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ただ守りたい… 111話

月曜日

昼休み


第二中会議室



ガラガラ



○○: 失礼します。


3年文委1: あ、深川君。ここに座ってもらえる?


○○: はい。



会議室に入った○○は、部屋の中にいる数十人の男達の視線を受けながらも、案内された席に座る。



3年文委1: えっと、改めてありがとう。手伝いに来てくれて。


○○: いえ。


3年文委1: うちの委員長は、結構めちゃくちゃなこと言ってきたりするから、困ったでしょ?


○○: ま、まぁ笑


3年文委1: 笑、代わりに謝っとくよ。ごめんね。


○○: そんな…


3年文委2: おいおい、先輩にそんなことされたら、余計に困るだろ笑


3年文委1: え、そ、そうだった?こういう役どころになるのが初めてだから、どう振る舞えば良いのか、分からなくてさ笑



その一言で、部屋の中が笑いに包まれる。



○○: は、はぁ…



ちょっとまだ空気が掴めないけど、良かった。

良い雰囲気のチームみたいだ。




5分後



3年文委1: よし、全員が揃ったし、会議を始めます。まずこのチームは、文化祭に向けて、第1から第3までの体育館の舞台装飾の作製と、機材配置、そして全体の飾り付けを行います。



うん、万理華先輩に聞いてた通りだ。



3年文委1: 先日の企画会議で、各体育館の飾り付け案はほぼ決まったので、それに合わせて動きます。ただ、部活動生がいるので、第1から第3体育館では、完成した物を運び込み、配置するだけです。



あれ、ってことは、どこで作業を…



3年文委1: よって、作業を行うのは第4体育館と、必要によっては、工業研やロボ研の部室も使うかもしれないです。



なるほど…


でも、そうなると第4体育館で部活をしている人達は?



2年文委1: はい!第4体育館で部活をしている人達は、どうなるのでしょう!



ナイスタイミング笑



3年文委1: 私達が使うのは、体育館の半分だから、活動自体はできます。まぁ、少し我慢してもらうことにはなりますけど、その代わりに、文化祭で使えるクーポンを配布することで、納得してもらったそうです。


2年文委1: クーポン…分かりました。


3年文委1: 他に、これまでの説明で質問のある人はいます?


1年文委1: あ、あの、作業は私達だけで行うのでしょうか?


3年文委1: 笑、大丈夫です。プロの方々を委員長が手配してくれましたので、時々手伝いに来てくれますよ。


1年文委1: ぷ、プロ…すげぇ…


3年文委2: 1年生は文化祭が初だもんな。これから驚くことがたくさんあるだろうから、覚悟しとけ笑


1年文委1: はい!


3年文委1: 他にはありますか?



その後も、いくつかの質疑応答が行われ…



3年文委1: よし、本当はこっち優先でやって欲しいんですが、部活だったりバイトだったりで、この曜日は放課後空いてないって言うのがある人は、今から名簿を回すので、その曜日にチェックを入れて行ってください。全部行けるって人は、そのまま回してもらっていいです。


「はい!」


3年文委1: その間にプロジェクターに体育館の完成予想図を映しときますので、各自確認しといてください。




5分後



3年文委3: 全員分、把握したよ。


3年文委1: 了解です。では、この時間はこれで終わりで、放課後までに、誰がどの体育館を担当するかを決めときます。放課後はまず、資材運びをやりますので、参加できる人は、終礼が終わったら、ジャージに着替えて、東門の方まで来てください。


「はい!」


3年文委1: じゃあ、解散。



ガヤガヤ



○○: ふぅ…


2年1組文委: まさか、○○君と一緒とは。よろしく。



同じクラスの文化委員が、話しかけてくる。



○○: うん、よろしく。


2年1組文委: こっちに参加すると、クラスの出し物の準備にはあんまり参加できないから、ちょっとアレだよね笑


○○: まぁ、そうだね笑。クラスの流れに入りにくくなるというか…今回は模擬店だったからまだマシだろうけど。


2年1組文委: これが演劇だったら、ほんと居場所が無くなったかも笑


○○: 笑、どうにか時間を見つけて、クラスの準備の方にも参加しないとだ。


2年1組文委: うん。頑張ろう。


○○: ってか、うちのクラスの文化委員は、今回どんな感じで振り分けられてるの?


2年1組文委: えっと、僕とあと3人が全体担当で、残り4人…○○君の周りで言うと、堀さんと伊藤さんは、クラスでやるメイド喫茶の担当だよ。


○○: 理々杏が入ったことで、うちのクラスは文化委員の人数が多いから、全体の担当に回った人がちょっと多いんだ。


2年1組文委: そうそう。


○○: ん?堀さんは、クラス担当なんだよね。じゃあ、なんで出し物決めの時は前に出てなかったの?


