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あの日僕はどう感じたか第二章:夏季休暇前

※ 過去掲載作です。
全七章。

過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載

お楽しみ頂ければ幸いです。


  ついに僕達にも夏休みがやってくる。
あと一週間が長い。

  夏休みの課題や進路について、塾と遊びもやはり小学生の時とはまるっきり違う状況だ。

  僕達の現代社会における青春はいつになるのかな。
ふとぼんやり思っていた。

「この本、借りてきます。」

  僕は図書館に来ていた。
本当に欲しい本は買うしかないんだけど、やっぱり無料で娯楽が楽しめるのは大きい。
ネットサーフィンでダラダラ過ごすのはあまり好きじゃないから。

  図書委員の男子の先輩は春からそうなんだけど学校指定のシューズ(サンダルみたいな)に素足で過ごしていた。
ヤンチャそうなイメージがあったから用心深く接していたけど見かけも話し方も普通だった。
それに同性だけど学ランで武装されている中、先輩のシューズ間から見える素足はどこか美しく感じていた。

白風興哉しらかぜおきや君だっけ?よく本を読むね。
俺にとってはありがたいよ。」

「は、はい。」

  小学校でおそらく外で遊んでいたタイプは遊具もなく、休み時間でも外出禁止になった中学では他に行く宛もないということで図書館に来ている人もいる。

  不良も来ることがあるからやめてほしいけれど。
本も読みそうにないし。
だからか先輩は本をひたすら借りて返しに来る僕を覚えていたようだ。

「夏休みの課題図書に読書感想文目当てで来る子もいるけど、白風君はもう何の本を書くのか決めた?」

「その…人体について興味が湧きまして。」

  先輩は意外そうなリアクションを取った。

「将来医学部に入るとか、美術系に進むの?」

「そうではないです。
僕、陸上部も入ってるしその経験を活かして将来役立てたいので身体については学びたくて。」

  本当の理由は違う。
自分が同性愛なのではないかとても悩んでいたのだ。
なぜ、友人の時田君や部活で一緒になった峰君の腹筋にあれほど高揚してしまうのか。

  女友達に聞くのも恥ずかしいし、そういうことなのかな?と最近思っていた。

  中学生と言っても僕や先輩達含めて未完成の人間。
いわれのないレッテルを貼られるのはやっぱり怖いんだ。

  だから、この期間はそういう勉強もしていた。
勿論人体に偏った本を読むのも怪しまれそうだから一週間毎にジャンルを変えて借りていた。
金銭的余裕があったら美術本とか、難しそうな筋肉も全部載ってる本も買っていた。
好きな漫画やゲームがそれで買えない時は泣く泣くという事も少なくなかった。でも、これもある意味娯楽だから。
真剣だけどね。

  先輩は笑顔で「また借りに来てね〜」と図書カードにサインしてくれた。
そして僕は忘れていた事を思い出した。
「祭りで誰誘うか、頼まれてたっけ。」

  慶太、夏が来た

  俺は平滝慶太ひらたきけいた
中学生になってもう夏休み前。
小学生の時に部活とか塾、その時の友人の紹介である程度入学前に知っていた子もいるけどやはり他の学区から来る子達とのコミュニケーションは大変だ。
先輩達も来年入ってくる後輩達も同じ条件で来るし。

  つまり、人間関係が大幅に変わる第一歩。高校生以上でない限りは対して気にする事じゃないけど。

  けど、俺は興哉と同じクラスになれた。
白風興哉。
俺と同じ小学校。
幼稚園もタイプも違うけど一緒にいて楽しい友達。
お互い、新しい友人ができ、新しい生活を送って少し話す機会が減っていた。
下校時だけはなるべく話せるように時間を作っているけど。

  それに、前会った峰桃吉みねとうき
彼もまたあいつに攻撃されてないかな。

  まさか俺が彼を助けるなんてな。

「はい。ここで終了。片付け終わった奴から帰っていい。」

  練習が終わった。
俺はサッカー部に所属している。夏休み前で試合もある。勉強との両立も不安だったけどみんながいればそんな不安も消え去ってこなす事ができた。

  更衣室ではまだ十代前半と後半に差し掛かる俺達下級生や先輩の研ぎ澄まされた肉体がその練習の苦労さを証明している。
野球部やバスケ部ほどやる事は少ないけど、その分磨きをかけている。

