Dreamless and Hopeful-夢失いし希望持つ者-
※暴力描写あり。
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時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
あらすじ
ある事情で上京したファイター、竜南。
乱立する格闘技団体の中で科学に特化しすぎた引退者、走天月は永遠に自分を介抱してくれる武闘人間を造り出そうとファイターを攫って動植物と共に細胞を回収していた。
竜南は成人式をもうすぐ迎える。
念願の自動二輪車を手に入れた竜南は地元の友、差柱有我と移籍先のジムで知り合った佐波刺涉岐と束の間のひと時を過ごす。
その時に走が差し向けた異形の何者かに襲われる。
しかしその正体は竜南がよく知る者だった。Dreamless and Hopeful,
△血の中でしか生きられない
会長業というのも難しいな。
走は引退後ずっとそう思っていた。
別に食う為にジムを設立した訳では無い。
元々、科学選考をしていた大学生で武力とは縁が無かった。
それに余り何も食べなかったからダイエット目的でも無い。
自分には科学者としての才能が開花される事が無かった。
「最高の人類を生み出す?そんな世迷言をいい歳してして言えるなんてな。」
「確かに叶いそうだ。だが倫理を守って貰わないとな?」
あの実験は確実に発展へと繋がる!
いつまでも遅れた倫理で島国を生きているのはお前達の方だろ?
そうして走は法を犯すことになった。
自分でしか発見出来なかった研究成果を今ここで公開する!
しかし大学から追放され、家計の都合で走は就職をしようと決めていた。
だが日本では低賃金で肉体労働が多く、自分の特技を発揮できずにいた。
当時インターネットにいたハイパーメディアクリエイターのコラージュを独自で作成し、五寸釘で毎日恨みを晴らす毎日もあった。
そこで前会長に出会った。
「君は社会不適合者じゃない!いや、そもそもそんな人間はいないのだ。
自身の特技、信念、未来を現実で失った辛さをよく知っている。
そんな私の一提案に過ぎないが、是非君の力を格闘技で活かして欲しい。
君がバイトで書籍化した人間の効率を最大限に活かしたトレーニング方法がジムで役立っている。
自分の理論を証明する方法として、私も手伝えないか…そう思ったのだ。」
走は言葉だけではなく勝利にこだわる前会長の執念を感じ取ってジムに住み込みで修行した。
「それから二十年。
こうも規制が厳しくなれば私の理論も根性のように思われるのか。
なんともプライドが傷つく現実ばかり。」
それでも前会長の執念を受け継ぎ、乱立する格闘技界隈で生き残る為の術はベテランから若手に教えている。
大学を追放された走は事情があって生き残る為に夢を持つ若手にどうベストを尽くせば良いか考えていた。
あの実験を再開する必要がある。
とはいえジムの仲間を利用したくはない。
更に敵対しているジムへ無理に近付くのは情報が漏洩するから危険だ。
走は自分がもし大きな怪我をした時の為に、自分の若い頃のトレーニング記録として細胞を移植させ前会長の借金を無くそうと極秘で開発し売っていた科学技術を復活させて''ヤツ''を起動する事にした。
武力にしろ科学にしろ、走は理解した。
前会長が自分に注目した理由。
それは
「私も…血の中でしか生きていけない…その初心を永らく忘れてしまっていました。
見抜いていたのですね。
会長…。」
*
△卒業と同時に
━━二〇二一年三月
「竜南、媛了!写真撮ろうぜ!」
差柱有我は俺と媛了を呼び、インスタントカメラで卒業記念写真を撮った。
「他の子に挨拶行きたかったんだけどなあ。
写真を撮る時間なんて幾らでもあるじゃん。」
媛了はダウナーな女子で人生に一度の経験もいつもの日常としか捉えていない。
「いやいや竜南が上京だぜ?しかも格闘家として強くなる為とかそんなカッコイイこと俺達世代で言う奴いる?
って、ここにいるんだよ!俺達は特別な存在だろ?なあ、竜南も媛了にもっと笑顔で写ってくれないか頼んで欲しいなあ。」
有難い友だが俺もチャラチャラした行事は好きじゃない。
本当は欠席したかったが、有我と媛了と最後のやり取りになるかもしれないと感じて出席する事にした。
別に他生徒とコミュニケーションに問題は無かった。
寧ろ大事な友ばかり。
インターネットさえ無ければもう少し自分らしく弄れなかったかもしれないと感じていただけ。
「分かった。
嘘の笑顔なら得意だし。」
「媛了、無理するなら逆に怒った表情で撮るけど?」
「喧嘩売ってる?」
そこを俺がカメラに収めた。
「え?インスタントカメラって竜南も持ってたのか?」
「端末に残したら媛了に殴られるしな。」
これも想い出の一つ。
なんてことの無い特別で五年後には忘れてしまう日常。
友情というのは一緒でも離れても変化する宝。
ただそう思っている。
だから、早くこの場を出て三人かこれから集まる最後の仲間達と焼肉でも食べて永遠のフィルターで美化させていきたかった。
俺もまだまだ若いな。
何となく流れは店へ行く雰囲気へ。
「それでさ、金が無いからって推薦落とされたんだよね。
俺我慢して結構習い事続いたよ?
