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ネパールの地理的ハンデと勝ち筋

ネパールはほぼ山で構成された国で、数少ない平地に都市が作られている。

ネパールの標高地図

必然的に数少ない平野に、ネパールの都市が作られていくことになる。
その中でも、第一の都市がカトマンズ、第二の都市がポカラだ。

カトマンズとポカラを繋ぐ道

つまり、カトマンズとポカラを繋ぐ道は物流の観点でめちゃくちゃ重要な道であり、ネパールの経済にも大きな影響を与えるものと考えられる。

Google Mapでのカトマンズ・ポカラ間

カトマンズからポカラは201kmある。
これは東京から静岡ぐらいまでの距離で、日本だと車で2-3時間程度でいける距離だろう。

しかしこの道はGoogle Mapで見ても7時間以上かかり、現地の人が言うには10時間以上かかる。

なぜかというと、こんな重要であるにも関わらず整備されてない道がほとんどだからだ!

整備されてない道を進む

こんなんだから当然トラックだらけの渋滞が発生する。

渋滞でトラックに囲まれた様子

ちなみにこの道を工事しているのは全て中国の企業だった。
調べると中国の一帯一路の参加国の1つとしてネパールは位置付けられているようだ。

地理的ポテンシャルに限界がある

そもそも先に説明した通り、ネパールはほとんどが山で構成された国だ。
今後どんなに道が整備されようとも、崖のような山道を蛇行しながら進む状況は改善され得ない。

数少ない平地と平地を結ぶために山道を何個も越えなければならない状況は変わらないのだ。
それが国の重要な流通を担わなければならないのは、そもそも地形的なポテンシャルがないと感じざるを得ない。

政治の腐敗

そして今は2024年。
AIだのシンギュラリティだの言われている時代に、いつまで大都市と大都市を結ぶ道路の工事をしているんだろう?

ネパール人にその話をしたら、『政治の腐敗』が原因との回答だった。

政治の腐敗が問題になり、毎回新しい政党が「腐敗脱却」の名の下に政権を取るものの、結局同じ穴のムジナで腐敗が繰り返されるとのこと。なので政党が入れ替わる期間が非常に短い国らしい。

彼は日本の政治は素晴らしいと言っていた。

日本も腐敗がないとはいえないが、少なくとも他国の状況を見ると相対的にだいぶまともなんだと感じさせられる。

ネパールの変化の遅さ

またネパールの『変化の遅さ』も理由の1つとして考えられる。

日本も変わらない国と言われているが、ここ数年でも携帯からの注文、無人レジ、レストランの配膳ロボ、リモートワークの普及など、目まぐるしく社会が変化している。

これは仕事に対する取り組み方、スピードがそもそも違うことが大きい。

ネパールの空港では空港に入るまでに20分並び、チケットを受け取るまでに30分、パスポートチェックに40分、荷物検査に10分と2時間近く並ばされた。公務員はたくさんの行列を前に、平気で談笑しながらだらだら仕事している。

一方で日本はどの店に行っても真面目にテキパキ動いている人ばかりだ。

もちろん「中国と比べて変化のスピード遅くない?」みたいな話もできるが、とはいえ世界レベルで見たら国民一人一人の平均レベルが高い国なんだと思う。

システムで捉えるか人で捉えるか

日本で働いていて、物事をシステムで捉えるか、人で捉えるかで2つのタイプがいることは感じていた。

たとえば遅刻する人が多いときに、「遅刻する奴が悪い」と考えるか、「遅刻できるような構造的問題がある」と捉えるかの違いみたいなものだ。
ネパール社会は特に人間関係が重要であり、システム的なところに思考が行きづらいのではないかと感じている。

どちらが良い悪いという話ではないが、ネパールは社会全体としてシステム的なところに改善の思考がいきづらそうな国だということだ。

デジタルネイティブ世代の台頭

一方でネパールでもデジタルネイティブ世代は台頭しており、全く違う価値観で育っているように見えた。

ネパールの家庭をお邪魔したときは、20歳ぐらいの子はずっと携帯をいじっていて、「PCのことは全くわからないから全部この子に聞いている」と言っていた。

こうした世代が社会の中心になると、システム的なところの改善が進んでいくかもしれない。

そもそも物流インフラはネパールに必要なのか

物流インフラが整わないことを問題視してきたが、発想を変えてそもそも物流インフラがネパールに必要なのかを素人なりに考えてみる。

まずネパールの貿易収支は以下のとおりだ。

(1)輸出 1,411.2億ルピー
(2)輸入 1兆5,398億ルピー
(2020/2021年度、ネパール貿易・輸出促進センター)

