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ただ守りたい… 181話
バレンタインが終わり、次の土曜日のカフェBINGO!で、店長や珠美、麻衣、沙友理と共に、奈々未の誕生日を祝った○○。
いつも通り、心を読まれて、○○がダメージを受ける場面もあったが、ケーキを皆で食べ、プレゼントを渡し、と楽しい時間が過ぎて…
沙友理: なんで、私の出番を飛ばしたんや!!
という声もありつつ、奈々未の誕生日は恙無く終わった。
そしてさらに、1週間が経ち、3月になった。
○○: よし、行くか。
日奈子: うん!
○○: 理々杏は?来る?
理々杏: もちろん笑
昼休みになり、椅子から立ち上がった○○は、隣と後ろの席の2人、あと教室の中を見渡し、いつもの面々も席を立ち始めたのを見る。
○○: 飛鳥、春時、行こ。
飛鳥: うん。
春時: 今日は何弁当にしようかな〜
○○: 笑、ビーフorチキン?
春時: じゃあ、フィッシュで笑
日奈子: お魚!!
という何でもない日常の会話をしつつ、教室の後方まで行き、扉に向かって左に曲がる。
すると、教室の中央から美月が…
美月: ニヤニヤ
○○: え、なんでそんなにニヤニヤしてるの?
ニヤニヤとしながら、やって来た。
美月: 別にぃ〜笑
理々杏: 絶対になんかあるじゃん笑
飛鳥: ってか、史緒里がいないってことは、あんたも生徒会で行かなきゃなんじゃないの?
すぐ左側で爆睡している祐希の隣の席が空いている様子を見て、飛鳥が言う。
美月: 笑、もう少し待っててね。
○○: もう少し?
日奈子: はっ!もしかして、サプラーイズ!!とか?!
美月: まぁ、そうかもねぇ〜笑
グイッと、○○に近づき、顔を見る。
○○: え、僕に関係があるの?
美月: ふふっ笑
飛鳥: …美月がニヤニヤ…嬉しい……○○にサプライズ……史緒里がいない……生徒会の集まり………あっ…
点と点が繋がり、飛鳥は美月がニヤついている理由に気づく。
春時: なんか分かったのか?
飛鳥: うん。
理々杏: 教えてよ、飛鳥。
○○: マジでお願い。今、何故かは分からないけど、嫌な予感がビンビンにしててさ…
と、○○が言った時…
ピンポンパンポーン
放送が始まった。
美月: ニヤッ
飛鳥: 笑、やっぱりね。
春時: なるほど笑
理々杏: この流れは…
日奈子: まさか?!
○○: 嘘でしょ…
「2年1組深川○○君、生徒会室に来てください。繰り返します、2年1組深川○○君、生徒会室に来てください。」
ピンポンパンポーン
美月: ってことで、○○!行こ!
ギュッ!
満面の笑みで、美月は○○の腕をホールドする。
○○: ……いや、先に購買でお昼ご飯を買ってこないとだから、美月は先に…
美月: 大丈夫!○○のお弁当は作ってきたから!
そう言って、後ろ手に持っていた2つの弁当袋の1つを、○○の胸に押し付けた。
飛鳥: 用意周到じゃん笑
春時: これは、前々から決まってたパターンだな。
○○: くぅ……先に教えといてくれたら、心の準備ができたのに…
美月: そしたら、サプライズにならないじゃん笑
日奈子: そうだよ!サプライズはちゃんと隠しとかないとなんだよ!
○○: サプライズにする必要はないでしょ。
美月: まぁまぁ笑。とりあえず、受け取ってよ。朝から頑張って作ったから。
○○: ……笑、それはありがと。
感謝を伝えて、○○は美月の手作り弁当を受け取る。
理々杏: にしても、○○は嫌がり過ぎじゃない?もしかしたら、普通に昼食会の可能性も…
○○: それは絶対にない。
春時: ないね。
飛鳥: ありえない。
日奈子: なーい!!