それで選択出来る就職先なんて
警官、自衛隊、工場勤め!
なんでそんな硬派だったらずっと結婚しにくい職業に行かなきゃならないんだい!って話。
つまらない自己啓発で促されて結果、そんな洗脳体質の職業いくくらいなら俺は引きこもるぜ?
動画配信のネタなんて困らないくらいに俺…俺達は濃ゆい学生生活を送ってんだからなあ!」
不良高校生では無い有我だが遅れた暮らしが嫌いだったからか卒業した途端、まるでベテランコント師ような愚痴を吐いている。
「それって竜南をネタに喧嘩自慢か健康路線の発信したいってこと?
有我って凄いカッコイイ理想と技術あるのにマネタイズが上手いから安直な企画を選びがちだよね。
ま、そんな有我の本当は強制された金稼ぎなんて嫌なんだって情熱は、一緒にいて安心するけどね。」
媛了もなんだかんだ卒業式でテンションが上がってるのか俺の前で凄い告白をしている。
「り、媛了が…ここでそんな…お、おい竜南!ふぉ、フォローしてぇ…お願い!」
出来るか。
飾るなって素直に言われた気持ちを受け取ればいいのに。
俺はそんな関係を目指してレンタル彼女を未成年の時に試した事もあるんだぞ?
「俺達ってオーバーエイジだが何だか言われてるけどさ、起こってることって変わらないわけだろ?
捉え方が違うからトラブルがあるだけでさ。
何で俺達しか経験できない僅かな楽しさをおっさん、おばさん達に盗られないと行けないわけ?
ってサンドバッグやスパーでどうにもならない不満を抱えながら未来へと歩く。
そんな媛了の告白を受けた有我は俺が見た人間の中で一番、幸せに近い気がするけどね。」
不器用ながらフォローさせてもらった。
そうしたら二人がスマートフォンでメモをしていた。
「流石だなあ竜南!
SNSで使えばバズれるぜ。
やっぱ格闘家ってすげえな。」
と言ったのが有我で
「今のカッコよかったよ。
私は自分への励みとして記録と記憶に残したいな。」
と媛了。
どうやら俺達は長い付き合いになりそうだ。
「卒業祝いだ。俺が全額払うから拡散するなよ。
っていうかさ。
有我は自分の気持ちやアイデアに自信持てよ!
自分の言葉で語るから憧れられるんだよ。
それが男だろうが!」
二人はまたスマートフォンに指を走らせる。
闇だこれ。
紛れもなく現代の闇。
*
△想い出を胸に秘めて今日もまた励む
あれから一年が経った。
竜南も成人式が近い。
高校時代にプロ入りしていたし、物欲なんて今時ギークにすら無いし自分にもなかったから念願の自動二輪車を買うことが出来た。
昔見た配信主がゲームグッズを買って一人誕生日を迎えていた動画を見たがあれを今自分もやってみたい。
自分がハマる趣味なんて、特に無かったし。
高校時代に日本一にはなったがもう少し他の同階級の奴らを血祭りに上げたい。
何故そんな物騒な事を竜南が思うのかと言うと、地元の先輩が昔からの友、有我の夢を否定したからだ。
「インフルエンサーにもなれねえ餓鬼は一生消費者になってまな板の鯉のようにパクパク口あけて餌を待ってりゃいいんだよ。」
といくら、らしさに囚われなくていい時代なのに女々しくて陰湿だった。
お洒落な見た目で一時期のオタク生主のような煽りをいきなり吹っかけたあいつをライセンスが無かったらすぐに潰したかった所だ。
まさかあいつがプロ格闘家だったなんて知らなかった。
団体が乱立しすぎているからか、もしくはあいつがコンプラをよく理解しているからか前に発表された自分の対戦カードで漸く知った。
日本人…だよな?
国籍はどうでもいい。
この情報社会で試合が全く流れていないファイターなんているのか?
他の格闘技経験はあるのか?
何者なんだ?
だが竜南にとってはいいリベンジになる。
あの後有我がずっとLINE越しで減量中の時に愚痴を言われ続けコンディションが最悪だった。
勝てたから良かったがあいつの言葉によるストレスと有我の愚痴を最後まで聞いてバイアスが掛かった状態による重圧をどこかで発散出来ないかずっと悩んでいた。
ここで白黒付けられるのなら何よりも竜南にとって生きてきた意味があるというものだ。
「竜南君。
ずっと怖い顔してるね。」
人見知りの激しい竜南に語りかけてくれる、移籍先の同い年。
このジムには子どもの頃から所属しているらしいが詳しい事はまだ分からない。
「対戦相手に気になることでもあるのか?
