Lizard humans and adolescents-トカゲ人間と青年-
トカゲ人間と青年
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時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
そして長文かつ表現の配慮がまだ足らなかった頃の作品ですのでご不快でしたらブラウザバック。
あらすじ
卵から生まれた一体の生物。
緑の鱗に覆われ、粘液に包まれたその生物は捕食目的ではないが獲物を求めてさまよい始める。
多くの仲間が卵の状態で待機している状態だが、彼だけは発達した二本足でまるで人間のように歩行する。
長い舌を舐めまわして顔の粘液をぬぐいさる。
自分を阻むコンクリートの壁を壊し、本能のままに行動を開始する。
-日常サイド-
別に母国程の都会にしてくれとは頼んだ覚えはない。
新鮮な世界なら田舎だとか都会だなんて発想に乏しい二択はない。
むしろその発想の乏しさが羨ましいくらいだ。
コンビニ、でかい駅、道路…これが揃ってるだけでも有難いが後は大した事のないモノばっかじゃないか!
しかも年齢の取締も厳しい。車こっちでは乗れねえのかよ。
バイクの免許を態々取ったのが面倒だったけど何年かここで暮らさないと行けないので後で自動車の免許は習得しよう。
どうやら俺が感じている不便さはこの国の人も共通らしい。
「早く上京したいな。」
「不便じゃない所ならここ以外探せばよくない?」
「金と頭の良さがある人は言うことが違うな。」
おおお!いいぞこの十代後半特有の鋭さ。民度の悪さ!友達になれないのが残念なくらいに今ここで話してえ。
「痛てっ。」
俺は友達に叩かれて我に返った。
「ほんとよく考え込むな。」
まじか。
と、通学路から逸れた道で麗空と喋っていた。
俺の数少ない友達こと田戸脇麗空は今じゃ珍しくない巫山戯た名前とは裏腹に俺が常に抱く葛藤という名の愚痴を聴いてくれる。
あと、ちゃんと返事と叱咤激励もしてくれる。
「アロンソの国ってそんなアスペルガーチックなの?」
と、このように毒付くけどな。
「ここと変わらねえよ。変わり者と友達になりたかったのはどこの誰だよ!」
麗空は自分を指差してとぼけてみせる。
「田舎のデメリットだよな。アロンソの運転ここで見たいなあ。左側通行でスピード出すなんて真似したらヤンキーというか馬鹿だけどな。」
「日本で免許取ったし指導員に何度もからかわれても真面目に通ったぞ?ただの外人じゃねえよ。」
麗空は不機嫌な俺に肩を回す。
「そうやって文句いいながら法を守ってくれるアロンソってカッコイイと俺は思ってるよ。」
俺は照れてしまった。
くそ!その気はないのになんてスキルだ。案の定こいつは異性にモテるけどな。
俺の国でもそうだったけど顔や性格よくても人が人に打ち解ける条件は『見た目から醸し出される情報の匂い』だ。
つまりその場に適した要素が最初に見せられるかどうか。
大抵は見る目の無い頭の悪いタイプか変態が寄ってくるがだからこそ貴重な勇気を一歩踏み出して話してくれる人もいる。
田戸脇麗空がその一人だ。唯一じゃないようにするため俺は自分の性格に粗があったら改善する努力をしようと彼と出会って思ったのだ。
俺達は夕暮れまで話していた。
特に話したい会話や趣味があるわけじゃなかったけど、あるじゃん。
無駄だけど楽しいことって。
「アロンソも文化の違いを主張してくれればなあ。」
「さっきと話してる事違うぞ。
俺は馬鹿なリスクは背負わない。」
麗空が残念そうに凹む。なんだよ気持ち悪いな。
「なんかあったのか?」
「そんなんじゃねえよ。」
麗空は歩みを止め、道路を眺めていた。
「バイク乗れる友達居るのに、2ケツしてもらえないの損だなって。」
なるほど。
そう言われれば勿体ねえや。
悪かったなと返事しようと思ったが麗空は自動車に 憧れているようだ。
麗空はぼっちと呼ばれるタイプではない。俺と違って内向的ではなく、普通に話ができるタイプだ。
俺が今知る限りは。
不良に憧れてる程狂おうとしてはいないはずだが風を切りたい感覚は年相応にあるのだろう。
なぜなら。
ここは田舎だからだ。
何も誰にだってストーリーやドラマはない人生でも 普通や特別なんて存在しないだろう?
