昨年のマイルCSの戦評 〜故・藤岡康太騎手の魂の騎乗〜
昨2023年のマイルCSを振り返ります。
このレースは今春に早逝した藤岡康太騎手の2つ目、そしてラストのG1勝利となりました。
◆ 藤岡康太騎手の魂の騎乗
最初に、彼の強引な騎乗には制裁金3万円が課せられており、諸手を挙げて「神騎乗」とは言えないかもしれません。
しかし、スタートを出遅れたナミュールを優勝に導くには、これしかなかったと思える、素晴らしい「勝つための魂の騎乗」だったと思います。
◆ ドタバタのレース当日
元々、ナミュールにはムーア騎手が騎乗する予定でした。しかし、ムーア騎手が午前中に落馬負傷してしまい、藤岡康太騎手に乗り替わりとなりました。
藤岡騎手は彼女に初騎乗でしたが、彼女を信じ、とても上手く乗りました。
◆ 藤岡康太騎手のエスコート
スタート下手のナミュールは、スタート直後に煽ってしまい立ち遅れ。同じく立ち遅れた1番人気のシュネルマイスターと一緒に、最後方になりました。
そうなっても、藤岡騎手は慌てず、彼女の能力を信じ、彼女をリラックスさせることを最優先にエスコートしたことが勝因です。
◆ ジョッキーカメラで確認
シュネルマイスターのジョッキーカメラには、道中のナミュールの落ち着いた様子が外側に見えます。ナミュールは4コーナー手前でシュネルマイスターに蓋をされそうになりますが、鋭い末脚で進路をこじ開けて突き抜けました。
エルトンバローズのジョッキーカメラには、あっという間に抜き去っていく、ナミュールの鋭い末脚が映っています。
◆ 勝負の直線
ナミュールは4コーナー回った時点でも後方でしたが、脚が残っていました。直線で一旦シュネルマイスターの内側を抜け出します。その後、今度は外側に強引に持ち出し、末脚一閃、ゴール前でキッチリ全馬をかわしました。
最後の600mはメンバー最速の33.0秒、同200mは11秒切っていると思われます。見た目の迫力だけでなく、実際にタイム的にも超高速です。
◆ ナミュールの成長
外側に強引に進路を変えた際、他馬を外に弾く形になった藤岡騎手には、制裁金3万円が課せられたのは、前述の通りです。
決して褒められた騎乗ではありませんが、以前のナミュールだったら500kgの牡馬に当たり負けしていたはずです。身体が大きくなったことで、切れだけでなく、パワーも付いてきました。
加えて、道中の落ち着きを見ると、精神的な成長も見てとれます。2歳から3歳春の頃のか弱い少女は、一年をかけて素晴らしい大人の女性に変わっていたのです。
◆ 最後に
マイルCSで見せた藤岡康太騎手の「絶対に勝つ」と心に決めた魂のこもった騎乗には、感動しました。一皮剥けた気がしました。
今後も記憶に残る、素晴らしいレースの一つです。