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【怪談】学生時代に百物語の真似事をした時の話

先日、とあるところで話す機会があったため、久しぶりに思い出した話です。

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夏の終わりの頃だったと思いますが、私が部活のOBとして高校の演劇部の練習に参加した日の出来事です。
練習が終わり、学生ノリの軽い談話をしていた時、誰かが"百物語をしよう"と言いました。
もう帰宅してもいい時間でしたが、夏の日の沈むまでの間が長いのと、そこが学校のすみにある生物室で目立たないのをいいことに、そのまま男女十人ほどで百物語をすることになりました。

生物標本の陳列棚ちんれつだなと厚い壁のような重い遮光しゃこうカーテンが丁度よく、非日常的な空間を演出してくれていました。



百物語といっても、学生のその場の思いつきで始めたものです。
単に、怖い話を一人ずつ話していくだけの内容でした。
"○○の心霊スポットに行った時に、、、。"とか、"実は少し霊感があって、、、。"という話から、"前から変質者が歩いてきて、、。"といった怖いは怖いが怪談と呼べるか怪しい話までありました。


そこそこ怖い話もあったものの、既に私が知っている話も混じっていて、正直なところ少し退屈を感じ始めていた私は、その会に"とある細工"を仕掛けることにしました。
怪談話が続く中、ふと教室を見渡した私は、エアコンの風で少しカーテンが揺れているのに気づきました。
怪談といえば時折り、霊障れいしょうによって物が動く描写があるものですが、誰しもがどこかで、そのようなことを見聞きしたことと思います。


私は一つ思い立ち、まるでそのカーテンが不可思議な力によって揺らされているものだというように、何も言わずにただじっと見つめてみることにしました。
そうすることで私の視線を見た誰かが、そのカーテンの揺れに気づき、勝手に嫌な想像をしてくれたら面白いという、私の悪い遊びです。


程なくして、ある変化が起きます。
感覚的な話でお伝えしづらいのですが、その場の空気が先ほどより、ずっと重く感じられるようになってきていました。
これまでの私の話し方で皆さんお察しのことと思いますが、私は霊などの存在をそこまで強く信じる人間ではありません。
それでも、そんな私でも気づくほどに、その空間は重苦しい雰囲気が漂うようになっていました。


何人かの顔色が悪いようにも見えます。
その時の話し手の話運びも、言いよどむなどして、乱れるようになっておりました。
どうやら私だけでなく、その場にいる全員が、それ以前と何かが違うことを感じていた様子でした。
ですが、百物語は続きました。


異変を感じつつも、具体的に何かが起こったわけでもありませんので、私の方も何もないカーテンの方をたまにチラリと見ては、"本当は何かに気づいているけれど、それを隠して何も気づいていないフリをしている"風を装い続けました。
そのうちに、遠くの蛍光灯だけがやけに明るい生物室は、更なる緊張感がおおうようになりました。


やがて太陽も半ばかげった頃、ついにその場の張り詰めた空気感に耐えきれず、数名の女の子が体調不良を訴え始めました。
訴えたことによりせきを切ったのか、みるみるうちに彼女らの体調は悪化していきます。
そして、そのうちの二人は過呼吸を起こし、その場で横にならざるを得ない程になりました。
皆で二人を介抱して、落ち着くのを待ってから、これ以上百物語を続けるのは危険だろうということで、その会をお開きにしました。


おそらくその後は皆、"何か悪いものに触れてしまった"、"余計なことをしてしまった"という思いを、暗黙のうちに噛み締めながら帰り支度をしていたことと思います。
私もその時、"もしかしたら、私の過度の悪戯いたずらが集団催眠というものを引き起こしてしまったのかもしれない。もしそうなら、悪いことをしてしまった。謝らなければいけない"などと考えていました。
そのようなことを考えながら部屋を閉める準備をしていた時、一人の後輩が私の元へ静かに近寄ってきては言いました。
"先輩にも見えていたんですか?"


そう言ったその子は、先ほど霊感を持っていると話していた後輩でした。
話す内容が周りの皆に聞こえないよう、私と彼女は生物準備室に移動すると、この出来事について話しました。
聞くと彼女は、私が見つめていたあのカーテンのところに、女性の後ろ髪の影を見たそうです。
そして彼女と同じように私がそのカーテンを見ていたために、話し掛けたのだと言います。
当然私は、悪戯心いたずらごころでカーテンを見ていただけなので、おかしな何かを見た訳ではありません。
ですがそう話しても、彼女は信じませんでした。


体調を悪くしている仲間がいる中、内容も打ち明けられないものですし、その後もその生物室は練習に使いますから、私達は他の当事者には何も話さないことにして準備室を出ました。
不思議と、私達が準備室で話していた話を聞こうとする者も現れませんでした。


翌日以降も同じ生物室を使っていましたが、以来、あのような奇妙な出来事は起こりませんでした。
当時、皆がその話には触れないようにしていましたし、準備室での決め事もありましたので、ついには私もその出来事について、同じ仲間内で話すことをしませんでした。

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時が経って先日、とある場で怪談を話す機会があったため、忘れていたこの話を久しぶりに思い出して、そちらでお話ししました。
そして今このように、私の記憶を自身で確かめる意味もあって、この不思議な出来事を書き留めてみているのですが、これをお読みの皆さんは、この話についてどのように思われますか?
やはりあの場での出来事は、私の悪い思いつきが引き起こした、集団催眠じみたものだったのでしょうか?
もしそうなら、霊感があるという彼女が見た、後ろ髪の影とは何だったのでしょう。


実を言うと私は、今ではその彼女が見たというものも、その場の雰囲気が見せた単なる気のせいだと思っています。
人というものは意外なほど、何かしらのフィルターを通して世の中を見るものです。
あれほどの大事になりこそしましたが、あれら全ては "人の持つ、見たいものを見るという性質が引き起こした、単なる思い過ごし" の一言で、説明がつく事なのかもしれません。


そう思う一方で、ただ一点だけに落ちない点が残っています。
そのため皆さんにお聞きしたいのですが、一般的に生物室にあるような遮光しゃこうカーテンは、ゆるいエアコンの風でも揺れるような重さの物でしょうか?





写真提供: ぱくたそ
夕暮れの学校校舎のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20110726186post-337.html

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