発散の仕方は人それぞれ世代それぞれ国それぞれだ。
俺に話しかけてくれたのも
「初めましてアロンソ君。ところで、君は車って好き?」
というありがちな会話を装っていた。
「そんなに乗りたいなら裏道教えようか?」
「捕まるのは嫌だろ?」
「嫌だよ。だからこそ抜け道はあるのさ。」
「アロンソって日本じゃなくても言語センスとか免許の取得も含めて適応力高いと思うよ。」
「生きてるって事はそういうことだ。」
と何気ない話をして工業地帯に入る。
「よくあるよな。海沿いの工場って。フィクションだと熱くならない?」
「熱くなるにはまだ材料が足りないぞ。」
そう駄弁りながら俺達は裏道に進む。
すぐ側に破片が飛び散っている事を知らずに。
-非日常 Lizard man-
肉の臭いは闘争本能を煽る為の感覚だ。
食うか、襲うか、殺すか。選択肢は意外とある。
生憎食う為の臭いは昆虫や他の生物で間に合ってる。弱い者を食うのが生きる合理的選択。
だから自分は外敵なんだろう。
仲間を放棄し、生まれたらすぐ邪魔な障害物を壊して進んだ。
他の仲間も雑魚じゃない。自分が先に強くなっただけだ。
外に出てすぐ舌で感じる臭いに興奮した。
人間の臭い。
オスとメス。
二人は恐怖で逃げようとした。そうか。自分は人間ではないのか。
だとしたら獲物か?それとも敵か?
しかし二人は逃げ出していく。だったら敵ではないのか?
獲物にしては大きすぎる。この肉の臭いなら確かに 攻撃し甲斐はあるが食欲とは違う。
小さければ別かもしれないけれど。
「来るな!」
もう二人いるのか。臭いから察するに警戒している。
「どうすればいい?警察よべばいいのか?」
「そんな事俺に言うなよ。」
辺りから複数の人間の臭いが集まろうとしている。
このオス達はだいぶ若い臭いがする。
面倒だ。
自分はこの二人を拐った。
-日常 アロンソ&麗空 -
裏道を進んで違和感を覚える俺達。
麗空は初めて来たはずなのに様子がおかしかった。
「いくら裏道っていったってさ、こんな激しいグレ方する奴っているの?」
この辺りにどんな怪力の持ち主がいるのか分からないが周りの壁や建物が破壊されている。
「昭和の日本じゃあるまいしこんな状況、最早特撮だよ。」
「アロンソ日本好きだろ。」
趣味がバレた。
しかしそんな事はどうでもいい。
よく見るとお誂え向きと言わんばかりに血まで着いてる。
「麗空は喧嘩得意か?」
「おいおいさっきの趣味とは裏腹に何普通の事聞いてんだよ!?喧嘩が強いくらいじゃ助かる確率変わらねえだろ?」
「このやり取りができるなら大丈夫かもな。」
平常を装っているが内心引き返す準備はしている。
仮に人間の仕業だとしても逃げるのが正解。
俺達は最初そう思っていた。
ドスッ。
鈍い音が響いてくる。
「ガッ。あぁっ、オエッ!」
生々しくも非日常的な情報。
少なくとも熊が人を殺す音じゃない。ここには熊が出る山はない。
しかし食われた音じゃない。
殴ってる?
「アロンソ、しばらくいつものように分析しててくれ。ただ一つ聞いていいか。」
「なんだ?」
「逃避癖はないよな?」
「逃げるわけないだろ。」
若干狂ってる発言だが恐らく殴られている人間には 心当たりがあるし、ここまで聞いてしまって引き返しても遅かった。
''トカゲ人間に気づかれたからだ!''
-暴行本能-
いつの間にか生まれた場所に近い建物に人間二人を引きずっていた。
自分にこんな力があるとは。少なくとも若いオス二人とは話しても見た目で分かり合えない種族だと言う事は判明した。
「は、離せ…」
右腕で捕まえた若いオスを放つ。
左腕で捕まえた方のオスは何も声が出せない。
「がはっ。ああ…」
首を抑えて悶える人間。
なぜ自分は獲物でも敵でもない人間にこんな事をしているのだろう。
意思の疎通が出来れば分かることなのだろうか?
