見出し画像

木漏れ日を手渡した日

2025年2月11日、福島古本市『コモレビ』を行った。

1日のことを事細かに振り返りたいわけじゃないし、例えばオリジナルZINE『木漏れ日を手渡す』の解説をしたいわけでもない。

じゃあ、いったい自分はこの文章に、何を書きたいのだろう。
とりあえず、思うままに書いてみようと思う。


もう、いろんなところで書いたけれど、今回一緒にイベントを行ったツツミシンジとは、高校2年生の時に出会った。
専門学校が行う、高校生アーティストの大会でRe:nameは審査員特別賞、シンジは優勝をした。
Re:nameを結成して3度目くらいのライブで、ライブ中Somaがギターの弦を切ってしまって、ステージを出た後に光の速さで土下座された。
ライブはぐちゃぐちゃだったけど、とにかく曲がいい、ということで審査員特別賞を貰った記憶がある。
Re:nameにとって、最初にもらった賞だった。

シンジとは、その大会をきっかけに仲良くなった。
二人でもたくさん遊んだし、anicaの勝部や、今はアパレルをやっている松尾、という友達と4人でもたくさん遊んだ。

シンジとは、嫉妬の量がとても似ているな、と思った。
だから一緒にいて、いつも心地よかった。
知り合いの中で、特にバンド界だと顕著なのかもしれないけれど、嫉妬しすぎない人と、嫉妬しすぎな人がいる。
どちらも同ジャンルの人と思えなくて、そういう人の話を聞くのは面白いけれど、どうしても一歩仲良くなりきれない自分もいた。

数年前にシンジがアーティストを辞めて、芸人になる、と上京した。
大阪から友達が一人いなくなったみたいで、少し寂しかった。
とはいいつつも、その後自分が東京近くに行くたびに何度か会っては話をしたり、飲んだりした。
よく二人で、なんというか童貞感のある話をたくさんしては、笑ったりしていたから、横浜で遊んだり、新宿で飲んだり、その度にこそばゆくて、面白かった。


小春さんとは、大学の時にRe:nameとFiSHBORNの対バンで出会った。
確かESAKA MUSEのヤマコレというイベントだったと思う。
自分の記憶が正しければ、その時はそんなに仲良くはならなくて、その数年後Lukie Wavesという事務所から全国流通版を出すタイミングでレーベルメイトとして再会した。

自分は音楽を聴く時、どうしても歌詞に注目して聴いてしまうから、FiSHBORNが新曲を出すたびに、前田小春の書く歌詞に毎回驚かされていた。
凄く文学的な表現なのに、遠くなくて、真っ直ぐに届けてくれる。
歌詞を読むたびに「この人凄い、、、」という気持ちになって、それからは打ち上げの度に「小春さんはどういう本を読んで、この歌詞を書けてるんですか?どういうことを意識して歌詞を書いてますか?」と、インタビュアーの如く、質問を投げかけるようになっていた。

そうして、段々と仲良くなった。
バンドが解散してからも、小春さんの書く短歌や文章は凄いなあ、と何度も思って、会うたびにバンドの時と同じ熱量で「本当に文章力や書く言葉を尊敬してます」と何度も言っていた。

そんな二人と、特別な日を作った。
小春さんに歌詞の質問をずっとしていたのも、シンジと夜が更けるまで飲んだのも、大阪の福島だった。
だから、福島古本市『コモレビ』だ。


今回、『コモレビ』をやるにあたって、シンジと小春さんはもちろんのこと、全イラストデザインを請け負ってくれたJINという後輩がいる。(普段はJINと呼んでいないけど、ここではJINと表記させてもらう)

JINは中学の後輩で、中学の時から「この漫画読んだ?」とか、「浅野いにおやばいな〜」とか、そんな話をしては盛り上がっていた。
Re:nameの前に一成と組んでいたバンド(MONOTONE)のライブにもよく来てくれていた。
最近もたまにライブを観に来てくれるから、そういう意味ではもしかするとRe:nameを1番長く知る人なのかもしれないな、と思ったりもする。

JINがデザイナーをやっていると知って、中学とか、高校の時に浅野いにおの話をしてたのが、ちょっとでもそこに繋がってたりすんのかな、とか、勝手にそんなことを思って嬉しくなったりしていた。
そんなJINと一緒に、イベントをやれたこともすごく嬉しい。
甘えてしまったところも多々あったけど、その全部を実現してくれたから、今回の『コモレビ』が成り立ったのだと思う。


昔から、国語の授業だったり、読書感想文だったり、そんな場所で自分の文章を褒められることは多かったけれど、数年前『1』を書いた辺りから、自分の書いたものを褒められることが明らかに多くなった。
もしかしたら自分に書く人のイメージが強くついたからなのかもしれない。

例えば友達と飲みに行った時、自分の歌詞やnoteを読んでいる、本を出したら買う、みたいなことをあんまり冗談じゃなさそうな顔で言われることもしばしばあった。(昔はどちらかというといじられることの方が多かった)