2年1組文委: あぁ、それは、なんか堀さんが新鮮な気持ちで出し物決めをやりたいってことで、自分の席にいたみたい。


○○: 新鮮な気持ち?笑、どういう意味だろ。


2年1組文委: 僕も分かんないよ笑。でもあの人の言葉って、なんか納得して聞いちゃわない?


○○: そう?


2年1組文委: まぁ、○○君も同じ感じだからね。


○○: 同じ感じ…僕と堀さんが?



頭の中に普段の堀を思い浮かべて、○○は首を傾げる。



2年1組文委: うん。カリスマオーラを纏ってる。僕からしたらだけど。


○○: カリスマオーラ?笑、そんなことないよ。


2年1組文委: そういうのは、本人は分からないもんだって。


○○: そうかな?


2年1組文委: 頼りにしてるよ笑


○○: 笑、ま、期待に応えられるよう頑張る。


2年1組文委: あぁ〜ほんと、今からメイド喫茶が楽しみだよ。あ、執事喫茶も混ざってるんだったね笑


○○: できれば、コスプレしなくていいキッチン担当に回りたいけど…


2年1組文委: 絶対ホール担当になるって笑


○○: うん……美月もなんか不穏なこと言ってたし…


2年1組文委: 笑、○○君の執事姿を楽しみにしとく。


○○: ちょっと笑






翌日

放課後



日奈子: 部活、いってきまーす!!



ガラガラ!!



堀: よし!今日は私もこっちに参加だ!


春時: 笑、未央奈が入ると、早く進みそうだ。


堀: 昨日と同じように、内装班と衣装班、料理班に分かれて作業を進めて。


美月: はーい。史緒里、行こ。


久保: うん。私もメニュー考えてきたから。


美月: お、良いね。


久保: 美月は考えてきた?


美月: あ、えーっと…(料理ができないとは言えない…)


星野: みなみも考えてきたよ〜


美月: パンでしょ笑(ナイスタイミング!!)


星野: よく分かったね!そう、パン!


久保: …(これはもしや美月…)


飛鳥: 頑張ってね〜


理々杏: 飛鳥もバイト頑張って。


飛鳥: うん。じゃ。



ガラガラ



理々杏: ほら、祐希、起きて。


祐希: ん…う〜ん…


理々杏: どんな喫茶店にするか、考えよ!


祐希: 分かった〜



ワイワイ



○○: 早速、まとまってるな笑


2年1組文委: だね笑。僕達も作業しに行こう。


○○: うん。ジャージに着替えてから、第4体育館に行けば良いんだよね?


2年1組文委: そうそう。昨日のうちに、資材は運び終えたから。あ、○○君は僕と同じ第1体育館担当になってたよ。


○○: OK。ありがとう。


2年1組文委: いえいえ。よし、行こう。



そうして、○○達は教室で作業をするクラスメイトを背に、まずは更衣室に行き、ジャージに着替えた後、第4体育館へと向かった。





第4体育館



ガラガラ



○○ 2年1組文委: 失礼します。


3年文委1: あ、えっとここの奥が第1、手前が第2、ステージ上が第3だから、それぞれ分かれて、リーダーの指示に従って作業をしてね。深川君は、どこ担当か聞いた?


「あ!!!」


○○: はい、聞きました。第1体育館ですよね?


3年文委1: うん。じゃ、頑張ってね。


○○: はい。


2年1組文委: 笑


○○: ?どうしたの。


2年1組文委: いや、大変だろうなって思って。


○○: でかいヤツもあるしね。頑張ろう。


2年1組文委: 笑、うん。



チラッと、体育館を仕切るネットの向こう側を見た2年1組文委と共に、第1体育館担当の場所まで行く。



3年文委2: えっと、2人とも向こうの舞台装飾の製作に入ってくれ。


○○: 了解です。


2年1組文委: はい笑(さらにネットに近くなっちゃうな。)


2年文委: 2人が来たんなら、さらに作業が捗りそうだ笑


2年1組文委: それって、○○君だけを見て言ってない?笑


2年文委: 確かに○○は力持ちで器用だけど、そんなことはない。


2年1組文委: ほぼ言ってんじゃん笑


2年文委: あ、バレた?笑


○○: そんな期待されると、やりにくいって。


2年文委: すまん、すまん笑


2年1組文委: で、どれから手をつければいい?