しかし、頭で考える事よりも肌で感じた経験が自分を刺激した。
若いオスを攻撃した時に、理屈で現せられない感覚が脳を伝う瞬間。
食う為の消費では決して味わえない''強さの証明''
「道哉…早く助けを…」
左腕で捕まえたオスが苦しんでいる。
気が付かなかったが自分の肌を蹴っている。
翡翠色の鱗で覆われた自分の白い腹直筋を懸命に蹴っている。
何も感じるわけがない。弱すぎる。
いつの間にか舌なめずりをしていた。
食欲や天敵から逃れるための覚悟ではない。
これはなんだ?
自分はオスの胸倉を掴んだ。
「があッ…」
すると道哉という名のオスが自分に攻撃した。
傍にあった鉄棒で殴っているが無駄だ。
鉄どころか人間の肉じゃカスリもしない。
だから、自分は道哉というオスを蹴飛ばした。
「あっ…」
少し力を入れすぎたか。
彼は壁に叩きつけられる。
「賢澄…」
口から血を流す道哉というオス。
手を伸ばしてこの賢澄というオスを助けようとするのか。
自分の後から生まれる仲間はこういう事をしてくれるのだろうか。
「てめえ!よくも!」
元気なオスだ。
若さか。
自分は掴んだ胸倉をさっき道哉というオスとは違う方向へと叩きつけた。
「がっ。強えぇ…」
強い…か。
これが強さの証明か。
考えてみれば獲物を食う時と変わらないか。
人間はこちらの欲しい感覚を明確に言葉にしてくれる。
素晴らしい生命体だ。普通に生きていれば得られない感覚。
だからこそ本能が疼く!
わたしはつよいのだ
気がつくと自分はオス(賢澄)の服を破っていた。
逃げるように匍匐する半裸のオス(賢澄)の髪を掴む。
「痛い痛い痛い…」
そして背中を殴る。
「ぐあっ…」
オス(賢澄)が唾と血が口から溢れる。
半裸のオスの姿はまだ成長段階の肉体をしているものの、育ちは良いように思う。
舌で感じた臭いにもそれは分かる。
これだけの攻撃を食らって、いくら死なせないように強さの証明をしていてもここまで弱るものなのか?
少しぼおっとしているとオス(賢澄)は息も絶え絶えに自分の腹部に鉄棒を刺した。
鱗がだいぶ剥がれてしまった。しかしオスの願いは届かない。
「う、嘘だろ?見た目通りの化け物…かよ…」
化物?自分は化物なのか。
強いと言っててくれればいいのに。
その欲求に従ってオスの腹直筋を殴打した。
オスには鱗や自分のような筋繊維の強度がなく、''弱さの残骸''を吐いた。
そうか。人間は弱いのか。
そうして他の若いオスの気配がした。
自分は殴ったオスの体液を舐め、その弱さに同情した。
-大ピンチ-
一通りの武器は装備した。
裏道だからな。
つまり''田舎の吹き出物''が現れる場所。いつでも対処できる用意はしてある。
とは言うもののそこら辺に散らばっている道具を集めただけ。
「物理攻撃でどうにかなるのか?あの怪物。」
自信がねえよそんなん。生きて帰ればそれでいい。
けどこの国は自衛隊がいるけどあんな怪物、銃でも倒せる気がしない。
「もし物理で倒せる自信があるなら俺の国を思えば分かるだろ?」
麗空はうなづいた。
「アロンソ。お前が銃なんか使うわけないだろ!」
ありがとう友よ。だからこそここで最期を迎えたくないな。
シュン…
上から影が通った。
ビタン。
とヤモリが人間化したらそんな着地をするんだろうなと思った。
速い…速すぎるだろ…俺が見た映画はヴィランですら空気を読んだぜ。
「シャアア…」
俺と麗空は戦闘態勢に入った。
この怪物は着ぐるみでも来た人間じゃないのか?と見紛うエメラルドの鱗に包まれた上半身に下手なボディビルダーよりも美しい白い腹筋を含めた下半身を見せた頭部はもろトカゲ、いやカナヘビに近いトカゲ人間。
