【#2】使途不明金
うちの会社は使途不明金がちょくちょくあるようなのです。僕が知っているだけでも、数百万円が1件、百数十万円が1件、その他にも会社の備品などが消えることも多々あります。
その中でも金額が大きかった数百万円の事件について記してみます。事件と言っても、内々に処理されたので表に出ることもなく、闇から闇へと葬り去られました。
この事件の主人公はS取締役です。どうしてSにしたかというと、うちの会社には本社以外に、小さな工場だけが建っている支所があります。環境の問題で街には作れなかったので、車で三時間ほど離れた山間部にひっそりと佇んでいます。
S取締役はかつてその支所に配属されていました。もともといた部署では同じ年代が2人いたため、部長にはなれませんでした。しかし、当時はどうしても必要な資格を持っていたため、会社としては残しておきたい人材でした。現在は法律が改正されて、必ずしもいなくてもいいのですが、当時は必須だったのでなんとかして残しておくため、次長から役員になる時に、その支所に出向するなら役員になれるというような取り交わしが合ったとか無かったとか言われています。そこには興味がなかったので、あまり情報を持っていません。
そして、支所に配属されて役員になってからは、その支所の女子社員だけを連れて飲みに行くことが多かったのです。忘年会も新年会も「僕が全部おごってあげるよ〜」と言いながら女子社員だけを連れて飲みに行っていました。たまに本社に立ち寄っても、知り合いの女子社員だけ誘って飲みに行っていました。
そんな人が人望を得られるわけもなく、支所では「すけべ親父」と揶揄されていました。トラブルが続出しても解決できず。ただ、いるだけ。お金はあるので、おごってあげるというのを口実に女子社員を飲みに連れていく。そして、現在は当時のことを知っている人がいない本社に戻ってきています。僕は、たまたま当時支所にいた歳の近い社員と仲が良くて、1年に1回くらい訪問する機会があると飲みに行っていたので、色々裏情報を聞くことができたという具合です。その「すけべ親父」というニックネームからS取締役としました。
さて、本題の話に戻ると、支所では工場の建屋が更新もされずに、古いものを修理修理でボロボロになっていました。しかし、ある一定の衛生管理を行わないといけないモノを作っていたので、これ以上は難しいという話になりました。そして、新しい工場を建てることになりました。
敷地の中には小さな町工場くらいの建物が4〜5軒建っていましたが、空いた土地に10億円はかからないくらい、だいたい7〜8億円かけて工場を建てる計画で、設計から施工、完成まで数年かけて建てていました。
その時に指揮をっていたのが、当時の支所の部長でした。S取締役は何もできないので、部長が業者とのやりとりなどを全てこなしていました。この部長は、他の会社から転職してきて、もうすでに結構な年配の人でした。そのため、人脈などもそれなりにあり、誰も中身を把握できていない出張を繰り返していましたが、そちらは今回の話とは少し違います。
その工場が建って、無事に稼働し始めました。特に問題もなく動きました。そして、少し月日が経って、支払いの監査が入るために、S取締役を始めとして支所の事務の人たちで会計資料を確認していたところ・・・そもそも相見積もりがないのです。しかも、7〜8億もするような工事の発注なのに、中身の明細がないのです。本来なら、施工計画書というのがあって、見積書には〇〇の基礎工事に2000万円、▲▲の水道工事に300万円、排水パイプを施工するのに90万円、鉄骨の工事に1億3000万円というように、それなりに明細が出る物ですが、それがありませんでした。もちろん請負契約で、工場は完成していたし、中身も問題はなかったのですが、何にいくら使ったのかが分からなかったのです。
そして、その工場建設指揮をして、業者とやりとりをしていた部長は既に自己都合で、定年まで1年を残して辞めていました。転職組なので、勤続年数は10年に満たず、たいした退職金はもらえません。しかし、工場の建築内容と実際に支払ったお金を照らし合わせると、不明金が数百万円出てきました。噂では3千万円くらいだったという話もあったのですが、尾鰭がついたのだと考えています。最初に聞いた話としては1千万前後、数百万円ということでした。その疑惑を生んだ2つの理由が、支払いが終わってすぐに辞めたとういことと、未だに連絡がつかないということです。
ただし、連絡がつかないというところは若干眉唾ではあります。というのも、S取締役が責任を問われるのを恐れて、全ての関係書類を破棄して、最終的な支払いの書類しか残していないこと。これら全ての事情については、緘口令を敷いて、支所の人たちは完全に口止めされたこと。この2点から、連絡が取れないのではなくて、あえて連絡していないのだと考えています。僕の友人も、本社の勤務に変わってしまい、これ以上の深掘りはできない状態になってしまいました。とても残念です。友人は特にキツく口止めされたので、嬉々として教えてくれました。
使途不明金として、完全な謎の出費が見つかった訳ではないのですし、日大の事件のような数億円という規模もないのですが、以上のような誰も説明できない、辞めた部長だけが知っている怪しげな出費があって、全く管理できていなかったS取締役が全てを闇に葬ったという話です。部長の一人勝ちです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?