いつもなら相手のことなんてなんとも思ってなさそう…な印象だったが。」
彼の名前は佐波刺涉岐。
竜南は格闘技では歳上との関係が濃かったからか、ノーマークだった。
多分語る事も無く格闘家として自分は全うするだろうと思っていたが、同い年だからか心を開いてくれた。
「あいつは先輩だった。
それ以外情報が無かったが、ここで出会うとは思わなくてさ。
友人の悪口を言われたのと、言われた友人からバフを掛けさせられた恨みを晴らす時だ。」
佐波刺は物騒な会話もまあ同業者だから仕方ないと流していく。
「因縁の相手ってどうしても出てくるんだな。」
「戦わなければ生き残れないってやつだ。」
つい昔の趣味で聞いたキャッチフレーズが出た。
流石にこれはバレたら不味い。
変に会話の取っ掛りが生まれれば隙が生じる。
同い年かつ古参の彼には小出しでもあまり会話はしたくなかった。
するととんでもない返事があった。
「たまたま調べてたら、例の相手行方不明だってさ。」
は?
竜南も早速調べる。
確かにあいつの名前がニュースに出ていた。
しかしおかしい。
あいつのようなタイプが表に出る?
しかもソースが格闘関係のサイトじゃない。
まさか犯罪でもしたのか?
いや、それをする奴ならもっとマスコミが露悪的なやり方をする。
すると佐波刺が耳打ちする。
「あまり喋らない君だから言うけど、あの人裏で謎の手術を受けてたよ。」
「謎の手術?どういうことだ?」
話を遡ると佐波刺がトレーニング中にあいつ…辣晴界憑は重度の健康マニアで献血も頻繁に行い、ドナー登録までしているらしく医療に貢献しているとの事。
逆に言えば、自分の命をいつでも投げ出せるという事。
しかし自分の身体を傷つけるようなことはしない。
自分を守るためなら平気で他者に嘘や暴言も吐けるし、物欲も人一倍強い。
それは竜南のバイアスでしかないが、それ以外では見た目が出会った頃と明らかに違うことにある。
整形や成長とも違う。
明らかに骨格が同世代とは異なる。
ドーピングなんてリスクの高いことをあいつがしない事は明白だ。
「簡単に対戦相手も決まりそうになさそうだし、俺も暇だから探ってみようぜ。」
どうやら彼もあいつと何か関係が有りそうだ。
しかし対戦しないならそれはそれで興味が湧かなかった。
人懐っこい佐波刺の趣味には付き合えない。
すると佐波刺から写真を渡された。
「ほら。
辣晴選手に手を伸ばしてるとこ撮ったけど、明らかに人間の手じゃないだろ?
これ、俺達で真相を暴けば一攫千金も夢じゃなくない?」
そうだった。
彼は竜南と同い年で、人よりも好奇心が強い。
それと他にもマスコミが彷徨いて探ってる可能性もある。
もしこれで殴るチャンスが無くなったら後ろ向きの人生を歩く事になる。
それに物欲は無くても金銭欲が無いわけじゃなかった。
「もしその腕の主がコスプレとかだったら俺達は一発でリングに上がれなくなるぞ?」
「ふっふっふ。
言ってなかったが俺は心霊ドキュメンタリー関係のバイトも掛け持ってる。
武力なんて使わねえよ。」
「いや自信満々に言われても。
それじゃあ取り逃がすだろ。」
「あれ?それ別の会社のDVDだろ?
フィクションじゃない。
って言ってもどうせ信じられないか。
同門と言っても最近だしな。
」
「なら協力する。
こればかりは行動でしか成果は出ないからな。」
まさかここで彼とバディを組むとは。
しかも秘密が多すぎる。
こりゃ、相手が人間じゃない可能性を考慮しないとな。
いつものように練習しながら、野郎二人で怪奇を暴こうとする。
*
午後二十三時。
都市だからまだ夜は長い。
最近は規制で時短要請があって出歩くのは難しい。
ちっ。生き辛い。
「この場所で間違いないよな?」
「上京した君よりも長く俺はここに住んでる。」
「心配し過ぎた。
なら安心だ。」
「意外と俺って信頼されてたりする?」
「誰も信用はしない。だが協力はする。」
「リング外でも殴りたい程にあの人は君に恨まれているのか、それとも金に目が眩んだ?」
「愚痴は後で聞く。
今は周りにマスコミや他の連中がマークしていないかチェックしてくれ。
今はアイドル路線で格闘家の怖さを知ってる信者は少ない。
舐められないように生きていくには丁度いい経験だ。」
謎の追求…確か有我が自分の足りない部分としてその事を言っていた。
自分が遭遇するとは。
「おっと。怪しい人が入っていった。」
「ふうん。本当に怪しい奴かどうか分かってる奴のセリフだ。」
「静かに。
ほら。
あれ、コスプレか?」
やり取りを続けていると就活生が着るようなスーツに身を包んだガタイの良い男性がガチガチにオーダーメイドでしか売ってないだろと思う程の見たことの無いコートで案内していた。
「確かに。
特撮なら納得だがどうにもきな臭い。」
「まあ真相が暴けたなら正体なんてなんでもいい。
周りも確認したけど様子見しているね。」
「入りにくいな。」
すると久しぶりに見覚えのある人間が当たり前のように例のビルに入っていく。
まさか?
