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幼なじみはかまってちゃん



ガラガラ




先生: はい、じゃあ授業、始めるぞ〜





教室の扉が開き、教科書と今日の演習で使うであろうプリントの束を持って入ってきた、先生の言葉が教室に響く。



すると、これから始まる学生の義務に対し、既に席に着いていた生徒達は気を引き締め、チャイムが鳴った後も喋っていた生徒達は、それを中断し、気だるそうな表情で椅子に座る。




まぁ、授業が始まっても、友達や周りと喋る生徒がいないことから、今、俺が一緒に授業を受けているクラス、強いては、この学校のある程度のレベルが分かるのではないだろうか。




あ、もちろん、俺は前者の、チャイムが鳴ったら席に座るタイプの真面目な学生だ。





○○: ふぅ……



先生: 学級委員、号令。



??: 起立。





聞き慣れたアイツの声で、俺含め生徒達は椅子から立ち上がる。





??: 礼。




「お願いします。」





そして、聞きすぎてもはや怖いアイツの声で、俺達は声を揃えて先生に授業をお願いし、頭を下げる。





先生: はーい。



??: 着席。




ガタガタガタガタ





さらには、聞きたくなくても聞かせてくるアイツの声で、一斉に椅子を床に引き摺る音を鳴らしながら、席に座る。




なに、俺達はアイツに洗脳でもされてんの?



とでも言いたくなるような状況だが、学生はこれが当たり前なのだ。


いや、社会に出てもそうなのかな?



今はまだ、高校2年生のピチピチの17歳である俺…


"猫塚○○"じゃ、まだよく分からない。



……いや、男がピチピチとか言うもんじゃないか笑




とにかく、俺達はこれから、50分に渡る先生の話を、黒板に書かれたことを自分のノートに写しながら聞くことになる。



最近は、早く全生徒にタブレットを支給して、板書なんてしなくても良いようにならないかな〜って思ってるよ。


だって、それだけ先生の話に集中できるし、先生も授業の教材を用意しやすいでしょ。

データで送っちゃえば良いんだから。



まぁ、今まででそうならなかったってことは、つまり、うちの学校にお金が無いんだろうな〜って、考えざるを得ないよね笑



頑張れ、校長先生。











キンコンカンコーン




先生: んおっと、演習終わり〜





チャイムを演習時間の終了の合図としていた先生が、その音を聞いて少し驚きながら、そう言う。





先生: 前に持ってきて。





と、先生が言う前から、教室の1番後ろの席に座っている生徒達……まぁ、俺もそうなんだが……は、席を立って、自分の列の生徒達の演習プリントを集めつつ、前へ。





○○: ……





別に、プリント集めるだけだから、何の話すこともない。


黙って、前に座る5人のプリントを集めて、教壇に立つ先生のところに……





グイッ




○○: っ…………おい。



??: ……





毎度毎度、袖を引っ張るな!!!



と叫びたいところだが、ここは我慢して、「おい」という2文字に、さっさと離せ、という意味を込めて放つ。





??: ムゥ…





ムゥじゃねぇよ。


学級委員が、授業の進行を邪魔するどころか、昼休み前で、さっさと食堂に言って昼飯を食いたいという若人達に、我慢を強制させるような行動をとるなよ。





○○: …ったく。





無事、開放された袖を引き上げつつ、最後の1人のプリントも回収して、先生に渡す。





○○: お願いします。



先生: おう、ありがとう。じゃ、さっき出した課題を、ちゃんとやってくるんだぞ〜





まだ、俺が自分の席に戻っている途中で、先生はそう言い、それを聞きながら、俺に向けられている不機嫌そうなアイツの視線を無視する。





??: ……



先生: 学級委員、号令。



??: 起立。礼。




「ありがとうございました。」




先生: はい、ありがとうございました。





生徒達の授業に対する感謝の言葉に、軽く返事をして、先生は教室を出て行く。




そうすると、再び教室の中に、声や音が溢れ返る。





○○: …さてと……



??: ………





なに、後ろを見てんだって。


学校では関わんなって、毎日言ってんじゃん。



ってか、その周りにいる女子共は何か言え!微笑ましく眺めてんな!





