【SIREN2考察】『観測者』とは?
※ネタバレを多く含みますのでご注意ください。
※この考察は、考察というよりは仮説に仮説を重ねた、もはや妄想です。そのつもりでお読みください。
SIRENとは
プレイステーション2で販売されたホラーゲーム。2003年11月6日発売。
他人の視界を覗き見る「視界ジャック」という能力を駆使し、屍人と呼ばれる敵から逃れつつ戦うステルスアクション。
2006年2月には続編の『SIREN2』、2008年7月には第3作『SIREN:New Translation』が発売されたほか、2006年にはメディアミックスとして、映画化もされています。
『観測者』とは?
SIREN2のシナリオ「『共闘』 永井頼人 四鳴山/離島線4号基鉄塔 18:05:01」にて、今いる夜見島が29年前の夜見島をコピーした偽りの世界だと気がついた一樹守は、鉄塔の先端部が現実世界へ繋がっていると確信し、
とつぶやきます。
【SIREN2】永井 頼人 18:04 四鳴山 / 離島線4号基鉄塔「共闘」終了条件1
一樹がセリフを言うシーンの動画へのリンクです。
あまりにも脈絡が無いように思えるセリフに、多くの人が永井と同じく「また語りはじめちゃったよこの人」と思ったとことでしょう。
ここで一樹が言う『観測者』とは、なんなのでしょうか?
元ネタは『シュレーディンガーの猫』
一樹のセリフは、『シュレーディンガーの猫』が元になっていると思われます。
『シュレーディンガーの猫』とは「全ての事象は観測者が確認するまで複数が重なり合って存在し、観測された瞬間に確立する」という理論です。
例えば、不透明な箱の中に、1匹の猫と、50パーセントの確率で毒ガスが放出される装置を入れ、箱を閉じて1時間待ちます。観測者からは箱の中は見えないので、中の猫が生きているのか死んでいるのかは判りません。
このときの箱の中では、猫が生きている状態と、猫が死んでいる状態、ふたつが重なって存在しています。そして、観測者が箱を開けた瞬間、そのどちらかが決定されるのです。猫が生きているか死んでいるかは箱を開けた瞬間に確立される、というわけです。
「ちょっとなに言ってるか判らない」と思った方がほとんどだと思います。ハッキリ言って私も判りません(笑)。
実はこの『シュレーディンガーの猫』は、オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが量子力学の基本である『コペンハーゲン解釈』を皮肉ったものなのだそうです。『コペンハーゲン解釈』が正しいなら『シュレーディンガーの猫』も正しいことになるぞ、と言いたいらしいです。
詳しくは下記のサイトをお読みください。
参考:「シュレディンガーの猫」のパラドックスを中学生でもわかるように解説――ノーベル賞学者が思考実験で伝えたかった真意とは?
『シュレーディンガーの猫』解説ページへのリンク。いろいろ読みましたが、私はこれが一番わかりやすかったです。
この『シュレーディンガーの猫』をSIREN2に当てはめると、一樹が言いたいのは、偽りの夜見島は閉じられた箱であり、そこには常にふたつの可能性が存在している、ということであろうと思われます。
このふたつの可能性とは、各ステージに設定されている終了条件1と2に相当します。
終了条件2を満たすたびに事態が悪化するSIREN2
SIREN2をプレイされた人の中には、各ステージで終了条件2を満たすたびに、事態はどんどん悪い方向に進んでいる、と感じた人も多いと思います。
代表的な例で言うと、「一樹守 夜見島/瓜生ヶ森 0:01:08」の終了条件2で、一樹は通気口の中にあった髪飾りを入手しますが、これにより、一樹は後に強敵・太田ともえに執拗に付け狙われることになります。
また、「木船郁子 冥府 8:59:07」の終了条件2では、開かれた冥府の門を閉じるため、郁子と一樹は遊園地の石碑を破壊しますが、これが逆に門を大きく広げる結果となってしまいました。
他にも、遊園地で薬を発見することで永井は上官の三沢に不信感を持つことになって結果的に仲間割れをしましたし、藤田はブライトウィン号を発見することで市子と出会い、これが模倣体市子の覚醒へと繋がります。
このように、終了条件2を満たすたびに事態が悪い方向へ進むSIREN2ですが、なぜこのような展開になるのでしょうか? まるで、何者かに導かれているような感じがします。
この点を、前述の『シュレーディンガーの猫』の理論と合わせて考えてみると、『偽りの夜見島という閉じられた箱を観測する者がいて、その者は箱を開けて望む結果でなければ箱を閉じ、もう一度開けることができる』からではないか、と推測できます。