主要産業は農林業、貿易・卸売り業、交通・通信業。
主要貿易品目は以下のとおり。

(1)輸出 大豆油、糸、ウールカーペット、ジュート製品、カルダモン等(2)輸入 石油製品、鉄鋼製品、機械類、車両製品、シリアル等

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nepal/data.html

推移を見ると、貿易収支は指数関数的に悪化しているように見える。

ネパールの貿易収支

ひどい貿易赤字

ネパールの生産力は低く、ほぼほぼ海外の生産物に依存しているように見える。
実際にネパールの街を歩くと、HONDA、OPPO、SAMSUNG、LG、NISSANといった外資の店舗が多く目に留まった。
Yasudaってのもあったけどこれ日本企業じゃないかも?)

実際にネパールを移動していてほとんどが山なので作物を育てる土地がほとんどなさそうだった。
IT立国するにもインターネットが遅くてまともにネットサーフィンすらできない場所も多かった。

空港に置いてあるお土産品も海外で生産されたものだったし、ネパール人曰くチベット村で売られているものの多くはインドで生産されたものとのこと。
観光地で売られているものすら自国で生産できてなくて、この国大丈夫か?

必然的な地産地消

というわけでネパールはひどい貿易赤字で生産品も海外に頼っている。

にもかかわらずカトマンズからポカラへ行く道中にも、小さな家が途切れることなく立っていた。
奥まった山々にもたくさんの村があり、それぞれがちゃんと生活できている。

ネパール人はどうやって生きてるのだろう?

彼らの生活を見るに、まず自給自足が目に留まった。
多くの家庭は鶏、ヤギ、牛を飼っていて、庭に畑もあった。
(犬もたくさんいるが現地人曰くただのペットらしい)

つまり家庭レベルでまず自給自足しているのだろう。

またどの八百屋に行っても同じもの(カリフラワー、ジャガイモ、トマト、玉ねぎ、人参、大根)しか置いてない。つまり地元で取れたものしか売ってないのだろう。

レストランの肉も、ジャーキーにした肉を元に戻したようなものばかりだった。
つまり長期保存させたものなのだろう。
(日本の生食文化も整った物流インフラならではのものだと再確認)

こうして食に関しては外資に頼らず、自給自足、地産地消で生きている様子が伺えられた。

海外で働くネパール人

そしてネパール人曰く、「8割から9割のネパール人は海外で働いている」とのこと。
こうして得た外資を仕送りでネパールに送ることで国を保っている。

経常収支を見ると貿易収支の大赤字はだいぶ埋め合わせできており、この差分はほぼ仕送りによるものだと推察する。
実際にネパール人に会うと「子供が今海外にいる」といってビデオ通話してる人ばかりだ。

ネパールの経常収支

そしてネパール人、話を聞くに割と儲かってるみたい。

年収1000万円のネパール人が、
「公務員は金持ち」
「チベット人は公務員より金持ち」
「ガーレ村の人たちは軍隊行ってるから金持ち」
と言っていたので、少なくとも1000万超えてるひとは結構いそうだった。

何よりネパール人コミュニティが世界中にあり、世界中の情報を得られるのはとても強いと感じる。
日本でも色々な企業の知り合いがいると重宝されるが、それが国レベルになっているわけだ。

ネパール人は人脈をとにかく重視する傾向があり、世界レベルで人脈や情報を持つ人々がいる。
これはグローバル社会で戦っていくにあたり、民族レベルでだいぶ強いのでは?と感じさせられた。

(ちなみに今はドバイが良いらしい)

