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瞬きもせず

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かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。



あらすじ


あらすじはない
これは私達の出産記録なのだから。

今から話すことは全て私が記したある命の記録。
まるで物語のようで、実は現実をつきつけられる人生だった。
だからこそこうして記録する意味があるのだと私は信じている。


―二○一四年夏


  今日も私は凡人として遺伝子研究をしている。
私は恋が苦手だ。
  しかし人間どれだけ虚勢を張っても一人では生きていけない。
  なら私は昔見た特撮番組を参考にバイオロイドか二足歩行の生物を自らの手で産むことを考えた。

「博士。バイトってこれだけ?」

  恐らく本来は色白だがスポーツに打ち込んでいるからか、褐色に焼けている男子高校生がそう訊ねた。

「献血と思って貰えればいいよ。ちゃんと報酬は支払うから。」

  今更老後の資金なんてあるわけも無い。
私は研究にも私生活でも欲は一つだから浪費もしない。
  だから男子高校生には他のバイトでは支払われる事ない程多額の費用を支払った。

「いやあ博士って肩書きは伊達じゃないですね。
他の病院よりも痛さも何もなく採血するなんて。
医者じゃないのが不思議。」

  医者は私の目的では無い。
  命の向き合い方が私はズレているから。
  かつて親友だった人間に言われた言葉を思い出したが屈託のない笑顔で報酬を受け取る男子高校生を見たら全てを流すことが出来た。
  もうあの子と関わることもないだろう。

  こうして私の研究へ取り掛かる下準備は終わった。
  様々な人達が思ったよりも協力してくれた。
だからこそ諦める訳には行かなかったのだ。

  クローン人間の技術の応用。
  倫理的に禁止されている私の特技でもある。
  医者に向いていないと言われたが経験した事はある。
  だからこそ私は人命救助には向いていないと実感した。
  今ある命を救うよりも、新しい息子か娘が欲しい。
  そして私の立ち回りが上手ければそれがすぐに叶う。

*親友


― 二○○八年秋

  私達は二人で研究を語っていた。
   まさか好調だった中、リーマンショックが襲ってくるとは。
  何人かサラリーマンの友がいたがリストラはされなくても減給されて苦労していた。
  大多数が家庭を持っていたから懐事情を察すると頭を抱えたりもしたものだ。
  ただ内心私達を「家族がいない」と扱き下ろした事の恨みは忘れることはないから非常にスカッとしたものだ。
  親友と〇〇年代にもなって科学へ夢中で子供のようだと思われながらも自分達の子供を男性で生み出す野望が上回った。

「いやあ、不景気と言っても欲が少ない俺達にとっては変わらないな。」

「ああ。ただバックアップしてくれた団体を頼れなくなった以上コミュニケーションが重視される現代社会では地獄だぞ?」

「俺達もいい歳だが周りも幼いよなあ。
男はガキのまんま。
女は先へ行く。

どちらでもない俺達にとってはどう考えたって他人事。

そうだろう?」

  親友は豪快な奴だった。
  周りから慕われて理解もあるからこそ交友が少ない。
  良い意味で他者と距離感のとれる奴だった。

  当時一人でこの研究が報われないかもしれないと悲観的な俺にとっては有難い存在でもあり、嫉妬の対象でもあった。

  大人だからこそ見えてくるポジティブな視点は逆に悩みをもたらすものだ。
   親友に対してこのような心理戦が働く俺はどうかしていているな。
当時も。
  俺はその時も研究について考えながら酒を酌み交わしていた。

「前やっていた朝ドラヒロインみたいな魅力のあるお前が言うと、俺も同期の悪口を言えなくなる。
まあガキの頃に散々俺達をからかって幸せを手に入れたみなもとがリーマンショックを機に嫁さんから親権を取り上げられた時はいくら俺でも笑ったけどな。」

