Re Act 翡翠の瞳1

深い緑に囲まれた、自然深い奥地へ来ていた。
日差しは高く昼頃を示すが、暑さはない。
気候の頃合いがよい、そんな時期だった。
退魔師ギルドに、要請が来たのは。

人間の脅威である吸血鬼が治めている土地に、潜入して欲しいとのこと。
もちろん、脅威であるのは知性の低い六割ほどの吸血鬼だが
人間から見れば割合が多いのは十分に危険である。
その粗野な知性の低い吸血鬼でないのかどうかを、見てきて欲しいと。

それだけなら別に僕が出ていく必要はないのだけれど、
昨今は知性の高い吸血鬼が最終的に害悪をもたらすこともあるという。
人間にとってもそうだし、普通に生活したいだけの吸血鬼にも迷惑だろう。

(まあ、粗野な連中は自分が最高位の存在だと思ってますからねえ……)

人間と吸血鬼は、並べてみると単純な基礎値でも人間が劣る。
吸血鬼は魔術を行使でき、知能が低くても軽度の動植物使役ができる。
対して人間は魔術も使役能力もなく、独自で開発した符術や呪弾銃
もしくは太古からの武術や剣術程度しか対抗手段がない。

あちらから見れば、ただの餌。といったところか。
さて、僕が会いに行く吸血鬼は低能でないことを祈るけれど。

(えーっと。
 領地を治める代わりに、定期的に血液を運搬させている……)

資料を見る。名前はシュン。男性のようだ。
吸血鬼なので血液はどこかで要求してくるのだろうが、資料を見るに運搬である。
普通なら噛むので、文字だけを見ると供物か何かのように思えるが
注釈のところに、硝子瓶か何かに入れて、と書いてある。

噛むのも嫌なのだろうか。ほかの理由だろうか。

まあ、吸血鬼がこんな情勢なので、大体の人間は吸血鬼を見るとまず恐れる。
それにとどまればいいが、まあ人間も愚かなもので、
どうせいつかはたてつくのだから殺してしまえばいいんだとかいう
まだ起きていない冤罪で吸血鬼を殺してしまうことも、
少なくはないを通り越して日常茶飯事である。

そんな生物、下等だと思っていなくても、まあ食みたくはないな。僕なら。
目的地に着いたので、コンコンとドアノッカーを使って扉を叩く。
来るのが分かっていたのかそんなに間を置かず扉は勝手に開き、
扉からかなり距離のある階段のところに件の吸血鬼は居た。

「ニンゲンが何の用だ?」

商人のような愛想笑い。
これは、取り繕うのも無駄のような気がする。

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