誰しもが抱えている/SAB:僕は友として応援する
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かつて別投稿サイトで掲載していたものをnoteにて再掲載致します。
時代によって許された表現がありましたが可能な限り再現しております。
二〇〇六年春。
僕達はゆとり世代と蔑まされて生きていた。
食事にも困らないし、ちゃんと勉強をしていればいい暮らしをしていける。
テレビで見ている芸能人のような破天荒な生活から遠い国の話に憧れる事もないからゲームをして、部活に入り、女の子のことを考えて生きていく。
けど、フィクションみたいな現実とは離れることは出来ないのだ。
「おい!なんで翺を殴った!」
僕達の時代で「不良」という存在が誰かを苛め、それを咎める人がいる。
しかも強いのだ!
「大丈夫か?」
翺と呼ばれた子が傷一つない勝者から手を差し伸べられて掴む。
「和羽は何もなかったか?」
僕の名前を呼ぶ勝者…こと沼蘭麻弥が気にかけてくれる。
「いつもの事だ。俺たちより自分がいいんだよ。」
翺はよく僕の事を理解している。
自分の世界より大事な物なんて無い。
そこでは虐待もないし差別もない。
ただし自分は勉強しているだけ。
目の前に何が起こっていても・・・。
「和羽は怖くて手が震えてたからああなるのは普通だ。
翺も和羽を責めるな。」
「強いよなあ麻弥は。改めてさっきはありがとう。」
自分を他所に友情が生まれているがそれでも僕は友達のようだ。
中学生になって緊張だらけだし、塾で講師に勉強について脅されて辛かったとはとても言えなかった。
けど麻弥は多くは語らないけど僕や翺を守ってくれる。
翺は僕に皮肉を言うけど多くは求めない。
小学生の頃からそうだった。
しかし僕は先程のやり取りを見て何処か孤独を覚えていた。
かっこよく友達を救える強さを持つ麻弥に、助けてもらえる関係を培っている翺。
そういうのって友達なら当たり前なのか?
という疑問を。
強さの証拠
麻弥から珍しく招集があった。
僕は一人っ子だから携帯電話を買ってもらっていたけれど麻弥はお兄さんから携帯電話を借りないと連絡が出来ないし、中学生になってから春以来誘われた事はなかったからだ。
「よっ和羽。」
いつの間にか麻弥の身体は逞しくなっていた。
小学六年時点で水泳のフォームは完璧、英語も話せて部活の助っ人までお手の物だったけど更に 努力が報われたみたいで凄い。
もやしっ子なんてからかわれる僕とはかけ離れていた。
「中学生になってから僕を誘うなんて珍しいね。」
妄想癖と言われる僕とは疎遠になるのでは無いかと内心心配していたが、現実はそこまで残酷では無かったようだ。
「あのさ、翺に頼まれていたゲームの攻略サイトのURLをド忘れしたから和羽は知らないかな?と思って。」
ゲーム?
偏見とはいえ麻弥からそんな言葉が出るなんて驚いていた。
「なんのゲーム?」
ゲーム名を小っ恥ずかしそうに話そうとしている。
あれ?もしかして?
