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ただ守りたい… 188話

○○: じゃ、いってきます。


麻衣: いってらしゃい。



ガチャ



朝から、麻衣に見送られて家を出た○○。



○○: さ、学校に行こう。



春休みに入って最初の水曜日。


○○は、風紀委員の見回りのために、学校に向かう。



ガチャ



??: いってきま〜すボソッ…



後ろにストーカーを引き連れて。





特別教室校舎前



○○: 部活動生達は、変わらず頑張ってるなぁ。



第1グラウンドで練習をしているサッカー部員達を横目に、○○が校舎の中に入ろうとしたところで…



日奈子: あ!○○だ!!


紗耶: ほんとですね!



元気な声が聞こえてくる。



○○: ん?あ、日奈子と紗耶ちゃんじゃん。


日奈子: おはよう!!


紗耶: おはようございます!


○○: 笑、おはよう。ランニング中?


日奈子: うん!



走っていた足を、○○の前で止めた2人。



日奈子: 練習中!


○○: そっか笑。おつかれ。


紗耶: ありがとうございます笑。○○先輩は……


○○: 僕は、風紀委員の見回りだよ。


紗耶: あぁ。春休み中もあるんですね。


○○: うん。長期休暇……まぁ、冬休みは例外だけど、夏休みと春休みは、いつもと同じようにって感じ。


紗耶: うわぁ〜大変だ。



周りをキョロキョロと見回している日奈子の隣で、紗耶は言う。



○○: もう慣れたよ。1年やってるし笑


紗耶: そうですか笑


○○: それで、2人だけでランニングしてるってわけじゃ……え、ないよね?



近くに、他の女子バスケ部員達の姿が見えず、○○はそう尋ねる。



紗耶: 笑、さすがにそんなことはないですよ。最初は一緒に第4体育館を出発して、学校一周コースを走ってたんですけど…


○○: 途中で日奈子が加速しちゃって、それに紗耶ちゃんだけついて来たんだ。


紗耶: はい笑



先の言葉を推測した○○に対し、紗耶は笑顔で頷く。



○○: じゃあ、今、日奈子がキョロキョロしてるのは、その他のバスケ部員達を探してるのかな?


日奈子: 正解!!



自分達が走ってきた方向を見ても、未だに仲間達の姿が見えないことを確認しつつ、日奈子は大きく返事をする。



○○: 早く走り過ぎなんだって。まぁ、日奈子と紗耶ちゃんの場合は、そのペースで学校一周走っても、走り切れるんだろうけど…


日奈子: 走れる!


紗耶: 紗耶もいけます。


○○: 笑、でもさ、多分、西条さんのことだから、一緒に走ることで、仲間意識を高めよう、みたいな意図もあるんじゃないかな?


日奈子: 仲間意識…


紗耶: なるほど……そんな意図が…



女子バスケ部部長の意図を考察した○○の言葉に、日奈子と紗耶は驚き、納得する。



○○: どうする?ここで合流を待つ?


紗耶: う〜ん、どうします?日奈子先輩。



あくまで、先に走り出した日奈子について来た紗耶は、日奈子に聞く。



日奈子: 待つ!!


紗耶: 了解です笑


○○: 笑、じゃ、ここで軽く体を動かしながら待ってると良いよ。僕はもう行くけど。


紗耶: はい!頑張ってください!


日奈子: いってらしゃ〜い!


○○: そっちも頑張ってね笑



2人に手を振って、○○は特別教室校舎の中に入って行った。



紗耶: さて、待ちますか、日奈子先輩。


日奈子: うん……



○○の背中が消えていった校舎の入口に、ふらっと背中を向けた日奈子。



紗耶: あと数分で来ますよ。キャプテン達も。


日奈子: ………



そして、少し先に植えられた木の方を、じっと見つめる。



紗耶: どうしたんですか?


日奈子: う〜ん……やっぱりそうだよねぇ…



と言いながら、日奈子は足を踏み出し、先程見ていた木の方へと向かって行き…



??: っ!


日奈子: あ!やっぱり!!



木の影に隠れていた、○○のストーカーの姿を確認する。



??: し、しー!!



このまま、日奈子の大きな声で騒がれるのはマズいと思い、ストーカーは慌てて日奈子を黙らせる。



日奈子: っ………何やってるの?


??: いや……その……



自分の口を両手で塞いだ日奈子のこもった声に、ストーカーが言葉に詰まっていると、遠くから西条の声が聞こえてきた。



西条: お〜い!日奈子!!


日奈子: あっ!美咲ちゃん!!!



後ろに弓木を含む、他の部員達を引き連れた西条が、日奈子とストーカーのところへと向かってくる。



西条: なに止まってるの?!ほら、合流して!


日奈子: うん!じゃあね!


西条: ほら、紗耶も!