○○に続いて、この状況を一緒に何度も経験している春時、飛鳥、日奈子も、重ねて理々杏の言葉を否定した。
理々杏: じゃあ、そうなんだね笑。○○、頑張って。
○○: ……はぁ……大変なのが来ないことを願います…
理々杏: どうなの?
これから○○に伝えられる仕事を知っているはずの美月に、皆の視線が集まる。
美月: う〜ん……内緒!とにかく、行けばわかるからさ。
グイッ
○○: ちょっ……はぁ……みんなによろしく伝えといて!
春時: おう笑
日奈子: はーい!!
飛鳥: ……って、祐希は?
美月: あ!そういえばそうじゃん!私が連れていかないとだ!!
先に生徒会室に向かった久保に頼まれていたことを思い出し、美月は○○の腕を引っ張るのをやめて、机に突っ伏して寝ている祐希の元へ。
美月: おーい!祐希!起きろ〜!
祐希: ん……zzzz
もちろんのこと、それぐらいでは祐希は起きない。
美月: ほらほら、起きろ起きろ!
ペチペチ
次は、柔らかい頬を、軽く高速で叩く。
祐希: ……うんっ……zz
パシッ
瞼を開けることもなく、夢の世界に立ったままの祐希に、美月の手は弾かれた。
美月: このぉ〜
ガシッ
両肩をしっかりと掴み、大きく揺らす。
祐希: …んもう……な〜にぃ?……
それでようやく、祐希の目が半分開いた。
美月: 祐希!生徒会室に行くよ!あとお昼ご飯!
祐希: う〜ん?……
しかし、意識の完全覚醒には、ほど遠い。
○○: はぁ……
そんな様子を見て、○○は美月と祐希のそばに寄る。
○○: 祐希、お腹空いてないのか?
祐希: ……
○○の言葉を聞き、祐希は自分の満腹度を意識する。
祐希: グゥゥ……あっ!お腹空いた!!!
するとお腹が鳴り、祐希の目が完全に開いて、それと同時に、カバンの中から昼食のパンを取り出す。
理々杏: 意識したら、お腹が鳴るって笑
春時: まぁ、そんなもんだから、祐希は。
日奈子: 私もお腹空いた!!
飛鳥: 分かったから。じゃ、祐希も起きたことだし、私達も行くわ。
○○: うん。
美月: なら、私達も生徒会室にレッツゴー!!
祐希: おー!!!
日奈子: おー!!!
理々杏: いや、日奈子は生徒会室じゃないからね笑
という感じに、○○、美月、祐希の3人は生徒会室に、飛鳥、春時、理々杏、日奈子の4人はまず購買に向かったのだった。
生徒会室前
○○: はぁぁ……
美月: もう、ここまで来たんだから、元気に行こうよ。
祐希: そうだそうだ笑
○○: いや、ずっとどんな仕事を振られるのか、ってことを考えてたんだけどさ、全く思いつかないわけ。
美月: うん。
○○: 近くにある行事と言えば、卒業式だけど、あれは生徒会主導ではないから、こっちにまで仕事が回ってくる可能性は低い……
祐希: うんうん。
○○: となると、マジで予想がつかないから、ほんっとに不安なの。
美月: うん、まぁ、とにかく入ろう。
祐希: 入ろう!
ガチャ
○○の不安を聞き流し、ドアノブに手をかけた2人は、扉を開いた。
美月: ちゃんと連行してきたよ〜
祐希: お昼ご飯!!
○○: 失礼します…
そんな3人を迎えたのは、生徒会の面々。
久保: 笑、ありがと。
田村: あっ!!○○君!!!
美月: まゆちゃん!○○は渡さないからね!!
書記のデスクから、身を乗り出した田村に、美月は牽制を放つ。
田村: えぇ〜仲良くするぐらい良いじゃん!
美月: まゆちゃんは、仲良くするの距離感がバグってるから、危険!
田村: そうかな〜?
