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”適応”を知って、自由になった
15年ほど前の話になりますが、広告の文案家から、セラピストへ、キャリア転向を試みたことがあります。
当時、いろんな出来事が重なってうつ状態になった私は、自然療法で救われた経験を経て、誰かを元気にするお手伝いをしたいと考えるようになったんです。
ところが、いざ資格を取って仕事として始めてみたら不得手なことだらけ…やりがいよりも疲弊の方が大きいという日々が待っていました。
結局、「セラピストは“向いていない”」と数カ月で物書きに戻りました。
でも、動作学を学んだ今、しみじみ思うんです。
「あれって、単に、それまで経験してきたことと違う領域に踏み出した(コンフォートゾーンを抜けた)というだけのことだったんだよなぁ」と。
直感もまたそれまでの
インプット情報から作られる
このマガジンでは何度も書いていますが、これまでの経験値にはない領域に出る時、インプット情報が大きく変わってその分、大きな揺らぎも起こります。
大きく揺らぐ時は、不安になりますし、疲労も感じやすいです。
でも、続けていくと、新しいインプット情報に対応するように生命のシステムが適応して、ひとたび適応すると揺らぎは通常運転に落ち着いていきます。
そういった適応の仕組みを知らなかった若かりし頃の私は、揺らぎが起きるとすぐに「向いていない!」と放り出してきた気がします。
その結果としての今の人生には100%満足しているので後悔はないのですが、適応について学んで以降は、「好き・嫌い」「向いている・向いていない」を判断するまでに少し余裕を持つようになりました。
直感的に「好き・嫌い」「向いている・向いていない」がわかることもあるのでしょうが、直感というのもまた基本的にはこれまで私たちがしてきたインプット情報に基づいて出てくるものなんですよね。
そのくらい自分の反応というのはこれまでの経験に紐づいているのです。
だから、経験の少ないことは、反射的に抵抗が出てくるのは普通のこと。
と同時に、瞬間的に嫌だと思ったからといってその物事を本当に好きか嫌いかはしばらく付き合ってみないことにはわからない、とも言えるのです。
もちろん、人生の時間は有限ですから、何でもかんでもできるようになるまで頑張る必要はないんだとも思っています。
ただ、自分にとって新しい物事は、最初は嫌悪感や苦痛を感じるのが当然だと知っておくと、やるか・やらないか、続けるか・続けないか、の選択の基準が変わってきて、人生の可能性を広げてくれるんじゃないかと思うんです。
適応を知ると
自分の可能性を信じられる
ここまでのお話は全部「適応」にまつわることです。
コンフォートゾーンの外に出るということは、これまで適応してきたのとは違うことをするということ。
これまでと違うことをしたら、それに対応するために生命のシステムは大きく揺らぐということ。
その揺らぎを経て新しい環境へと適応するということ。
この理屈を理解してから、私は自分の可能性を信じられるようになりました。
何かができない時、すぐに「向いていない」「不得意だ」とは決めつけないで、「なるほど。これまでの適応の仕方では対応が難しい出来事なのだな」と捉えるようになって、「じゃあ、新しい方に適応するまで続けてみよう」というふうに実験のような感覚で楽しんで取り組めるようになったんです。
また、以前にやってみて嫌いと思ったこと、向いていないと感じたことも、その後の人生でいろんなインプット情報を積み重ねた今ならまた違う感覚が出てくるかもしれない、とオープンなスタンスで臨めるようになりました。
それはまるで自分という存在を自分で育てているような感覚。
私の役目は、生命のシステムが自ずと学んで進化しやすいように仕向けることだけ。
そんなふうに実験をしていくうち、人と比較して劣等感を持つことも減ってきました。
というのも、誰かにできて自分にできないことは、シンプルに過去の経験の差でしかないと思えるようになったから。
言い方を変えると、その物事に関して経験値を増やせば自分でも(ある程度は)できるようになるはずと信じられるようになったんですね。
それが事実かどうかはさておき(そもそも事実かどうか確かめようがないですし)、そう信じられるようになって人生は確実に面白く、そして何より自由になりました。
向いていないからやらない、という状態の時は、やれることをやるしかないので、選択肢は狭まります。
でも、やればできることを知っていれば、「やる」と「やらない」のどちらか好きな方を選ぶことができます。
ただ、やればできることを腹落ちさせるためには、何でもいいから一つ、何かができるようになったという意識的な変化を経験をしてみる必要はあるかもしれません。
人生を自由に構築していくというのは、そんなふうに自ら選択肢を増やして、本当に好きな方を選べるようにしていくことなんじゃないでしょうか。