「あ、有我?
な、何で有我が東京に?」
佐波刺が説明をして欲しいと懇願した。
これは良くないな。
*
△上京の理由
俺は差柱有我。
早生まれで〇三年生まれだが、学年は〇二年生まれと一緒だ。
ってそんな事言わなくてもわかるか。
けど自己紹介なんて最近はPRみたいで嫌じゃないか?
趣味にしろ何にしろ、
「自分は〇〇で〇〇をしています。」
興味ねえだろ?
ちょっとしか面接しない上に終身雇用なんて無くなって個人情報も厳しい今でなんでこんなやり取りをしなくちゃいけない?
いいよなあ竜南は。
俺達と話す時は全然、格闘家って言うより怖い顔なだけで家庭とかもノーマルなのに。
ま、別に竜南がどんな家庭だろうとそんなのは関係ないけどな。
大事なのはこれからの人生で信頼関係が出来て、どう接していけるか。
ある映画で伝説の有名なバンドが
「ファミリーは喧嘩することもある。だが、また共に生きる事もある。」
って言ってたしな。
つまり、俺達はもうそんなのクリアしたのさ。
あれから大学生になった媛了と付き合う事になった。
と言っても、特に今までと変わらない。
媛了も竜南と一緒に上京するのかと思ったら別の都市で大学生活をすることにしたらしい。
だが基本的に空いた時間は地元に戻って俺と話してくれる。
「また面接落ちた?」
「覚えられてるかあ。
いやあ、高校卒業したんだから若さを優先して欲しかったけどなあ。
高卒の資格じゃ無理か。」
「学歴は貧富の差で変わるし、良くないタイプなんてどこにでもいるのにね。」
「フォローありがとう。
就職したいっていうか、金が欲しいだけなんだけどなあ。
やる気無いって思われてるのかな?」
媛了はずっと愚痴の多い俺の話を聞いてくれた。
「竜南には頼まないの?
海外とか都市で職を探すのもありだよ?」
確かに。
だが竜南はプロ格闘家だ。
しかも寮とは違う形で練習しているらしい。
やり取りは今は無いがそれだけ打ち込んでいるというわけだ。
そんな友を頼るわけにはいかない。
「学歴や職歴なんてハローワークに行ったら判断材料になるに決まってる。
私は大学生でバイトしている身だからあまり言えなかったけど、有我なら配信でマネタイズ振するって選択肢もあるでしょ?」
「確かにそうだ。
けど、俺達がガキの頃とはもう時代が違う。
そもそも稼げるとかそんなインチキな話で儲けるのなら株とかそういうのをやってる。
俺みたいにデジタル強くても…この日本じゃ竜南のような愚直だけど力や属性の強い人間の方が選択肢があって強い!
」
愚痴が多い俺とはいえパートナーにこんなこと言うなんて。
竜南も俺の事恨んでるだろうな。
すると媛了は一瞬曇って返事をした。
「有我の事情は竜南なら了承してくれる。
卒業して一年しか経ってないのに変わったの?有我!」
「いや…本当は働きたくないさ。
けど、俺は竜南の親友で媛了のパートナーだ。
ヒモじゃないし取り巻きじゃない。
やりたくないことを二人がやっていて、俺だけ好きなようにやるのは…なんて言うか…」
媛了は何処から出してきたのかチラシを渡して耳打ちした。
「怪しいかどうか分からない。
けれど有我なら興味あるんじゃない?
追求もそうだけど探求について。」
そのチラシを見ると驚くことばかり書かれていた。
公的文書にも読める裏医者の雇用条件。
問題は内容じゃない。
出自だ。
「か、改造人間…だろ?この案件。
献血っぽく書かれているけどこんなの騙される奴いるか?」
内容を説明しよう。
【不況が続く日本で生き、精神病と揶揄され体力を酷使する事に疲れている皆様。
精神論といいつつ肉体的な幻想へ導く人間の愚かさに私は医療に携わる者として疑心暗鬼しています。
人間は誰しも老いや死からは逃れられない。
私は新たな医療を立ち上げたい。
その為には皆様のご協力が必要です。
一回五万:現金払い
血液をご提供頂くだけ。
献血とやり方は変わりません。
その協力で一人を救うのです。
何卒ご協力頂けるよう。】
怪しすぎんだろ!
改めて媛了と俺は二人で突っ込んだ。
そして笑みがお互い溢れた。
「竜南が見たら理詰めで具体的に論破しそうだよな。」
「こんなのトップ選手が団体の乱立を助長するのと変わらない。
医療関係者がチラシでこんなの書いたら薬事法でアウトだ。
それにあまりにも文章として胡散臭い。
騙されるな!
って言いそうだよね。」
やっぱり夢…いや、竜南のやろうとしていることって俺と媛了を助けてるな。
それはお互いに感じた。
「ほら。
有我も昔みたいに怪しい場所を魂賭けて暴いてみたら?