だがさっき襲われた人が攻撃したのかこの怪物の腹筋の一部は鱗が剥がれ、少しだけ傷ができていた。
父さんと見た特撮に出そうな怪人をよりリアルにしたと言えばいいのだろうか。
尻尾まででかい。
どんな科学力だ。
中学生ならまだしも高校生にもなれば力の差に気づく。
だが麗空は俺から怪物の気を引いていた。
「アロンソ!さっき倒れてた奴ら。俺達と同じ高校の制服を着ていた。念の為生きているか確認しろ!」
カッコイイ台詞をよく言えるな。
流石さっき俺が拾った着火用具を我先に奪った奴だけある。
ナイフまで都合よく落ちてなかったがなんとかガラスや鏡の破片を槍のように棒へ縛りつけた装備はあるが俺達大丈夫かな。
俺は襲われた同じ高校生らしい人達の側に行く。
さっき倒れていた人の場所へ。
本当にこんな倒れ方するのか。
最近の作品じゃ規制でシュールな状況になるシチュエーションの一つ。
瓦礫に人が倒れている。
なんて事まではいかないが場所が場所なのでドラム 缶の上に俺達と同年代の高校生が一人。
壁にさっき腹を殴られた奴が一人。
おいおいおい!こんなの死んでるだろう?
怖いんだけど?治安がさほどよくない俺の国でもここまで酷くはない。ましてやここ日本なのに。
ってあの怪物が出ている以上野暮すぎるか。
とりあえずドラム缶の奴の脈をはからないと…そう思っていたら
「は…はやく…たす…け…こ?ここは?俺達、死んだのか?」
良かった。
生きているぞ?
「が、外国人?そうか。死んだ後だから目に映る者はそう思うのも当然か。
女の子がよかったなあ…アイドルと女優の中間ぐらいの…」
俺は目が覚めるぐらいの力加減で平手打ちをした。
「馬鹿な事を言うなよ!生きてんだよお前ぇ!俺はたまたま外国人なだけだ。
目を覚ませいい加減!」
いやばっちり覚めてるよと合図をした。
「悪かったな恋愛対象範囲外で。
このむっつり野郎。」
「あんな化物見たらお前だって同じ現実逃避するって。あれ?もしかしてお前も見たのか?」
俺は成り行きを説明した。
「裏道…げ?河川敷からこんなとこまで化物に連れられたのか。なんて力だ。」
そこがトカゲ人間が生まれた付近。よく生きているな。
「丈夫だな。
流石相撲が国技に指定されている日本だぜ。」
「馬鹿かお前。
その相撲も外国人ばかり横綱だろう?そういうお前もあの化物に体格よくたって勝つことは不可能だけどな。」
「ブラックジョークを言って悪かったな。でも君が丈夫なのはよく分かった。」
「俺を馬鹿みたいに言うなよ。
サッカー部だからさ。」
乾いているとはいえ口から血を流していて制服がボロボロで泥だらけの高校生が言えることじゃないのに。
だが冷静に振り返るとあのトカゲ人間は俺達を殺しに生まれたわけではないという事はわかった。
「俺の名前言ってなかった。
アロンソ。
アロンソ・グリフォード。
見りゃ分かるが同じ高校の生徒だ。」
バリバリに武装していたのを忘れていたが伝わったようだ。
「俺、磯崎道哉。ちょっと河川敷で踊ってみようと思ったらこうなった。」
非日常って言うのはくだらない遊びを行う時に限って現れるのが現実ということを俺達は知り、溜息をつく。
って麗空が危ない!だけど、もう一人の奴にも声をかけないと。
「もう一人倒れてた奴は?」
「黒谷賢澄だよ。
バスケ部だ。」
「何部かはこの際どうでもいいよ。」
賢澄という生徒は上半身の制服を全部破られ、バスケ部らしく必要な筋肉を鍛えられた身体をしていた。
眼鏡をかけていたらしいが踏まれて潰されている。
顔はそこまで殴られていない。
だが大胸筋や上腕二頭筋、腹筋には殴打や切り傷がある。