2年文委: まず、お前らにやってもらいたいのは、これの…3番。



ファイルに入っている大量の設計図の中から、1つ取り出す。



○○: 分かった。


2年文委: 資材はステージ下。道具は、あの用具室の前に置いてあるから、必要な分だけ取っていって。


2年1組文委: うん。


2年文委: 一応、どこで作業してるかで、何担当なのかの判別をしてるから、ここの近くでスペース作って、作業してもらえるとありがたい。


○○: 分かった。じゃあ、早速作業に入るよ。


2年文委: おう!頑張れ。


2年1組文委: お、あの辺がちょうど良いんじゃない?



ネットのすぐ側を指す。



○○: だね。


2年1組文委: ほんと、この設計図分かりやすい。必要な資材も道具も、なんなら必要な釘の本数まで書かれてあるから、これ見れば、誰でも作れそう。


○○: 確かに笑


2年1組文委: よし、僕は道具を取ってくるから、○○君は資材を運んで来てもらっていい?最初の方のヤツだけで良いから。


○○: うん。


自分達が作業をする場所を決めた2人は、任された舞台装飾を作るための道具と、資材を取りに行くのだった。



そんな作業場の隣では…



西条: 5分休憩!水分補給ちゃんとするんだよ。


「はい!」


弓木: いや〜キャプテンの声は、響きますね〜


西条: 笑、人が多いから、一段と頑張ってるよ。


弓木: さすがビックマウスです!


西条: うん。それだと全く別の意味になるからやめて。




紗耶: あの、日奈子先輩。


日奈子: なに?やんちゃん!


紗耶: あそこにいるのって、やっぱり○○先輩ですよね。


日奈子: うん!私もびっくりしたよ!つい声あげちゃった笑


紗耶: あぁ、だからさっき叫んでたんですか。


日奈子: うんうん!


紗耶: ってか、なんで○○先輩がここに?向こうで何やってるのかも、よく分かんなくて。


日奈子: えーっと、それは…美咲ちゃん!



すぐ後ろにいた西条に、日奈子は助けを求める。



西条: はいはい笑。ネットの向こうでは、文化祭の準備をやってるの。詳しく言えば、第1から第3までの体育館の舞台装飾とかの製作。


紗耶: へぇ〜


西条: だから、深川君があそこにいるのは、多分生徒会からの依頼で、文化委員の手伝いに駆り出されてるんじゃないかな?


日奈子: へぇ〜


西条: いや、なんでアンタが知らないの笑


日奈子: なんか聞いた気がするけど、美咲ちゃんの説明でよく分かった!


西条: 笑、それは良かった。で、ちなみになんだけど、私達はその文化祭の準備のせいで、体育館半分しか使えないじゃん。


紗耶: はい。


西条: だから、そのお返しとして、文化祭で使えるクーポンを貰えることになってるんだ。


紗耶: 割引券ってことですね!


西条: そう。ちゃんと、文化祭前日にみんなに配るから。


弓木: まさか懐に入れたりしませんよね笑ムフフ



ひょこっと、西条の肩から顔を出した弓木が、笑いながらそう言う。



西条: 笑、そんなこと言う奈於の分だけ、懐に入れちゃおうかしら。


弓木: ご、ご勘弁を〜


日奈子: ねぇ、やんちゃん。○○と話しに行こうよ!


紗耶: え、でも作業の邪魔しちゃ…


日奈子: 大丈夫だって!


紗耶: う〜ん…



ピピピピ



日奈子: あ…


西条: はい、休憩終了!練習再開するよ!


日奈子: 次の休憩の時にレッツゴーだ!!


紗耶: …分かりました、紗耶も行きます!!


西条: はいはい、パッパと動く。



と、女子バスケ部が熱心に?練習をしていた。





1時間後



2年1組文委: ここ持ってて。


○○: うん。


2年1組文委: こことここ…



カンカンカン…



2年1組文委: よし、ありがと。これで設計図の手順13までは完了っと…


○○: あと半分ぐらいか。


2年1組文委: 組み立てはね笑。まだ色塗りもあるから。


○○: 先は長い。


2年1組文委: まだ作業開始して2日目だよ?笑。文化祭まであと2週間あるんだから。


○○: 多分、この感じだと2週間はあっという間なんだろうな笑


2年1組文委: だね笑


○○: よし、次は…



と、次の作業に取り掛かろうとしたところで…



日奈子: ○○!!


ガサッ


○○: うわっ!



真後ろにあるネットを掴む日奈子に、大声で呼びかけられた。



2年1組文委: やっと来た笑


日奈子: おっす!○○!!