金にならなくても竜南とは違う等身大のヒーローになれるよ?」
「俺は百人殺して英雄になるより、誰も殺さずに媛了と家庭を持ちたいな。」
「さりげなく下心ださない。
いや、有我のセンスだね。
…なんかさ、私が原因で就職活動辛かったら主夫って選択肢もあるんだよ?
それに私も竜南も有我の決めた事にどうのなんて、口出ししないよ。」
なんだか俺だけ気を遣ってないみたいだ。
大事な人間を盾に、逃げようとしているだけ。
そんな俺を媛了は怪しい情報を手に入れて探究してみたらヒントをくれてる。
けど…上京資金足りないんだよね。
だからバイトも探しているけどバイトにも金がいるって言う…。
「はい資金。
あのさ、他の人と私は感じ方が違うから一意見として言うね。
パートナーだし、バイトや正社員目指すのに夢中で探究諦めるぐらい今時愚直だから有我と結婚前提で付き合ってるなら相手をもっと頼ってよ!
はい。
私の愚痴はお終い。」
上京資金をポンと渡してくれた。
逆に言えば意地でも真相を暴けという圧力だ。
あれ?媛了って頼もしいけどこんな豪胆だったっけ?
逃げ出したら死ぬより辛い思いをすると判断したので面接を全て丁寧に断って上京した。
ありがとうな媛了。
相手が相手…または時代が時代なら別れを切り出されてもおかしくないのに。
俺の仲間は…優しい奴ばっかだ。
*
△振り返れば敵がいる
やっと賃貸を見つけた。
やり取りに時間はかかったが一人暮しなら大したことは無かった。
媛了のサポートが無かったらヤバかったな。
さあて、謎の解明だ。
チラシの住所付近は事故物件が何故か多くて調査するにはやり易いが不動産とのやり取りで苦戦した。
いやあ事故物件って本当にあるんだな。
そしてなんだかんだ住ませてもらえる。
これはこれで別の仕事が貰えそうだ。
と思いながらデバイスを駆使して操作もした。
知り合いの鍵垢から興味深い噂も聞いた。
「人体実験」
「格闘関係」
「強い身体」
漫画のような裏ワードがわんさか。
これじゃあ逆にガセ掴まされてる?
とも思ったが
《人通りが一定間隔で無くなるビル付近で何名か体格の良い人達がグロいコスプレイヤーに会っている》
という都市住まいの鍵垢からのアドバイス。
そして午後二十三時。
こういう場所にはマスコミや警察関係、または俺のようなタイプが張り込むモノ…そして今日窓を覗いたら
「竜南!あと誰かいる?」
そう。
公園の近くで竜南と誰かが張り込みしている。
意味が分からなかった。
竜南との連絡はあまりしていないが、ほぼ怪我をしない程目が優れていて技術のある竜南がなんでリング外で俺と同じことをしているんだ?
まあいい。
潜入するにはこの時間しかない!
そうして俺は久しぶりの友との再会より真相を暴くことにした。
そういう意味では竜南が俺の目撃証言者で良かった。
*
「暗っ!しかも薬品臭い…」
思わず呟いてしまった。
宗教潜入、UMA調査、浮気や不倫の確認、幽霊退治…
色々と高校時代、独学で挑戦してきたが今回は明らかに公職案件だ。
しかも媛了がバックアップしているとはいえ、実質一人。
懐中電灯を照らせばまるで水族館にいるような感覚になる。
さっき人が入ったのに誰もいない…
まるで神隠しのようだ。
奥へ奥へ入っていく。
竜南はツッコミばかりしていたが俺が昔、遊びまくったサウンドノベルゲームのようなヤバさだ。
「頼む…頼むよぉ…こ こ に い る よぉ…とか言うなよ?
大した真相じゃないといいなあ。
ほら、つまらない真実より面白い嘘って言うし…」
独り言がとまらん!!
いいんだどうせみんな攫われちまってるし。
いや、それって別の国のヤバい連中も目をつけてるのかなあ?
いやあ、竜南が居たんだから誘えば良かったか。
ドンッッ
え?
なんだこの音。
だ、誰かいるのか?
懐中電灯を向けるとスーツ姿の人がいた。
え?こ、怖い…
しかもその顔は見覚えがあった。
竜南じゃなくて、昔地元で俺に悪口言ってた先輩。
スーツ越しに見える肩の筋肉やニの腕はSPのようでもあり、竜南のような格闘家を観ているようだった。
いやあ、なんでこんなに覚えているのにこの人の名前は覚えていないのだろう。
「侵入者ハッケン
━━━━データ分析完了
━━━━二十歳前後のオトコ
━━━━手加減しても始末デキル
━━━━━博士が求める人材ジャナイ」
来るよ来るよ来るよ!
さりげなく違う形でバカにされた。
そう思ってるのも束の間!
