと言われると、結構疑問です。いい部分もあるし、そうじゃない部分もある。多様な視点を持つことは、非常に大事だと思います。
100人いたら100通り!?
東洋医学の治療法とは?
朱田:東洋医学の治療法についても教えてください。
病院のドクターの治療というのは、基本的には一般化された治療が求められます。100人いたら100人に、ある程度効果が出そうな治療です。
その治療ですごく効く人もいるけれど、なかには外れる人もいる。平均的に考えると効果が出る治療をする。これが西洋医学。個は考えない。
川尻:だから、西洋医学では70点の効果しか出ない治療が生まれてるわけじゃないですか。
朱田:まあ、そうですね。100点ではなくても、治療の結果に有意差があれば、効果があるという判定ですよね。
川尻:70%の確率で良くなる事を良しとするのか、100%を目指すのかの違いって結構あると思うんですよね。
朱田:一方で、東洋医学の場合は個を考える。AとBとCの人と、それぞれ治療法を変えるじゃないですか。どういうアプローチをとっているんですか?
川尻:例えば、同じような痛みを訴えてる2人がいたとします。東洋医学では、それぞれで鍼を打つツボや治療法を変えます。
まさに、今が過渡期!
脳科学の進歩で、痛みの治療が変わる
川尻:今、脳科学が進んだことで、個に特化する必要性が、明らかになってきていますよね。整形外科的なテストで見ると全く同じ結果だったとしても、脳活動を見てみると全く違う事が起きているわけです。つまり、西洋医学的なチェックをして同じと判断されていた痛みの原因は、実は全く違ったわけですよ。
だからね、僕は、これまでの整形外科的な痛みのデータは意味がなくなってきていると思っています。だって、データの前提となる、「痛みとは何なのか」ということ自体が間違っていたわけじゃないっすか!!
朱田:そうですね。
川尻:それなのに、西洋医学のドクターに「正解はこちらです」みたいな優越感に浸られても、「いやいや、全部のスタートが間違っとるで!」っていう話になる。それって、ただの連動して動く数値としてあったかもしれないですけど、そこに何の関係も見えないっすよね多分。
朱田:でも、そこはアウトプットとしての痛みがあるじゃないですか。
例えば、あまり構造的な問題はないけれども、不安感が強くて痛みを強く感じてしまう人に対して、靭帯再建術をしたけどかえって悪くなっちゃいました。というケースは確かにあるんですよ。
そうすると、「手術がこんなに上手くいっているのに痛みが強くなるなんて、この人のメンタルに問題がある。」って、これまでの西洋医学では捉えられていたんですが、それは違うんすよ。確かにアプローチが間違ってる。
ただ、全体の分布で見ると、そういう人たちって外れ値なんですよね。その病院に来る人たちを対象にしてデータを取った場合に、標準偏差の両端の5%が外れ値(例外)で、95%の殆どの人たちはグラフの真ん中部分に位置するわけですよ。
例えば足関節捻挫で痛みが発生したときには、足関節の靭帯不安定性が起こる。そうすると脳内で信号伝達が起きて、ヒトは痛みを経験する。アウトプットとしての痛みは、足首の構造だけに依存するものではないので、痛みを評価する時に整形外科医の判断基準は間違っているかもしれないけど、でも構造に依存するケースが多いから成立している事になる。なんとなくわかります?
川尻:「構造的に問題があるから、その構造をどうにかしよう」という、問題と治療のターゲットを簡単にくっつけるアプローチがずれていると思うんですよね。それって、たまたま同じように動いた変数なだけであって、そこに原因があるかどうかって、システム自体の理解がずれていれば、すごいずれる可能性あるじゃないすか。
朱田:うーん。あるんですけど、多分、巨大な分布になると、ある程度収束してくるんですよ。もちろん外れ値はあります。だからと言って、過去のデータが意味をなさないかっていうと、そんなことはないとは思うんですけど・・・
川尻:ただ、痛みの理解が変わると、僕は研究のデザイン自体が根本から変わると思うんですよね、古い原理原則のところでデザインされた研究というもののデータって、もう信頼できないですよね。参考にはなるかもしれないけれど。
朱田:ちなみに、最近は痛みの評価もすごいスピードで変わってきてます。
構造的な問題に加えて、患者さんの心理状態や、社会環境(金銭、人間関係等)を入れるようになってきているので、多分最近のデータは、かなり変わってきていますね。この数年で、学会も大きく変わってきた!
川尻:わかるわかる。今、大きな過渡期だと思うんすよね。
でも、その変化にまだ多くのドクターがついていけていない気がする。
朱田:そうですね。まだまだだとは思います。でも、最近は変わってきてるんじゃないかな。東洋医学、まだ理解しきれなかったので、もう少し聞きたいな。
川尻:やりましょう!東洋医学もですが、視点を変えて未来をデザインしていく必要性みたいな事を一緒に考えていけたらと思います!
*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。
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