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ただ守りたい… 167話


防衛団仮拠点



1級団員(作戦部)1: 今、平子さんと慎二さんが保守用通路から、ビルの地下駐車場に繋がっていると思われる通路に突入したとの報告が来ました!


敦彦: よし。各班の現状を!


1級(作)2: はい。屋上班は、屋上から突入後、各階の制圧班と分かれつつ、そのまま下に降りて行き、敵の抵抗も激しく、現在16階!


湊士: 1階から突入した地上班は、上に繋がる階段に到着後、すぐに上り、現在4階。そして、1階の制圧が完了!


敦彦: 分かった。屋上班は増援ができない分、各階の制圧を確実に行っていくよう、改めて指示を。地上班には、先頭部隊は10階に辿り着くことを最優先にし、制圧は後回しで良いと、伝えてくれ。


1級(作)2: はい!


湊士: 了解!



そう返事をした湊士は、すぐに地上班の先頭を走る、由夢に回線を繋げる。



湊士: こちら作戦部。由夢!


由夢 T: ん?どうしたの?湊士。


湊士: 10階到達を最優先として、とにかく上に早く上るんだ。


由夢 T: 分かってる。


湊士: あと、気をつけて。


由夢 T: 笑、はい。



そしてすぐに、地上班全員の回線に繋げ、指示を飛ばす。



敦彦: さて……ここからだな。



タブレットのビルの構造図を見ながら、敦彦はそう呟き、思考を巡らせる。



敦彦: アンチが階段を上ってくる、そして下りてくる我々に対して、抵抗している。それはつまり、我々を中央の10階に行かせまいとしているんだ。



構造図の10階をアップにし、その手を顎に当てる。



敦彦: じゃあ、なぜそのような行動をとっているのか……1つは、ただ敵がやってきたから、迎撃しているだけ。そしてもう1つは、10階にある何かを守るため……



顎に当てていた手を、後ろで組む。



敦彦: まぁ、十中八九、後者だろう。ということはだ。我々の推測は間違っていなかったと言える。竹川は我々の10階到達までの時間稼ぎを部下に任せ、自分はエレベーターで地下駐車場まで降り、そこから地下鉄の方に向かって逃げている……となると、そろそろ…



そこまで言って、敦彦は後ろを振り返る。

すると…



1級(作)1: っ!平子さんと慎二さんが接敵!人数は3人!



という声が部屋の中に響く。



敦彦: やはり……必ず仕留めろと伝えろ!それと竹川かどうかの確認も!


1級(作)1: はい!


敦彦: よし。これで竹川じゃなかった場合だと作戦失敗に大いに近づくわけだが……まぁ平子達と接敵したのは、竹川で間違いないだろう。なら、平子達が戦っている間に、10階から増援を送り、通路で挟み撃ちをすることで、確実に捕らえる。



両手を顔の前で、ギュッと組み、作戦の達成を頭の中にイメージした敦彦は、再びモニターの方に向き直り、各班からの報告を聞くと共に、指示出しを的確に行っていくのだった。





地下通路



カチッ


平子: 奥にいるお前……お前が竹川風磨、だよな?


慎二: ……



およそ5m先に立つ、3人の男を平子と慎二は睨みつけながら、その1番後ろにいる眼鏡をかけた七三分けの男が、アンチ幹部の竹川風磨かどうかを、イヤホンマイクの回線を藤森に繋いだ状態で確認する。



青垣: ……


藍染: …どうしますか?


竹川: まさか、待ち伏せされているとは……ww、よく、この通路の存在を掴んだものだね。



前に立つ2人の間から、竹川は平子達にそう言う。



平子: うちには腕の良い調べ屋がいるからな。で、どうなんだ?


竹川: ふむ……その調べ屋に敬意を評して、答えよう。お前が言っている通り、私が近畿地方を任されたアンチの幹部、竹川風磨だ。そっちは、防衛団だよね?


平子: あぁ。名前しか知らなかったから、ようやくお前さんに会えて、嬉しいぜ。


竹川: ……もしかして、京都の拠点を潰してくれたのも、君?


