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ただ守りたい… 157話

美月: …まいまいさんは今、病院で寝たきりの状態になっています。


新内: っ…嘘……



窓の外に見えるオフィス街の輝きが、背景の夜空に映える時間……閉店時間を過ぎたジコチューカフェの店内に並んで座る2人。


意志を固めた美月から、深川麻衣のありのままの真実を聞き、新内は驚愕する。



美月: 本当です。窓のない大きな病室の中に置かれたベッドの上で、点滴を打たれながら、ずっと眠り続けています。


新内: ………いつからなの?


美月: 話によると、まいまいさんが高校3年生になる前の春休みです。


新内: っ!…私が手鏡を壊した後……つまり、まいまいは転校したんじゃなくて、学校に来れなくなった……


美月: そうです。


新内: どこに入院してるの?私もお見舞いに…


美月: 残念ながら、家族以外はお見舞いができません。私はまいまいさんと義理の家族なので、お見舞いに行けましたけど……


新内: …そう………



視線を自分の手に落とし、次の言葉を考える間もなく、自然と口が開く。



新内: なんで……なの?なんで、まいまいはそんなことに!



頭の中では、美月に強く言ってもしょうがないということは分かっているのだが、新内の声は自然と大きく強くなる。



美月: 分からないです。


新内: はぁ?分からないってことはないでしょ!


美月: 本当に分からないんです!まいまいさんが、そうやって入院しているところは見ていますけど、なぜそうなったのかは、全く分からないというか、知らされてないんです。


新内: 知らされてない?……知ってる人がいるってことね。誰?


美月: ……まいまいさんのお父さんです……が、聞いても答えてくれませんでした。


新内: ……じゃあ、弟君は?


美月: ……まいまいさんの弟……○○は……記憶喪失なんです。


新内: え?


美月: 普段の○○は、姉であるまいまいさんのことを覚えていません。


新内: そんなこと…


美月: でも、月に一度、○○はまいまいさんのことを思い出して、お見舞いに行きます。ただ、その時にも、まいまいさんが寝たきりになった原因については覚えていません。


 

そう言う美月の表情を見て、新内はそれが嘘ではないと理解する。



新内: …そっか……………まいまいのお母さんは?


美月: まいまいさんが寝たきりになったのと同じ頃に、亡くなられたそうです。


新内: っ!…じゃあ、お母さんにも謝れないじゃん……



自分が壊してしまった手鏡を、深川麻衣にプレゼントしたその母親に、もう謝ることができないと分かり、さらに絶望する。



美月: ………まいまいさんは……いつか必ず目を覚ますはずです。


新内: ……


美月: でも、目を覚ました時に、自分の弟が…○○が、自分のことを覚えていなかったらショックじゃないですか。だから、私は○○に、まいまいさんの記憶を取り戻してもらいたいんです。


新内: だから、私からまいまいのことを聞いて、それを弟君に伝えることで、まいまいのことを思い出させようと?


美月: …はい。飛鳥は、○○の、トラウマから心を守るためにと封じられた記憶を、変に刺激するのは危険だと考えているみたいですが……それでも、まいまいさんの…優しい姉の記憶を丸々失っている、っていうのは、○○にとってもツラいことだと思うんです。



最初、飛鳥と春時から、○○の記憶について聞いた時、私は、○○が記憶を取り戻すことについて、否定的だった。

記憶を取り戻すことで、○○の心が壊れてしまうんじゃないかって思って。


でも、2人の言葉で、○○なら大丈夫、記憶を取り戻しても大丈夫だって思えた。


そして、○○と一緒にまいまいさんのお見舞いに行き、まいまいさんに向ける○○の言葉や、真顔に近いけど微かながらに感じ取れる感情を見て聞いて、○○には早く記憶を取り戻してもらいたいって思ったんだ。


確かに、徐々に思い出してきてはいるし、飛鳥や春時は、○○が自然と思い出していくのを待った方が良いと思ってるみたいだけど、私は……違う。

もちろん、○○が記憶を封じた原因であるトラウマを刺激しないようにしつつも、まいまいさんのことや、まいまいさんとの楽しい思い出を、早く○○に思い出して欲しい。


それに、家族のことを知りたいって思うのは、当たり前だからね。

私は、まいまいさんがどんな人なのかを知りたい。


だから……



美月: 新内先輩。まいまいさんのことをもっと教えてください。学校ではどんなことを話していたのか、好きな物は、趣味は…とにかく、まいまいさんのことをたくさん知りたいんです!



純粋な気持ちを、美月は新内にぶつけた。



新内: ……笑、弟君のことが大好きなんだね。


美月: え、はい!大好きです!