○○: はぁ………



友達: なに、ため息ついてんだ?○○。



○○: いや、別に。早く食堂に行こうぜ。



友達: おう。





机の横に掛けているカバンの中から、母さんが作ってくれた弁当を取り出して、席を立つ。


そして、喋りかけてきた仲の良い友達と一緒に、教室を出て、食堂に向かった。





??: んもう………○○のやつ……











放課後





ガチャ




○○: ただいま。



母: おかえり〜





長〜い授業を終えて、友達と別れ、通学路を1人で歩き、自宅に帰ってきたわけだが…



母さんは、今日もドラマを見てる……っぽいな。


どうやら、つい先日、とある兄弟の元に謎の少年が現れ、事件に巻き込まれていく、という内容のドラマにハマったらしい母さん。

一昨日ぐらいから、いつも俺が帰ってくる時間に、ソファに座って見てる。


なんか、主人公の職場の後輩の女性役の、元アイドルかなんだかが可愛いって言ってるけど…


俺はあんまり興味がない。



だから、パッパと普段着に着替えて、荷物を持って、自分の部屋に行く。




俺は基本、風呂は晩飯の後だし、晩飯もまだ時間がかかるだろうから……


なんたって、母さんがドラマに集中しちゃってるんだからさ笑



専業主婦であり、疲れている母さんがね、今は好きなドラマに夢中なんだから、息子である俺は、邪魔しないように部屋にこもっておくのが、恩返しってもんだよ。




ってことで、今日は、昨日の夜まで見てたアニメの続きを見ないと。



何気にずっと頭の中で、あの主人公だけプレイヤーである世界で、主人公がレベルアップしていくアニメの続きが気になってたから。


ちなみに、俺は、あの召喚魔法を扱うA級ハンターの声優さんが好きだ。


声が可愛すぎる。



どうやら、もうシーズン1では出番ないみたいだけど、シーズン2だと、出番が多い期待がデカいからな…


もちろん、原作のどこまでやるかによるけども。



あぁ〜楽しみ!


早くベッドに寝転がって、アニメを……





ガチャ




??: あ、おかえり〜○○。



○○: ただいま。



??: 机の上にあったチョコ、食べてるよ。パクッ



○○: ………





まずは、荷物を置こう。


カバンを机の上に置いて、教科書類を元の位置に戻して、宿題で使う分は、机の上にそのまま置いておいて…




さて。





○○: さっさと出て行け。




"和"




和: え〜なんでよぉ。別に良いじゃん。パクッ



○○: 良くない。ここは俺の部屋だ。



和: だから良いんじゃん。



○○: お前はどっかのガキ大将かっての。



和: 勝手に性別を変えないでくださ〜い。私は女の子なので。



○○: ふっ笑、女の子ねぇ。部屋の主の許可なく、部屋に入り、ベッドに制服のまま寝転がり、主のお菓子を食べているヤツが、女の子?



和: なに、性別を疑ってんの?キモ。



○○: いや、そっちの方がキモいわ。今のこの状況から見ても。



和: あっそ。パクッ…モグモグ……んあ、無くなっちゃった。



○○: だから、早く出て行け!自分の部屋で寝てろ!