○○: なんだ日奈子か。びっくりさせないでよ。


日奈子: ごめんごめん笑


紗耶: あの、○○先輩。お疲れ様です。



笑って謝る日奈子の後ろから、紗耶も姿を見せる。



○○: 紗耶ちゃんも、お疲れ様。


紗耶: えっと、今時間大丈夫ですか?


○○: あぁ…


2年1組文委: ぶっ続けでやってたし、休憩にしよう。


○○: 分かった、ありがとう。


2年1組文委: いえいえ。


日奈子: よっしゃ!○○、今何やってるの?


○○: 今はね、これ組み立ててんの。



そう言って、設計図を見せる。



日奈子: へぇ〜難しそう!!


紗耶: 2人でこれを作ってるんですか?


○○: まぁ、そうなるね。


紗耶: 凄いです!!


○○: 笑、いやいやそんなことないって。この設計図はめちゃくちゃ分かりやすいから、多分、紗耶ちゃんでも作れる。


紗耶: ん〜紗耶は無理です。○○先輩と一緒なら別ですけどボソッ


○○: そう?笑


紗耶: あ、いえ…///(聞こえてた…)



小さな声で言ったつもりが、○○に聞こえており、紗耶は頬を赤く染める。



日奈子: ねぇ!○○は、クラスの方はやらないの?


○○: 時間があれば、手伝うよ。まぁこっちがあるから、手伝える時間は短いだろうけど。


日奈子: そっか〜


○○: 笑、僕の代わりに、日奈子が頑張ってよ。


日奈子: 任せなさーい!明後日は内装班で作業だ!


○○: ちゃんと……理々杏の言うことを聞いてね。


日奈子: はーい!!


紗耶: あ、あの、○○先輩。紗耶も応援してもらえませんか?


○○: もちろん良いよ。紗耶ちゃんも頑張って!


紗耶: はい!!これで3日は頑張れます!


○○: 3日だけか笑


紗耶: ですので、また応援よろしくお願いします!


○○: 分かった笑


紗耶: よし!


○○: 紗耶ちゃんのところは、ロミオとジュリエットの演劇だったよね?


紗耶: そうです!


○○: 役はなんになったの?


紗耶: チームBLUEのジュリエット役です!


○○: おぉ!!主人公じゃん!


紗耶: さぁちゃんが、推薦してくれて、やらせてもらえることになったんです。


○○: そっか。


紗耶: さくちゃんがジュリエットをやるチームREDの公演だけじゃくて、紗耶の方も見に来てくれますか?


○○:もちろん、見に行くよ。


紗耶: 笑、絶対に良いものにします!


○○: 楽しみにしてる。


紗耶: はい!


日奈子: 私も行くからね!!


紗耶: 待ってま…あ、えっと…


日奈子: ん?



突然、言葉を止めた紗耶を見て、日奈子が真後ろを振り返ると、そこには仁王立ちをしている部長がいた。



西条: どこに行くの?


日奈子: み、美咲ちゃん!


紗耶: 美咲先輩…


西条: さっきからずっと呼びかけてたんだけど…


日奈子: ご、ごめんなさい!!


紗耶: すみませんでした!!


西条: はぁ……早く練習に戻って。


日奈子: はい!行こ、やんちゃん!


紗耶: はい!!



急いで走って行く2人の背中を見送る。



西条: ごめんなさいね、深川君。作業の邪魔しちゃって。


○○: いやいや笑。こっちこそ、練習の邪魔しちゃったみたいで、ごめん。


西条: あの子達は、深川君のこととなると突っ走っちゃうから、大変なんだよ笑


○○: いつも迷惑かけてすみません笑


西条: ま、もう慣れてきたけどね笑。じゃ、作業頑張って。


○○: うん。そっちも頑張ってね。あと、日奈子と紗耶ちゃんをよろしく。


西条: 笑、どうやら私はおバカのまとめ役みたいだから、よろしくされるしかないみたいなんだよ。


○○: え?


西条: まぁいいや。またね。



そう言って、西条は練習に戻って行った。



○○: なんかごめんね、時間取っちゃって。


2年1組文委: 笑、大丈夫。こっちも楽しませてもらったし。


○○: そ、そう?


2年1組文委: よし、再開しよう。


○○: うん。



その後、○○は19時まで作業を行い、同じ時間に部活を終えた日奈子と紗耶と、一緒に帰るのであった。





その日の夜


○○の家



ピロン



○○: ん?店長から?