平子: その節は世話になったな。おかげで、少しの間、入院することになったわ。


竹川: へぇ〜〜君が蒼君を……


平子: まぁ、あの上位構成員を殺したのは、俺達じゃないけどな。


竹川: 情報を喋られるぐらいなら、殺した方が良いからね。そう紫雲君も判断したんでしょ。にしても、蒼君は捕まったのに、自殺の道を選ばなかったとは……やはりまだまだ未熟だったね。君らもそう思わないかい?


平子: …ノーコメントで。


竹川: ww、そうか。じゃあ、そろそろ行かせてもらおうかな。


平子: 簡単に行けると思うなよ?ってか、絶対に行かせねぇから。


慎二: ……



2人は、敵を睨みつけながら、通路を塞ぐように横に並び、大きく構える。



竹川: あっそう。玄世、藍染君。よろしく。


青垣: はい。


藍染: すぐに倒します。



そう言って、竹川の前で青垣と藍染の2人が構える。



カチッ


平子: おいおい、仲間に任せて、自分は楽するつもりかよ!上に立つ人間としてどうなんだ?


竹川: 適材適所だよ。さ、パッパとやっちゃって。



その言葉で、青垣と藍染が地面を蹴って、構える平子と慎二に接近し、地下通路での戦いが始まった。



青垣: …


ドンッ!



地面を踏みしめる音が鳴ったと同時に、青垣の大きな拳が、平子の顔前に迫る。



平子: っ!


ドッ!



その速度に驚きながらも、防弾の小手をつけた両腕でその拳を受け、空いた腹への攻撃を警戒して、すぐに膝蹴りのモーションに入る。



青垣: …



一歩後退し、右膝をギリギリで避けるとすぐに、その場で回転して、右の裏拳を顔目掛けて放つ。



ブンッ!

ドッ!


平子: ……っ!グッ



その裏拳も右の小手で防御した平子だったが、青垣は自分の攻撃が防御されたと分かった瞬間に、小手によって弾かれた反動も利用して、右の縦拳を鳩尾に打ち込み、それをモロに食らった平子は、少し後ろに下がる。



青垣: …両腕におそらく防弾性の小手と、防弾チョッキ!



目の前の敵を睨みつけたまま、青垣はそう報告する。

そして、ほぼ同じタイミングで…



慎二: はっ!!



胴を狙った攻撃を全て防御した上で、慎二は藍染の顎を目掛けて右肘を振るう。


ブンッ!



藍染: おっと……



軽く後ろに飛び、体勢を整えて、口を開く。



藍染: こちらも防弾チョッキを着ています!


竹川: そう。じゃあ、使えないね。できるだけ早めに倒して。無理そうならアレやるから。



2人の報告を聞いた竹川は、胸掛け式ホルスターの中に収まっている拳銃を使うことを諦め、そう指示を出す。



青垣: はい。


藍染: 了解です。



返事をした青垣と藍染は、瞬時に各々で作戦を立て、目の前の敵を倒そうと構える。

それに対して、再び横に並んだ平子と慎二は、軽いアイコンタクトで意志を共有し、考える。



平子: (この2対2の状況を保てば、耐えられはする。が、倒せるかどうかは怪しいな。前に戦った蒼孝介よりもワンランク上の強さをしてやがる。それに、銃は封じられたみたいだが、竹川のアレという発言が気になるな……)


慎二: (多分、アイツが懐に差しているのは、20cmぐらいの短刀だな……ってことは、竹川が銃を使うのを封じるためにも、できるだけ敵との距離を縮めて戦わないと。あと、常に平子の隣に並んで、敵を通さないように意識。)


平子: …


カチッ



右耳につけているイヤホンマイクをタップし、再び、藤森の回線に繋げる。



平子: 上だ。


藤森 T: OK。


慎二: …


竹川: 一体、何が上なんだ?w


平子: いやいや。そちらには関係ねぇことだよ。にしても、そっちの大男。お前、その体格に似合わず素早いな。それに、俺の力量を測ると同時に、装備の確認、そして報告まで。よく教育してんな!


