Re Act 翡翠の瞳6
戦闘後すぐにはあまり相対したくないので、数日待ってもらうことにした。
というのも、彼は片方しか目が見えていない。
もう片方が違う色であった場合、対策が必要な相手である。
退魔師なら大体が持っているが、言霊操作系吸血鬼に対抗するものとして
特殊なゴーグルが存在する。
それを付けていれば、完全に遮断はできないものの
相手の命令をいくらか緩和させ、抗うことができる。
退魔師にとって、言霊操作系に掌握されるのは死と同義である。
死ねと命令されれば、どれほど嫌だと思っていても自ら死ぬ。
それだけの支配力を持つのが、この系統の吸血鬼なのだ。
まあ、目の前の吸血鬼がそれをするかというと微妙なところだけれど。
「食事が美味しいだと……!!」
シュンのところの食事といえば、野宿よりも不味い。
そういう意識だったのに、と顔にも出ているし声にも出ている。
……まあ、否定はしない。美味しくはない。
僕らでいうなら、保存食ほどの味の無さだった。
全くないわけではない。それでは人類は食事自体できなくなる。
ただ、万人向けにするが故に、味が極めて抑えられ殺されているので
結果的に美味しくないのだ。
シュンが万人ウケを狙う性格じゃないのは分かっているので、
単に料理に興味がないのだろう。
「これ、きみが作ったの!?すごいね!?」
「ありがとうございます。一応一人暮らしの身だったので」
「磨かれたのかー。すごいなあ。いいなあー」
僕も料理は苦手なんだよね~、と、嘆く様。
まあ確かに、今はここに居候しているけれども、どこかに定住するタイプではない。
ふらふらと旅をしていて、たまにここへ寄って羽休め。そんなところだろう。
その羽休め先が料理が美味しくないのだから、まあ……お察しである。
机に横になり、僕の旅についてきてよーと勧誘される。
まあ旅は嫌いではないけれども……、一先ずシュンの件が先だ。
有耶無耶にしておくと、彼は僕の左手に目をつけた。
たまに採血される部分である。
「シュンに血液をあげてるってのは本当なんだね」
「まあ。それが元々の役割なので」
「僕にもちょうだい」
「嫌です」
採血とはいうが、実際のところはかなりの量を抜く。
一般人女性でも数日寝込むことがあるそうなので、
鍛えているとはいえ僕だって体に負担がかかる。
昨日今日の話だったのに、もう一度抜かれたくはない。
僕も等級5の血液にありついてみたい……とメソメソされたが、
シュンにとって等級5なのであって、
シンにとってもそうであるとは限らない。
会えるといいですねと淡々と返すと、冷たいところは似てるねと落ち込まれた。
「これなら、分かり合えそうなものなんだけどな……」
「? この間から、僕に何を期待しているんですか」
「んー。ここじゃ話せないかな。
前に言ったところ、来てくれると嬉しいんだけど」
血液を抜かれた後だから、戦闘になったときに不利な場所へは行きたくないのだが。
僕を貶めるというよりは、お願いを早く聞いてほしそうな瞳を向けられて
渋々、折れることにした。
いつがいいですかと聞くと、シュンが居ない時がいいかなと。
……仮にも退魔師の僕に。シュンが聞いたら止めそうな話をしていいものなのか。
疑問は残るけれども、まあ問うても仕方がない。
シュンは午後から出掛けますよと伝えると、
じゃあお昼にしようと返された。