  悩んでる暇なんてないか。
俺は着替え終わって歩いていた。
今日は興哉が用事があって早く帰っている。
一人の時間も必要と考えていると同じクラスの時田が仁王立ちで俺の前にいた。

「おい平滝。
練習お疲れ様。
そんな中悪いんだけどさ、今年も祭りがあるんだけどどう?」

  気が早いな。
時田竜也。
俺や興哉とクラスメイト。
部活にも塾にも入っていないらしい。
でも勉強はできるのか興哉や元いた友人達と話しながらついて来ている。要領がいいのかもしれない。だからか、遊びたい盛りか。

  どうしたものか。

「平滝。今日は一緒に帰ろうぜ。」

  そういう事で俺は彼と帰ることになった。

「お前さ、興哉と喧嘩でもしてるの?」

  お互い自転車を降りて話している中、時田は聞いてくる。

「喧嘩はしてないよ。ただなかなか会えなくて。」

「進路の事のために新しいことやるのは大事だし、俺も見習いたいけどさ今まで一緒にいてくれたダチは大事にしないのか?」

  蔑ろにしているつもりはない。興哉もそれを察してくれている。

「興哉って俺はまだ3ヶ月かそこらの付き合いでしかないけど大人しい分溜め込みやすいんじゃないか?なんか最初話した時よりも気を張ってるというかさ。」

「興哉は興哉で過ごしている。あいつも部活や塾で忙しいし。」

「あ、それ遠回しにどこにも所属してない俺の罵倒か?俺は俺でやる事をやって今を楽しんでるんだよ。」

「祭り、誘ってくれてありがとう。」

「せっかくだしパァーッと楽しみたくてさ。
無所属とはいえ、他にセカセカしたみんなを見るのは寂しいし。」

  俺達は間を置いて盛大に笑った。

「ははは。時田ときたも結構考えてるんだな。」

「お前こそ。
拗れた優等生みたいな奴かと思った時もあったけど興哉や俺の事も心配してんだな。
安心しろよ。俺は興哉を変な道には連れてかないからさ。
もし、心配なら俺の腹殴ってもいいぜ。」

「そんな暴力は振るわないからさ。」

  他愛もない事を話して俺達は帰った。
祭りの日は試合後から少し経った後。つまり空きがあった。興哉にもまた確認するけど、俺は祭りへ参加する事にした。

隠し事


  赤井嶺二あかいりょうじは秘密にしていることがあった。

「あぁ〜これがライトノベルかぁ。なかなかおもしれぇじゃん。」

  家には大量のグッズがあった。
今までは男子中学生の部屋としてはありがちなサッカーボールやバスケボール、適度な漫画にゲームセンターで取ったたぬいぐるみがあったが今や机には美少女フィギュアや使い道はないが大切にしている缶バッジなどがおいてある。

『ミリア』と言うとある作品の女主人公を模した小さいフィギュアは赤井にとっては大事な女神だ。

  しかし、これは自分が一人で過ごす時の楽しみだ。誰かが入りそうな時は簡単に片付くようにしている。

  大量のグッズと言っても後片付けが得意な赤井にとってはカモフラージュなど造作もない。
「あぁ。ミリア様。大っぴらにこの事を公開できない私目をどうかお許しを〜。」

  きっかけは小学校の頃からの友人、時田竜也から貰った事だった。
彼はあまり本を読んでいるのか赤井には教えてくれなかった。だからこそ意外だった。

「なんかオススメって陰キャラな灘小なだしょうの奴から言われたんだけどこの、『レイの使いパシリ』って小説。
俺、『メニー・ポルターと勇者のつるぎ』でくじけたからお前に渡すよ。」

