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天皇賞(秋)の戦評 ~「ポストイクイノックス」のキーワードは人馬一体~
ここ2年のイクイノックスが勝利した時のような華やかさはありませんでしたが、トップジョッキーたちの高度な技、強い精神力を感じた、見応えのある面白いレースでした。
「ポストイクイノックス」時代は、人馬が一体になったチームが栄光を手にすることができるのでしょう。
◆ レース展開
過去2年のような強力な逃げ馬がいないので、今年の秋天はユックリした流れになると、戦前から予想されていました。実際、最初の1000mの通過タイムは、一昨年が57.4秒、昨年が57.7秒だったのに対して、今年は59.9秒とスローペースでした。
それでも勝ち時計は117.3秒。昨年イクイノックスが叩きだした驚異の115.2秒には劣るものの、ここ5年では2番目に速いタイムでした。
◆ ドウデュース(1着)
レース後の武豊騎手のインタビューを聞くと、レース前から腹を括って後方待機からの直線勝負に賭けていました。中途半端に先行して馬群に包まれるよりは、後方から直線で大外の進路を選んで突き抜けるイメージをもって戦いに挑んだようです。
五分のスタートを切ると、武豊騎手は狙い通りに、手綱を引いてドウデュースを後方2番手に下げました。道中もそのまま脚を溜め、直線を向いたところでも、未だ後ろから2番目でした。戦略通りに小細工一切なしで、外に進路をとると最後の600mを32.5秒という超高速の末脚でゴールまで駆け抜けました。
しかし、スローペースの展開で、武豊騎手は後方待機の作戦に迷いが生じなかったのでしょうか。凡人であれば、「これでは前残りされて届かないかも」と思って、途中から上位進出をしてしまいそうです。
最初から最後まで、事前の作戦を信じ切って遂行した人馬の高い能力に驚くと同時に、敬意を表します。おめでとうございます。
◆ タスティエーラ(2着)
中団を進み、直線を向いたときは良い位置にいました。画面越しには、直線半ばでリバティアイランドの内側に進路ができたように見えましたが、松山騎手はその隙間には突っ込まず、彼女の外にコースを取り直して突き進みました。
もし彼女の内側の狭いところに突っ込めたら、もしそのまま突き抜けられていれば、ドウデュースとの勝ち負けはどうなっていたのかなと、「タラ・レバ」を妄想して楽しんでいます。
◆ ジャスティンパレス(4着)
一昨日、最も惜しかったのはジャスティンパレスじゃないでしょうか。坂井騎手も後方待機の末脚勝負に賭けていたようです。
しかし、4コーナーを回った時に、外側へ持ち出すことができませんでした。直線では、前に壁がそびえ立ち、右往左往してしまいました。それでも、残り250mくらいで何とか内側に進路を見つけると鋭く伸びてきましたが、円滑さを欠いた分だけ負けた気がします。
ただし、この内側に急激に切れ込んだ騎乗に対して、坂井騎手に対して過怠金が科せられています。
ジャパンカップと有馬記念に出てくるのか分かりませんが、春天の優勝馬なので、距離が伸びてくるとチャンスは増えていくと思います。
◆ ホウオウビスケッツ(3着)
これだけ追い込み馬が輝いたレースの中で、ハナを切って、最後まで粘り切った彼の走りは、とても高く評価されるのではないでしょうか。
今後の中距離重賞では、注目を集める存在だと思います。重賞2勝目も、そう遠くない将来に達成できそうです。
彼の名前は可愛く甘そうですが、500㎏超の大きな馬体で渋さがある走りっぷりです。
◆ 感想
道中の位置は違うものの、上位4頭は戦前に立てた作戦を、見事に遂行しきった印象を持っています。秋の古馬三冠が始まりました。
残り2戦もドウデュースを中心に、楽しいレースが期待できそうです。
最後に、以下に3つのジョッキーカメラを添付しましたが、ドウデュースのカメラはレース開始早々に見えなくなっています。
しかし、優勝直後の武豊騎手の声が多く収録されていたので、JRAは別画像を用いた形で公開しました。素晴らしいファインプレーだと思います。