名馬紹介 デアリングタクト
【名馬紹介 デアリングタクト】
新型コロナが広まった2020年、あらゆる活動が停止され、外出もままならない生活になりました。しかし、無観客ながら競馬だけは毎週末開催され、数少ない(或いは唯一の)楽しみでした。
その年に現れたコントレイルとデアリングタクトの無敗の三冠馬の2頭は、暗い社会に明るい光を灯してくれました。そのうちの一頭、史上唯一無敗で牝馬三冠を制したデアリングタクトについて紹介します。
◆ 出生
デアリングタクト(2017年生)は、父エピファネイア(菊花賞、ジャパンカップ優勝馬)の初年度産駒です。両祖母のシーザリオとデアリングハートは同級生で、2005年の桜花賞で対戦した旧知の仲です。
彼女は長谷川牧場という夫婦が営む小さな牧場で生まれました。性格は素直で、手のかからない優等生だったようです。しかし、競走馬としての前評判は高くなく、当歳セールでは買い手がつかず、一度牧場に戻っています。そして、再び長谷川牧場で過ごした後の翌年の1歳セールで、漸く売買が成立しました。
◆ 三冠クラシック
(1)桜花賞
11月のデビュー戦を快勝した後、2月のリステッド競走のエルフィンSを豪脚一閃、衝撃的な勝ち方をしたことで、一躍クラシックの有力候補に名乗りを上げました。迎えた桜花賞は朝からの雨によって重馬場発表でしたが、テレビ越しに見た印象では泥んこの不良馬場に近い状態でした。
レースは非常にタフな展開で、この泥んこ馬場をものともせず逃げたレシステンシア(前年最優秀2歳牝馬)が後続馬のスタミナを奪い、そのまま逃げ込みを図ります。レシステンシアで決まったと思ったその時、1頭だけ直線大外を泥だらけになりながらデアリングタクトが突っ込んできて、並ぶ間もなく抜き去り、最後は1.5馬身の差をつけて快勝しました。
(2)オークス
続くオークスでも、桜花賞と同じく道中は中団にポジションをとり、直線外側に進路をとると、次々に先行各馬をかわしていきました。馬場状態不問、距離関係なし、常に最後の600mを最速で走り切る安定した強さに驚嘆しました。
(3)秋華賞
最後の一冠の秋華賞には、オークスからの直行となりました。前哨戦を走らない行程に対し、不安の声もありましたが、結果は快勝でした。道中はいつも通り中団で落ち着いて進むと、今回は待ちきれないとばかりに4コーナーで上位に進出し、そのまま突き抜けて、史上初めて無敗で三冠を制しました。個人的には、秋華賞が彼女のベストレースだと思っています。
◆ 伝説のジャパンカップ
アーモンドアイ、コントレイルと対戦した伝説のジャパンカップ。その実現に向けて、最初に参戦を発表し、明に暗に他の2頭の出走を促し、夢の一戦を実現させたのは紛れもなくデアリングタクトだったと思います。
結果は女王アーモンドアイが後継の2頭の無敗三冠馬を従えてゴールした素晴らしいレースでした。この荘厳で美しい伝説の一戦を実現させた彼女に対して、私は心の底から感謝の気持ちでいっぱいです。
◆ 古馬になってからの苦労
4歳の春、香港での戦いの後、繋靭帯炎を発症し、約1年の療養に入りました。繋靭帯炎は完治が難しく、そもそも復帰すら厳しいといわれています。
それでも、5歳の春にヴィクトリアマイルて復帰しました。次走の宝塚記念ではレコード決着の厳しいレースの中、後方から追い上げてもう一歩で勝てそうな、復活を印象付けた感動的な3着でした。
しかし、秋はオールカマーとエリ女に出走するも良いところなく敗れます。これで年内休養かと思われた矢先、エリ女から2週間後のジャパンカップへの緊急参戦が発表されました。
ジャパンカップでの彼女のレースっぷりは目に焼きついています。直線の入り口とその後に2度不運があったために4着でしたが、鋭く追い上げた末脚は往年の迫力がありました。勝利まで紙一重の素晴らしいけど、とても惜しいレースでした。
ところが、その後脚部不安から再び休養に入りました。それでも引退せずに再起を狙いましたが、調整過程で繋靭帯炎を再発し、2023年10月に引退が発表されました。
◆ 最後に
無敗で三冠を制した3歳時の活躍と、古馬になってからは苦労が続くも、観る者に「希望」や「感動」を与え続けたのがデアリングタクトです。わたしは彼女の最後の一歩まで応援を続けました。デアリングタクト、本当にありがとうございました。