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「『チョコレート粉砕工場』すら聴けなくなった夜に」♯シロクマ文芸部
「チョコレート粉砕工場」という曲を流す。ゴンチチの名曲である。かつてこの曲をリピート再生しながら「それから」を執筆中の夏目漱石の話を書いたことがある。酔っ払った森鴎外が乱入してきてめちゃくちゃになる内容だった。
しかしゴンチチの心地よいはずのギターの音が耳に痛い。というよりイヤホンが枕にめりこんでしまって物理的にも痛い。病室のベッドで横になりながらこれを書いている。イヤホンは外すことにした。大部屋なのでイヤホンなしで音楽は流せない。音楽の絶えた耳の奥では耳鳴りが続いている。
先日、鎮痛剤「ロキソニン」でも耐えられない頭痛に襲われ、脳神経外科医を受診した結果、くも膜下出血により緊急入院となった。そのあたりは「入院記録」に記しています。
結果として「脳脊髄液減少症」という病気だったわけだが、その症状の一つとして耳鳴りもあるようだ。MRI検査での轟音を浴びすぎた影響もあるかもしれない。
入院生活の友として妻に持ってきてもらったイヤホンだが、あれほど好きだった音楽も、長く聴き続けられなくなった。家では家事や執筆の最中に音楽を聴いていた。入院中は家事はできない。現在は極力寝た姿勢で安静にしている状況なので、スマホを傾けてBluetoothキーボードで執筆は可能なのだが、そこにイヤホンが絡むと痛いし、耳鳴りの影響か音楽を受け付けなくなってしまっている。
メタリカも人間椅子もだめならゴンチチだ、と思って聴き始めたものの、結局イヤホンを外してしまった。
前述の漱石と鴎外の話では、鴎外から逃げ出した漱石は泳いで海を渡ってイギリス人となり「チャーリーとチョコレート工場」を書くことになる。もちろんフィクションである。
「脳脊髄液減少症」について調べると、一ヶ月でほぼ完治したという人もいれば、十年以上苦しみ続けている方もいる。私はどうなるのか、治っても仕事に復帰できるのか、未知数である。
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幼稚園年長の息子の生活発表会を見に来た。家でも散々ドラゴンボールごっこをしていたおかげで、立派な劇を演じてくれそうだ。昨年は仲良しの女の子に終始引っ張られるような演技だったが、あれから一年経ち、随分身体も大きくなった。2月7日に入院し、2週間安静と言われた時には、2月14日開催のこの生活発表会に間に合うように退院できるなんて思っていなかった。奇跡的に脳脊髄液は快復し、頭痛も耳鳴りもなく過ごせている。
バレンタインデー開催に合わせて、折り紙で作られた様々なチョコレートが飾り付けられている。
さあ、劇が始まる。
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病院内は結構騒がしい。同室の患者さんの痰を吐く音、くしゃみと同時に痛みに苦しむ声、同病棟にいる長期入院患者らしき人が看護師に難癖をつけている声も聞こえてくる。入院当初はティッシュを丸めて耳栓にしてずっと耳を塞いでいたが、MRI検査で30分間音の拷問に晒された後では、日常の音が恋しくなって外している。同部屋の顔ぶれは既に何人も変わっている。
入院日が2月7日。安静にしなければいけない2週間はつまり14日間。最短でも退院日は2月21日。生活発表会は2月14日。
神様でも森鴎外でも何でもいいから、今月だけ、7+14=13ってことにしてくれませんかね。
(了)
入院中でもシロクマ文芸部。「チョコレート」に参加しました。
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