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ただ守りたい… 198話

乃木坂病院



○○: ありがとうございました。


医者: はい、お大事に〜



ガラガラ



○○: …ふぅ………



路地裏で、涙を流す美月を慰めていたところを、警察に保護され、軽い事情聴取を受けながら、病院に来た○○。

一般病棟で怪我の手当を受け、医者に礼を言い、診察室の外に出て、息を吐く。



○○: ………待合室にいるんだよね。



そして、不安が残る未来を見据えて、気を引き締め、他の皆が待っているという、待合室へ向かった。





ガチャ



○○: 失礼します。


梅澤: お、来たな。


林: まさかの個室でびっくりしたでしょ!


○○: 笑、まぁね。



ただ、待合室と聞いていたので、○○は他の患者さんもいる大きな待合室の方に行ったのだが、梅澤達の姿が見つからなかったため、近くにいた看護師に聞いたところ、VIP用の個室待合室に移動したということを知った。

それで、○○は、ここで合っているのかと不安に思いながら、個室の部屋を開け、無事、治療を終えた梅澤、林、松尾、そして美月と合流したのだった。



梅澤: 結局、それだけか笑



部屋に入ってきた○○が、両腕と右足の3箇所にしか、包帯を巻いていないのを見て、梅澤は笑いながら言う。



○○: うん。あと1日もすれば完治だって。


梅澤: 相変わらずの治癒力だな。


林: え、なんか血だらけだったから、もっと怪我してたのかと思いました。


松尾: だから、その怪我ももう治っちゃったってことじゃないの?梅澤先輩の言葉からして。


林: そうなんです?



興味深そうに、林が○○の体を凝視しながら、尋ねる。



○○: 笑、松尾さんの言う通りだよ。


林: へぇ〜そりゃ凄いですね!


○○: いやいや……ってか、改めてだけど、美波も林さんも松尾さんも、助けに来てくれてありがとね。3人の加勢がなかったら、確実に僕達はアンチに負けてた。



待合室のソファに座る梅澤と、その近くに立っていた2人に、○○は感謝を伝える。



林: いやぁ、そんなそんな〜笑


松尾: …っ…瑠奈。静かに。


林: えっ?……っ!!……



それに対し、頬を緩ませた林を、何かに気づいた松尾が止め、同じくそれに気づいた林は、パッと顔を逸らして、口を結び…



梅澤: ……ま、誰かさんが手柄を独り占めしようとしなければ、完全勝利できたかもしれないんだけどな。



意図的に張り詰めさせた空気の中、梅澤は皮肉を込めた言葉を返した。



○○: ……別に、独り占めしようとか思ってたわけじゃないんだけど……


梅澤: じゃあ、なんで隠したんだ?



食い気味に、言葉を重ねる。



○○: それは……危ないからだよ。


梅澤: ほぉ。お前は、私達を危険な目に遭わせないようにするために、単独行動をしたと。


○○: …そう。


梅澤: ………あのさ、私は○○のことを仲間だと思ってたんだが、お前は私のことを仲間だと思っていないのか?


○○: っ!そんなことは…


梅澤: いや、そういうことなんだよ。お前は私…私達のことを仲間じゃなくて、守る対象としか見てない。だから、風紀委員として動いてて、事件に巻き込まれているはずなのに、風紀委員長である私に、詳しい報告をしなかったし、共闘を持ちかけなかったんだろ?



鋭い視線を飛ばす梅澤。



梅澤: それに少なくとも私は、お前の話を全部聞けるはずなんだが……違ったのか?



秘密の共有者であり、アンチのことも、異能力のことも知っている自分は、○○が何も隠すことなく話すことができる人物ではなかったのか、と聞く。



○○: ……ごめん。


梅澤: …はぁ……いや、分かるんだよ。お前のその行動原理も。別に、私達を信用していないとか、仲間だと思ってないとか、そういうわけじゃないってことも。これまでずっとお前を見てきたからな。


○○: …


梅澤: 単純にお前は優しいんだ。とにかく周りが傷つかないようにって動く。だから、無意識のうちに、危険なことには自分1人で突っ込もうとするし、それを周りに話さない。



風紀委員長として、友達として、共に戦う仲間として、梅澤は○○に意見をぶつける。



梅澤: ただ、それは、周りを不安にさせ、信頼を失う原因にもなり得ることを覚えておけ。そして、今回の件で分かったと思うが、私達は戦えるし、自分の身ぐらい自分で守る。お前に守ってもらう必要なんてねぇ。なぁ?瑠奈、美佑。


林: え?!あ、はい!


松尾: っ!!もちろんです!