状況が悪化しているということは、闇人達にとっては事態が好転しているということになります。闇人達は地上世界への侵攻を目論んでおり、時間の経過とともに夜見島全土に勢力を広め、侵攻の準備を進めていました。終了条件2を満たすたびに闇人の勢力に有利な状況になっているのであれば、その結果を生み出している観測者は、闇人達を束ねるボス・母胎であると考えらえれます。母胎は偽りの夜見島を創り出した張本人であり、他人の視界を覗き見る幻視など多数の特殊能力を持っています。その力は計り知れません。偽りの夜見島を観測し、未来を決定する能力を持っていたとしても、不思議ではないでしょう。
しかし、観測者=母胎と考えるのには、ひとつ重大な問題があります。終了条件2を満たしていった先にあるのは、決して母胎が望んだ結果ではない、という点です。
終了条件2の先にあるもの
もし観測者が母胎であり、終了条件2を満たすたびに事態が悪化しているのであれば、最終的には闇人の地上侵攻が成功する結果が待っているはずです。しかし、すでにクリア済みの方やストーリーを最後まで見られた方はご存知の通り、結果はそうなりません。
終了条件2を満たしていった先にあるのは、鉄塔が破壊されて闇人が地上へ侵攻できなくなり、闇人・屍人を束ねるボスである母胎と堕慧児が倒されるという結果です。最終的に、母胎の野望はくじかれているのです。
これは、どう考えても母胎が望んだ結果ではありません。
偽りの夜見島を観測しているのが母胎であるならば、この結果はあり得ません。母胎が未来を決定していたのなら、闇人の地上世界奪還は成功していたはずです。それが失敗したのであれば、観測者は母胎ではなかったと考えられます。母胎もまた、観測されている側のひとつでしかないのです。
事態は悪化ばかりしているわけではない
終了条件2を満たしていった先にあるのが母胎や堕慧児を倒すという結果であるのなら、終了条件2を満たすたびに事態が悪化していると考えたのは間違いかもしれません。
そう考えて改めて振り返ってみると、実のところ悪いことばかりではなく良いことも起こっていることが判ります。
例えば、前述の『一樹が髪飾りを入手したため、難敵・太田ともえに執拗に狙われる』という点。
一樹は『一樹守 ブライトウィン/甲板 15:04:44』にて太田ともえに執拗に狙われたため、ブライトウィン内の全ての闇人と闇霊を倒し、復活できない状態にしてともえを倒すことになりました。これにより、一樹はかなり長い時間ブライトウィン内で足止めされたことになりますが、結果として、その後船を訪れる永井と出会い、『永井頼人 四鳴山/離島線4号基鉄塔 18:05:01』のシナリオにて、二人で協力して鉄塔を登ることになります。
また、永井が薬を見つけて三沢に不信感を抱くという点も、その後三沢と仲間割れを起こし、銃の暴発で射殺、市子を救出するも模倣体として覚醒、と、悪い方向に進んでいるように見えますが、この流れが結果として一樹との出会いに繋がっています。
そして、もし、一樹と永井の2人が出会わず、それぞれが単独で鉄塔を登っていたらどうなっていたでしょうか? この展開はゲーム上では描かれていないので想像するしかないですが、鉄塔の戦いでは2人が協力して闇人を倒すシーンもあるので、恐らく2人とも鉄塔を最後まで上ることはできず、母胎や堕慧児を倒すことはできなかった可能性が高いです。2人が出会い、協力したからこそ、母胎や堕慧児を倒すことができたと考えることができます。
このように、終了条件2を満たすたびに事態が悪化しているように見えるのは、ただ悪いことばかりが目立っているだけで、本当は良くなっている面もあるのです。
全ての可能性が存在するのが『SIREN2』
先ほど、『もし、二人が出会わず一人で鉄塔を登っていたら、母胎や堕慧児を倒すことはできなかったかもしれません』と書きましたが、実は、その「もしも」の世界が存在するのが『SIREN2』です。
『SIREN2』では、『並行世界』が大きなキーワードとなっています。
ゲーム上、終了条件1のみを満たした場合はどこかで行き詰まり、やり直して終了条件2を満たす必要があります。一見すると終了条件1の先の世界は無いように見えますが、それはあくまでもゲーム上描かれていないというだけで、設定上は終了条件1の先の世界も存在するのです。『一樹が髪飾りを拾わなかった世界』や『永井と三沢が仲間割れを起こさなかった世界』もちゃんと存在するのが『SIREN2』です。
この『並行世界』というキーワードを考慮すると、少し前に書いた『偽りの夜見島という閉じられた箱を観測する者がいて、その者は箱を開けて望む結果でなければ箱を閉じ、もう一度開けることができる』という推測は、間違いであると言えます。『箱を開けて望む結果でなければ箱を閉じ、もう一度開けることができる』のではなく、『箱の中にふたつの可能性があった場合、箱がふたつになる』が正解でしょう。
結局『観測者』とは誰なのか
長々と箱の説明に費やしてしまいましたが、最初の問題に戻りましょう。結局『観測者』とは誰なのでしょうか?