蒸気を纏って筋肉質の爬虫類へと変貌。
強いて言うなら
有機物の機械。
俺は散らばっていたロッカー等武器になるものをぶつけて抵抗する。
そして隠しインスタントカメラや端末で上手く撮る。
〇ンスタは知らないが、映えは知ってんだぜ。
知り合いの爬虫類顔は格闘技術で攻撃してくる。
竜南とは違うがその対戦相手のようなプロの動きをしてくる。
「竜南が念の為に俺へ格闘家や暴漢に襲われた時の対処法を叩き込んでくれたんだ。
出来るだけ攻撃せず守備や回避に徹しろってね!
プロなら素人相手にも断定しないで、勉強して欲しいなあ!」
そういいながら避ける。
竜南も高校生でプロになって狙われた時によく一緒に逃げたもんだぜ。
竜南が強いのは打撃とかそういうのじゃない。
貰わない技術だ。
塩試合なんて言わせねえよ?
死ぬより五体満足で生きる事を選べって竜南が言ってんだからよぉ!
「━━━━━━ターゲット博士の元へ
━━━━━━━応戦要求
━━━━━━ターゲットを始末セヨ」
現実の怪物は攻撃は大人しいな。
でも頭良すぎんだろ。
応戦すんなよ。
確実に死ぬじゃないか。
しかしここで簡単には死ぬわけにはいかない。
デジタル関係は昔、インターネット全盛期からしっかり調べた。
博士と言われる人物の部屋に入るパスワードもハック完了。
全く。
俺達みたいなデジタル人間を老人達と同じ肉体労働や挙句の果てに意味不明なインフルエンサーや成功者に仕立てあげようなんて、こういう不正をさせない抵抗か?
頭悪いんだよ!
舐めんな!
怪物が攻撃したのを利用し扉に当てさせる。
念の為パスワードが失敗した時の保険だ。
「━━━━━━━シマッタ」
「元の人間が俺に悪口言ったからこうなったんじゃないの?
悪いことすんなよ。」
まあこの人は巻き込まれたな。
一回採血だけで万単位の報酬が本当に支払われてるのならリピートするのがスタンダード。
つまり一線を超えたってわけだ。
そうして扉が開く。
そこには自分の親と同じ年齢の男性がいた。
何故かこの人も筋肉質だった。
しかも恐らく、現役を退いた格闘家のそれ。
「まさか最新のマシンで作り上げた彼を一般人の若者に破られるなんてね。
はっはっはっ。
後世が育ってて光栄に思うよ。」
こんな事態なのに豪胆な人。
こりゃあ、すぐ側の怪物よりもヤバそうだ。
「ようこそ。
元格闘技ジムへ。
君は身体つきは通常だね。
太ってはいないが最低限の筋肉。
だが、二ヶ月もあればプロのキックボクサーになれるかもしれないぐらいに過程を端折っている。
見よう見まねで覚えられる技術ではないのだがね。
知り合いに格闘家でもいるのかい?」
一瞬で状況を判断されちゃったよ。
さっきは年寄りを馬鹿にしたがこの人は違う!
老いと世間と戦いながら時代についていけている…いや、先取りし過ぎている。
「何故、ここまで私が余裕で居られるのか分かるかい?
それは、古株のボディガードもいるからさ。」
急に吐き気がした。
「グハッ!」
殺されそうな一撃を腹に食らった…
悪い媛了…今回…帰れなくなるかも…
*
△ランリツ
有我が奥へ入っていった。
何体か兵のような役割の奴もいたが人間では無かったので二人で片付けた。
けれど護身術やプロの技術を叩き込んだとはいえ、練習環境のない有我がここまで爪痕を残してくれるとは思わなかった。
あいつ絶対練習していない!
だからこそ最新の技術は無い筈だが有我の才能に嫉妬してしまう。
「竜南君の友達だっけ?凄いねえ。
暴力使わずにここまで逃げた上、奥の解析とかやってくれたんだ。
火事場の馬鹿力にしては冷静すぎる。
心霊ドキュメンタリーの仕事を一緒にやりたいなあ。
竜南君。
今も仲良い?」
格闘技では普通に練習仲間でこんな会話しないのに、ドキュメンタリーに関してはやけに有我を買っている。
まあ、高校時代色んな偏見と戦う為にヤバいバイトしてたし。
法的な意味じゃなくて馬鹿馬鹿しすぎることで。
「話は後だ。
奥へ行くぞ。」
佐波刺は不満げに奥へ行く。
「俺ってそんなに信用出来ない?
同門なのに?」
「俺は…お前とは関係が浅い!」
「そりゃあ餓鬼じゃないし。
けどよ。
水臭いぜ。
餓鬼じゃないから、深くなくて良いだろ?」
確かにそうだな。
でも納得いかない点もある。
「成功者をネタにしてる動画で笑ってるだろ?」
秘密の趣味だったのか会話が止まった。
「正義感が強いね。それじゃあ格闘家はやれないんじゃないか?」
「そこじゃない。
何故その程度の趣味すら俺には言わない?
秘密主義だと思ったから距離をとってたんだよ。」
「神経質だなあ。
秘密主義は君じゃないか?