しかしこれじゃヤンキーの喧嘩に巻き込まれたような状況だ。
下手すりゃそっちのケースの方が死ぬ。
人間が怖いとかそういう事も思っちゃったけどだからこそあのトカゲ人間の行動が不気味すぎる。
黒谷という生徒は口を開けて倒れていたが息は戻っていた。
ただ、嘔吐の跡が生々しい。
「こ、ここは?びょう…いんじゃ…ない…死んでるわけでもない…夢?」
俺は残酷な真実を彼に告げる。
「そうか。現実なんだ。」
「諦めるのは早いぞ。」
磯崎が助けを呼んでいる。
スマフォは無事だった。
本当に野生なのかなんなのか怪物の意図が読めない。
「俺、眼鏡がないと見えなくて。」
「眼鏡なら潰されてたよ。」
「コンタクトにするか。」
「生きる希望は些細なことでいい。」
「何言ってんの君?って日本語ペラペラだね。」
「お前こそどんな鍛え方してんだよ!俺達世代の眼鏡っ子は陰キャ少ないけどさ!」
「君は日本のどこを学んだのさ!」
あ、麗空の助けに行かないと。二人の無事は確認したし。
俺が去ろうとすると磯崎が俺に何かを伝える。
「助けれてくれてありがとうな。もう一人連れがいるならそいつにもお礼を伝えてくれ。あと」
今時の高校生らしく磯崎が落ち込みながら余計な一言を
「あの化物一体だけじゃなさそうだ。」
-普通とは-
高校生になってちゃんと友達になってくれたのはアロンソが最初だ。
陽気なタイプの外国人じゃないし、昔小学生の時にいた馴染めないハーフ達みたいに同族で細々とグループ作って生きていこうとするタイプでもない。
高校生だから人目は気にしているが、適度にシャーペンでバイクの絵をノートに描いてる彼。
つっけんどんなわけじゃなくてちゃんと他のクラスメイトともコミユニケーションは取れている。
だが、どこかこの国に諦めを抱きながらも楽しんでいる姿が愛らしくて話してみたかった。
俺はすぐ側で話していた友達と一旦離れようとした。
「アロンソのとこいくの?」
「別にいいじゃん。何?嫌いなの?」
「いや別に。俺達もアロンソと友達だし。」
「ならいいじゃん。」
「いや、今アロンソの集中を解くのは…」
俺は一人で考え込んでいるアロンソの元へ。
話しかけようとすると
「誰君?今めっちゃ背景で悩んでたんだけど?」
おお。
日本語は噂通りペラペラだな。
「初めましてアロンソ君。ところで、君は車って好き?」
アロンソは驚いていた。
「マイペースだね君。
他の人から聞いてなかった?俺、集中乱されると恨むよ?」
「発達障害だかアスペルガーだとか?都合の良い部分を強調しながら天才だとか生き辛さを強調するのは日本人の悪習だから君は例外だと思うんだけど。」
「初対面なのに結構言ってくるね。
逆に言えば話が速い!そもそもアスペルガーって事を言えって最近の学校がうるさいから言ってるだけで俺はザ・〇〇デターよろしくムキムキになって帰ってくるから。」
俺達は笑いあった。
「ごめんな。
からかったりして。
アロンソ君のバイクの絵が上手くてさ。車とか詳しいのかなと思って。」
「ああ、見てたんだ。俺、絵が好きでさ。この田舎見てると自然と筆が乗ってさ。」
だよな。このクソ田舎に対する感想が共通なだけで分かり合えなくても良いやって思えてしまう。
「俺の名前は田戸脇麗空。異文化交流しよう。」
「いや、普通に友達で良くない?」
はっ!
俺はいつの間にか倒れていた。
トカゲ野郎の腕や脚の動きに警戒していて、尻尾の一撃に気が付かなかったようだ。
走馬灯だったのか?アロンソとの出会いが思い起こされるなんてな。ガールフレンドくらい欲しかったな。
それは置いといてなぜ止めを刺さないんだ?