「誰かに聞かれたら不味い内容?」
決して犯罪とかそういう類の情報じゃないのは察した。
しかし、思春期を迎えた中学生にとって馴染みやすくなり始めたインターネットは個人の趣味の楽園。
だから僕は彼の面子を保つ為に小学生時に卒業をした秘密基地へと紹介する。
昔の秘密基地じゃない。
新しい秘密基地に。
僕達は木に登り、秘密基地へと駆け上がる。
田舎でも都会でもない場所だから、妄想をするのにも気を遣うのでいざと言う時の為に隠れ家を用意していた。
「和羽ってさ、自分の世界を現実で再現出来る能力があるのか?」
この為に木登りを練習していたなんて言えないけど、少し彼に自慢したくなった。
「才能だよ。」
「ウゼー。」
麻弥と暫く話しをしていたらゲームは非常にメジャーなタイトルだった。
てっきり卑猥なゲームだと思っていた自分が恥ずかしくなった。
「そうそうこのサイトだよ。インターネットって奴はまだよく分からないけどここの管理人が分かりやすいって翺が言っててさ。」
すっかり小麦色に焼け、半袖から見える筋肉質な二の腕からは信じられないくらい少年という感想が麻弥の口から発せられる。
「なんで恥ずかしそうにしてたの?」
素直すぎると自分で言ってみて反省したが、もしかしたら翺を助けた彼に嫉妬していたのかもしれない。
麻弥は全く気にすること無く理由を説明する。
「昔はゲームをやってても楽しめたけど、中学生になってからダサいとか言われてる子がいて翺とかとしかそういう話出来なくてさ。
和羽ならそんな意見我関せずで没頭しているだろう?あ、悪い。
ただ携帯電話持っててそんな内容話せる相手が翺以外だったら和羽しかいないからさ。」
そういう事か。
麻弥も新生活に苦労しているのだ。
冷静に考えれば翺が喧嘩に巻き込まれるような事が起こるわけだからナーバスになるのが普通か。
「ごめん。自分のことばかり考えてて。」
麻弥は力こぶを作って笑ってくれた。
「ま、筋肉の事しか考えてなくて和羽の事を蔑ろにしていた俺にも責任はあるさ。」
「翺にはメール送っておいたよ。」
攻略本を買う程のゲームじゃなくてもこうして情報が手に入るなんてね。
そしてこんなシチュエーションもあるとは。
僕達は秘密基地で景色を眺めていた。
箱詰めの教室で鬱屈し始める思春期。
制限も多くて小学生みたいには行かない。
翺はどう思っているのかな。
翺の心配をしている僕を他所に、いつの間にか半裸になった麻弥は寝転がる。
二人でだらけるには丁度いい広さの樹木だが、本当に探すのに苦労した。
一人で楽しむ事を前提としていたから今この瞬間は計算外だが。
「いやあ、窮屈になったよな。先輩とかそういう礼儀も急に芽生えてきて勉強も複雑になるし。」
「マジ?麻弥が?」
「あっはっはっは。俺達は友だけど、知らない事多いよな。」
「秘密も無いと辛いよ?」
「うん。」
子供だと何でも出来る人間は分かりやすい強さの証に見える。
この時、僕に見せた彼の弱みは墓場まで持っていく。
鍛えている人は自分に自信があってもなくても戦っている。
僕はすぐに自分の世界に逃げてしまうけれど、麻弥は現実と向き合っている。
「いやあ、初めて女の子とデートへ誘われて余計に悩んでいたけど和羽のお陰で恋に集中出来る!」
そうか、やっぱり話は秘密裏に進んでいたか!
もう嫉妬するのはやめて聞き流すふりをした。
恋は映画でしか観たことないけど。
僕達、もうそんな年齢なんだ。
自分も小学生では出来なかった木登りも習得したから身体鍛えてみようかな。
口に出せなかったけど麻弥は本当にカッコよくて自慢の友達だよ。
だから僕は麻弥を応援していくことにした。
翺は一人抱え込む
朝は目覚めが悪い。
姉がすぐに死にたがるから。
姉は朝が嫌いで、俺も嫌い。
姉は友達が少ない。
それなら学校なんて無くしてくれればいいのに。
一歩外に出て野次を飛ばされる感覚を知らない連中の為になんで俺までこんな事に。
フィクションにも逃げ場はなかった。
ハードなアクションに恋愛は付き物。
大抵は男女ばかり。
俺は好きだ。
でもそれだけじゃないって言えない。
春に俺は麻弥に助けられた。
素直に嬉しかったと同時に、こんなかっこいい存在がいたら俺なんてちっぽけ過ぎるだろ?
テレビでは狂ったようにヤンキーが跋扈していて、オタク的な趣味を否定する。
中学生の娯楽なんてあんたら権力者よりも少ないんだ!
だから姉は病んでしまった。
掛けられる言葉も、気休めにもならない。
結局『普通』から一度離れてしまった人間には世間の目は厳しい。
やめて欲しい。
こんな事で姉を嫌いたくない!