紗耶: はい!



ストーカーから離れた日奈子と、何やってるんだろうと校舎の入口近くから眺めていた紗耶は、西条の後ろに合流し、ストーカーを置き去っていく。



紗耶: あの〜なんであんなところに?



走りながら、日奈子に聞く。



日奈子: 分かんない!


紗耶: そうですか…


西条: ……笑、ちょっと前に深川君が来なかった?風紀委員の見回りかなんかで。



先頭を走りつつ、少し考えていた西条が聞く。



日奈子: 来たよ!


西条: やっぱり笑。多分、深川君の見回りについて行きたいんじゃないかな?


紗耶: なるほど……って、別にあんな隠れなくても…


西条: 確かにね笑。普通に頼めば連れて行ってくれそうだけど、あの子はその可能性を100%にしたいんでしょ。だから、もう完全に、ついて来るのを拒めないところで、深川君に接触しようとしてるんだと思う。


紗耶: 完全に拒めない……○○先輩が見回りを開始…つまり、風紀委員室で梅澤先輩と顔を合わせて、学校を出た後に、ってことですよね?


西条: おそらくね笑



そのストーカーの考えや行動力に、笑みがこぼれる西条。



日奈子: さすが美咲ちゃん!!あったま良い!!


西条: 笑、そうでもないよ。さ、残り半周。頑張るよ!



「はい!!」





風紀委員室



梅澤: って感じのコースな。一応の想定だと。


○○: 了解。



今日が当番の他の風紀委員達は、既に出て行き、2人だけが残っている風紀委員室で、○○と梅澤は、マップが置かれた机を挟んで、見回りのコースを確認する。



梅澤: ちゃんと見てこいよ。歓楽街を。


○○: もちろん。


梅澤: 今日のお前の報告次第で、瑠奈と美佑を歓楽街の見回りに行かせるか、決めるからよ笑


○○: 責任重大じゃん笑



2人は目を見合せて笑う。



○○: …にしても改めて、歓楽街はヤバい状況だね。オフィス街もだけど。


梅澤: あぁ。まだ憶測の段階だが、アンチが違法ドラッグをばら撒いている。


○○: そう…って、今朝、違法ドラッグについての新情報が来たよ。


梅澤: え?



驚きの後、なぜ連絡しなかったのかという視線を、○○に向ける梅澤。



○○: ごめんごめん。口頭で伝えるべきだと思ってさ。


梅澤: そういうことか。で、その新情報は?


○○: どうやら、早朝に警察が取り押さえた男が、直接、売人と取引をしたことのある男だったらしく、薬の名前を知っていたんだと。


梅澤: そうか……これまでに警察が捕まえたヤツらは、全員が間接的に薬をもらい、その売人を見たこともなければ、薬の名前も知らなかったみたいだから……で、その薬の名前は?


○○: ディスオルって言うらしい。



今朝、防衛団用の携帯に届いた、森田からのメッセージで知った、薬の名前を告げる。



梅澤: ディスオル…


○○: うん。あと、薬の使い方までちゃんと分かったみたいで、薬を水に完全に溶かした後、それを飲むんだって。


梅澤: らしいな。それは警察からの情報にもあったよ。


○○: へぇ………っ…



梅澤と情報を確かめ合っている間に、何かに気づいたのか、○○は集中して考え始める。



梅澤: どうした?


○○: ……いや、もしかしたらなんだけど…



去年の5月。

記憶に鮮明に残っている光景。


それを思い浮かべる。



○○: 根川兄弟に美月が攫われた時に、美月が使われそうになっていた薬が、ディスオルだったのかも…


梅澤: なっ……それは本当か?



既に、美月がアンチに誘拐された過去があることを知っている梅澤は、怒りと共に強いプレッシャーを放つ。



○○: あくまで可能性。だけど、あの時、根川雄斗は薬を完全に溶かす必要がある、って言ってて…


梅澤: …クソ共が……


○○: ……ふぅ……まぁ、とにかく、歓楽街の見回りに行ってくるよ。


梅澤: ………私も。



怒りのままに、梅澤はそう言う。



○○: ダメに決まってるでしょ。春休み中は特に、学校待機が美波しかいないんだから。もし、他のグループから救援要請が来た場合に、対応できなくなる。


梅澤: ……チッ……すまん。頭に血が上ってた。


○○: うん。その気持ちも分かるよ。でも、今は僕に任せて。アンチらしき奴らは絶対に逃さないし、どんなに小さな手がかりでも掴んでみせる笑


梅澤: …笑、じゃあ、お前の帰りを楽しみに待っとくよ。


○○: 行ってきます。


梅澤: おう。



ガラガラ



そうして、風紀委員室を出た○○は、今から自分が回るコースを頭の中で復習しつつ、階段を降り、特別教室校舎の入口から出て…



○○: 久々の裏門。



と、歓楽街に最も近い裏門を通ろうとしたところで…



??: どーーーん!!!!