さっきの人間には重い一撃を与えていたはず。
アロンソは無事にあの人間達を助けたのだろうか。 そもそも生きてはいないのか。
「シャア…」
舌を出し入れする姿が気持ち悪い。
装備もバラバラになってしまったが生きてればチャンスはある。
先端にガラスを付けた槍。半壊したがまだ使える。
更にライター等もある。
舌を出し入れしながら何かを探している。
目は良い方じゃないか。
トカゲというよりはヘビだな。
体勢を建て直し、様子を伺う。
尻尾が時々俺の側を叩きつける。
またやられて倒れたら次はない。
ずっと着目していた奴の弱点。
鱗の剥がれた腹部に当たれば…けど鱗なしでもあの強度の腹筋が厄介だ。
人間と同じ形をしていながら傷を気にする様子がない。
だが、殺すならさっきの一撃で殺せばいいのに。
手加減をしているのか?
ならこいつはどうすればいい?殺すしかないのか?喋れるのか?だったら話し合いに持ち込めないか?
できればこれ以上面倒じゃない方法がいいが。
「シャアッ!」
怪物は俺の元へと一気に近づいた。
初撃は避けれた。その間になんとか槍に灯油を塗り、ライターを近づけようとすると怪物の尻尾が俺に巻きついた。
「があっっっっっ」
ライターと槍が落ちてしまった。皮肉にも落ちてから槍に火が宿る。
怪物は舌を舐め回し、俺に向かって吠える。
「グギィ…」
俺は無駄だと分かっていても説得を試みた。
「お、おまえ…人間の姿してるんだろう?…どんな生活してたか知らねえけど…がぁぁ…なんで俺達を襲うんだ…」
通じたのかは定かではないが少しだけトカゲ人間の顔に悲しみの表情が出たと思った。
「まさか…哀れんでるのか?…人間滅ぼすとか?…やっぱり考えたりするのか?」
少しだけ間が空く。
しかし尻尾の力は緩まない。
得体が知れない。すると俺ごと尻尾が壁に叩きつけられる。
後ろの壁が少しだけ割れた音がした。
激痛が全身に走る。
「あっが…!」
尻尾から解放されたものの次はトカゲ人間が俺を両腕で締める。
不思議と殺気は感じるが死ぬとは思わなかった。
何か言葉を待っているようだった。
何を喋ってるかは理解できるのか?
だが、トカゲ人間から言葉は発せられないようだった。
だから暴力で何かを求めるのか?
やばい。やばすぎる。故に対処が分からない!
トカゲ人間は俺を強く締める。時々腹パンもされてる。
へっ。思考は中学生と高校生の間くらいか。
走馬灯のせいか思い出すな。アロンソと友達になったばかりの時を。
俺は若くして死ぬ覚悟を持って反撃のチャンスを伺う。
アロンソにバイク乗せて貰いたかったな。
タダでバイクに乗れるん…だ…
「俺の友達を返してもらうぜ!トカゲ野郎!」
トカゲ人間が声の方向へ顔を向ける。
アロンソ?
-強さの証明-
いつの間にか俺達は仲良くなっていた。
磯崎、黒谷は帰ってもよかったのに麗空の事を気にかけていた。
「流石に見殺しはできねえよ。」
「うんうん。だけど俺達に出来ることって…」
いやあるぞ。
「あの怪物に弱点はないか?」
磯崎は腹の傷を付けたと答えた。
「あの傷お前が付けたのか?流石サッカー部。」
「部活ネタで皮肉るなよ。
けど、賢澄が殺されないように決死の覚悟だったんだ。」
友人想いなんだな。
日本人は豊かだけど冷たいとは聞いていて、確かに そうだったけど俺は奇跡に恵まれている。だからこそ余計に磯崎と黒谷、そして麗空を殺させる訳にはいかない。
だけど、殺されてはいない。殺意がないのは幸いだが平気で黒谷をはだけさせて暴行する変態だ。
なんとか方法は無いのか。
そう考えていた。
「所で、なんで黒谷だけそんなあられも無い姿なんだ?」
黒谷はこっちが聞きたいと言っていた。
「傷をつけた磯崎の方が強いだろ?なのに黒谷をこれだけ襲う理由が分からない。」
俺達は考えていた。
頭が悪いわけじゃない。
むしろこんな状況なのに冴えている。
「そういえば、俺化物に''強い''って言ったんだ。すると急にボコボコにされて。」
「言葉は話せないかもしれないけど、通じてるのか。」
「けど、俺口切って血流れたよ?自慢じゃないけど腹筋で耐えれたのが不思議。
でも攻撃するのは無防備な賢澄ってのはいじめっ子みたいな理由と似てないか?」
そんな磯崎の制服は破れていない。いや、関係あるか分からないが試すしかない。
そうして俺は
上裸になった。
怪物は舌をしきりに舐めまわしてこちらにゆっくり向かい、麗空を離した。
やはり臭いに反応するのか。
体臭は流石にない。
いや、高校生だと着てても凄い臭いがする。
だから制汗剤は手放せないが俺達は制汗剤はつけてない。
何故なら、女子生徒から嫌われるからだ。
しかし香水は気が重い!高い!顔に自信がないわけ じゃないがコロンなんてイケメンと美女しかつけられないだろ?