隣の席の賀喜や、周りに座っている役員達を見回して聞く。
賀喜: 確かに、かなり近いですね。まゆたん先輩は。
璃果: 近〜い笑
久保: めっちゃ近い。
美月: ほら笑
田村: そうだったのか!
衝撃を受けたようで、田村は目を見開いて固まった。
久保: よし、祐希もお腹が限界みたいだし、隣に移ろうか笑
固まった田村から目を離し、○○の隣でお腹を擦りながら、パンをにぎにぎしている祐希を見て、笑いながら久保が言う。
灰崎: だね笑
璃果: 祐希、行こ。
祐希: うん!
相方に呼ばれて、祐希は○○の隣から離れて、会計のデスクの近くに寄る。
○○: 笑、成長を感じる。
美月: 祐希の?
○○: うん笑
大園: もはや親ですね。さ、宮瀬君。中断して昼食を食べましょう。
宮瀬: はい……(この人が深川○○……前生徒会の役員達からも、今の生徒会役員達からも、絶大な信頼を置かれている人物……どんな人なんだ…)
田村: かっきー行くよ!
賀喜: はい!まゆたん先輩!
庶務のデスクで仕事をしていた大園と宮瀬、書記のデスクに座っていた田村と賀喜も席を立つ。
早川: ……
最後に、監査のデスクに黙って座っていた早川も席を立ち、全員が隣の会議室に入った。
そして、久保の言葉に続けて、皆で手を合わせて挨拶を言った後、昼食を食べ始め、しばらくしたところで、○○は本題を切り出した。
○○: それで、僕を呼んだ理由は?
久保: ん、美月から聞いてないの?
○○: うん。内緒って言われた。
久保: そっか笑
美月: だって、そっちの方が面白そうじゃん笑
○○: 面白そうって……全く……
灰崎: 笑、相変わらず大変そうだね。
田村: 頑張れ〜笑
大園: 笑
前生徒会の時から、周りに振り回される○○を見ていた3人は、その○○の表情を見て笑う。
久保: じゃあ、○○に頼みたい仕事について説明したいんだけど……ここは、謙心君と桃子ちゃんにお願いしようかな。
○○: え、2人が担当なの?
驚きと共に、2人の方を見る。
灰崎: 笑、そうだね。僕達2人が担当する案件。
大園: これでも、何の仕事か予想つきませんか?
○○: 灰崎君と大園さん………はっ、もしかして、委員会関連?
かなり前、体育祭の打ち上げの時に決まった、委員長達から○○への仕事を、灰崎と大園が管理する、ということを思い出した○○。
灰崎: 正解笑。今回もそれだよ。
○○: いや、アレはあくまで前の委員長達との話なんだから、もう無効でしょ。
先日の生徒総会で、新しい委員長達が発表され、各委員会で代替わりが行われた以上、自分にその仕事を受ける必要はないんじゃないか、と○○は言うが、灰崎は笑顔で言葉を返す。
灰崎: でも、依頼自体は前の委員長達からだし。
○○: う〜ん………って、委員長'達'?
灰崎: あ、気づいた?笑
大園: 今回はお2人の元委員長から、依頼が来てます。
○○: マジか……
灰崎: でも、内容はかなり優しいというか、楽だったから、安心して。
○○: ………灰崎君と大園さんを信じるよ?
灰崎: どうぞ笑
大園: はい。
という3人のやり取りを見ていた、他の役員達。
美月: なにそれ!私も○○に信じてるって言われたい!!
田村: 私も!!
久保: いや、美月に関しては、○○にサプライズをしたいとか言って、仕事の内容を隠してたんだから、信用もクソもないよ。あと、まゆちゃんは難しいかな笑
美月: ガーン
田村: え〜なんで!
賀喜: 大丈夫ですよ、美月先輩、まゆたん先輩。私は信じてるので。
美月: …かっき〜!!
田村: わっ!大好き、かっきー!
ギュッ
賀喜: えへへ笑
久保によりダメージを受けた美月と田村を、優しく慰めた賀喜は、その2人から抱き着かれて幸せを感じ…
璃果: ふ〜ん。○○君って、普段からもあんな感じなの?