春に虐められたのはそれが理由だ。
麻弥に助けられたのに、素直に喜べない。
俺は最低な人間だ。
和羽は小学生の頃から頑固だった。
素直で口数が少ない。
容姿とかも気にしない。
前まで眼鏡っ子だったのにある日突然コンタクトにした。
「何カッコつけてるんだろう?不細工の癖に。」
女子にそう笑われながらも読書を続ける。
内心では気にしているはずだ。
和羽は俺と同じ、いやそれ以上に根が暗い。
「そんなんじゃモテねえぞ!」
と指摘した俺が今じゃ立場は低い。
なぜなら…
「どうせなら一人で悪口言って、一人で笑ってくれないか?中学生のお洒落と社会人のお洒落は違う事くらい気付かないって顔に書いてある。」
当然その後は女子から罵倒の嵐。
しかし和羽は黙って図書館に向かっていった。
自分の世界あり過ぎだろ?
小学生の頃からああだったけどまさかここまでとは。
ここまで来ると俺は笑いを堪えきれなかった。
だから中学生になってから友達が少ない事は知っている。
けど、何でだろう?
和羽に遠い壁を感じたのは。
━━━小学生時代
初めて和羽と喋ったのは小学二年生。
まだ姉も病んでなくて、心に余裕があった時だった。
和羽は特別学級に顔を出しに行っていた。
当時の俺は笑っていたと思う。
差別をしていたんだよ俺も。
和羽は頭が良かったのか、俺達と過ごすことに辟易していたのかもしれない。
たまたまその時の友達と喧嘩して、特別学級の教室を通った時だった。
俺は和羽にぶつかった。
「ててっ。」
「悪い突っ立ってて。」
和羽から謝られたっけ。
バツが悪くなった俺は早々に立ち去ろうとした。
けど、友達とのやり取りで傷ついた俺は和羽につい酷い言葉を浴びせてしまった。
「なんで普通の生活から逃げるんだよ!」
すると和羽は俺に話してくれた。
「そういう所が蔓延しやすいんだよ。学校ってのは。」
「だからなんで?」
「君は友達にいちいち何か求めてるの?」
その時俺に電流が走った。
俺は思っていた程、自分も他人も愛していないんだと。
和羽は俺に手を貸した。
「ぼ、僕も悪かったよ。僕もきっとそうやって自分を強く見せていたのかもしれない。だからさ、一緒に遊ばない?」
それからかな。
いつの間にか麻弥みたいな超人とも仲良くなってるけど。
でも絆というのは簡単に移ろいでいく。
━現在
みんなが羨ましい。
恋人、友達、家族。
成績が良くても悪くても誰かは親しくしてくれる。
俺は空っぽだ。
誰かに言いたい辛さを隠していかなければいけない。
隠していても虐められる。
そうなる度に和羽、麻弥と距離を作ってしまう。
新しい友達はちゃんと居るけどそれはクラスの中だけ。
塾や部活で忙しい新しい友達に打ち明けられることなんてない。
このままいい高校入って、いい大学に入って、就職して誰かと一緒になって幸せになる。
確かにシンプルで明るいし、敷居も低いのかもしれない。
けれどメディアで報道される内容はシンデレラそのものだった。
「年収千万で(かっこいい顔の俳優)似の若くて、将来性のある男性と結ばれました。」
訳が分からなかった。
家の両親はそうじゃない。
クラスの女子に大事な友達が馬鹿にされて、仮に結ばれたとしよう。
それで罪は無くなるのか?
確かに物語としては面白いかもしれない。
なら姉は?
姉は誰も愛していない。
そして余波がいつも俺にやってくる。
俺は…
「よおヤンデレブラザー!」
またか。
「この前は邪魔が入ったが、今度こそ悪い芽は摘つませてもらう。」
それから俺は何発か殴られた。
周りは誰も見て見ぬふり。
誰も助けてなんてくれない。
なぜなら順調じゃないからだ!
だから、裁かれて当然…
痛い、痛いよ。
ヒーローがいないことは分かってるから…
誰か!