突然、話を振られ、驚きながらも、2人は梅澤の言葉に頷く。



梅澤: ってことで、今度からは、ちゃんと言え。風紀委員としていた時、乃木高の生徒としていた時に、ああいう事件に巻き込まれたら、絶対に。それは、学校のシステム的にもごく自然なことだ。


○○: …だね。


梅澤: で、完全なプライベートな時に、事件に巻き込まれたら、お前の協力者に話すのはもちろんとして、私か春時にも共有しろ。これは、今回の件へのペナルティとして守ってもらう。分かったな?


○○: …ふぅ……分かった。これからはちゃんと話すよ。改めて、ごめんね。


梅澤: おう笑



○○の返事を聞き、ようやく梅澤が笑顔を戻し、まとっていた空気が和らいだことで、息が詰まる思いで口を閉じていた林と松尾は、その苦しさから脱却できた。



梅澤: ってことで、私の言いたいことは言い終わったし、後は………どうする?私がいた方が良いか?



ポン



隣でずっと俯いて座っていた美月の肩に手を置き、そう尋ねる。



美月: ……一応いて。私が暴走しそうになったら、止めて欲しいから。


梅澤: 笑、了解。隣にいてやるよ。


美月: ありがと……



下に向けていた視線を上げ、○○を見る。



美月: ○○。前に座ってくれない?


○○: …良いよ。



梅澤と美月が座り、背もたれのさらに後ろに、林と松尾が立っているソファ。

その向かい側にあるソファに、○○は腰を下ろす。



○○: ……


美月: …あの、まずは……ごめんなさい。私が来ちゃったせいで、○○が怪我しちゃうことになって。



頭を下げる美月。



○○: いや、あれは美月のせいじゃないよ。僕が弱かったから、あんなことになったんだ。怖い目に遭わせて、怪我させちゃって、ごめ…



と、○○が謝ろうとしたのだが…



美月: 謝らないで。


○○: …



止められた。



美月: 今回の件、○○は全く悪くない。だって、さっき美波も言ってたように、○○は私を守ろうと思って、色々と隠し事をしてたのに、わざわざをそれを暴こうとして、私はあの現場に行っちゃって……それで、人質にされて……○○を……



自分が人質に取られてしまったことで、動けない○○が……最愛の人が血を流し、苦しむ光景を思い出し、再び、瞳に涙が溜まり始める。



美月: だから……本当にごめんなさい!



ぎゅっと握った拳に、涙を落としながら、美月は言い、それを受けて、○○はゆっくりと口を開く。



○○: ……うん……正直、あの現場に美月が来て、めちゃくちゃびっくりしたし、焦った。で、人質に取られた時なんかは、もう……敵への怒りもそうだけど、自分への怒りが湧き過ぎて……


美月: …


○○: 確かに、美月が来たことで……まぁ…大ピンチにはなった。でも、美月のあの言葉……僕に助けを求める声があったからこそ、僕は、力を発揮できたんだ。



真っ直ぐに、美月の目を見て、言葉を続ける。



○○: だから、プラマイゼロってことで……ちょっと上からの言い方になっちゃってアレだけど……許すよ。


美月: っ……ありがとう。



あくまで、自分が言っていることは結果論である、ということを理解しながらも、今の美月が心に抱えている負の感情を解消するためには、必要なことだと考え、○○はそう言った。

その結果、○○の願い通りに、美月の心のモヤモヤが晴れる、きっかけとなる。



○○: もう、涙で顔がぐちゃぐちゃだよ笑


美月: だってぇ……怖かったし、それに○○が血まみれに…


○○: 笑、あれは中々にえげつないことをされちゃったからね。美月にはショッキング過ぎたか。


美月: 当たり前でしょ!だって○○は、私の好きな人なんだよ!!


ギュッ!!



こういう場面でも、しっかりとチャンスを逃さず掴むのが、白石美月という女である。


大声で好意を伝えた後、正面の○○に勢いよく抱き着く。



○○: うぉっと…笑、しょうがない。僕の服で顔を拭いて良いよ。



まぁそれでも、動揺せずに、普段の言動だと受け流すのが、深川○○という男なのだが。



美月: 遠慮なく、拭かせていただきます!


ゴシゴシ


○○: …これは、鼻水までいってるかもなぁ…


美月: 女の子にそんなこと言わない!


○○: 笑、ごめん。


美月: 全くもう…


ゴシゴシ



という、いつも通りのやり取りをし始めた2人を見て、周りにいた梅澤達は…



梅澤: 笑(美月は相当、心にきてたみたいだけど……これならもう、大丈夫そうだな。さすが○○ってとこか。)


林: (相変わらずイチャイチャしてるなぁ……って、今さっきの美月先輩の言葉って、完全なる告白だったよね?!美佑!!)