祐希: モグモグ…うん!…モグモグ
璃果: へぇ〜
早川: ……パクッ…
宮瀬: ……
初めて同じ空間で昼食を食べ、灰崎達と会話をする様子を見た璃果は、隣でバクバク食べてる祐希に質問を投げ、早川と宮瀬はただ眺めていた。
○○: 笑、じゃあ肝心の、誰からの依頼かってことを聞こうかな。
灰崎: 了解。まず、1人目はね……
放課後
図書室
○○: まさか、鈴木先輩から依頼が来るとは思ってませんでした笑
鈴木: あら、そうですか?笑。体育祭の打ち上げの時には、私もよろしくお願いします、と言っていたはずですけど。
昼休みに灰崎と大園に言われた、委員会からのお手伝いの依頼。
その内容通りに、○○は放課後、図書室で、元図書委員長の鈴木絢音と並んで、返却された本を本棚に直す作業をしていた。
ちなみに、今日は本来なら風紀委員の見回りがあるのだが、先に鈴木ともう1人の元委員長が、元風紀委員長と新委員長に根回しをしており、○○の見回りは他の風紀委員が代わりにやることになっていた。
○○: 確かにそうですけど……
鈴木: 笑、その顔は、なぜこんな仕事に僕を呼んだんだろう、って顔ですね。
床に置かれたカゴの中の本を1冊、手に取りつつ、笑顔で言う鈴木。
○○: あっ、いえ……別にそんなことは…
鈴木: そんなに怯えなくても良いじゃないですか笑。私、深川君になにか怖いことでもしました?
○○: ぜんっぜん、してないです。ただ、ほんとに不思議で。
鈴木: そうですか笑。では、安心させるためにも、私が深川君に伝えたいことを、先に伝えちゃいますね。
○○: え、はい…
手に取った本を、決められた位置に戻した鈴木は、○○に向き直り、○○も作業を止めて、鈴木の方を見る。
鈴木: 深川君のことは、前にも言った通り、元会長達からよく聞いていて、実際に体育祭や文化祭での動きを見て、私は深川君のことを高く買っていますし、信頼もしています。
○○: …ありがとうございます。
鈴木: ただ、深川君には、秘密がありますよね?特定の少数の人々にしか教えられないような秘密が。
○○: …
突然の言葉に、○○は驚きつつも表情には出さない。
鈴木: その事については、別に何も言わなくて良いです。私もその秘密について聞くつもりもありませんし。でも、その秘密の存在を、私は懸念しているんです。
○○: 懸念……ですか……
鈴木: はい。前に聞いたでしょう?深川君は乃木坂高校が好きか、と。
○○: …聞かれましたね。好きだと答えたはずです。
夏休み前の休日に、図書館で偶然、鈴木と会った時のことを思い出しながら、○○は答える。
鈴木: 私は、それを聞いて安心しました。なぜなら、深川君ほどの力があれば、学校自体をひっくり返すことも可能だからです。
○○: え、ひっくり返す?
鈴木: もちろん、物理的な話ではないですよ笑。あんな手やこんな手を使って、学校の機能を制御不能にしたり、思い通りに動かしたりってことです。
○○: そんなことできないですよ。僕なんかが…
鈴木: そうでしょうか?生徒会との繋がりも強く、教師陣や他の生徒からの信頼も厚い。更には、本人のスペックもものすごく高い。
○○: だから、できないですって。それに…
鈴木: それに、できたとしてもやらない、ですか?
○○: っ…
言おうとしていたことを、当てられ、○○は驚く。
鈴木: それを、学校は好きか、という質問で確認したかったんですよ。私の見る限りでは、その答えに嘘はなかった。だから、私は深川君が自らの意思でそんなことはしない、と断言します。
○○: あ、ありがとうございます?