新内: なんだか、姉弟としての好き、じゃないような目をしてるけど……そういう感じなんだ。


美月: はい。飛鳥とはライバルです。


新内: ふ〜ん………



別に、新内の心の闇が晴れたわけではない。

なんなら、深川麻衣が寝たきりの状態になっていると聞き、不安や心配の気持ちは大きくなったし、深川麻衣の家族の現状を聞き、絶望感も強くなった。


けれども、また会えるという希望が見えた。

これだけのことでも、新内にとっては大きいことだったのだ。


 だから、新内は、自分の記憶の中にいる深川麻衣のことを、目の前の希望をもたらしてくれた後輩に、教えてあげたい。

いや、強い意志を持ち、深川麻衣と会うことのできる白石美月に、教えなければならない、と思った。



新内: 分かった。


美月: っ!


新内: まいまいのことを、教えてあげる。


美月: ありがとうございます!



こうして、目に少しだけ光を戻した新内が、美月に深川麻衣のことを話し始めた。



新内: 笑、じゃあ、まいまいの意外な性格とかについて話そうかな。


美月: 聖母、以外ってことですよね?


新内: うん。なんと、まいまいは食いしん坊キャラでもあるんだよ。


美月: へぇ〜


新内: たくさん食べるってわけじゃないんだけど、食べることが好きというか。昼休みになったらすぐに、お弁当を開いて、もぐもぐ幸せそうに食べてたんだ笑


美月: 何が好きとかはありました?


新内: う〜ん、卵料理が好きな印象かな。特にオムライスをよく食べてた。


美月: オムライス……


新内: それこそ、家に帰ったら、弟君によくオムライスを晩御飯に作ってるって、言ってたよ。


美月: ほうほう……



道理で、○○の得意料理にオムライスがあるわけだ。

まいまいさんが作ってる様子をよく見てたのかもしれない。



新内: あとは、好きな教科は国語と美術で、絵がものすごく上手だった。よく兎の絵を描いてたな〜


美月: まいまいさんは兎が好きなんですかね?


新内: 好きな動物……あ、犬が好きって言ってたかも。でも、よく絵を描いてたぐらいだから、兎も好きなんだと思う。


美月: その、よく兎の絵を描いてたっていうのは、昼休みに絵を描いてたのか、それともイラスト部に入って描いてたんですか?


新内: ううん。どっちも違うね。昼休みはお弁当を食べるのに夢中で、食べ終わったら、ずっと私や他の友達と喋ってたし、まいまいは帰宅部だったから。


美月: じゃあ、いつ描いてたんですか?


新内: 笑、授業中。


美月: え、授業中?


新内: うん笑。ほら、たまにあるじゃん。先生の無駄話の時間とか、問題を早く解き終わって他のみんなを待つ時間とか。そういう板書をしなくて良くて、授業に集中しなくて良い時間に、ノートのちょっとしたスペースに描いてたの。だから、まいまいのノートはそこら中に兎の絵が描かれてたんだよ。


美月: それはなんというか、可愛いノートですね笑


新内: 恥ずかしながら、私が授業中に爆睡しちゃって、まいまいにノートを見せてもらった時も、その所々にいる兎に癒されながら、ノートを写してた笑


美月: もしかして、頻繁にあった感じですか?笑


新内: あ〜笑、悪い顔してるぞ、美月ちゃん。だけど正解。週に4回ぐらいは、爆睡状態になってたかな。まぁ、その度に、まいちゅん……あ、私、まいまいからは、まいちゅんって呼ばれてたんだけど……まいちゅん、授業中に寝たらダメだぞ!って可愛く言った後に、ノートを見せてくれて。本当にまいまいは聖母!っていう話に結局、繋がっちゃうね。


美月: それだけ、まいまいさんが優しいってことですよ。


新内: 笑。あとはね〜〜さっきも出た話だけど、まいまいは弟君のことをよく話してた。すごく楽しそうに、幸せそうに。


美月: 例えば、どんなことを話してました?


新内: そうだな〜〜普段は、晩御飯を美味しそうに食べてくれた、とか、掃除を手伝ってくれた、とか、一緒にゲームをやって楽しかった、とかばっかりだったかな。このうちの1つを、毎朝、教室に先に来てる私に、真っ先に話に来るって言うのが、もはや、まいまいのルーティーンになってた笑


美月: ほんと、日常って感じですね笑


新内: うん。だから、それがないと、逆に心配で何かあったの?って聞いてたもん。


美月: そういう場合って、どんな話が返ってきたんですか?