歪な構造と課題

とはいえ、労働力が海外で外資を稼ぐ構造には色々な問題があるようだ。

まず海外に出ていった人たちはネパールに帰ってこないらしい。そりゃ先進国で仕事もできて安定して暮らしてるのに、ネパールに帰ってこようと思わないだろう。

ネパールの人口ピラミッド推移を見ても変な動きをしている。
そのまま上にスライドしていくのではなく、20代~30代の男性だけぎゅっと凹むような動きをしているのだ。
これは生産労働者が海外に流出していることの表れだろう。

2015年のネパールの人口ピラミッド

今後もデジタルネイティブ世代になればなるほど海外の情報が入ってきやすくなり、より海外に出たいという人たちが増えてくるものと思われる。

また今は親がネパールにいる構図だから仕送りで経常収支を補ているが、その子供の世代となると、親も子供も海外に住んでいる構図となる。
子供の感覚としてもネパールへの愛着は薄れていくだろうから、いかに海外に出て行った人たちにネパールに戻ってもらうかは今後の課題になりそうだ。

ネパールのこれから

ネパールは地理的ポテンシャルに限界があり、生産力もない。
政治も腐敗していて、変化も乏しく、状況はなかなか改善しない。

一方でネパール人は世界中で外資を稼ぎ、なんだかんだ金持ちネパール人が世界レベルではいっぱいいる。

世界経済が崩壊したら強そう

まず世界大戦や天然資源の枯渇など、世界経済が崩壊したら強そうと感じた。
国民レベルでの自給自足レベルが高く、食レベルではあまり外資に依存しない構造ができているからだ。

また世界レベルで最適化できるため、安全な国や、そのときに経済的に優れた国に移住する選択肢も得られやすそう。

システム化が進むとネパール経済はより厳しくなる

ネパールを旅していて思ったのは、社会レベルでシステム化されてないことだ。
それはつまり、モノの値段を人によって大きく変えることができることを表している。

たとえばポカラーカトマンズ間の飛行機のチケットをネットで12000円ほどで購入したが、ネパール人は4000円ほどで買えると言っていた。
これはお土産店、ホテル代なども同様だ。

しかし日本のようにシステム化が進むと、それは柔軟さを失い、どんどん最適化されていくことになる。

実際にネパールで配車アプリを使ったところ、現地のドライバーが言う金額の半額以下の価格で移動ができた。
これは観光客にとっては嬉しいものの、ネパール人は収入が半減した上に、配車アプリを作っている外資に収入が奪われる構造になることを意味する。

同じようにシステム化、最適化が進むと観光客はどんどんネパールに行きやすくなるが、ネパールは収入が減った上に、システムを作った外資に依存し金を奪われていくことになるだろう。

交通インフラが整うとまたネパールは厳しくなる?

国内生産がなく海外生産に頼った状況下で交通インフラが整うと、結果として海外への依存が強まるだけなのではないかと想像する。
つまり地方コミュニティが自給自足・地産地消で成り立っているのは交通インフラがないおかげともいえ、手軽に海外産の生産品が手に入るようになることでその側面が失われてしまうのではないかということだ。

中国の一帯一路は棚上げ状態という記事もある。
あくまで素人の想像でしかないが、もしかしたら「戦略的に交通インフラを整えない」という選択肢もあるのかもしれない。

地方崩壊と都市部への人口集中

また今は交通インフラが整ってないからこそ、あらゆる山々に村があり、自給自足コミュニティが乱立している。
これが交通インフラが整っていくと、地方崩壊し、都市部に人口が集中していくものと思われる。
デジタルネイティブ世代の台頭もその動きを加速させていくだろう。

そのため都市部の土地の値段は暴騰していくだろう。

実際に海外で稼いで土地を買うネパール人が多いらしく、土地は毎年どんどん値上がりしてるらしい。
本当かわからないが銀行に100万預けたら毎月2万円もらえるとのことで、土地で儲けた金で働かずに遊んで暮らしてるネパール人も多いらしい。
(ただ土地はネパール人しか買えないらしい)

特にポカラの湖の周りは観光需要がめちゃくちゃ高い場所にも関わらず裏側はまだ未開拓なので、今買ったら間違いなく上がりそうだ。

ポカラの湖

一方で村の人口は流出し、どんどん廃村が増えていくものと思われる。
観光客としてネパールの村々を楽しむには、今がラストチャンスかもしれない。


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