真後ろから突撃された。



○○: うわっ!!


??: 捕まえた!!!絶対に離さないからね!!


ギュッ



目の前の背中に頭を擦り付けているストーカーは、両腕をその腰に回して、がっちりと両手をロックする。



○○: この声……え、なんで美月がここに?


美月: へっへっへ笑



姿はギリギリ見えないものの、聞こえた声から美月だと判断し、驚いた○○に対して、美月は笑う。



美月: 一緒に見回り行こ!!


○○: ……まさか、そのために家からついて来てたの?


美月: うん!!!一緒に行こ!!


○○: はぁ……



何故、家からの美月の追跡に、自分は気づかなかったのか、ということ。

最近、美月の行動力が爆発し過ぎて、まるで日奈子みたいになっていて、大変だ、ということ。

美月の要求を飲むか否か、ということ。


これら3つを、頭の中でぐるぐると回しつつ、○○はため息をついた。



○○: まぁ、一旦、美月が家からついて来てたってことは良いや。


美月: 美月ちゃんの追跡能力も上がったね!


○○: ……お義母さん譲りか……



防衛団の情報部統括を母に持つ美月が、同じように、諜報能力の1つである尾行能力が高い、ということに納得する。



美月: え?


○○: いや、なんでもない。


美月: そう……じゃあ、見回り行こう!


○○: いや、それもちょっと待って。


美月: え〜お願いお願いお願い!!


グリグリ



駄々をこねつつ、美月は○○の背中につけた頭をグリグリと擦り付ける。



○○: う〜ん……今日は、生徒会の仕事は完全にないんだもんね?


美月: ない!史緒里も今頃、ベッドの上で汁物を飲んでる!


○○: 笑、それは分からないでしょ。でも……やるもんな、史緒里は。



たまに聞く、久保の堕落エピソードから、自室のベッドの上で、朝食をガッツリ食べている久保を想像して、笑いつつも、今日は他の役員達も含めて、完全に生徒会がオフなことに、頭を悩ませる。



○○: ……今から、美波に美月を預けるっていう手も…


美月: 嫌だ!ってか、なんでそんなに、私との見回りを拒否るの!!



思ってた以上に、○○が折れず、少し機嫌が悪くなった美月は、頭を押し付けながら言う。



○○: …別に、美月との見回りが嫌ってわけじゃないし、他の日なら全然、僕もOKなんだけど……


美月: なんで今日はダメなの?!……はっ!まさか、やましいことがあるからじゃ…



どんどん思考を巡らせて行き、美月は自分の中で、とある結論を出す。



○○: やましいこと?


美月: ○○は、生ちゃんみたいに、すぐに女の子と仲良くなるからね!またそういう女の子に会いに行くんじゃないの?!


○○: そんなわけないじゃん。僕は、今から風紀委員の仕事に行くんだし。それに、生ちゃんに関しては、アレはほんとたまたまなんだって。


美月: ムー



ドタバタと足を動かし、背中に押し付けていた頭が、○○の腹の方に来るように回り込んで、パッと顔を上げる。



美月: ほんと?!


○○: ほんと。


美月: じゃあ、私が行っても良いよね!



笑顔と、大きな目で美月は訴えかける。



○○: っ……あの……うん……



なぜ、今日は美月と見回りに行きたくないのか。


それは、今から見回りをする歓楽街が、あまりにも危険だから。

アンチとのあれこれに、美月を巻き込んでしまうかもしれないから。


これが、○○の本音なのだが、これを美月に伝えてしまうと、歓楽街に行くのを、何としてでも止めようとしてくるのは明白。

白仮面の時も、一日中監視をしてきた美月なら、ここでわんわんと泣き叫んで、何がなんでも見回りに行くのを防ごうとするだろう、と考えている○○は、その本音を言うことはできない。



その結果……



○○: ……


美月: え、なんで携帯?


○○: 美波に来てもらう。


美月: なっ……しょうがないな、一緒に行こう…って言う流れだったじゃん!!



予想外の展開に、美月は目をまん丸にし、その視線に顔を背けながら、○○は梅澤にメッセージを送った。



美月: もう〜なんでよ!なんで今日はついて行っちゃダメなの!!


○○: ほんとに今日はダメ!ごめんだけど!


美月: ちゃんと理由を教えてよ!納得できたら諦めるから!!


○○: ……とにかくダメなんだって!



と、良い嘘の理由が思いつかない○○が、美月の駄々こねに何とか耐えていると…



梅澤: うわ、ほんとにいるよ。



○○からのメッセージを受け取り、すぐに風紀委員室から走り出した梅澤が、2人の元へとやって来る。



○○: あ、美波!美月をどうにかして!