この、俺の目の前で、ベッドに寝転がり、食べ終わったお菓子の箱を、ゴミ箱に投げようしているヤツは…


"井上和"という、だらしない女だ。



幼稚園から小学校、中学校、高校とずっと一緒で、世間的に見れば、幼なじみと言うヤツなのだろうが、俺はそうは思わない。


ただの腐れ縁だ。




だから、俺は別に、和への優先順位が高いとかはなく、なんなら、同時に遊びに誘われたら、速攻で他の友達の方を選ぶ。



でも、どうやら和は違うらしく、ずっと俺に付きまとってくるというか、今みたいに先回りして、俺の部屋でくつろいでたりする。


律儀に靴も靴箱に隠してな。



邪魔だって、何度も言ってるのに。



和は構わず来るし、母さんも和のことが好きだから、普通に家に入れてしまうし、ほんとどうしようか、と思ってる。




あと学校では、中学の頃に、普通に和と喋ってると、男子共からの視線もウザくなったり、ハブられたりすることもあったから、和には、少なくとも学校では話しかけるな、と言った。


そしたらどうだ、確かに話しかけることはないけど、今日みたいに、みんなにバレないように袖を引っ張ったり、じっと見つめてきたり。



マジで、かまってちゃんかよ。





○○: はぁぁ……



和: 幸せが逃げていきますよ〜



○○: お前が出て行けば、その幸せも戻ってくんだけどな。



和: とか言いつつ、男の力に任せて、私を無理やり部屋から追い出さないのは、何でなのかなぁ?笑



○○: はぁ?………ったく。





バカかよ。


男の俺がそんなことしたら、どうなるか分かったもんじゃない。




ほっといて、アニメ見よ。





○○: ……



和: ねぇねぇ、今日は何見るの?昨日の続き?





テレビでサブスク開いて……っと…



にしても、テレビ台の上にある、フィギュア。


いつ見ても良いなぁ。

大金はたいて買った甲斐があった。





○○: ……



和: あれ?11話?昨日見たの、6話だったじゃん。



○○: ……



和: えぇ〜7話からにしてよぉ〜



○○: うるさい。



和: マジで、ネタバレになるからさ〜



○○: そんなの知るかっての。ネタバレされたくないなら、さっさと出て行け。家に帰って自分の携帯やらテレビで見ろ。



和: 嫌だ。ここで見るから。



○○: なら諦めろ。あとうるさくするな。



和: お願い〜7話からぁ〜



○○: 無理。



和: くっ……だったら!



○○: おいっ!



和: テレビの前を塞いで…………あっ…





ベッドから立ち上がり、俺の前に回り込んだ和は、パッと俺の方を振り向いた。



何となく、ベッドから跳ぶように立ち上がった時点で、嫌な予感はしていたのだが、和の「あっ」という声と同時に、その嫌な予感が的中したことを知った。





○○: はっ…





俺の限定フィギュアが……





ドンッ




バキッ





嫌な音、聞きたくない音と共に、目の前で起こったことを、脳は目と耳で情報だけは得るが、俺の脳はそれを認識しない。



いや、正確に言えば、認識したくないのだ。


俺の心が。





和: ご、ごめん……



○○: 嘘……だろ…………





俺は、和のことなんか視界に入れず、体が無惨に折れ、破片が飛び散ってしまったフィギュアを、両手に持ち上げる。





○○: ………



和: そ、その………私が同じやつを買ってあげるからさ!



○○: ……もう売ってない。



和: じゃあ、新しいのを…



○○: ………



和: …は、ダメだよね……じゃあ、私が直す!元通りに!



○○: ………こんなに破片が飛び散ってんのに、できると思ってんのか?



和: ………



○○: ………マジでふざけんなよ……



和: ほんとごめん……



○○: ……



和: ……



○○: 絶交だ。



和: え……



○○: もうお前の顔なんか見たくない……一生、俺と関わんな!!!



和: そ、そんな……




ドサッ…



















「一生、俺と関わんな!!!」



「そ、そんな……」




ドサッ





○○の言葉に絶望した和は、膝から崩れ落ちる。




○○と……絶交?



