元々の予定日。生後11日。
お米つぶみたいなお爪。
瑞々しいBB弾みたいな足の指。
瞼の奥で動かそうとして、まだうまく連動していないらしい瞳。
元は今日が出産予定日だった11月27日、現在生後11日。
帝王切開で生まれてきた子は、
産道を自分で通ってこない分、
お腹のなかとそとの世界が曖昧になっている子も多いんだとか。
あまり泣かずによく眠る、手のかからない子。
と思っていたら、
大きくなって体力がついてきたら大いに泣くようになるんだとか。
11日も早くお腹を切って取り出されたんだから、
そりゃそうよねぇと思ったりもする。
2156gのちいさなちいさな身体で産声を上げたこの子。
帝王切開は意識も感触もあると聞いていたけど、お腹を切っているだろう感触は確かにすれどもよく分からなかったし、逆子でしかもちょっと難しい向きだか位置だかで、先生がこの子を取り上げるのに多少苦心している様子は、なんだかテレビの先の出来事だろうかってくらい実感がなかった。
「生まれましたよ!女の子です!おめでとうございます!」
笑顔こそ返したもののやっぱり実感が伴わない。時間も言われたけど、覚えていられなかった。
幕の向こうで泣き声が上がり、手術室の面々から歓声が上がって、ようやく私の中でも何かが納得し始める。
「今綺麗にしてお胸に乗せますからね」と声をかけてもらううちに泣き声はおさまり、そういえば「思っていたよりもあっさりだな」と思ったことを今思い出した。
小さな、思っていた以上に軽い、でもしっとりと持ち重りのするこの子が胸に乗せられた。くたりぺたりと胸の上にくっついた身体。ゆっくり開いた片目が確かに私を見ていて、人差し指を差し出すと信じられないくらいちっちゃな細い細い指がふわりと私の指先を握った。
私の目から溢れる涙を、スタッフさんが優しく拭ってくれる。もっとこの子と見つめ合っていたかったけど、程なくして手術室から運ばれていった。途中で夫さんとの対面があるはず。
コロナ禍で立ち会いも面会も禁止だったけれど、帝王切開だとパートナーは赤ちゃんにも奥さんにも手術室からの移動中に対面できる。手術当日の朝まで逆子が戻っている可能性を捨ててはいなかったけれど、逆子のままだったとしたら、この子は早く夫さんに会いたくてこの生まれ方を選んのだと思うことにしていた。
初対面のときに夫さんが撮ったこの子の写真は、大きな目をぱっちりと開いている。私がその表情を見られたのは生後4日を過ぎてのことだったから、この子は多分お父さん贔屓になるんじゃないかという気がしている。
本当は生まれた直後、3人で写真を撮りたかった。バースプランなるものを知って真っ先にリストに挙げたのがそれで、それ以外は正直あまり思い浮かばなかった。なのにコロナ禍で叶わない。
だから帝王切開の可能性が出てきたときに、それならせめてと、夫さんにおちびと夫さんのツーショット写真を撮ってほしいとお願いしておいた。
私の愛する家族二人の最初の瞬間を残しておきたかった。
同時に、手術室から戻ってきた私の写真も撮ってねと頼んであった。どんなにボロボロでも、たとえ眠っていたりして意識がなかったとしても。夫さんの目に写った自分も残しておきたくて。
私の手術は予定よりも少し時間がかかり、夫さんはずいぶん心配していたようだった。手術室から戻ってきた私がたくさんの管に繋がれて酸素マスクをしていたのもあって、ホッとしたような顔に不安の色が混じる。
「満身創痍だけど、撮る?」
夫さんのちょっと心許なさげな声に、頷く私。
だってほら。いい笑顔。
病室に移動した辺りで、私は眠ったらしい。
次に目覚めて、思っていた以上に麻酔やら器具やらにがんじがらめな中、スタッフさんがおちびを連れてきて、初乳を飲ませてくれた。
ありがたいことに私のおっぱいはこの時点で母乳の分泌を始めていたらしい。初産なのに、とスタッフさんは驚いていて、さらにおちびもちっこいお口でちゃんと飲んでくれた。
このときに、私とおちびのツーショット写真を撮ってもらった(これも事前に頼んでいたこと。ただしお胸にくっつくおちびとの写真でお胸が丸見えなので、公開は自粛🤣でも今でも自分ではときどき見返している)
不安なことはあぶくのように次から次へと湧いてきて、
その度にネットで検索して不安のもとを整理して
育児雑誌や病院で渡された冊子をひっくり返したり、
姉や病院や区役所に聞いてみる。
やっと十日過ぎたばかりのこの子の人生に付きっきりで
とても十日とは思えないほどに色んなことがジェットコースターで。
でも気がつくとたしかに、
顔立ちはずいぶんとはっきりしてきて、
表情もどんどん豊かになってきて、
惛々と眠り続けるだけだったのが寝言を言うようになって、
私の指を握る小さな掌の力も
バタバタと蹴り上げる足の力も
あんなにか弱かった泣き声も強くなってきていて、
このちっちゃなちっちゃなお爪はたしかにしっかりと伸びているのだ。
いのちって、すごいなぁ。
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ずっと下書きに放置してあったこの記事を見つけた。
今、この子は3歳半で、絶賛イヤイヤ期で、大絶賛偏食家。
めっちゃ可愛い。
そしてこの子の横にもうすぐ1歳になる弟くんがいる。
書いておいて良かったな。