「竜也、それ他の奴の借り物だろ?俺に渡すなよ。」

「それがそいつ、新しいアニメに夢中らしくてもう全巻読んだからって俺に。」

  なぜ竜也に渡したんだそいつは!竜也はそういうの興味がないのに。

  その陰キャラの友達について聞こうと赤井は戸惑ったがこの『レイの使いパシリ』に関心があるように見られるのはまずい。

  別にそんなことで竜也が俺をからかうわけはないのだがその時の赤井はそう思っていた。

「ちょうどいいや。
こういうのって読書感想文には使えないかもしれないけど、ちょうどいい暇つぶしになりそうだし。」

  そう。暇つぶし。暇つぶしだったのだ。

  帰宅後に赤井は『レイの使いパシリ』を読んだ。
最初は気怠そうな男子主人公が冒頭を語る。

  なんか他の小説と違うな。
なんか自分達に近い、いや歳の近い先輩達がこんな事を言っていたようなとついていくのに必死だった赤井は『フィリエ』という男子主人公を引っ張る女の子…つまりヒロインに夢中になった。
物語を読み進むうちに男子主人公とフィリエとの関係に夢中になり、使い魔である青いドラゴンにそそのかされた男子主人公がフィリエの入浴を覗きに行こうとする心情に一人『だよなー!見たいよな!』と勝手に感情移入したり、フィリエが権力と体力のあるムキムキな敵に負けた男子主人公に喝を入れられる時に自分が言われた気になりながら萎縮し、そして宿題を片付けて「フィリエありがとう!」と心の中で感謝するくらいには堪能していた。

  夏休み前にこんな楽しい本があるなんて。ジャンルは当時もよくわからなかったが『ライトノベル』と言うらしい。
他の小説も好きなのだがこんな漫画のようでどこか細かいライトノベルにはまるなんて。
それから『レイの使いパシリ』がちょうどアニメ化するということでチェックした。
部屋のテレビで見る度に『フィリエ…こんな声なんだ…』と赤井はそのジャストマッチした配役に惚れて他のアニメも原作もチェックして行った。
勿論中学生でこんな趣味は流石に恥ずかしいから秘密で楽しんでいる。

  だが、おかげで中学一年という一番緊張する時期も夏前までも乗り越えられた。
赤井嶺二は眼鏡をかけていて、体型も痩せ形。
性格もそれほど暗くはないけど明るいわけではないというどこにでもいる少年だった。
そもそも赤井は干潟ひがた小学校から潮小学校に転校していたのだ。
なかなかはじめの一歩が踏み出せなかった赤井に声をかけてくれたのが“時田竜也ときたたつや“だった。

「俺、時田竜也。他の奴ともまだ話すの慣れないだろ?俺が教えるからよろしくな。」

「あ…うん。よろしく。」

  赤井はそれから時田竜也を通して友人もでき、楽しく過ごしていた。

  格闘技観戦、プロレス観戦、野球観戦、サッカー観戦や音楽のイベント、そして一緒に草野球とかいろいろしたな。
今もできなくはないんだけど。
だからこそ…だからこそ

「竜也から貰ったライトノベルでこのアニメにハマったなんて竜也も含めて言えるわけないだろ!」

  と心の中で赤井は叫んだ。
風呂場で頭を洗ってる最中に込み上げる思いを噛み殺し、まだ未熟な自身の腹筋と胸筋を強く殴って思わず出そうな本音を隠す。

  でも、竜也がいつもくれるきっかけには意味があると思った。
今日も夜、盛大にありったけの妄想力で過ごす。
今までは竜也から貰ったエロ本や自分で拾ったエロ本、インターネットで見つけた画像で溜めていた感情を放出していたのだが。

  いくらなんでも隠していいことなのか。
でも、別にいいか。
楽しめてるし。
学業にも支障をきたすどころか今までと比べてハイパフォーマンスとして成果も出ている。
事を終えて少し思い出す。
そういえば、竜也から祭りの誘いがあったな。
同じクラスだけど小学校は違った“白風興哉しらかぜおきや“君も来るとか。