一生、関われない……


一生、喋れない……


一生、顔も見れない……




い、嫌だ……そんなこと……




絶望の底に叩き落とされても、希望の光を探すために、和は顔を上げる。



しかし……





「っ…」





その先にあったのは、大事な幼なじみの憤怒した顔であった。





「……出てけよ。」



「……」



「さっさと出て行け!!!」





発する言葉を見つけることができず、和はふらふらと立ち上がる。





「……」





そして、青ざめた顔のまま、部屋を出て、家を出て。



すぐ近くにある自分の家に帰り、部屋にこもった。





「……どうしよう………私、このまま○○と……グスッ」





その日の夜、和の瞳からは、止めなく涙が流れていたのだった。













3日後





ガラガラ




「今日も始めるぞ〜学級委員、号令。」



「……」





教室の扉を開けて入ってきた先生の言葉が、教室に響く。



が、学級委員の凛々しい声は返って来ない。





「おーい、井上。号令。」



「あっ、すみません…起立。」





名指しでの呼び掛けで、学級委員である和は、自分の言葉が必要だと気づき、謝りつつも暗い表情のまま、言葉を発する。





「礼。」




『お願いします。』




「はーい。」



「着席。」




ガタガタガタガタ




「………」





変わらない暗い表情。



このことからも分かる通り、和は3日たった今でも、未だに○○と仲直りすることができず、なんなら、話すことさえも、○○の顔を見ることすらもできなかった。




もちろん、和は仲直りをしたい。


だから、教室の後方に座る○○の方を見ようともしたし、話しかけようともした。



でも、あの時の、○○の怒った表情が、頭の中に思い起こされてしまい、和はそれを途中で断念してしまう。





「はぁ………」





どうしたら………











放課後





「……」





学校からの帰り道。



和は、進む道に伸びる自分の影を見ながら、○○のことを考える。




○○は、私の幼なじみで大切な親友。


幼稚園から今までずっと一緒で、家が近いこともあり、仲良くしていた。



最初は、ほんと家が近いだけのヤツだったんだけど、近くにいるうちに、段々と○○と一緒にいるのが心地よくなって行って。


中学1年の二学期に入った時に、○○から学校では話しかけるな、って言われた時は、めちゃくちゃ傷ついたけど、学校以外では嫌そうな顔をしながらも、ちゃんと話してくれたから、それで良かった。


もちろん、学校でも話したいから、私はずっと視線を送ってみたりとか、ちょっかいをかけてみたりはしてたけど。





「……絶交か…」





でも、それはこれまでのと比にならない。



○○の大事な物を壊してしまった私が、100悪いのは分かってるし、○○があんなに怒るのも分かる。



だって、○○にとっての大事な物があのフィギュアだったように、私にとっての大事な物である○○から貰ったぬいぐるみが、誰かに壊されたら、その誰かは絶対に許さないもん。


たとえ、お母さんやお父さんでもね。



だから、分かる。



けど………




私は仲直りをしたい。


また、前みたいに○○と一緒の空間にいて、喋って……



できれば、笑い合いたい。





「……グスッ」





と、込み上げてきた涙を拭いながら、歩いていると…





「あら、和ちゃん。おかえり。」



「えっ……」





前方から、聞き馴染みのある声で話しかけられ、パッと顔を上げる。





「って、泣いてるじゃない。」



「おばさん…」





顔を上げた和が、涙を流していると分かった瞬間に、○○の母は、心配そうな表情で近づく。





「どうしたの?」



「い、いえ……なんでもないです…」



「高校生の女の子が、何もないのに泣くわけないでしょ。私には、相談できない?」



「そんなこと………」



「………もしかして、○○が何かした?」





和の表情から、言葉から、○○の母はそう推察し、尋ねる。





「っ…ち、違います…」



「ふふっ笑。相変わらず、和ちゃんは分かりやすいわね。」



「……」



「それで、うちのバカ息子が何かやっちゃったの?」



「……ほんとに違うんです。○○がやったんじゃなくて、私が………」



「……話してみなさいな。」



「……」



「こんなに可愛い和ちゃんが、そんな悩んだ表情をしてるなんて、もったいないんだから。私が解決してみせるわよ笑」



「……分かりました。」





○○の母の暖かい言葉を聞き、和はポツリポツリと事情を話し出した。









「なるほどね。確かにそれは、○○も怒るわ。だってあのフィギュア、あの子が貯めてたお小遣いを全部使って買ったやつだもん。」



「ですよね……」





○○があまり散財をしないタイプであり、部屋の中にフィギュアや目に入るグッズが、あの壊したフィギュアだけだったことから、それの貴重さを改めて実感し、和の瞳からは、より一層の涙が零れ始める。