松尾: …(あ、瑠奈がこっち見てる。あの表情は……あぁ、多分、さっき美月先輩、告白してたよね?かな。いや、あのぐらいなら日常茶飯事なんじゃないの?美月先輩にとっても、○○先輩にとっても。ま、それにしても、何故に付き合ってない案件だけどね。)



ひと安心しつつ、各々で感想を抱いていたのだった。



美月: …ぷはぁ〜


○○: もう良いの?


美月: いや、まだ○○がして欲しいなら…


○○: 大丈夫です。既に胸のところがぐっしょりなので笑


美月: 笑



顔を離した美月と○○は笑い合う。



○○: よし、みんな怪我の手当も完了したし、話も終わったみたいだし…



と、周りの雰囲気を見て、○○は席を立とうとしたが…



美月: あ、ちょっと待って。


○○: うん?


美月: 最後にもう1つだけ良い?


○○: 良いよ。



座り直した美月の言葉に、耳を傾ける。



美月: あのさ……私は、美波達みたいに戦えるわけじゃないから、その…仲間として……○○の隠し事を教えてもらうってことはできない。


○○: …っ…


美月: でも……家族としても、教えてもらうことは……できないのかな?


○○: ……



話の途中で、何となく美月が何を言いたいのかを察した○○は、一気に思考を回し始めた。

が、美月が、予想していた通りのことを言い終わった時にも、その答えは導き出せていなかった。


今回の件…美月の行動力が爆発してしまった原因は、自分がずっと、ディスオルのことやアンチについてを美月に話さず、このあれこれから遠ざけようとしたから。

しかし、この元を辿れば、美月を含む家族に、防衛団のことや自分の立場、力のこと等を話していなかったから、とも言える。


だから、こんなことが起きてしまうのであれば、隠し事なんかせず、ちゃんと全てを話して、理解してもらうのも全然アリだと。

なんなら、このままずっと隠し続けるのは、かなり無理があるというのも分かっているため、○○は迷っているのだ。


大切な人である美月を、家族を、巻き込みたくない。

秘密を話すことで、皆の身に及ぶ危険を増やしたくない。


という気持ちとの狭間で。



○○: ……



しばらくの沈黙が続く。


○○は悩み続け、美月は答えを待ち、林と松尾は事の行く末を見守る。


そして、両方の気持ちが分かる梅澤が、ここで○○に、これまでずっと隠してきた事を明かす、という大きな決断をさせるのは、さすがに急過ぎると考え、間に入ろうと考えたところで…



○○: ごめん。まだ話せない。



これまで通りの選択を、○○は取った。



美月: そっか……まだってことは、いつかは話してくれるってことだもんね?


○○: もちろん。だから、それまでは…


美月: うん。待ってる笑



優しい笑顔で、美月はそう言った。



○○: …ありがとう。


美月: いいえ笑。こうして、夫のことを広い心で受け止めるのも、妻の役目ですから。


○○: え、いや……一応、弟と姉だけど。


美月: やった!!とうとう○○も、すんなりと弟だって言えるようになったんだね!!


○○: うぐっ……未だに抵抗感が半端じゃない…


美月: はっはっは!そろそろ諦めるんだな!



また元の空気感に戻った2人を見て、林と松尾は梅澤を呼び、小さな声で話し始める。



梅澤: どした?


林: いや、展開についていけないんですけど。


松尾: なんですか、あれ。暗い空気になったと思ったら、話が終わればパッと明るくなって。また真面目な空気になったと思ったら、パッと今みたいな空気になって…


林: グラデーションというものを知らないんですかね…



率直に思ったことを伝える2人。



梅澤: ふっ笑。グラデーションか。確かにないな。まぁそれは、○○も美月もお互いが気まずくならないようにって思って、意図的にやってることなんだろうし。


林: え、そうなんですか?


梅澤: ちゃんと聞いたことはないけど多分な。そのぐらい人に気を遣えるし、頭も良いから、あの2人は。


林: へぇ〜



驚いた様子で、変わらずわちゃわちゃしている○○と美月を見る林。



松尾: ……これに、慣れないとなんですもんね。


梅澤: まぁな。これから、美佑も瑠奈も○○と仕事が一緒になることが増えるだろうし。そうなると必然的に、美月もくっついてくることが多くなるから。


松尾: ですよね…


梅澤: 笑、頑張れ。


松尾: ……頑張ります。



憧れの梅澤に励まされ、慣れるためにと、傍から見たらイチャイチャしてるようにしか見えない○○と美月を見る松尾。


そんな2人を見て、口角が上がる梅澤。



梅澤: 笑……さ、美月も最後に聞きたいことを聞けたみたいだし、これで本当に話したいことは、みんな話し終わっただろ?


