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ただ守りたい… Background Story 2





「私から見える世界はモノクロだった。」









小さい頃の私を抽象的に簡潔に表すならば、この表現が妥当だろう。




私はこの世界の何もかもがつまらなかった。






だって、嘘まみれだったから。






この世界には嘘がありふれている。



小さい頃から、人の表情を見て何となく嘘をついていると分かってしまう私は、すぐにそれを理解した。




家とその周辺地域、そして学校という小さな空間と、テレビの向こう側に広がる華やかな空間。


幼い私にとっての世界とはそのぐらいなもので、その世界にいる大人も子供も……心優しく暖かい両親も、みんなが嘘をついていた。







嘘とは良いものも悪いものもある。



両親や一部の大人がつく嘘は良い嘘だと思った。




でも、子供がつく嘘は悪いものばかりだった。



願望


嫌がらせ


罪の擦り付け



嘘をつく表情は様々だが、子供が嘘をつく要因は大体これだろう。



子供というのは、自分本位であり、自分が優位に立つために、自分のやりたいようにするためにと、覚えたての嘘…


いや、人間が本能的に覚えているのかもしれない「嘘」という手段を用いる。




と、同じく子供であった私は思っていた。






実際に、小学校に入ったばっかりの頃、母親に言われて仲良くしていた同級生の女の子がいたのだが、その子は鉛筆を忘れたから貸して、と言い、私が持っていた可愛らしいキャラが描かれた鉛筆を持って行く。



そして、休み時間にその子の机の上を見ると、私が貸した鉛筆以外にも鉛筆があった。





やっぱりな、と思ったよね。



鉛筆を忘れた、という時点で嘘だと分かったのだが、案の定、嘘だった。


おそらく、母親が買ってきた私の鉛筆が羨ましかったのだろう。





他にも、放課後に学校のブランコにその女の子と並んで座っていると、その子がブランコを回転させて、鎖を絡まらせた。



翌日、学校で先生から、ブランコの件でその子が問い詰められた時、突然、私の方を指さして、命令されてやりました、と言った。





この時は思わずため息をついてしまったよ。


ちなみに、後から職員室に私もその子も呼ばれて、話を聞かれて、結局その子の嘘は先生に見破られて、その子は泣き、私はその子と縁を切った。






まぁ、こんな風に、世界は嘘でありふれていると分かり、実際に嘘の被害を被ってしまった私は、人の顔を見なくなり、人と関わらないようにした。




人の表情を見てしまうと、その人が嘘をついているかどうかが分かってしまうし、人と関わらないようにすれば、嘘をつかれることもなく、面倒ごとに巻き込まれることもないだろうと思ったから。





その結果、私から見える世界はつまらなくて、色のない光と影だけが支配する世界にしか見えなくなったんだ。





だから、学校に行っても、黒板か、自分の机の上に広げられたノートと教科書、あと窓の外に広がる風景しか見なかった。



たとえ、先生が話していても、先生に当てられても、先生の顔は見なかったし、他の子に話しかけられても、顔を見ることはしない。




それにより、私は周りから暗い子、異質な子と評価された。





となると、まぁお察しの通りだ。




上履きは隠されるわ、お弁当はひっくり返されるわ、ノートは破られるわ、で、散々だった。





でも、別に私は何もしなかった。




なぜなら、人と関わりたくなかったから。





何か抵抗することもなければ、誰かに助けを求めることもしない。



やられるがままにやられて、両親にも心配をかけないように、いつも通りを振舞った。





逆に、小学3年生の頃のいじめっ子の同級生達は、凄いなと思ったね。


小学1、2年生の時は、私が気味悪かったのか、何もしなかったのに、その子達は勇気を出して、私にちょっかいをかけ始めたからさ。


それで、私が何もしてこなくて、やられるがままだったから、調子に乗ったみたいだし。





まぁとにかく、小学3年生になってからは、そういうこともやられるようになったけど、私は変わらず、つまらないな、と思いながら、白黒の世界の中にいた。











でも、そこに強い光が差し込んだんだ。




その光は、私の世界をどんどん色付けていき、気づいた時には、色鮮やかな世界の中に私はいた。









小学3年生の梅雨が明けて、夏休みが迫り、教室がどこか騒がしくなる中、私は変わらず窓の外を眺めていた。



昼休みになり、一段と騒がしくなる教室の端で、私が鞄からお弁当を取り出すと、早速例の子達がやってきて、私のお弁当箱を手に取った。




すると、教室の扉が勢いよく開かれ、耳を塞ぎたくなるほどの大声が、教室の中に響いたんだ。






「たのもう!!!!」






その声に驚いて、扉の方を見ると、女の子が大きな口を開けており、その後ろに男の子がいるのも見えた。




私も、いじめっ子達も突然の出来事に呆気にとられて、固まっていると、その女の子とその子の後からついてくる男の子は、私の机まで来て、こう言った。






「私にはすぐに分かったぞ!君達が噂のいじめっ子だな!!」






その言葉を聞き、いじめっ子達は慌て始め、否定したり逆に、その女の子に罵声を浴びせたりしたのだが、女の子は強気な姿勢でいじめをやめろ!っと言い続け、とうとういじめっ子達は、私の前からいなくなった。





そして、女の子は言ってくれたんだ。






「もう大丈夫だよ。」






私の心を照らすような笑顔で。






それからと言うもの、その女の子と男の子は、朝の時間や、昼休み、放課後になると、勢いよく教室の扉を開けて、私の机に来て、私を無理やり連れ出していく。




連れ出した先では、永遠と女の子が私に話しかけてきて、最初はずっと無視してたのだが、女の子の諦めの悪さに折れて、その質問に答えた。




その質問ってなんだっけ…



確か、得意料理は?だったかな。




いや、今考えると、小学3年生にするような質問じゃないと思うんだけどね。



一応、母親と一緒に作ったことがあった、ハンバーグって答えたはず。




ちなみに、男の子はその様子を見ながら、微笑んでいたのを強く覚えている。








そして、段々と心を開いていった私は、2人と一緒に過ごす時間が増えていき、気づいた時にはもう…











「私から見える世界は様々な色で溢れていたんだ。」






End

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