「あぁ、ごめんごめん、和ちゃん。」



「グズッ…いえ……私がほんとに…ヒグッ…一方的に悪いので……グスン」



「ほらほら、ハンカチで拭いて。せっかくのあの小顔な女優さんにも劣らない可愛いお顔なんだから。」





○○の母は、自身が持っていたハンカチで、和の涙を拭いつつ、言葉をかける。





「……和ちゃんはさ。○○と仲直りしたい?」



「……はい……グスッ…仲直りしたいです。」



「じゃあ、こういうのとか、どうかな?」










その日の夜





「よし。」





和の姿は、自宅のキッチンにあった。





「材料は、おばさんと一緒に買ってきたし、あとは明日の本番に向けて、ひたすら練習を積むだけ。」





買い物袋の中にある、卵や鶏肉、玉葱、ケチャップと言った材料を見つつ、エプロンを着る。





「頑張るぞ。」





そうして、和は○○の大好物である料理を作り、○○と話す機会を設けることで、仲直りをしよう作戦のために、料理の練習を始めたのだった。




ただ、○○から、だらしないと称されるように、和はそこまで生活能力がなく、料理もそんなにしてこなかったため……





「……痛っ………」





包丁で、左手の人差し指を少し切ってしまう。





「…………絶対に○○と話すんだ。」





が、○○と仲直りをしたいという気持ちを胸に、和は練習を続けたのだった。











翌日


放課後





「ふぅ………」



「和ちゃん、大丈夫?」



「…はい。頑張ります。」



「うん。」





○○が帰ってくるよりも先に、○○の家へと走ってきた和は、ちゃんと脱いだ靴も靴箱の中に隠して、キッチンに立っていた。



そんな和を、ソファに座っている○○の母は、見ていたドラマを止め、暖かく見守る。





ガチャ




「っ!!!」



「帰ってきたみたいね。さて、和ちゃん。本番よ。」



「はい。」





玄関の扉が開かれる音が聞こえ、和は気合を入れ直す。




そして…




「ただいま………っ…」





リビングに顔を出した○○は、キッチンにいる和を見た瞬間に、すぐに体の向きを変えて、自分の部屋の方に向かおうとしたが……





「○○。そこに座りなさい。」



「………」




母の言葉を聞き、渋々といった感じで、リビングに戻り、テーブルの席に着いた。





「……なに?」



「いいから、座っといて。」



「………分かった。」





和の方に目を向けることもなく、○○は自分の携帯に視線を落とした。





「ふぅ……」





それを確認した和は、もう一度、深呼吸をして、料理を始めた。







「………」





野菜を切る音や、フライパンで炒める音、卵を溶く音などが、リビングに響く中、○○は傾きかける意識を、一生懸命に、両手にある携帯の中に向け続ける。



○○の母は、その様子を背中で感じながら、少し音量を小さくしたドラマを見て、成功を願う。







そして、とうとう和の手が止まった。





「………」





最後の仕上げをし、ケチャップを冷蔵庫にしまった後、スプーンと共に、完成した料理を、○○の前に運ぶ。





コトン




「………」



「………一口だけで良いから、食べてみて。」



「………」




携帯の向こうに見え、匂いも感じる、自分の大好物。




○○は、色んな感情が絡み合う中で、携帯を横に置き、初めてその料理と…



テーブルを挟んで奥に立つ、和の手元を見る。






"ごめんなさい"