鈴木: 笑、いえ。
笑みを浮かべ、ひと息と共に一瞬の沈黙が流れた後、鈴木は言葉を続ける。
鈴木: しかし、その深川君が抱えている秘密。これによって、深川君の思わぬ結果を産んでしまう……その秘密が元となる深川君の行動か、その秘密が呼び寄せた何かか、その秘密自体か、それは分かりませんが…
○○: ……
鈴木: 私は、それが学校を壊す可能性を、不安視しているんです。
2人の間に、再び沈黙が流れる。
鈴木: ふふっ笑。まぁとにかく、私としては、深川君に、そのことを心の中に留めておいて欲しいんです。
○○: ……分かりました。気をつけます。
鈴木: はい笑。では、私が深川君に伝えたいことは伝え終わったので、そのカゴの中の本を片付け終わったら、次のところに行って良いですよ。
○○: 了解です笑。にしても、鈴木先輩は、乃木高のことが大好きなんですね。
カゴの中から本を取りつつ、言う。
鈴木: 私は、この学校の雰囲気が好きなんですよ。暖かい雰囲気が。あと、蔵書数の多いこの図書室も。
○○: 笑、後者が主な理由なんじゃないですか?
鈴木: あ、バレちゃいました?笑
この今の乃木坂高校において、知識量と本への情熱がNo.1とされている、元図書委員長は、美しい横顔で笑った。
保健室
ガラガラ
○○: 失礼します。
養護教諭: あら、深川君。見回りでまた怪我でもした?
鈴木に見送られて、図書室を出た○○は、委員会からの依頼の2つ目のために、保健室に来た。
最近では全くなくなったが、去年は月1で保健室に来ていたことを懐かしく思いながら、扉を開け、養護教諭に迎えられる。
○○: いえ、今日は…
樋口: 日奈が呼んだんです!
設置されたベッドの1つに座っていた樋口が、元気に言う。
養護教諭: そういえば、そんな話を今朝聞いたわね。席を外した方が良いかしら?
樋口: 大丈夫ですよ!なんなら、先生にもいて欲しいです。
養護教諭: 分かったわ笑
樋口: ってことで、ここに座って。
養護教諭と樋口の前に、椅子が置かれ、○○は戸惑いながらも座る。
○○: あの〜一応、保健室の備品の確認作業のために、呼ばれたはずなんですけど…
樋口: そんなの、○○君だけを呼ぶ嘘に決まってるじゃん笑。今回、○○君に生徒会を通して、仕事をお願いしたのは、日奈が○○君と話したかったからだよ。
○○: ……なんでしょう。
先程と同じ流れということもあり、○○は真剣な表情を樋口に向ける。
樋口: その…話したいことは、珠美のことなんだけど…
○○: え、珠美…ですか。
予想外の名前が出てきて、驚く。
樋口: うん。
○○: ……そういえば、珠美と樋口先輩って仲良いんでしたね。
樋口: めちゃくちゃ仲良いよ笑。でね、珠美のことをちゃんと見てあげて欲しいの、○○君に。
真っ直ぐに○○の目を見て、樋口は訴え掛ける。
○○: そりゃ、珠美とはこれまでもこれからも仲良くしますけど……どういうことなんですか?