美月: 絶対に私もついて行くんだから!たとえ美波でも、私のこの気持ちは止められ…


ガシッ


梅澤: 美月。今日は諦めろ。



駄々こねモードの美月に抱き着かれている○○の表情を見て、○○の気持ちを悟り、同じように今日の見回りに美月がついて行くのは危険だと考えた梅澤は、右手で美月の頭を掴んで、そう言った。



美月: こ、これは……それでも、私は…


梅澤: ……仕方ない。私も、親友にやりたくはないんだが…



ため息をつきつつ、梅澤は右手に力を込め始める。



美月: っっっっ!!!!……ふぅ…ふぅ……



どんどんと増していく痛みに必死に耐えながら、○○の腰をロックした両手は離さない美月。



梅澤: なんという執念…


○○: 美波の力に慣れてきたんじゃない?


梅澤: ……もう少し強めるか…


美月: っ!!こ、これが全力じゃ……イタタタタタタタ!!!



さらに強まった痛みに、とうとう美月は耐えられなくなり、両手で梅澤の右手を掴み、自分の頭から離させようとする。



○○: あ、やっと離した。


梅澤: ほら、今のうちに行け。美月はこっちで面倒を見とくから。


○○: よろしく笑


美月: くぅぅぅ……ま、○○〜!!!!!



こうして、美月を梅澤に預けた○○は、裏門から学校を出て、見回りを開始した。



美月: ○○……なんでよぉ……


梅澤: 色々とあるんだって。


美月: ……って、もう離して良いでしょ!!めっちゃ痛いんだけど!!!


梅澤: 笑、大人しく私と一緒にいるって約束するなら。


美月: 約束する!約束しますから!!離して〜!!そろそろマジで頭が割れるから!!


梅澤: 嘘じゃないよな?



頭を掴んだまま、美月の目を見て、梅澤は尋ねる。



美月: 嘘じゃない!


梅澤: ………笑、約束な。



そう言って、梅澤は美月の頭から手を離し、痛みから解放された美月は、地面に膝をつける。



美月: ふぁぁ……痛かったぁぁ……


梅澤: お前の駄々こねが過ぎるからだよ。


美月: だって、○○と一緒にいたかったんだもん…


梅澤: その気持ちは分かるが、すごい目立ってるからな。まぁ、みんな慣れてるみたいだけど。



と、梅澤が言うように、○○と美月が騒ぎ始めた時に、近くで活動をしていた部活動生達の視線が集まりはしたのだが、すぐにいつもの2人のやり取りだ、と思われ、その視線はなくなっていた。



美月: そんなのどうだって良いよ………美波は知ってるの?なんで○○が、今日の見回りに私がついて行くのを、あんなに嫌がったのか。


梅澤: ……いや、知らん。


美月: そう………はぁ…なんでなのかなぁ…


梅澤: ……それはまぁ、アイツが帰ってきた時にでも、聞けば良いだろ。



美月の疑問に対して、良い答えが思いつかず、未来の○○に全てをぶん投げた梅澤。



梅澤: とにかく、風紀委員室に行こうぜ。ここにずっといるわけにもいかねぇし。


美月: ……うん…



そして、落ち込む美月を連れて、風紀委員室に戻るのだった。





歓楽街近辺



○○: ……ここまでは特に異常はなし。



周りを注意深く見ながら、裏門から住宅街を通り抜け、オフィス街を左手に歩き、歓楽街の近くまで来た○○。



○○: よし、本命の場所に…



と、気を引き締め直して、歓楽街の中へと入ろうとしたところで…



ピピ



防衛団用の携帯の方に、メッセージが届く。



○○: ん………生ちゃんからかな。



このタイミングで、メッセージを送ってきそうなのは、この辺りで活動をしている生田ではないか、と予想を立てつつ携帯を取り出すと、画面に映ったメッセージの送り主は、やはり生田であった。



生田 M: 風紀委員の見回り?



そのメッセージを確認すると、すぐに返信をする。



○○ M: うん。


生田 M: ごめんね、まだアンチの構成員は見つけられてないの。


○○ M: いや、僕も見つけたいって思ってるから、逆にまだ見つかってなくて、好都合というかね笑


生田 M: 何それ笑。でも○○が手伝ってくれるってことでしょ?ありがと。


○○ M: いえいえ。じゃ、見回りを始めます。


生田 M: OK。あと、念の為に護衛との距離を縮めといてね。



○○: 護衛との距離……森田さんと東口さんに連絡しないと。



生田とのメッセージのやり取りを終えた後、○○は生田の助言通り、護衛である森田と東口に、普段以上に距離を縮めるように言ってから、歓楽街の中へと入っていくのだった。




to be continued

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