人差し指に絆創膏………






「…………いただきます。」





○○は、スプーンを手に取り、オムライスの文字が書かれていないところを掬い上げ、口に運ぶ。





「パクッ……モグモグ…………」





「…どう……かな…」






「………指、切ったの?」



「え、あ……その……私、料理下手だからさ……ごめん。美味しく作れなかった…よね……」






「……いや……美味かったよ。」



「っ………そっか……」





その○○の言葉を聞き、和はほっとする。



そして、すぐに言葉を続けた。





「○○。ごめんなさい。大事な物を壊しちゃって。」





和は頭を下げる。





「……………和。」



「………」



「顔、上げろよ。」





そう言われ、和は、ゆっくりと、顔を上げた。





「っ……」





そこには、この4日間、見ることのなかった○○の顔があり、その表情は最後に見たものとは違っていた。





「その……こっちこそ、ごめん。言い過ぎた。」



「いや、言い過ぎたっていうか………あれぐらい言われて当然のことを私は……」



「でも……別に俺も……和とそんな……絶交は……」





2人は、お互いに言葉に詰まりながらも、自分の気持ちを伝えようとする。




そんな中……





「ふっ笑。じゃあ、仲直りしたら良いじゃない。○○もそう言うってことは、絶交宣言を取り消したいんでしょ?」





ソファに座る○○の母が、ドラマを止めて、2人の方を見て、そう提案する。





「……」



「………だな。和。仲直りしよう。」



「っ…○○……ごめん…」



「もう、謝んなって。それよりも、このオムライスが美味くないって?お前、味見してないのかよ笑」





未だに暗い表情の和に、○○は笑顔で言う。





「いや、味見はしたけどさ…」



「だったら、お前の舌がおかしいってか、自分で味見してOKだったから、俺に出してくれたんだろ?なら、美味くないわけがないだろ笑」



「そういうわけじゃなくて……私にとっての美味しいと○○にとっての美味しいが違うってことも…」



「そりゃ人によって、美味しいの基準は違うだろうけど……幼稚園から一緒の幼なじみで、よく一緒に飯を食ってたのに、好みがまるっきり違うってことはなくない?」



「……」



「まぁ良いから、改めて食ってみろって。」



「……じゃあ、食べさせてよ。」



「は?」





突然の和の要求に、○○の表情が固まる。





「いや、別のスプーンを持ってきて、自分で食べ…」



「嫌だ。あ〜」





口を開けて待つ。





「………はぁ…」





どんな状況でも、和は和だな、と思いつつ、○○はもう一度スプーンを手に取り、オムライスを大きく掬い取る。





「笑、しっかりと口を空けとけよ。」



「え、ちょっ、それは多過ぎじゃ…」



「あ〜笑」





その後、和は口の周りをベッタリと汚しつつ、自分で作ったオムライスを食べ、美味しいと言ったのだった。










「さて、アニメ見るか。」



「何の?」



「そりゃもちろん、アレだよ。」



「また?」



「5周目に入ったんだよ。」



「ふ〜ん。」





テレビのリモコンを手に取った○○と、ベッドに寝転がりながら、○○の横顔とテレビの画面を見る和は話す。





「えーっと……これだ。」



「ん?……7話……」



「見るなら静かにな。」



「っ………ありがと笑」



「……何がだっての。」



「ほんと○○は優しいんだからぁ〜」




ギュッ





後ろから○○の肩に顎を乗せ、腕を体に回し、抱き締める和。





「ちょっ、お前マジでやめろって//」



「なに、照れてんの?笑」



「はぁ?そんなわけあるかって。ってか逆に聞くけど、俺に絶交宣言されて、学級委員の仕事を忘れるぐらいに落ち込むなんて…」



「……」



「お前、俺のこと好きなの?」





その○○の言葉が、和の耳から入り、脳内へアプローチする。




結果……





「は、はぁ?////そ、そんなわけないでしょ!!」




グググ




「イタタタッ!離せって!」



「このぉ〜///」





真っ赤に頬と耳を染めながら、○○にチョークスリーパーをかける和であった。






でも、いつかは……



ね///







End

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