樋口: 笑、ありがと。○○君は知らないと思うんだけど、珠美ってね、この1年で何回か過呼吸を起こして、保健室にお世話になったことがあるんだ。ね、先生。
視線を向けられた養護教諭も、心配そうな表情で話し始める。
養護教諭: そうなのよ。確か、体育祭の直前と、あれは一学期の中間テストの前だから、6月か。あと、文化祭の直前に、珠美ちゃんが過呼吸になって、ここに連れて来られたの。
○○: そんなことが……というか、なんで知られてないんですか?普通だったら、周りに広まって、僕の耳にも入ってきておかしくないような……
樋口: それは……まず、体育祭直前に珠美が、人通りの少ない廊下で過呼吸になっているのを、日奈がたまたま見つけて、保健室に連れて行ったのね。
○○: ありがとうございます。
樋口: うん。それで、その時に誰にも言わないでって、珠美に頼まれて……でも、中学も一緒で仲良くて、バイト先も同じだって言う○○君には、珠美のことをそれとなく伝えとこう、って思って、あの打ち上げの時に咄嗟に言ったんだ。
○○: あの時に言ってた、ちょっと不安定、ってそういうことだったのか…
樋口: ごめん。もうちょっと良い伝え方があったと思うんだけど、あの時はほんとに急だったから、上手く伝えられなくて…
申し訳なさそうに、樋口は俯く。
○○: いえ…
養護教諭: そして、その後の6月と文化祭の直前の時は、過呼吸になった珠美ちゃんが、日奈ちゃんに連絡して、1人でいた珠美ちゃんを、日奈ちゃんがここに連れて来た。
○○: なるほど……
樋口: ……さっきも言った通り、これは珠美が秘密にしといて、って言ったこと。でも、日奈はもう卒業しちゃうからさ。もう、珠美のそばにいることができない。もちろん、積極的に会いに行くけどね笑
○○: …
樋口: だから、このことを○○君に話して、日奈の代わりに珠美をお願いしようと思ったんだ。
再び、強い眼差しで、樋口は○○の目を見る。
樋口: 改めて、珠美のことをよろしくね、○○君。
○○: はい!
力強い返事が保健室に響き、樋口は優しい笑顔で頷いたのだった。
○○: …ふぅ………
生徒会を通して頼まれた、委員会の仕事を終わらせた○○は、自分の教室に向かって特別教室校舎の中を歩く。
すると、前方から見慣れた2人が歩いてきた。
若月: あ、サボり魔だ笑
梅澤: ですね笑
○○: いや、若月さんが許可を出してくれたんでしょ!
元風紀委員長と新風紀委員長の2人組の息の合った揶揄いに、○○はツッコむ。
若月: 笑、図書委員会と厚生委員会の仕事は終わったのか?
○○: ……はい。たった今、終わらせてきました。
若月: ってことは、本来の見回りと同じだけの仕事はしたみたいだな笑
○○: ん?
梅澤: ちょうどついさっき、○○の代わりに見回りに行ってた美佑と瑠奈が戻ってきたんだよ。
○○: なるほどね笑。あれ、じゃあその2人は?美波について来そうなものだけど。
普段から梅澤の後をついて回っている林と松尾だったら、今も後ろで騒がしくしているだろうに、その姿が見当たらないことを、○○は不思議に思う。
若月: あの2人なら今頃、第1武道場に連行されてるところだろうな笑。みり愛によって。
○○: 笑、そういうことですか。ということは、今、美波は若月さんに連行されている途中ってことね。
梅澤: …あぁ。今から、あの2人とみり愛さんがいる武道場に行くんだ。
若月: 風紀委員会の活動報告書を、生徒会室に提出し終わったからね。
○○: 笑、頑張ってください。
笑顔で2人にエールを送る。
若月: なんなら、○○も一緒にやるか?
○○: っ!そんなそんな、皆さんの邪魔になるようなことはしたくないので…
梅澤: 邪魔だと?んなわけねぇだろ笑
○○: まぁとにかく、お疲れ様です、お先に失礼します!
訓練のお誘いをすぐさま断り、○○は2人の元から離れようとする。
若月: 笑、おう。おつかれ!
梅澤: チッ…またな。
○○: はい笑
と、誘うのを諦めた若月と、舌打ちをした梅澤に、○○は背を向けたのだが…
若月: …あ、ちょっと待て、○○。
○○: はい?
若月に引き止められる。
○○: なんです?
若月: あのさ、なぁちゃんにそれとなく、卒業後はどうするのか聞いといてくれ。
○○: なぁちゃんにですか?
若月: あぁ。アイツ、私や玲香にも進路のことを全然話してくれなくてな。仲が深い○○にだったら、教えるかもだからさ。
○○: ………了解です。聞いときます!
若月: 頼んだぞ笑
こうして、○○は2人と別れて教室に戻り、荷物を持って、家に帰った。
そして、乃木坂高校は、卒業式に向かって動いていく。
to be continued