「ちょっと待った!」
ついに白昼夢を見ることになったか。
俺は死を覚悟した。
「なんだあ?眼鏡野郎!」
め、眼鏡?
この絶妙に美化されていない現実はなんだ?
「その子を放して。」
「おいおい。フィクションの影響受けてるよこのオタク君は!」
ぼやけた視界に見えた人物。
それは、和羽だ!
ある時間
僕は久しぶりに翺にメールを送った。
返事がない。
こういう連絡はマメにするのが翺の癖だった。
麻弥は携帯電話をレンタルしているから分からなかったみたいだけど。
ゲームの攻略サイトか。
クラス一緒なのに遠回しだよなあ。
昔っから辛気臭い翺も、僕や麻弥といると明るくなっていた。
僕は人付き合いが苦手だったから驚いている。
特別学級の方で遊んでいた友達とは段々疎遠になって悲しい思いをした。
僕は元々普通学級ではあるものの、人の痛みの分かる友達がみんな特別学級にいたからか、居心地が良かった。
『特別』なんて残酷な名前に見惚れたのかも知れない。
いや、嫌悪している。
昔、翺は気付いていないのか涙に濡れながら僕にぶつかっていた。
そこで僕は、人との間に…いやどんな物事にも 『普通』は無いことを知った。
学べる事なんてそう多くない。
だから僕は翺と仲良くなりたかった。
それからあそこには訪れていなかったかもしれない。
けど、今の翺の死んだような姿から麻弥にあんな約束をしたのは…深読みし過ぎかもしれなかったが抱え込んでいる目だった。
僕は久しぶりにあの子達に聞いてみることにした。
━━ある場所にて
秘密基地の一つ。
でも僕だけの力で見つけた場所じゃない。
そこで待っていれば…そう信じて一人現れた。
「和羽…君?」
いつ以来だろう。
「まさかいるなんて。」
「信じてきた癖に。」
世祐君に倫子ちゃんだった。
「なんで今更?」
「春にさ、友達が虐められてね。」
「そんなの和羽がなんとかすればいいじゃないか。」
想像以上の冷たさに震えた。
やはり裏切ったように見えたんだ。
世祐が車椅子を動かしながら倫子ちゃ、彼女を止める。
「俺達ももう中学生だ。けど、和羽のように俺達も優しくない。」
分かってる。
もう戻れない事を覚悟した。
そして去ろうとしたら
「けど俺達も鬼じゃない。その襲われた子は君の友達だよね?」
やはり世祐君は鋭い。
彼は最初、両足を動かす事が出来た。
でも、過酷な練習で障害が残ってしまった。
その痛みを信じてくれたのは特別学級と言われる子達のみ。
そう僕に話してくれた。
「その子ならまた虐められていた。和羽、君はこれを聞いてどうする?」
そんなの。
助けるに決まってるじゃないか!
地理に詳しい倫子さんに具体的な場所を乱暴にメモで渡され、僕はその場へ向かった。
あの表情から僕にも居場所が無いことを自覚する。
だからこそ、自分も出来ることで助けたかった!
そして僕は現場へ辿り着いた。
けど、僕特有の言葉も虚しく一緒に殴られてしまった。
「へん。雑魚が揃っただけか。あの男も弱い友達と一緒で可哀想だな。」
ヒーローは…いない…
諦めていると一人倒れていた。
まさか?