  他誰呼ぶんだろ。
竜也も友達はできているが楽な道を選ぶからか既存の友人と結局過ごすことが多い。

  パーっと誰かと騒ぐのが好きな奴だけれど緊張してんのかな。

  ミリア様の御加護をあいつにも分けたいくらいだ。
なんて思う赤井嶺二。

  そしてまた思い出した。

優津樹ゆつき、俺達と話すことなくなったな。あいつもなんか趣味見つけたのかな。友達できているかな。」

  竜也もすっかり話題に出さなくなったけれど、心配にはならないのだろうか。
俺がこの趣味を隠すように、みんな何か隠しているのかな。

バイオレンスとは言わないで


  あれから苛立ちが止まらねえ。
クソっ。
俺はクマセミが鳴く森でこの抑えきれない怒りを鎮めていた。

  なんだよ。かっこいいヒーローのつもりか?あの平滝慶太って奴は。
灘小なだしょうにあんな奴が居たなんて。

  中学一年生になって俺は心身の変化に戸惑っていた。小学生の頃とは違うどこか敏感な気持ち。
俺はそこまで鋭く物事を見ているわけではなかった。

  ただバカやって笑っていた。
勉強も適度にやってりゃいい。
男子は遊んでおけばいい。
活発な俺は喧嘩もしたし、遊びも子供とはいえ全力だった。
おかげでだいぶ力がついた。
友達とも楽しく過ごしていた。楽しく?
今はどうだろうな。
俺は不良の先輩と連むようになった。

  同じ小学校だった先輩や別の小学校から上がってきた先輩と一緒に校舎への落書き、暴力沙汰、先公との反抗もした。まだ中学生になって四ヶ月なのに。

  でも俺は自分でも気付いていた。
こんな事したって俺に居場所はないんだって。
同じ学年にも片っ端から攻撃した俺に味方になる奴なんて俺みたいな中途半端な不良かぶれかただの馬鹿だけだ。

  それに、不良の世界でも先輩に可愛がられるか兄弟の力…つまりコネだ。それがないとすぐに最下位になる。

  だから俺は抜けようとしていた。
俺は喧嘩や学力が強いわけではなかった。
だが、なるべくそういう権力に頼りたくもなかったし、あんな尊敬するに値しない出来の悪い歳上と一緒にいたくもない。
こういう界隈は抜けるのが難しいのが本来普通だった。
でも俺は早くから相手にされなかった。
可愛げもなく、言うことも聞くわけでもない。それともあいつらにヤキが回ったのか俺は自然と一人になった。

  前はこの苛立ちを干潟小から上がってきた“峰桃吉みねとうき“にぶつけていた。

  あいつも一人だったから。あくまで俺から見てだが。
だが、あいつの身体つきを見ていたらどうしても力を試してみたかった。でもあいつは俺が入学当初から攻撃をしても全く抵抗しなかった。悔しくないのか?悔しいはずだろ?なのにあいつは立ち向かうことも涙を流すこともなくただ俺に殴られ続けた。
変わった奴だ。不良グループにいた時も仲間から言われたな。

『なぜあんな奴を構う?』って。
理由なんかない。

  俺の孤独なんざ誰も知りやしない。
俺は一人でそいつを攻撃した。
運動部に入ったって生まれ持った力が違う。
それを思い知らせてやろうとしたら平滝慶太に俺は無残にやられた。

  それを仲間にちくられ、俺は不良達から殴られた。
これは仲間だと思った奴らが俺を元々追い出す為に機会を伺っていたんだろうな。
俺はグループの恥さらしとして捨てられた。
だから苛つく。
何者にもなれない問題児扱い。
俺はクラスに戻っても君悪がられて一人だ。しかも、同じ小学校だった奴からも嫌われて、俺の噂は学校中に広まった。

  俺は力一杯、自分の腹筋を殴って強度を確かめた。
痛いな。
行動そのものも、腹筋を通して内臓に響く鈍い痛みも。それから俺は近くの木を蹴って殴り、そこにいたセミも他の虫も散っていった。
こんな時、お前ならなんて言うんだ?
同じ中学になったのになんで話しかけてこない…ってそりゃそうか。関わりたくないよな。

竜也…時田竜也…。

  俺は平滝慶太を恨んではいなかった。
むしろ中途半端に不良グループに入り続けて人生をもっと棒にふるより良かったかもしれない。
これで心置きなく他の奴らを殴れる。
だが、その前に平滝には仕返しがしたい。
あの優等生面が俺を苛立たせる。
誰にでも好かれて当然ってのがな。

「やっぱりここにいたか。」

  この場を知っててわざわざ俺に話しかける奴なんて一人しかいない。

「嶺二か。」

  赤井嶺二。
俺と同じ潮小学校からのタメ。
世話焼きな男だ。俺はこいつのこういう所が苦手だった。

「話、聞くぜ。優津樹。」

  俺は…話していいのだろうか。
嶺二とこんな風に付き合っていて。
俺は迷い、答えが出ないこの想いを俺なりに嶺二に伝えた。

続く


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