俺は心霊ドキュメンタリーのスタッフって事も明かしたのに。
まあこれは言う機会がたまたま出来ただけだけど。」
「ならそれでいい。
ありがとう。
俺ならこんな機会でも深い関係の友にしか…言わない。」
ダンジョンの奥へ進む中でのやり取りは正直楽しい。
格闘家でのやり取りはSNSで客観的に見ているよりも実際は選別している。
いつ誰と試合をするか分からないから。
特に国内の試合では。
それと同門とはいえ俺は移籍組だ。
俺の場合はほぼ初めましてだったから。
「やっぱり神経質だなあ。
有我…君?
彼は大胆すぎじゃない?
なんで連絡とってなかった?」
俺はその質問には応えなかった。
「人間関係だから仕方ないか。
逆に俺は君の徹底ぶりに感動しちゃったなあ。
心霊ドキュメンタリー以外にも俺は副業してるけど、格闘家って言うフィルター無しで同い年って括りならどう?」
「有我に興味あるなら本人に話せ。
俺に取り入るなんて卑怯だ。
らしくもない。」
「取り入ってるねえ…なんかごめん。
有我…君も興味あるけど君とは上京してから一番関係が深くて頼れるのは俺だから話してるだけなんだけどなあ。」
はぁ。
やりにくい。
だが敵意は無いし、ジムでの殺気もない。
「悪かった。
よろしくな。
佐波刺。」
こうしていると餓鬼のようだ。
けれど緊張は解れた。
奥へと漸く足を踏み入れる…すると、
「有我!」
久しぶりに見た同郷の友がアラレもない姿になっている。
「やっぱり…竜南か…悪い…捕まっちまった…」
呼吸はある。
どうやら気絶させられた形跡がある。
奥には初老の男がいた。
ガッシリと今も身体が鍛えられている。
「君は八ツ橋竜南選手だね。
そして佐波刺涉岐選手。
という事は八ツ橋選手は移籍してきたんだね。
よろしく。
未来あるファイター。」
奥には兵達とは違う別の気配を感じる。
佐波刺もそれを察して準備をしている。
「若手の考えは時代によって変わる。
だが共通項は歳上や年長者への恨みだ。
先達の多数派は私のような生き方をしていないから恨まれる要素が多い。
真面目に取り組む事や楽をすることを批判するつもりは無いが、こうして秘密を守り研究し続ける私が君達より弱く思えるかな?」
「━━━━━━博士、侵入者の相手はワタシタチガ引き受けます。
━━━━━━年齢等ハ関係ナクワタシタチハ力ヲ与えられた身。
━━━━━━━オテヲワズラワセルワケニハ…」
手で幹部とおもしき奴の会話を博士と呼ばれた男が遮る。
「寧ろ大事な息子であり、娘である君達の手を汚させたくない。
そこに吊るした侵入者と竜南君は友のようだね?
しかもかけがえの無い。」
佐波刺がアップを始める。
「この人恐らく何処かのジムの会長だ!
俺達の対策…いや、全ての国の選手の特徴全部完璧に対処出来る!
それに…」
「分かってる…」
こ の 男 は 改 造 を 施 し て な い
兵隊が攻撃をしないで俺達を分断する。
加勢させない気か…佐波刺が危ない!
遠くから男の声がする。
わざとだ!
「佐波刺君。
君は幼い頃からキックボクシングと総合、MMA、女子格闘技の基本を叩き込まれているね?
しかも現代技術とはやや違う。
先輩達の教えが色濃いな。
勿体ないな。
教えてあげよう。
時代に適した生き様をアップデート出来ない者の末路と顛末は、老いよりも残酷だということを!」
「うわぁぁぁ!」
嘘だろ?
「佐波刺ぃぃ!」
すると男の声がまた響く。
「大丈夫だ。
佐波刺選手は気絶しているだけだ。
君達のデータを分析し、他団体とはいえいつ試合を組んでもいいように私達はジム生とここにいる息子と娘達に教えているのだからね!」
いくら何でも佐波刺が瞬殺だなんて有り得ない!
だがただ一つ分かるのは男は兵力が無くても俺達を殺せるという脅威だけだ。
震える。
対戦カードが変更になった原因はあの男にあるのに。
友を二人、倒されたのに。
普通に考えれば逃げたくなる。
だがこういう予定調和を壊される感覚は燃えてくる!
俺を囲む恐らく男の犠牲者達を拳と脚で倒す。
「俺は若手だ。
そこでアンタを守っている兵士は俺の対戦相手だ。
更にアンタ自身の力で佐波刺を…同門の仲間を簡単に倒され、地元の友を吊るしている。
けど、俺は全ての成功者を嘲笑う権利を得た。
最強の相手と戦える今が、一瞬でも過ぎるのが惜しいと思うくらいにはな!」
佐波刺、有我が同時に声を出す。
「「その人は勝てる相手じゃない!」」
おいおい。
心配してくれるのか。
優しいな。
すると男が手を挙げる。
「残念だが君を相手にするのは私じゃない。
佐波刺選手を止めたのは彼が私に殺気を放ったからだ。
正当防衛をしただけだよ。
ライセンスのことは心配しなくていい。
君を倒すのは私じゃない。」
「ココ 二 イルンダゼイ!!!!」
本来俺が試合をする相手だった。
「辣晴界憑!」
「━━━━━━昔カラ敬意ヲカンジナイ
━━━━━━━無礼ナ若手を教育スルノハ
━━━━━━━お、俺の…俺ノノノノノノノノ
ち、違う…俺は…金が欲しかっただけだ!