つまり無臭だーーーーーーーー!
ゆっくり近づく怪物。
よし。
俺は露になった腹筋と大胸筋を大きく使って深呼吸し、
「お前は強い!強すぎる!」
磯崎、黒谷も同じセリフを叫んだ。
麗空は状況が飲み込めていない。
半裸の俺と黒谷は中学時代の応援団長を思い出して 強いというワードを叫んでいた。
っておい!磯崎もやるんかい!
まあいい。
恥ずかしいが事実だ!
怪物は喜んでいた様に見える。
そりゃそうだ。半裸なんて弱い状態の高校生が強いって褒めてくれる。
俺様系主人公がハーレム目指す物語ってあるじゃ ん?
あれの最終目標がこれだ!
通じている!怪物に!
怪物から敵意が徐々に消えていく。
しかし歩みは止めない。
おいおいやっぱ変態かよ…だが俺達三人は一丸となって怪物を強いと褒める。
怪物は一旦止まった。
一か八かの賭けだった。
しかしこれからどうすれば良いのか分からない。
褒めてもボコられるのは黒谷が照明しているしな。
死なないようにしてくれるとはいえありがたくはない。
へへ。
参ったぜ。
すると麗空が燃える槍で怪物の弱点を付いた。
怪物は半歩下がり、尻尾で麗空を弾く。
唸る麗空を俺達は受け止める。
「へへ…半裸の男子に受け止められても嬉しくはねえな。」
「この際趣向変えてみたら?」
「バカか君。」
とやり取りをしていたら怪物に火が燃え移った。
そして、助けがタイミングが遅いがやってきた。
「で、状況どう説明する?」
俺はみんなに問う。
面倒だと他三人は呟いた。
-----後日談
あれから三日。
俺はバイクを走らせて麗空の元に行く。
賢澄、道哉は麗空の家に近いらしいので先に着いているか。
あれから街中、トカゲ人間の事で持ち切りだ。
だが道哉が言っていた一体だけじゃないという言葉通り、謎の卵嚢が裏道近くにあったらしい。
宇宙人でもきたのか色々ついていけないが確実に現代で起きた珍事件。
しかしその卵嚢はキレイさっぱり無くなっているとのこと。
ますます分からない。もっと分からないのがあのトカゲ人間だ。
火達磨になったトカゲ人間は助けが来た後に跳躍して去っていった。
あんな力のある奴に殺されなかったのが驚きだ。
高校生になると命の危険性が増してくると聞いた事があるがそんな不条理は漫画だけにしてほしいと思った。
けど、お陰で友達が増えた。
マスコミも最初だけウザかったが賢澄が
「いたいけな男子高校生をスポーツ以外で取り上げない無能集団は何処のだーれだ?」
と一番怪物にボコられたいたいけな男子高校生が訴えたので撃退できた。
あれ?人間が一番怖いのは確かだけど一番怖いの俺達な気がしないかい?
そんな事を思い出しながら俺はバイクを走らせていた。
おかげで裏道は使えないけど、道哉のお兄さんが指導員をしているらしい。というか俺の担当をよくしてくれていた厳しいあんちゃんだ。
よかったな麗空。
これで法を守りながら望みのバイクで横着できるぜ。
〜完〜
※2020年の作品です。