新内: う〜んとね……あぁ笑、何回か、弟君と対戦型のゲームをしてたら、弟君が強くて、まいまいが全然勝てなかったんだって。そしたら、弟君が気を遣ってわざと手を抜いて負けたんだと。それに対して、まいまいは怒っちゃって、それで弟君と気まずくなってる、みたいなことを言ってた。


美月: 笑、そんなこともあったんだ。まいまいさんも怒ることがあるんですね。


新内: 怒ると言っても、ちょっとぷいってしちゃうぐらいだったみたいだけど笑


美月: じゃあ、○○もそこまで怒られたって感じはしなかったでしょうね笑


新内: かもね笑………って、さっきはそのままスルーしちゃったけど、一旦確認していい?


美月: ん?なんですか?


新内: まいまいの弟君の名前は、美月ちゃんがさっきから言ってるように、○○君。で、その○○君を美月ちゃんは好きで、美月ちゃんは飛鳥ちゃんのライバルと言った。ってことはつまり、飛鳥ちゃんの好きな人である深川○○君って、まいまいの弟君ってこと?!……って、しかも、そうだとしたら、私、乃木高の文化祭の時に弟君に会ってるじゃん!



これまでの美月との会話から気づいた真実と、それによって連鎖的に気づいた真実に、新内はダブルサプライズを受けた。



美月: あれ、飛鳥は○○のことを話してなかったんですか?


新内: いや、その飛鳥ちゃんの好きな人が深川○○君って人だってことは、それこそ文化祭の時に私が気づいたことだから、飛鳥ちゃんの方から○○君のことを聞いたことはないね。私が○○君を使って、飛鳥ちゃんをイジることはあっても。


美月: そうなんですね。


新内: はぁ〜〜じゃあ、まいまいの弟君はモテまくってるんだ。美月ちゃんに飛鳥ちゃんといった美女2人に好意を寄せられてるなんて。


美月: なんなら、他にも何人かいますよ笑。私からすれば、全員敵ですけど。


新内: おぉ、ギラギラ燃えてるね〜笑。で、どんな感じなの?○○君は。



完全に元の調子に戻った新内は、飛鳥に聞いても中々答えてくれないような、高校生の恋愛話を、ニヤニヤしながら美月に聞く。



美月: どんな感じというと、付き合えそうかどうか、って話ですか?


新内: うん笑


美月: それがですね……○○は、ほんっっっっっっっっっっっっっっっっっとに、鈍感なんですよ。


新内: 笑、その溜め具合で、美月ちゃん達がものすごく苦労していることが伝わる。


美月: どれだけ、私がアタックしても、○○に効いてる感じが全くしないんです。


新内: ふ〜む……もういっその事、思い切って、私のこと好き?とか聞いてみたら?



と、少し得意気な表情で新内がアドバイスをすると、美月の大きな目がさらに開き、高速で口を動かし始めた。



美月: いや、聞くんですよ。しかも、日常的にじゃなくて、こう、ソファに2人で座って、ゆったりとしながら、恋愛映画を見てる時に、ふと聞いてみるとか、良い感じのタイミングで聞いたりするんですけど、○○ったら、普通に、大好きだよ、って答えるんです。でも、その大好きは、1人の女性としてじゃなくて、家族としての好きなんです。さらに言えば、その映画を見てる時に、隣でポップコーンを食べて、○○がそれに手を伸ばしたら、私が口に持って行こうとしてたポップコーンを、一瞬だけ唇に触れさせたポップコーンを、○○の口にそのまま入れてあげて、照れを誘ったんですけど、それに対しても、ありがとう、自分で食べるから気にしないで、だけで終わるんです!


新内: ほ、ほぉ……(この子…凄い………普段、飛鳥ちゃんが中々こういう話をしてくれないから、この機会に、先輩として、美月ちゃんに何か恋愛のアドバイスをできれば、とか思ってたけど、全然逆だわ。私が美月ちゃんに、そういう恋愛テクニックを教えてもらいたいぐらい。というか、何?こんな美少女にそんなことをされて、そういう反応だなんて、○○君…まいまいの弟君は鉄人なの?)



美月: ふぅ…ふぅ………まぁ、絶対に諦めないですけどね!


新内: そっか笑。私は飛鳥ちゃん推しだから、一応、美月ちゃんは敵になるのかもしれないけど、私は、恋する乙女達の味方だからね。美月ちゃんも応援するよ。


美月: 笑、それを言ったら、飛鳥に怒られたりしません?