翺がいつの間にか携帯電話で連絡していた。
ちゃんとしているなあ。
「またお前か?」
でも翺の反応を見るとただ連絡して来ていた訳ではなかった。
「倫子さ、ん?」
これには翺も僕も驚いていた。
鍛えている理由
沼蘭麻弥は鍛えている。
趣味が無かったのだ。
野球クラブで身についたコミュニケーション能力も自分を守るために鍛えた物。
しかし競うだけで楽しくはなかった。
麻弥は元々根明だ。
だからこそ一人になりたい時もある。
天対翺と知り合ったのは小学二年生の時。
自分のクラブの友達が彼と友達だった。
でも今ほど特別じゃない。
しかし、ある日翺が彼と喧嘩した。
理由を聞いたらゲームで勝ち続けていた翺を挑発したらしい。
不思議なことに『そんなことで』とは思わなかった。
けれど放っておけずに追いかけてみた。
すると特別学級の傍でボールを渡す少年が涙をうかべる翺を遊びに誘っていた。
「何?」
女の子が後ろからきつく声をかける。
「いや、友達が近くにいて。」
女の子は『そう』と言って立ち去ろうとした。
麻弥は彼女の凛とした姿に影を感じつつもどこか惹かれていた。
もし、翺と今話している彼なら彼女のことを知らないかなと。
そうして翺を通じて何時都和羽と親しくなった。
でもそれだけが縁じゃなかった。
あそこには世祐がいる。
一緒に夢をめざしていた友が。
ここに引っ越していたと知ったのは小学五年だった。
小学校卒業時。
和羽の個性的な世界観が好きで肝心な事を聞けなかった。
あの女の子の事を。
だから記憶を頼りに、そして世祐とも話すためにと決めていた。
その教室では世祐が他の友に勉強を教えていた。
「誰?」
このキツい言い方。
やはり。
「あ、あの…」
すると向こうから嬉しそうなリアクションがあった。
「あの時の筋肉少年?」
麻弥にはよく分からなかった。
すると世祐がやって来た。
「そうか。倫子の言っていた恋人って麻弥だったのか。」
和羽は不思議な人だ。
孤独と縁が無い。
自分だけじゃなかったのだと改めて思っていた。
しかし、中学生になり、春を過ぎてからこの大事な出来事を忘れていた。
二人から翺が再び虐められ、暫く相手にされなかったとはいえ冷たく和羽に当たってしまったことを後悔していた二人は麻弥にお願いをしていた。
そして友を守る為に不良をなぎ倒した。
―三人は
「ぐはっ!」
的確に急所を狙う麻弥。
「ま、前より強くなってやがる!」
麻弥は武器を持っていない事を証明する為、半裸になった。
「これ以上数がいないことは知っている。早く二人を返せ!」
不良は血を唾にして吐き捨てると言い放つ。
「強くなけりゃ生きていけないし、お前みたいなエリートはこんな落ちこぼれを相手にする必要はない。知ってるか?翺って奴の姉ちゃんはうつ病だと。
普通じゃないから排除して当然だろ!」
「違う!」
和羽が立ち上がった。
そして一人を羽交い締めにする。
「な、こんな力が残っているだと?」
不良は慌てふためく。
「僕達は成り上がりたくて勉強してる訳でも、蹴落としたくて生きているわけじゃない。少し、冷たいだけだ!」
そこに翺が続いた。
「不良なら分かるんじゃないかと思っていたけどそんなわけないか。」
ホコリを払って翺は主張する。
「勉強に追いつけないからって…人より何か欠けてるとか…だから成功しないと認められないとか、そういう希望の持ち方。だから笑われていいとか…うるせえよ!学校どころか誰にも教えられない答えを俺達は知ってるんだ!」
麻弥は静かに拳を鳴らす。
麻弥も家庭事情は複雑だから強くなった。
勝つ為じゃない。
守る為に。
そこは黙ったままにしていた。
不良達は『もう二度と関わらねえ!』
と言って去っていった。
倫子は麻弥の姿に惚れて無言のまま妄想している。
翺、麻弥、そして和羽は久しぶりに向かい合った。
「麻弥…ありがとう。」
二人からのお礼を満面の笑みで受け取った。
二十年後・・・
いい歳してまた暴言。
もう誰も味方がいない。
これから先の見えない光に絶望している人がいる。
どんなに笑ってもどうにも出来ない。
何処かの誰かである自分は近くのベンチで溜息をつき笑われている。
その時に思い出した。
今をときめくアスリートの言葉でも、炎上商法による自己啓発でも、ましてやSNSでも無い。
一人の男が昔、自分に語ってくれた過去の事を。
現実は変わらなくても、自分の認識が変わっていった。
今も何処かで戦っている一人を。
終