竹川: どうもw。部下はちゃんと育成しておかないと、いつか足元をすくわれる時が来るからさ。


平子: ほんとだぜ……慎二、気張れよ。


慎二: あぁ!



そうして、今度は、平子と慎二が並んで一歩前に出て、敵と拳を交わすのであった。




ビル周辺



酒井: ……



戦況に応じて、すぐに動けるようにと、待機を命じられている酒井と、数人の戦闘部の団員達は、ビルの入口と地下鉄への入口の中間地点で、耳に届くであろう指示を待っていた。



1級団員(戦闘部)1: 戦況的には……私達は地下鉄の方に行かないといけなくなりそうですね。


酒井: ……確かに、平子と慎二が竹川と接敵したのなら、その手助けに行く可能性が高いが…



次の指示が何なのかを考えながら、ビルの方を眺めていると、イヤホンマイクから声が響く。



1級(作)3: 酒井さん!


酒井: 指示は!


1級(作)3: 酒井さん達は、ビルの1階から建物内に入り、10階のエレベーターから地下通路に降りて、平子さん達と竹川を挟み撃ちしてください!


酒井: 了解!お前ら、行くぞ!


「はい!」



作戦部からの指示を受けた酒井は、すぐに部下を引き連れて、ビルに向かって走り出した。




ビル9階



上位構成員1: 行かせるかっての!


由夢: 任せるよ!


1級(戦)2: はい!先に行ってください!我々もすぐに追いつきます!


1級(戦)2: てめぇらの相手は俺らだ!


上位2: チッ…このっ!



階段の途中で、上から飛びかかってきた上位達を部下に任せて、由夢は10階に向けて駆け上がり、とうとう10階に到着した。



カチッ


由夢: 10階に到着。中央の部屋に向かう。


湊士 T: 分かった。中央の部屋は、その階段から右に進み、最初の十字路を左に曲がった先…らしい。そこから先は、情報部の潜入捜査でも調べきれなかった。


由夢: 右の次に左………



耳から入ってきた旦那の声の通りに、由夢は進み、壁から顔を覗かせ、開けた空間の中を確認する。



由夢: ……あそこか…


湊士 T: それっぽい部屋を見つけたか?


由夢: …いや、人がいる。おそらくアンチ。茶色の短髪で、身長は約175cm。そいつは後ろの扉を守るように立っている。


湊士 T: …そこだな。他に敵は?


由夢: 見えるところにはいない。


湊士 T: じゃあ、頼む。


由夢: 笑、うん。任せといて。


カチッ



マイクを切った由夢は、一瞬の脱力の後、静かに床を蹴って、置いてある机や椅子を利用して、身を隠しながら走り、その男…防衛を任された紺堂侑に奇襲をかける。



由夢: …


ブンッ!!


紺堂: っ!!あっぶ…



しかし、ギリギリで気づいた紺堂に、その奇襲は避けられてしまった。



由夢: …ふっ!



奇襲を避けられた由夢は、動きを止めることなく、壁際にいる紺堂に連撃を仕掛ける。


ブンッ!

ブンッ!



右手で懐にある何かを取ろうとした動作を見逃さず、目の前の男はおそらく右利きであると推測した由夢の、右前腕と右手首を狙った二連撃も、紺堂はギリギリで躱す。



紺堂: 警棒って!警察かよ!


由夢: …はっ!



攻撃を避けながらの紺堂の言葉に、由夢は答えることなく、次は喉を目掛けて、警棒を突き出す。



ガシッ!


紺堂: ww、やっと捕まえたぜ。



その警棒を、紺堂は右手で掴んで、口角を上げる。


が…



由夢: 何を?



掴まれた警棒をすぐに離し、由夢は右拳を握って、左顔面目掛けて放つ。



紺堂: なっ…


パシッ!



まさか、得物を即座に手放し攻撃してくるとは思わず、驚きはしたものの、紺堂は由夢の拳を左手で受け止める。



グググ


由夢: …


紺堂: おまっ…マジで女かよ!なんてパワーしてんだ!


