名馬紹介 パンサラッサ
【名馬紹介 パンサラッサ】
高速ラップで大逃げし、中東のG1を2勝している稀代の逃げ馬、パンサラッサ(2017年生 牡馬)を紹介します。
◆ キャリア前半
彼は2歳の9月にデビュー、3歳までに2勝し、重賞でも2着になるなど、そこそこの成績を残していました。
彼は3歳時にコロナ禍で無観客開催が続くなか、コントレイルとデアリングタクトが無敗で三冠を制した世代です。
その後もブレークには至らず、4歳の春時点では15戦2勝と、大勢の一頭に過ぎませんでした。
◆ 突然の覚醒
4歳春までは、逃げたり、逃げなかったりと戦術も固まっていませんでした。
4歳春のマイラーズカップでは脚の故障で競走除外となり、初めての長期休養となりました。結果から見ると、この休養がその後の大活躍には功を奏したようです。
休み明け初戦のリステッド競走を逃げ切り勝ちします。続く福島記念では、前半1000mを57.3秒のハイラップで走ると、そのまま後続に4馬身差を付けて逃げ切りました。パンサラッサが自分独自のスタイルを確立し、覚醒した瞬間です。
◆ 本物か否か
福島記念は平坦な小回りコースのため、彼の快走は限定的な場でのことなのか、真の実力があるのか。ファンの中でも疑問がありました。
その疑問に答える場として用意されたのが、翌春のG2の中山記念です。
ここでも前半1000mを57.6秒のハイペースで突っ込みました。今回も後続に影を踏ませせない快勝でした。彼は本物です。
◆ 海外での快挙達成
彼は次走にドバイターフを選びました。ここでも彼はいつも通りに逃げます。英国馬ロードノースと日本馬ヴァンドギャルドが猛追し、残り200~300mくらいでは負けると思ったのですが、彼はそこから驚異の粘りを見せ、最後は3頭並んでゴールしました。
長い写真判定の結果、パンサラッサとロードノースが1着同着でした。
さらに翌年2月末には、ダートのサウジカップへの出走を表明し、周囲を驚かせました。サウジの馬場はオールウェザーで、日本と質が異なりますが、驚きの判断です。
ここでも並み居るダートの超一流馬を差し置いて、逃げ切り勝ちを収めました。まさかの快勝劇でした。
中東は合っていたようです。
◆ ベストレース
中東での2つのG1勝利も素晴らしいですが、多くのファンの心に最も強く残っているレースは、2022年の秋天だと思います。
この秋天は2回の中東での勝利の間に行われました。
彼は秋天でも、王者イクイノックスを向こうに回して、いつも通りの大逃げを図ります。
最初の1000mは57.4秒、テレビカメラが相当引かないと後続が映らないほど、2番手以下を引き離したまま直線を向きます。最後の最後でイクイノックスにかわされて2着になりましたが、この日の主役は間違いなくパンサラッサでした。
◆ 引退
前述したサウジカップを快勝した後、ドバイワールドカップに進むも敗戦、レース後には軽靭帯炎を発症しました。そのまま引退しても良かったのでしょうが、引退戦として、ジャパンカップにエントリーしました。
緑の芝生の上を、自分の思った通りに走ることに徹したようなレースでした。ここでも前半1000mを57.6秒で駆け抜けています。
しかし、往年の力はなく、直線に入ると後続馬に飲み込まれていきました。
個人的には、この走りも記憶に残るレースです。そして、レース後に引退が発表されました。
◆ 余談
最後のジャパンカップの直線でイクイノックスにかわされた時に、チラッと横を見た姿は可愛かったです。
「速っ」とでも思ったのでしょうか。或いは「また君か」とでも漏らしたのでしょうか。
希代の逃げ馬のキャリアは、記録と記憶の双方に強く残っています。