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うろんな兄妹


 うろんな兄妹

 ふたりの子供。どうやらそれぞれ男性と女性のその人たちが深い森を歩いている。ふたりだけで。親がいない展開はかなり心配になる。絶対よくないことが起こる。でもやっぱりふたりの子供だ。他には誰もいない。何してやがる。
「なんか……わかんなくなっちゃった」
 子供のうちの男性の方が口を開く。ほら、言わんこっちゃねえんだ。早くも。
「え? なあに、お兄ちゃん」
 兄妹だ。妹、超絶に不安な顔しちゃっている。
「あのさあ……お兄ちゃんのさあ、つまり僕のさあ、服に、あの、ヘンゼルって、油性ペンで書いてあるんだけどさあ、僕はヘンゼルでいいんだっけ? 僕がヘンゼル? 僕へルゼル?」
 何言ってやがる。
「何言ってるの?」
 そうだよ。妹、超絶に不安な顔しちゃっている。
「ヘンゼルって書いてあるならヘンゼルなんじゃないの? 私に分かるわけないじゃん」
 何言ってやがる。
「……じゃあ、まあいっか」
 何言ってやがる。
「あれ、待って。私のズボンにもヘンゼルって書いてある」
 何言ってやがる。
「じゃあ、お前ヘンゼルでいいよ」
 何言ってやがる。
「えー、私ヘンゼル嫌だあ。ていうかヘンゼル、苗字じゃね? 苗字ヘンゼル」
 何言ってやがる。
「苗字か。ヘンゼル……何か中途半端だなあ。ヘンゼルトにしようかな」
 何言ってやがる。
「いいじゃん。確かにヘンゼルトの方がカッコいい感じする。ねえねえ、私のセーターの模様、字だよねこれ。何て書いてある? お兄ちゃん、英語読める?」
 お兄ちゃん、英語読めるのか?
「グル……グー……、んー、グレー……グレー、ト、グレートって書いてある。凄いって意味だよ」
 お兄ちゃん、英語読めた。
「へー。まあ、私すごいもんね」
「町内腕相撲大会の破壊王だもんな」
「うん、破壊した。大会ごと破壊してやりました」
「暴君誕生の瞬間を俺は見た」
「私はハリケーン」
「回転する筋力」
「何人たりとも私に触れてはならない」
「まさにグレートだった。グレーってた」
「グレーってる私」
「グレーってるお前。お前の名は、ヘンゼルト・グレーッテル」
「私の名はヘンゼルト・グレーッテル、ハリケーンなの。回ってもよろしくて? 薙ぎ倒してもよろしくて?」
「ははは、恐ろしや恐ろしや。今は回らないでおくれ、愛しの妹よ」
「えー、そんなのつまんないんだー」
 何言ってやがる。
「さて、俺たちマジで何しに森に入ったんだっけ。どうする? 帰るか?」
「帰り道わかる?」
「わかんねえ!」
 最悪だよ。
「え、お兄ちゃん今日はアレやってないの? いつも定期的に道に何か撒いて歩く変な癖あるじゃん。それ辿って帰ればよくない?」
「撒いて? ……おしっこ? ……じゃないよな」
 最悪だよ。
「ちがう。ほら、撒いてんじゃん、なんか頭掻いた流れで撒いてるやつ!」
 それフケだろ。
「それフケだな」
 最悪だよ。
「フケ……? あの火山灰みたいなやつだよ?」
 シャンプーをかえた方がいい。
「うん……て言うか成長期の代謝の……お前あの、デリケートなお前……お前……」
「てかマジどうすんのよ。普通にヤバいじゃん」
 そうだよ。言わんこっちゃないんだよ。
「おい。……なんか魔女の気配するな」
 急にどうしたんだお兄ちゃん。
「お兄ちゃん、そういうの『わかる』もんね」
 そうなのかお兄ちゃん。
「まあなんとなくな。……ん? てかおい、ほらあれ。家か?」
「ん? どれ? ……うわ、あれ家だわお兄ちゃん! キタキタキターッ! ウオーッホホホーッ! 魔女いるんじゃねえのかこのヤローーーッ!」
 急にどうしたんだよ妹。
「お前悪い癖出てるよ。戦わなくていいんだからな?」
 戦闘民族なのかな妹。
「なにあれー! お菓子じゃない? 家がお菓子のデザインだ! ほら、お兄ちゃん、あの家、屋根がビスケットだよ、ダッセー!」
 妹こわいよ。
「あんま人ん家見てダセーとか……うわ、ドアは板チョコかよ、安直だな〜!」
 お兄ちゃんもお兄ちゃんだな。あーあ、もうそろそろ懲らしめなくちゃの時間だよ。
「え? うわっ……出た! 魔女だー!」
「キタキタキターッ! ウホホホーッ! 私はハリケーン! 回転する筋力! ヘンゼルト・グレーッテル! テルルルルーン!」
 どうわー! これが、ヘンゼルト……グレーッテル……! あ〜〜〜れ〜〜〜

■次回『オズのうろん使い』編 突入……!


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