店長M: 今週の木曜日はお店をお休みにしますので、来なくて大丈夫ですよ。もちろん休業手当は出します。



美月: 何て?


○○: 明後日バイト休みだって。どうしたんだろ。


美月: まぁでも良かったじゃん。


○○: うん。



○○ M: 了解です。



と返信をして、携帯の画面を閉じる。



美月: 文化祭の準備に参加できるし。


○○: そうだね。ちなみに、クラスの方はどこまで進んだ?


美月: 他の班はいまいち分からないけど、料理班だったら、半分ぐらい料理は決まった感じ。


○○: 結構、良いペースなんじゃないの?


美月: ま、そうだね。○○の方はどう?


○○: 1つは完成したから、多分あと5つぐらい設計図を完成させたら、自分の分は終わりになるっぽい。


美月: へぇ〜大変そう。


○○: 確かに大変だけど、相方と喋りながらだし、日奈子や紗耶ちゃんの練習姿を見ながらだったから、そこまでキツくはなかったよ。


美月: そっか、第4体育館で作業だったね。良いな〜


○○: 美月も日奈子と紗耶ちゃんの練習を見たかったか。


美月: いや、そっちじゃなくて…


さくら: あの、お兄ちゃん、お姉ちゃん。


○○: ん?どうした?


美月: さくら?



ソファに座って、テレビを見ながら話していた○○と美月に、後ろからさくらが話しかける。



さくら: さくの演技の練習相手になって欲しくて。


○○: あぁ、良いよ。


美月: OK。


さくら: やった、これ台本だから…



手渡された台本を、○○は眺める。



○○: えっと、僕が男の役で、美月が女性の役をやれば良いのかな?


さくら: うん。


美月: ○○って、演技できるの?笑


○○: そこまで得意じゃないけど、頑張る。


さくら: じゃあ、ここからお願い。



そう言って、台詞が書かれたところを指さす。



○○: え?ここって…キスシーンじゃん。


さくら: あ///ち、違うの、ここじゃなくて…ここ、ここ!


美月: あら、積極的ね、さくら笑


さくら: もう!違う!


○○: 笑、ってか、さくらキスシーンやるの?


さくら: あ、え、その…


麻衣: へぇ〜うちのさくらとキスするヤツがいるんだ。



キッチンから麻衣の声が聞こえてくる。



美月: お姉ちゃん、顔怖いよ。


麻衣: はぁ……どんな男か1回確認しとこうかな。


○○: うん、僕もお願いしたい。


麻衣: 奇遇ね、○○。明日にでも大学終わったあと、母校訪問しようかしら。


美月: あ、来るの?だったら私も一緒に行く!


麻衣: それなら、上でゲームしてる蓮加も誘って、家族みんなで、さくらとキスする奴の顔を拝みに行こう。


○○: 了解。



こんな感じで、さくらと、リビングにいない蓮加以外が一致団結していると、さくらが若干呆れた表情で、口を開いた。



さくら: …別に来てもいいけど、みんな見たことあるよ。



そのさくらの言葉に、3人は驚き、考える。



麻衣: え?そうなの?さくらのクラスの男の子なんて見たことあったっけ?


美月: う〜ん、誰だろ…


○○: 僕も思い出せない…


さくら: 笑、だって男の子じゃないもん。


美月: 男の子じゃない?


○○: なるほど、それなら問題なし。


麻衣: あぁ〜よかった〜


さくら: それに、実際にキスなんかしないよ!舞台なのに。


○○: 笑、そうだよね。


美月: で、誰なの?さくらとキスシーンをする女の子は。


さくら: かっきー。



そうさくらが言った瞬間に、リビングの雰囲気が和らいだ。



麻衣: あら、そうなの。賀喜ちゃんが、ロミオ役をやるのね。


○○: かっきーなら安心だ。


美月: だね。よし、練習しよっか。


さくら: うん。


○○: えっと…あ、有名なシーンじゃん。


さくら: じゃあ、いきます……「ロミオ、名前を捨てて!貴方の身体のどこでもないその名の代わりに、私の全てを受け取ってー!」


美月: へぇ笑(○○はどうなんだろ。)


麻衣: (さてさて。)



皆の注目が集まる中、○○は全力の演技をする。



○○: …「受け取ろう!その言葉通りに!恋人とだけ呼んでくれれば、それが僕の新たな洗礼。今からはもうロミオでは無い。」…



その結果、一瞬だけ時が止まった。



さくら: あ…


麻衣: 笑


美月: 棒じゃん笑


○○: …くっ…



ポーカーフェイスはできるのに、演技はド下手な○○であった。




to be continued

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