由夢: …女性を下に見るな!



相手の左手ごと、自分の右拳を押し付けていたその力を瞬時に抜き、重心はそのままに、紺堂の腹に全力で蹴り込んだ。



ドンッ!!


紺堂: グハッ!!




防衛団仮拠点



湊士: …由夢……


敦彦: 奥さんが心配ですか?


湊士: …まぁね。


敦彦: 笑、心配することないですよ。だって、西野先輩の奥さん…西野由夢さんは、今最も特級に近い1級団員なんですから。


湊士: …


敦彦: 信じましょう。


湊士: あぁ。


敦彦: それに、もうすぐで……


1級(作)2: 屋上班の先頭が10階に到着!


1級(作)1: 同じく酒井さんも到着です!


敦彦: 笑、増援が来ますから。




ビル10階



紺堂: オラッ!!


ボスッ!!


由夢: グッ…



右のボディーブローが、由夢の体に撃ち込まれる。



紺堂: やられてばっかだと思うなよ。


由夢: …ふぅ……



得物の特殊警棒は遠くに投げられ、右手に拳銃を持つ紺堂を前にしても、由夢はすぐに動けるようにと足を軽くしながら、構え、集中する。



バンッ!!



由夢: っ!!



銃声が聞こえたと同時に、思いっきり右に飛び、そのまま真っ直ぐに突っ込む。



紺堂: バカが!w



バンッ!!



これまでの動きから、おそらく銃弾を避けると同時に、自分の方に走ってくるだろうと推測していた紺堂は、すぐに由夢が飛んだ方向に拳銃を向けて発砲したが…



ドンッ!



二度目の銃声が鳴ると同時に、全力で地面を蹴り、天井ギリギリまで跳ぶことで、銃弾を避け、そのまま右足を前に出して紺堂を巻き込んで着地しようとする。



紺堂: くっ…



左手側には壁があるため、回避行動を取るには、右側…開けた空間の中央付近に寄るしかない紺堂は、それに苦い顔をしながらも、右にさっと移動し、由夢の蹴りを避けた。

そして、すぐに保ちたいポジションを取り戻すために、着地で隙のできた由夢の少し下がった頭に向けて、前蹴りを放つ。



由夢: …


ガンッ!



その前蹴りを、由夢は体を後ろに反らして避け、そのままバク転の要領で、顔の横から伸ばした両手で床を弾き、壁に衝撃を与えた紺堂の右足を、蹴り上げながら、後ろに回転し、着地する。

体勢が崩された紺堂は、すぐに右足を床に着くと共に、由夢に銃口を向け、銃弾を放った。



バンッ!!



由夢: グッ…



バク転の着地をしたことで、まだ足が動かなかった由夢は、体を横に倒すようにして銃弾を避けようとしたが、完全には避け切れず、銃弾が右腕の肉を抉った。



由夢: …



それなのにも関わらず、由夢は左拳を握る。



紺堂: ww、まだ諦めないってか。でも、右腕は使えず、こうやって至近距離で銃口を向けられてる状態は、もう詰みだろ。


由夢: 詰み?どこが。


紺堂: どう考えたって詰みだろ。その痛みで、段々と動きが鈍くなるだろうしw


由夢: ……ふっ笑


紺堂: …何がおかしい。



息を漏らしながら笑った由夢に、紺堂が眉間に皺を寄せながら、そう問うと、由夢は顔を上げて、こう答えた。



由夢: 2児の母は痛みには強いんだよ。


紺堂: は?


由夢: それに……詰みはお前の方だ!!



そう由夢が叫んだ瞬間に…



1級(戦)3: くらえ!



屋上班の先頭を走っていた団員のスライディングが、右足に。



酒井: 到着!!



ものすごい勢いで階段にいた構成員と団員を避けながら10階まで上がってきた酒井の膝が、背中に。



紺堂: ガハッ!!