母胎も箱の中で観測されている側のひとつであるのならば、箱を観測している者は、母胎よりもさらに上位の存在であるはずです。
そう考えると、思い当たる存在がひとつあります。『光の洪水を起こした者』です。
アーカイブ62『夜見島古事ノ伝-光に追われし古の者-』には、かつてこの世界は闇に包まれ、地上には闇の者が蠢いていましたが、"天之御中主神"が光あれと言うと、地上に光が溢れ、闇の者たちは地底や海底に追いやられた、という伝承が記されています。これが、光の洪水です。
この光の洪水を起こした『天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)』とは、古事記や日本書紀に登場する神で、宇宙最高神や宇宙の中心を成す神とされています。夜見島の伝承は古事記や日本書紀とはかなり異なりますが、存在的には同じと思って良いでしょう。
この『天之御中主神』が光の洪水を起こして闇の者どもを地上から追い払ったのならば、母胎や堕慧児とは敵対関係にあると言えます。母胎が地上世界の奪還を目論んでいるとしたら、当然それを阻止しようとするでしょう。闇の者を地上から追い払ったのですからその後の様子も観察しているでしょうし、神のごとき力を持つ母胎や堕慧児を簡単にあしらうくらいですから、闇の者よりもさらに上位の存在であるはずです。
これらの理由から、私はこの『天之御中主神』こそが、『観測者』であると考えます。
もう一方の呪われた村はどうなのか?
ところで、SIRENシリーズには終了条件がふたつ設定されている作品がもうひとつあります。言うまでもないですが、前作『SIREN』です。
『SIREN』も『SIREN2』同様、終了条件1のみを満たすだけではどこかで行き詰まり、終了条件2を満たして先へ進めるという仕様になっていますが、同じ仕様でもストーリー的には決定的な違いがあります。『SIREN2』では終了条件1の先の世界も並行世界として存在しますが、『SIREN』では終了条件1の先は存在しません。終了条件1を満たして行き詰った場合は、時間が戻り、もう一度同じ時間を繰り返すことになります。そして、その中で以前とは少し違う行動を起こすことで未来が変わっていく、という設定になっています。終了条件2を満たさない限り、永遠に『ループ』するのです。
この『SIREN』のループする状態を『シュレーディンガーの猫』の理論に置き換えた場合、前述の『閉じられた箱を観測する者がいて、その者は箱を開けて望む結果でなければ箱を閉じ、もう一度開けることができる』という考え方が、ピタリと当てはまります。
『SIREN』の舞台である羽生蛇村に呪いをかけたのは、『神よりも上位の者』という存在であることは、SIREN公式解析本『SIRNE MANIACS』内で言及されています。なぜ神よりも上位の者が羽生蛇村にこんな呪いをかけたのかはいまだにはっきりとしませんが、終了条件2を満たした先にあるのは、堕辰子の首を落とすという結果です。堕辰子は、母胎や堕慧児など闇の者と同じ存在であることはSIREN2のマニアックスで言及されていますので、神よりも上位の者もまた、闇の者に敵対する存在なのです。
と、言うよりは、『SIREN2』で光の洪水を起こした『天之御中主神』と、『SIREN』で羽生蛇村に呪いをかけた『神よりも上位の者』とは、同じ存在ではないでしょうか?
この考えを裏付けするような話がいくつかあるのですが、それはまた別の記事にて紹介したいと思います。