━━━━━━元の素体ノデータヲ読み取る
━━━━━私、
俺は
俺は…てめえらのような奴らに従って、舐められてたまるかあ!!!」
ちっ。
まあこいつも強者か。
「敬意か。
じゃあ辣晴界憑。
逆の可能性を感じなかったか?
歳下にもリスペクトしようっていう発想は無かったのかよ?
俺達に品性求めてんじゃねえ!
過去に有我へ対して暴言を吐いたことは今の俺のやり取りで帳消しだ。
だが、ここで試合…いや、血祭りはさせては貰うけどなあ!!!」
そして俺と辣晴界憑…異形となった対戦相手と戦いを続けた。
ガシッ!
ドンッ!
様々なオノマトペが鳴り響く。
男は黙って俺達の闘いを無視する。
「前会長。
貴方が私に教えたかったのは、彼らのような迸り…だったのでしょうか?」
残っているのは俺と因縁の辣晴界憑。
面白ぇ!
そうだ。
この感覚だ!
血湧き肉躍るとも違う。
そして酒池肉林で欲を楽しむのも違う。
唯一無二の経験。
俺は超人でも神でも不死身でもない。
弱い人間だ。
だからいいんじゃないか。
若い人間にありがちな無敵だと思える盲信。
そして明かされる現実。
幻想じゃない!
事実!
俺はただ、なんの迷いも無く秘密裏で闘える!
友を守る為?
強さの証明?
いや、違う。
そんなものじゃない!
死ぬまで戦ってやる!
*
△幻の対戦カード
こ、ここは?
傍には大の字で倒れている竜南。
そして公園である人に飲みものを呑ませて貰っている。
「良かった。
有我君も丈夫のようだ。」
いやあ、佐波刺…選手だっけ?
竜南も東京で仲間出来たじゃねえか。
それを真相を解明した後に祝いたかったんだがな。
「さ、佐波刺選手。竜南は?生きているのか?」
「佐波刺でいいよ。
で、竜南の事だけど随分派手に戦ったよ。
けど、傷は顔に貰ってない所を見ると俺達の教えを守って今までの経験を活かして戦闘を楽しんでいたね。
古臭いって、初老のマッドサイエンティストにこき下ろされて俺はやられたけどさ。」
あれから体力が尽きて覚えていない事もある。
けど、勝負にも試合にも勝ったみたいだ。
すげえな。
竜南は。
「インスタントカメラを持参したのは妙案だったね。
あのマッドサイエンティストがその辺り雑に残すわけなさそうだったから、多分わざと…かもね。」
そうか。
つまり、
「電子機器の証拠は隠滅されたか。」
壊さずに証拠隠滅か。
本当にあの人は年寄りの範疇で済むのか?
でも、何故俺達は公園で?
「目が覚めたら俺達はビルの外。
しかも他に見張っていた筈の気配も消えた。
もしかしたらマスコミとか外部の圧力なんて簡単に制圧してて、俺達が来る事を見越してたのかも。
有我君だけ予想外だったらしいけど。」
佐波刺く…言い難いなー、
佐波刺選手は屈辱的な仕打ちを受けたのに何事も無かったように状況を話す。
この人同い歳?
怖いんだけど。
「取り敢えず、幻の対戦カードは組まれたわけか。」
佐波刺選手は目を覚ます直前の竜南を前に、俺に名刺を渡す。
「今回の真相は闇の中。
折角、不確定要素も加えて一歩踏み入れたのに。
有我君。
詳しいことは後で、彼が起きてから話そうか。
俺の名は佐波刺涉岐。
心霊ドキュメンタリースタッフとしての名刺を渡すよ。
一緒に、この地に眠る真相を暴かないか?」
この人もすげえよ。
他のファイターは知らないけどこの人、副業も理解の範疇だ。
けど、都市で友を応援しながら上京生活と未知の探求もできるのなら、それ以上のヨロコビはないよな。
「差柱有我です。
よろしく。
まずは下っ端からで良いので…この闇深き半地獄の解明と探求に協力させて貰います。」
また。
あの博士と会いそうだ。
△・・・
まさか狂気でも本能でもなく、闘いを求める人間がいるとは。
私も腕によりをかけて実験に励み、そしてより選手を育てていくとしよう。
「━━━━━━━━こんかいのプロジェクトで判明致シマシタ。
より強固ナシェルターヲ私達の手二ヨッテ作り上げマス。」
全ては走天月の協力に過ぎない。
どの世界の中心にもいないからこそ存在理由がある。
「健闘を祈るよ。
我が子達。」
アナタの傍でも怪奇あり。