大きなダメージを受けた紺堂は、前に勢いよく倒れ、酒井によって床に押さえつけられる。



1級(戦)3: よく1人で持ち堪えたな。


由夢: 中々にキツかったけどね。さてと…


カチッ



右腕の怪我を負った部分を応急処置しながら、イヤホンマイクの回線を湊士に繋げる。



由夢: 戦闘終了。これから、情報を引き出す。


湊士 T: っ!良かった…


由夢: 笑、良かった?


湊士 T: あ、あぁ、いや……分かった。ただ、由夢と酒井さんはエレベーターで下に降りて、情報の引き出しは部下に任せて。


由夢: 了解。


カチッ


1級(戦)3: 夫婦だな笑


由夢: え、聞こえてた?


酒井: 笑、だって、相当焦ってたのか、湊士さんの方は全体回線で喋ってたもん。


由夢: はぁ……全く。


1級(戦)3: まぁまぁ。それでは、俺がコイツから情報を引き出しますんで、酒井さんと西野はエレベーターに。


由夢: うん。


酒井: 任せたぞ。



そう言って、酒井は1級(戦)3と、紺堂を抑える役目を代わろとしたのだが…



紺堂: ……どけ!


酒井: なっ!


1級(戦)3: コイツっ!



拳銃を持つ右手を抑える手を入れ替えた瞬間の力の緩みを見逃さなかった紺堂は、瞬時に右手の拘束だけを解き、銃口を…



紺堂: おつかれw



バンッ!!



自分の右顬に当て、笑みを浮かべながら引き金を引いた。



1級(戦)3: マジかよ……クソっ、情報が…


酒井: …仕方ない。お前はコイツの装備を外した後、上か下の加勢に行け。由夢は地下通路に行くぞ。


由夢: はい。



すぐに切り替えた酒井は、由夢を連れて、鍵が閉まっていた扉を、蹴りで強引に開け、竹川がいたと思われる中央の部屋に入った。



酒井: ここ…だよな。


由夢: おそらく。エレベーターは…


酒井: …ノーパソが折られてんだけど……


由夢: あ!ありました!


酒井: よし行くぞ!



そう言って、酒井がエレベーターのボタンを押そうとしたところで、イヤホンマイクから声が聞こえた。






酒井が10階中央の部屋のエレベーターのボタンを押す、およそ1分前



平子: オラッ!!


ボコッ!!


青垣: っ!!くふぅ……ふんっ!!



力強い右拳を、両腕を交差して受け止めた青垣は、後退することなく、やり返しとばかりにボディーブローを放つ。



平子: グフッ!……まだまだ!!



その拳を鍛え上げられた腹筋と防弾チョッキで受け止めた平子は、青垣の顔を掴もうと左手を伸ばす。



青垣: がぁぁ!!



上体を反らして左手を避け、強引に平子の顎を目掛けて、左拳を振り上げる。



平子: ふっ……喰らえや!!



同じように、青垣の左拳を上体を反らすことで避けた平子は、グッと右膝を胸に引き付けて、全力で蹴りを放った。



青垣: ガハッ!……


ズザザザ…



モロにその蹴りを腹に喰らった青垣は、二三歩分、後退させられた。



平子: 慎二!まだいけるか?!


慎二: ほらっ!!!


ドンッ!!


藍染: グッ……



右のラリアットがきまり、藍染は地面に尻もちを着く。

それを見逃すことなく、慎二は追撃をかけようと、右足を振り上げるが…



藍染: クソっ!!



地面を蹴って、倒れていた藍染が後ろに下がったことで、慎二の右足はそのまま着地した。



慎二: ふぅ……いけるよ。


平子: そりゃあ良かった。(ただ…ちょっと足にきてるみたいだな……)



未だに並んだ状態で、お互いの様子をチラッと確認し、前を睨みつける。



竹川: ……はぁ………


青垣: っ……


竹川: お前らさ……


青垣: 申し訳ございません!!


藍染: えっ、す、すみません!!