そういうことを言われるたびに、「自分も書くこと好きで、そう言ってもらえるの嬉しいねんけど、世の中に文章が上手い人っていっぱいおるねん。例えば…」として教えていたのが、小春さんとシンジだった。

だから、今回その二人とイベントを出来たこと。
そして何より、「木漏れ日を手渡す」という1冊の本を一緒に作れたことが、本当に嬉しかった。


去年の8月に数年ぶりにシンジと東京で飲む機会があった。
新宿で飲んでいることに少しこそばゆくなりながら、また大阪で遊ぼうな〜といって別れた。
その数週間後に(なぜか)DJイベントをやったのだけど、そこに小春さんとJINが遊びに来ていた。
二人とも会うのが久しぶりで、その盛り上がりのまま、またご飯でもいこっか〜となった。
後日ご飯に行った時、「コモレビ」の話を持ちかけた。
小春さんが乗り気になってくれた瞬間、シンジにも電話をかけた。
シンジも二つ返事で「絶対やる」と言ってくれた。東京なのに。
とてもいい夜だった。

今考えると、「なんで俺がDJ???」みたいな誘いをもし断ってたら、小春さんにもJINにも会えなかったし、古本市も出来てなかったのだと思う。
きっと今も部屋の本棚は溢れたままだし、「木漏れ日を手渡す」も出来なかった。
そう思うとやってみることも、外に出ることも大事だな、と思う。
…なんだか自己啓発本みたいな切り口になってきたから、話題を変えようと思う。


なんで、本を読むのだろうか。
部屋にいるまま、旅ができるから。
展開が面白いから。
本を読むことって、大人な感じがするから。
理由は人それぞれで、数えきれないぐらいにあると思う。
でも、本を読むことの大きな理由の一つに、「言葉をもらえるから」というのがあると思う。

自分の人生に少し思うことがあって、この1ヶ月くらいはとにかく人と飲むようにしている。
それはもう自分の中ではかなりなペースで、週4,5くらいで飲んでいる。
自分がいつも夜しか空いていないから、どうしても飲みになってしまうけど、個人的にはお昼でもいいし、なんならモーニングでもいい。
お酒もどちらでもいい。
とにかく、人と話したい、そんな気分の中に今自分はいる。

誰かと話すたびに、言葉をもらえる。
自分が話した言葉に、ハッとする。
そうして貰った言葉を、持ち帰って、反芻する。
言葉が心の中でほのかに光る。

本にも、そんな能力がある。

例えば自分が孤独を感じていた時。何かに悩んでいた時。
本の中の1行が光のように浮かび上がって、自分の悩みをふっと軽くしてくれることがある。
その瞬間のために、自分は本を読んでいたのだ、と思うし、その前の数10ページがあったから、その1行が浮かび上がるんだ、と思う。
そうして、出会った1行は、自分の心を何日も、何週間も、もっと言えば何年もほのかに照らし続ける。

本の中の1行に出会う瞬間と、日々の中でふと木漏れ日に気づく瞬間はなんだかとても似ていると思う。

そんな木漏れ日のような1行を、言葉を、見つけてほしいと思って、今回のイベントに『コモレビ』という名前を付けた。


今回のイベントは、本当にたくさんの人が来てくれた。
中には、普段は本をあまり読まない、という人もいた。
そんな人もたくさんの本と、オリジナルZINEを紙袋に入れて持って帰っていた。
素敵な光景だった。

本を読まない人も、遊びに来る古本市。
それが、自分が古本市をやる意味だな、と思う。

自分が古本市をやることで、本に興味を持つきっかけになる。
ラジオをやることで、ラジオに興味をもつきっかけになる。
心を込めて歌詞を書くことで、歌詞っていいなあ、って気づく。

そんな、誰かにとっての翻訳者になりたい。
それが、バンドをやりながら、好きなこともたくさんやる使命だと思っている。


今回のオリジナルZINE『木漏れ日を手渡す』では、架空のエッセイを書いた。
自分とは全く関係のない文章を書くのは、おそらく人生で初めてのことなんじゃないかな、と思う。

全く関係ないと言いながら、いきなり矛盾してしまうけど、2019年にM-1を観ていて、強く胸打たれて、「芸人さん凄いなあ、かっこいいなあ」と思った瞬間が自分にはあった。
もしあの時に、全てを捨てて、芸人になっていたら。
そんな選ばなかった方の未来についてのエッセイ。
やっぱり、書くことはずっと楽しいな、と思った。

『木漏れ日を手渡す』は2月26日まで、オンラインでも置いているので、よかったら手に入れてください。
(なんだか急に商業的でやだな、気楽にね)


今回のイベントで、木漏れ日は手渡せたのやろうか。
もしかしたら、今は光として浮かばない1行も、いつかまた本を開いた時に光って浮かぶようになるかもしれない。

あの時は響かなかった1行が、響くようになる瞬間がある。
そんな時、今の自分の考えていることが、まるで写鏡のようにわかる。
本を読んでいる時の、そんな瞬間が好きだ。


今すぐに、じゃなくても、いつかどこかで。
手に入れた本や、この1日が、
心をほのかに照らす木漏れ日になりますように。

いいなと思ったら応援しよう!