美月: うん!OK!


○○: 僕もない。


林: ないです!


松尾: コクン


梅澤: じゃ、さっさと帰るぞ!



こうして、梅澤を先頭に、○○達は病院を出て、各々の家……まぁ、○○と美月はもちろん同じ家で、林と松尾も、梅澤の家へと、帰ったのだった。





○○の家



ガチャ



○○: ただいま〜


美月: ただいま!


麻衣: あら、おかえり。ずっと連絡がなかったから心配してたんだけど……笑、ちゃんと美月は○○を見つけられたのね。


美月: うん!!もう私の手にかかれば速攻だったよ!ね?


○○: 僕もびっくりした笑



帰宅途中、今日のことを麻衣達に話さないようにしようと、美月に持ちかけた○○。

心配をかけないため、という理由を聞き、納得した美月はそれに頷き、リビングに入ってすぐ、キッチンで料理をしていた麻衣に、元気にそう言った。



麻衣: 笑、そうだったんだ。○○は学校にいたの?


○○: うん、そうだよ。風紀委員のあれやこれやがあって、風紀委員室にいたら、いきなり美月が突撃してきたんだ笑


麻衣: 梅ちゃんとお話中に?


○○: あと他にも、林さんと松尾さんっていう、風紀委員の後輩がいて、4人で話してたんだ。



かつ、念の為に、誰かを突かれてボロが出ないようにと、麻衣達や他の皆に隠すことを、梅澤達にも共有し、了承を受けた。



美月: もう〜4月になるまでは、私もまだ風紀委員なんだから、話し合いに混ぜてくれれば良かったのにさ!


○○: さっきも言ったでしょ?美月は春休みの見回りには参加してないんだから。


美月: ちぇっ!



腕を組み、パッと顔を逸らす美月。



麻衣: まぁまぁ笑。で、そろそろ晩ご飯できるけど、先にお風呂に入る?


○○: う〜ん……入ろうかな。ちょっと汗かいてるし。


麻衣: OK。



そんな2人のやり取りを聞き、瞳をキランッと輝かせた。



○○ じゃあ、先にお風呂に入らせていただきます笑


麻衣: どうぞ〜



と、自分の部屋から着替えを取ってきた○○が、脱衣所に入ったのを確認して、ソファの上から動き出す。



美月: ……



キッチンで料理に集中ている麻衣を横目で見ながら、何も言わずに、ふら〜っと歩いて行き…



美月: …ゴックン…



脱衣所の扉の前に立つ。

そして、扉に手をかけ、力を込める。



ガラガ…



麻衣: 美月。


美月: っ!!!!!!!!!!!!!



その途中で、いつの間にか背後に立っていた麻衣に声をかけられ、秘境を覗ける数cmの隙間を前に、美月の手が止まった。


ゆっくりと、後ろを振り返る。



麻衣: ふんっ。


美月: …………はい。



ソファに戻れ、という無言の圧を受け、美月は肩を落として、とぼとぼと元の場所に戻り、ソファの上で体育座りをしたのだった。



一方、湯船に浸かり、疲労を癒していた○○は…



ピピ



○○: ん?



脱衣所に置いてある、防衛団用の携帯が鳴らした、メッセージの受信音を聞いた。

湯船から出て、バスタオルで手を拭いた後、携帯を手に取る。



○○: 森田さんから……なんだろう…



そのメッセージが、森田からのものだと分かり、すぐに内容を確認する。



森田 M: 明後日、日曜日の午前10時に、⊿モールの地下駐車場、46番に来てください。お父上が坊ちゃんをお呼びです。



○○: っ……父さんが…



予想外のことに、○○は驚く。



○○: 何の用件だろう……あ、もしかして、僕が第2段階を使えるようになったことかな?病院で治療を受ける前に、森田さんに軽く話してたし、森田さんから父さんに、その話がいってたとしたら……うん。っぽいな。



なぜ、統が自分を呼んでいるのか、ということについて、検討をつけた○○は、森田に返信をする。



○○ M: 了解です。



そして、携帯を脱衣所に置き、再び湯船に浸かり…



○○: …ふぅ………ちょうど良い機会だな。僕からもまた、今日のことについて話した方が良いだろうし…それに、アンチについても、ちゃんと話さないと。



明後日、統と会い、話すことを想像し、そう呟いたのだった。




to be continued

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