サイレンス・ブックマーク
※暴力描写あり。
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かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
△自分達
二〇一五年。
輪名と士は中学三年生へとなり、無事図書委員を先輩達から受け継いで今では図書室を管理している。
誰も読まないような哲学系統の純文学。
ライトノベルに歴史の偉人漫画。
中学校としては悪くないラインナップで、自分達が先代達の歴史の上を歩くことになる。
ある日、図書委員になった新入生がいた。
一人だけ。
黒髪で髪型が尖っていて野性味を帯びている。
明らかにスポーツ…いや、何か大型爬虫類が川から獲物を狙うようなオーラを纏っている。
「轍健之介です。
こういう文学系統に精通するのは初めてなんで宜しくお願いします。」
輪名と士はよろしくねと挨拶して図書委員の説明をする。
そこで密談が始まった。
「おいー。この子なんか雰囲気が中学一年生とは思えないんだけど?」
「偏見するなよ!大事な後輩だろ?」
「そうだけど何やってるか分からないし!」
二人の雰囲気が読めたのか轍は先輩を呼びかけた。
「下手な事はしません。
俺、荒事苦手なんで。」
余計に不安になる。
二人の意見は一致した。
これから図書室はどうなるのだろうか。
輪名は轍に図書室の状況と簡単な説明をし、士が掃除のやり方を教えた。
図書委員になったのは自分達三人。
厳密には女の子二人がいるのだが自分達よりも位が高く、一緒に揃うことはなかった。
新入生で図書委員になった子がいるのだから自分達の代わりに来ても良かったのでは?と愚痴る士に輪名が宥めた。
*
△轍のソルジャーライフ
轍は中学一年生にして空手の達人だった。
更に、インターネット中毒で数多くのオタク達と出会うまでは武道の世界で食っていくつもりだった。
しかし、現実はオタクに優しくなくて轍もオタクになるつもりはなかった。
「誰か図書委員になる人いる?」
誰も手を挙げなかった。
そりゃそうだ。
ある程度市民権を帯びてきたとはいえオタクはギークでマイノリティの最下層。
しかし轍は武道をやめて他の使命を望んでいた。
そうか。
オタク世界へ潜入すればよい。
そして轍は名乗り上げる。
「俺がやります。」
周囲が驚愕していたが別に不思議じゃないだろう?
誰もやらない図書委員をやる。
俺は、人の嫌がることを進んでやるの。
そう周りに圧力をかけて図書委員になった。
他の理由は自分が見た目も徹底しているので怖がられているということ。
そんな自分が図書委員になれば不良の溜まり場では無くなる。
それに轍も本は好きだ。
ライトノベルやネット投稿小説もよく読んでいた。
あるサイトで純文学を読んでいる癖にサイトで管理人をやっているだけで偉そうな恐くおっさんを見つけてぶん殴りたいと思ったこともあったが 虚しそうな人生しか待っていなさそうな顔の見え ない他人のことは水に流した。
読書の内容は濃くても読者のレベルまでは上がらない。
そんな読書が好きで、サンドバッグを殴る時にある文章や台詞を思い出して練習に励んでいる。
変わり者だなんて言わせない。
自分達と同世代がゲーム機やスマートフォンを 片手に目を悪くするのと読書で目を悪くする事に何の意味がある。
しかし、プロのファイターとして生きるか武道 家として生きるか小学生にして考える時期があったが、ある日を境にそれをやめた。
某日。
友が絡まれた。
しかも悪友に。
「血の繋がりが無い奴って簡単に言う事を聞くんだ。」
札束を数えながら雨の日に震える友の前で群れている奴ら。
昔なら無力な自分を嘆いただろう。
小学生とはいえもうすぐ中学生になるのだ。
それくらい悩む。
だが迷うこと無く轍は友の前へ駆けつけた。
「健之介?」
「早く逃げろ!こいつらは俺に任せてな!」
奴らは何も知らず轍に殴りかかる。
さらっと避けた後に轍は右ストレートをさっき札束を友から奪ったクソ野郎の顔面に叩き込む。
「がっ…」
罪もない友を虐めた報いだ。
周りの恐れている仲間も含めてやり過ぎなくらい報復した。
それしか救う手立てがなかったから。
*
ペルセウスの牡羊座?
なんで積んでるんだ?
読まないだろ?