新内: …いや、どちらかと言うと、呆れられそう…


美月: ……確かに。



という感じで、美月の恋愛に関する話が落ち着いた後、お互いにコーヒーを一口飲んでから、再び深川麻衣についての話を、2人はし始めるのだった。




30分後


ガチャ



新内: よし。改めて、本当にありがとね。閉店作業を手伝ってもらって。


美月: いえ、テーブルを拭いただけですし、それに、コーヒーも奢ってもらって、家に送ってももらえるんですから、私の方こそ、ありがとうございます、です。


新内: それでも、ありがと。


美月: じゃあ、こちらこそ、まいまいさんのことを教えてくれて、ありがとうございました。


新内: 笑、さ、帰ろっか。結構遅くなっちゃったし。


美月: はい!



あの後も、コーヒーを飲み終わるまでは話を続け、飲み終わってからは、新内は閉店作業に入り、美月は帰ろうとしたのだが、時間が遅く1人じゃ危ないということで、車で家に送るから、作業が終わるまで店内で待つように、新内は美月に言った。

そして、美月の手伝いもあり、少しだけ早めに閉店作業を終わらせて、新内と美月は店を出た。



美月: こっちに来る時も、人は少なかったですけど、この時間になると、全く人がいなくて、なんか新鮮です。


新内: でしょ?笑。私も、毎日この光景を見てるけど、ちょっとワクワクするんだ。


美月: 探検したくなりますよね笑


新内: そうそう笑………でも、ここで探検は止めた方がいいかもね。


美月: いや、どこでも探検は止めた方がいいですよ笑


新内: まぁそうなんだけど、ここはちょっと………ほら、あっちを見てみて。



そう言って、新内が目線を送った方を見ると……



美月: …だ、誰ですか?あの人達…



強面の男3人組が、エスカレーターに乗って、上に上がっていた。



新内: 私もよく分かんないんだけど、結構な頻度でああいう人達を見るから、探検は止めた方がいい。


美月: ですね。


新内: ……早く行こう。


美月: はい。



こうして、新内と美月は、少し早足で駐車場に行き、新内の車に乗って、ゴルマを出たのだった。





時は少し遡り…


放課後


ガラガラ



飛鳥: …ふぅ……



美月と別れ、教室を先に出た飛鳥は、実習校舎にある空き教室に入り、中に誰もいないことを確認して、一息をついた。



飛鳥: ……



そして、荷物を机の上に置き、壁に寄りかかって、携帯の画面を見る。



さて、あとどのくらいで来るか…

ちょっと遅れるかも、って連絡は来てるけど、あの人も以外と、妹と同じく時間にルーズなところがあるからな。

今のあの人にとってのちょっとと、私にとってのちょっとが全く違うかもしれない。


まぁでも、逆に好都合。

この待ってる間に、何て話を切り出すかを考えよう。


……いや、前置きとかなしに、いきなり切り込むべきか。

向こうも、私がわざわざこんなところに呼び出した時点で、何の話をされるかは分かってるだろうし。


うん、そうするべきだな。


あの人が、ここに入ってきて、扉を閉めた瞬間に、本題に入ろう。


あ、でも、一応、話の途中で逃走する可能性を考えて……


と、飛鳥が頭を回していると、扉の向こうに人の気配を感じる。



飛鳥: …



ガラガラ


そして、扉が開かれ、飛鳥が待っていた人物の姿が見える。



??: お、もう来てたんやな。


飛鳥: 私が呼んでおいて、遅れるわけにはいきませんから。


??: 笑、変わらんな。


飛鳥: ……さ、早く扉を閉めて、荷物を下ろしてください。七瀬先輩。



笑顔でこちらを見ている七瀬に、飛鳥は無表情でそう言う。



七瀬: ほぉ、前置きなんか要らんって感じやな。


飛鳥: …


七瀬: ちょっと本題に入る前に、楽しい話をしようや。飛鳥の近況とか、バイトの話とかさ。


飛鳥: 嫌です。


七瀬: え〜なんでよ。小学校からの仲良しやん。そのぐらい話そうや。ってか、2人きりやのに、ななのこと、なぁちゃんって呼んでくれへんの?


飛鳥: 呼ばないです。


七瀬: 1回だけならええやろ?久しぶりに、飛鳥のなぁちゃん呼びを聞きたいねん。


飛鳥: ……


七瀬: …笑、さっさと荷物を置いて、本題を喋らせろ、って目やな。


飛鳥: 分かってるなら、早くお願いします。


七瀬: はいはい笑



ガラガラ



扉を閉めつつ、七瀬は教室の後方に並べてある机の上、飛鳥の荷物の隣に、自分の荷物を置く。



七瀬: はい、これで……って、そこまで警戒するか?笑


飛鳥: 念の為です。



この教室に唯一出入りができる扉から、七瀬が離れた瞬間に、飛鳥はその扉の少し前に移動した。



七瀬: ふ〜ん。


飛鳥: では、七瀬先輩。本題に入ります。


七瀬: …どーぞ。



to be continued

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