「おいおい。
久しぶりにキツい毒があるなあ。
俺しか聞けないから本当に酒が進む!
ああ、マスター。
もう一杯追加!あと〆もお願い!」

   ガス抜きもしながら遺伝子を集めて隠れながらやる研究は最高だった。

   ただ、いい事ってのは簡単に続かないもの。
   年明けに親友が倒れたのだ。

「どうして、言ってくれなかったんだ?」

  私達ぐらいなら自分の状態はすぐに調べられる。
  親友はこの研究に没頭するあまり休息を長年取っていなかった。

「は、ははは。
もうすぐ息子か娘が生まれると思うと…いてもたってもいられなかったんだ。

 若手の…細胞をなんとか集められた…けど、若い細胞だけじゃ…手が届かない。

だが年寄りは嫌いだ。
だから…自分の身体を…」

  今ならわかる。
  親が子を想う気持ちというのはこういう事だと。
  だから当時実感もなく、他人事のように研究を続けていた私を親友は許せなかったのかもしれない。

「頼む…コミュニケーション不足の俺よりも…お前の方が広い人達と話が出来る…お前は俺と違って一人一人をじっくりと観察出来るからな…ただ悲観的な所を除いて…!」

  そう見えたのだろうな。
  だがその通りだ。
  私は親友の治療を続けたが最期まで研究を諦めずに出来ることで子を宿そうとした親友は、二ヶ  月で帰らぬ人となった。

  そして現在。
  やっと老若男女の細胞を手に入れることが出来た。
  永遠に若さを保てる命を与えたかったが、このことわりはそういった卑怯なやり方を拒むようだった。
  大切な子を老いから…成長させるもいう選択肢をもぎ取る行為は禁じられていた。

  古くなったとはいえ現代でも通用する私達の自作コンピューターは親友が遺し、託した子宮だ。
  あの男子高校生が見た目通り健康優良児で助かった。
  語弊を無くせばそこはパズルで言う最後のピース。
  正確でなければならなかった。

  周りの幸せを嘲笑った過去もあった。
  しかし仲間達が望んだ幸せを手に入れていく姿を見ることに悪い気はしなかった。
  少なくとも倫理に背く私達よりは真っ当で最善ではある。
  例え最悪だったとしても責任を持つ以上は皆、この不条理に生きて進んでいる。
  そこに優劣はない。

  培養された細胞がもう臨月を迎えるのだ。
  女性陣にやや失礼だなと思った。
  私達の痛みは長期的で不理解だ。
  だがそれはいい。

   しかし鼻からスイカが出る痛みを経験も共有も出来ない私達は母親へは永遠に頭が上がらない。
  逆に自分達が明らかに他の人間とは異なる道で親となった事で漸く覚悟が出来た事に恥すら思い浮かんだ。

  ガラスから子を取り上げ、清潔にする。
  性別は男の子。
  親友の遺志か、最後に採血した男子高校生の影響か生まれつきガタイが良かった。
  鳴き声も逞しく響きわたる。

  私は昔の家族は既に亡くなっていて、親孝行も介護も何も必要はない。
  しかし残念だ。
  母性が宿っていた親友が今、この場にいないからこそもっと泣きたかったのに疲労に負けてしまった。

  ここで決意を改めなければ先はない。
  私もこの子も通常のルートでは生きていけない。
  だが私もこの子も後悔した時にまた、気付き立ち上がれると信じて現実を生きていく必要があった。

  私は母では無い。
  ましてや父でも。
  だが漸く我が子が産まれた!
  育てていく。
  何としても!

ページ最後。



  ここからの物語は自由に想像してもらって構わない。
  このレポートが読まれているということは、私達の現在歩む幸せが崩れたのだ。
  だが馬鹿にしてはいけない。
  プランは上手くいかないもの。

  君達は私達を探すことは出来ない。
  ただ瞬きもせずこの研究を流し見しただけだから。

  そして、こういう生き方も存在しているのだよ。
  どう思うのは読み手の自由だが、生き方に制限は無い。
  リスクは何事にも付き物だから。
  だがそれでも私達は歩いていく。
  歩いてみせる。
  そして立ち止まってみせる!

ありがとう。
発見者よ。

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