輪名は彼に聞いた。
片付けられないのか取っておいているのか。
よく分からない場所だ。
同じオタクだから分かるけど。
すると棚から他の本から落ちそうで、恐る恐る対処していたら崩れてしまった。
ほれ、言わんこっちゃない。
するとある子が黙って本を拾ってくれた。
「ダメですよ。貴重な攻略本を落としちゃ。」
黒目が鋭く尖り、無表情の少年が本を拾う。
新人図書委員の轍君だ。
明らかに自分達オタク図書委員とは違う刺激のある彼。
問題はそこじゃない。
「な、なんで攻略本ってわかるの?」
輪名は少し警戒して彼に聞いた。
「昔このゲームをやった事があって。
まさか学校にあるとはね。絶版だって聞きましたが先輩は余程のオタクなのでしょう。」
話し方的にギーク系統とは分かり合えないかも しれないが自分達の資産価値は理解されている。
ペルセウスの牡牛座…まさかゲームでもそんな 名前があって攻略本だったとは。
図書室あるあるだ。
これプレミアになるのかな?と士に視線を向けて考えていた。
今は休憩時間なので、轍君と少しだけ話していた。
オタクに厳しいのかと思ったら自分達の知らない昔のアニメや格闘技の事を楽しそうに話してくれた。
少しだけ彼と図書委員としてではなく、同世代として話せて輪名と士は嬉しかった。
きっかけってあるものだなあ。
もっと大切にしようと思った。
すると、図書室に声が響いた。
「おいおい。まだてめえらオタクやってんのか?」
転校生、克明が現れた。
いつもここに来る奴じゃないのになんで自分達に声を荒らげるんだ?
輪名は恐れた。
国井克明。
二〇一五年にもなって今時、幅を利かせている奴。
一つ上の先輩にも媚びへつらう人で出来れば関わりたくなかった。
歳は輪名、士と同じ。
何故図書室に?
陰キャラが嫌いだと声を大にして言っていた癖に。
「轍健之介って奴いるか?」
すると轍が「俺に任せて下さい。」
と言って出てきた。
まさか、二人に何か関係があるのか?
「昔、俺の可愛い後輩が轍のお世話になってな。」
いつの間にか輪名と士が克明の仲間に捕まってしまった。
「轍。お前にとっては過去の出来事かも知れないが俺にとっては昨日のように思い出すんだ。」
すると克明の身体が吹っ飛んだ。
輪名と士は驚いた。
二歳差は大きいのだが轍が克明を圧倒した。
自分達を抑えていた仲間も驚いていた。
「酷い先輩だ。俺が始末しなきゃ…」
轍はひたすら克明達を殴った。
武道少年というより喧嘩を楽しんでいる。
止めなきゃ!
しかし、血が滴る克明を攻撃する轍は宛ら血に興奮するホオジロザメのようだった。
自分達の復讐とは違う、何か使命に駆られているようだった。
図書室が血みどろになった。
周りの生徒も怖がっている。
「それ以上は辞めろ。」
士がいつの間にか克明の仲間達の手を振り払って轍の手を止める。
「先生には相談するな。」
「け、けど俺達だけで解決出来る話じゃ…」
輪と士はたじろぐ。
「轍君。何があった?」
轍は震える拳を抑え、図書室全員に聞こえるように小学生時代の過去を話してくれた。
*
△図書室非日常エレジー
保護者や教師から質問攻めにあい、轍が図書委員から外されかけたが女子図書委員が事情を理解したのか掛け合ってくれた。
克明達がけしかけたことだとある生徒がこれまでのやり取りを隠し撮りしていた事が発覚して、彼らは特別処置で欠席中だ。
━━━図書室にて
轍は先輩女子図書委員の腕の中で泣き崩れていた。
元武道少年とはいえこういう所は可愛く、そして羨ましかった。
「士君ありがとう。相変わらず反応がいいね。」
女子図書委員が褒めたが士は何も言わずに話を続けた。
「俺達も人間だ。
克明が前にした事、今回した事は許されない。
轍。君もだ。
だが、リスクを背負って俺達とこの場所を守ろうとしたその気持ちをこれからも信じる。」
轍も手を挙げたので呼び出しを食らった。
その事については先輩である自分達はちゃんと轍も良くなかったと反省してもらった。
「こんな頼もしい図書委員が欠けたら、俺達も簡単には卒業出来ないからな。」
そういうと轍が嬉しそうに士へ駆け寄る。
「俺…俺も図書委員だと認めてもらっている?」
一同は
「当然!」
と声を揃えた。
そしてこれからが不安になった。
だが轍健之介は大事な図書委員。
大切な仲間だ。
取り敢えず今回はなんとか綺麗に済んだが、インターネットにこの様子がアップロードされたのでそれからの攻撃に自分達が先輩として仲間として彼を守ることにした。
殴る者もまた次に殴られる者。
だからこそ武力を使わないオタクであり、先輩である自分達が後輩を守るのだ。
輪名達の図書委員生活は続いていく。