後ろに立つ竹川の声に反応した青垣と、その青垣の声に反応した藍染は、パッと竹川の方を振り向き、頭を下げて謝る。



竹川: もういいや。アレやるよ。


青垣: はい。


藍染: …分かりました。



これまでずっと後方で戦いを見ていた竹川が、前に出てくる。



平子: やっと、自分で戦うんだな笑


竹川: ww、いやもう戦いは十分でしょ。


慎二: …


竹川: そろそろ通らせてもらうよ。



そう言った竹川は、いつの間にか手に持っていたスモークグレネードを、地面に投げつける。

すると、白煙が物凄い勢いで吹き出し、狭い地下通路に瞬時に広がった。



平子: チッ、煙幕か。慎二、ゴーグル!


慎二: 了解!



こういう場合を想定していた敦彦の指示で、煙の中でも人の動きを捉えることのできるサーマルゴーグルを腰に携帯していた2人は、すぐにそれを装着する。



平子: っ!!来てるぞ!道を塞げ!!


慎二: おう!



3つの熱源体が近づいてきているのが見え、平子と慎二は両手を広げて、通路を塞ぐように構える。


が……



竹川: これでも?w


バチンッ!!


慎二: ?……グッ!!…



高速のローキックが腿に入り、慎二は思わず、地面に膝を着いてしまう。



平子: おい、慎二!!クソっ!!



それにより空いてしまった隙間を、竹川達は通り、平子と慎二が形成していた壁を突破する。

そして、平子はすぐに追いかけようと、体の向きを変え、慎二も後方を振り向く。



竹川: あと、お土産。


平子: 何がっ!


慎二: っ!!!



去っていく竹川の声が聞こえると同時に、何かが空気を切るような音がほんの少しだけしたが、平子にはその物が何か分からなかった。


しかし、膝を床に着け、体勢が低くなっていた慎二は、気づいた……いや気づいてしまったのだ。



慎二: 平子!!行け!!!!


平子: っ分かった!



そう慎二に叫ばれ、平子は思いっ切り地面を蹴り、竹川を追いかけ始め、慎二は……


投げられた手榴弾を、残りの力を全て振り絞って地面を蹴って、掴み、すぐにその場にうつ伏せになった。



慎二: (何とか平子だけでも!!)



そして次の瞬間…


地下通路に轟音が響き、突風が巻き起こり、白煙が地下鉄の線路の方に押しやられた。



平子: っ!!!



必死に足を動かしていた平子は、音が鳴ると同時に、地面に飛び込み、無傷でこの衝撃を乗り越えた。

しかし…



平子: な、なんだ………



何が起こったのかと思い、後ろを振り返るとそこには…



平子: 嘘だろ……



惨状が広がっていた。






酒井: え、今なんて?


敦彦 T: 作戦失敗だ。竹川に逃げられた。


酒井: は?逃げられたって……


敦彦 T: 後で説明する。酒井と由夢さんは、ビル内の制圧に加勢してくれ。


酒井: ……分かった。


由夢: ………行きましょう。


酒井: あぁ……



イヤホンマイクから聞こえた、作戦失敗の言葉を聞き、何があったのかという疑問と落胆を感じながら、エレベーターのボタンを押そうと伸ばしていた手を下ろし、敵の掃討に向かった。


およそ20分後、ビル内にいた全ての構成員を拘束し、ビルの制圧は完了。

周辺で索敵を行っていた生田率いる情報部の班によると、外に逃げた敵はおらず、加勢に入ろうとした勢力もいなかったため、大阪にいたアンチの構成員のほとんどを捕らえたと敦彦は考えた。

しかし、竹川とその側近2名に関しては、地下鉄線路の方にまで広がった煙幕と、新たに竹川が展開したと思われる煙幕によって、保守用通路付近で待機していた藤森や、他の情報部団員、3級団員も追跡することができず、逃走を許してしまった。


こうして、大阪のアンチの拠点は潰すことができ、多くの構成員を捕らえることができたが、アンチのボスや幹部に関する情報を持っているであろう構成員は捕えられず、一番の標的であった竹川は逃走し、2級団員13名と1級団員4名、そして、特級団員1名が死亡して、今回の作戦は終了……失敗に終わったのだった。




to be continued

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