愛情の一方通行
都内のマンションの2LDKの部屋に住む、カップル歴5年の○○と蓮加。
2人は大学で出会い、段々と距離を縮め、付き合い始めた。
そして、大学を卒業した、およそ2年前に同棲を開始した。
○○: ふぁ〜あ…
ガチャ
○○: おはよ〜蓮加……って、こっちに出てきてるわけないか笑。休みだし。
自室から出てきた○○は、誰もいないリビングを見渡しつつ、向かいの部屋の前へ。
コンコン
○○: 蓮加、起きてる?
そう扉越しに尋ね、扉に耳を当てると…
「…あ、いた……うん…OK…」
○○: …ゲーム中だな。じゃあ、適当に作っとくか。
昨日の夜に、部屋に籠ってゲームをすると言っていたことから、おそらくオールでゲームをしていると踏み、○○は、蓮加は本当にゲームが好きだな〜と思いつつ、キッチンで朝食を作り始めた。
20分後…
コンコン
○○: 入るよ〜
ガチャ
蓮加: ……あ、やばっ……はぁ…
○○: …
今、蓮加がやっているゲームをほんの少ししか、やったことがないため、じっと画面を見つめ、ゲームの状況を確認する。
○○: これは…蓮加はもうやられた後かな…
トントン
お盆を持っていない手で、蓮加の肩を優しく叩く。
蓮加: ん?…あぁ、○○。
部屋にいる○○に気づいた蓮加は、ヘッドホンを外して、後ろを振り向く。
○○: おはよう、蓮加。朝ご飯作ったけど…
蓮加: そこに置いといて。
○○: 分かった………
蓮加: まだ何か用?
○○: あ、いや…せっかくの2人とも休みだし、どこかに出かけようかな〜とか…
蓮加: ごめん、今日は一日ゲームするつもりだから。
○○: 笑、了解。楽しんで。
蓮加: うん。
その返事を聞き、○○は部屋を出る。
○○: ま、そうだよな〜また今度だな。よし、さっさと洗濯と掃除を終わらせよう。
○○: フンフンフンフフフフーン、フフフーンフフフン…
鼻歌を歌いながら、リビングで掃除機をかけていると…
「○○!ジュース!!」
という声が、掃除機の音を掻い潜って、○○の耳に届く。
○○: 分かった!
もう蓮加の耳には、ゲームの音しか聞こえないようになり、自分の声は届かないことを理解しながらも、返事をして、掃除機を止める。
○○: オレンジジュースと…あと、チョコも持って行こう。
そうして、お盆の上に、蓮加がお気に入りのコップと皿を置き、そこにオレンジジュースを注ぎ、チョコレート菓子を乗せる。
コンコン
○○: 入るよ〜
ガチャ
蓮加: うん、良いじゃん…それで行こう…
○○: 置いとくよ。
蓮加: あ、なんか食べれるヤツも…
○○: チョコレート持ってきた。
蓮加: そう。ならいいや。
○○: 笑、なんか用があったら遠慮なく。
蓮加: そのつもり〜……そういえばさ、吉田は…笑、ごめんごめん、つい癖でさ…
○○: おっと、こんなところに…っと。
ガチャ
床に置いてあった、お盆とゴミを回収して、部屋を出る。
しばらくして、掃除も洗濯も終わり、○○がソファに座り、リラックスタイムに入ろうとしたところで…
「○○!アイス取って!」
○○: はーい!…アイス、残ってたっけ?………あ〜これは…どうだろう…一応、持ってってみるか。
コンコン
ガチャ
○○: ねぇ、これで大丈夫?
蓮加: ん?…あ〜嫌だ。別のが良い。
○○: 残念ながら、冷凍庫に残ってたのが、これだけなんだよね。
蓮加: そっか…ならいいや。
○○: …しょうがない。パパっと、コンビニで買ってくるよ。
蓮加: あっそう。
○○: すぐに買ってくる。
蓮加: うん。
ガチャ
蓮加: …うん、コンビニに買いに行くって…笑、そんなことないって、普通だよ……ふ〜ん……綾乃の方は、そうじゃないの?
高校からの大親友かつゲーム友達である、吉田綾乃クリスティーと、引き続きボイスチャットを通して、会話する蓮加。
綾乃: 笑、うちのは、○○君だっけ?蓮加の彼氏君ほどは、優しくないよ。頼まずとも、コンビニに走ってくれるとか考えられない。
蓮加: へぇ〜あ、あった!
綾乃: マジ?すぐ行く!
20分後…
コンコン
ガチャ
○○: 買ってきたよ〜何食べたい?
蓮加: 今、ちょっと待って!…そっち行った!
○○: …
待機を命じられ、相変わらずコントローラーを操作する手の動きが速すぎるな〜と思いつつ、蓮加を眺める。
○○: …
蓮加: 気散るから、どっか行ってて!…ヤバいヤバい!
○○: 了解。冷凍庫に入れとくね。
すぐに、眺めることさえ禁じられてしまい、○○は部屋を出て、買ってきたアイスを冷凍庫に入れた後、一緒に買った昼食を持って、今度こそリラックスタイム?に入った。
2時間後…
蓮加: ふぅ…どうする?もう一戦ぐらいやる?
綾乃: うん。けど、その前にちょっと休憩しよ。ぶっ続けだし。
蓮加: そうだね…って、昨日の深夜からだから、そろそろ12時間やってるわ笑
やっとコントローラーを机の上に置き、伸びをしつつ、会話を続ける。
綾乃: ってことは、1時ぐらいからやってんの?
蓮加: うん。
綾乃: 大丈夫なの?寝ないで。
蓮加: 綾乃だって分かってるでしょ?私はそんなに寝なくても、問題ないの。
綾乃: とか言って、ゲーム終わったら、いっぱい寝るんでしょ笑
蓮加: 笑、正解。
綾乃: はぁ〜彼氏君が不憫でならないな〜
蓮加: え?そう?
綾乃: うん。だって、あんだけ優しくて、朝ご飯も作ってくれて、掃除とか洗濯もやってくれてるんでしょ?それなのに、蓮加からは何も返してもらえない。
蓮加: 何も返してないって笑
綾乃: さっき、彼氏君がジュース持ってきてくれたり、アイス買ってきてくれた時も、お礼言わなかったっしょ。
蓮加: あ、そういえば。
綾乃: 何気に、そういう一言が大事だったりすんの。なんて言うのかな、愛情が一方通行じゃないってことを、お互いに確認するためにも。
蓮加: ふ〜ん…
綾乃: だから、ちゃんとお礼を言うことは大切なんだよ。特に、同棲してるカップルさんには。まぁ別に、蓮加がゲームばっかやってて、家事を手伝わないとか、そういう生活自体のことには、他人だし、口出さないけど…
蓮加: …
綾乃: このままだと、彼氏君から愛想をつかされるかもよ。
蓮加: …
綾乃: 笑、まぁちゃんと考えた方が良いよ。これは、先輩からのアドバイス…なんてね笑
と、綾乃が言ったところで…
「オギャーオギャー」
綾乃: あ、ごめん。うちの子が泣いちゃったから、一旦抜けるわ。
蓮加: うん。
ボイスチャットを切り、完全に1人となった部屋で、蓮加は先程、綾乃に言われた言葉を考える。
そして…
ガチャ
○○: っ!!!
蓮加: …
部屋から出てきた蓮加を見た瞬間に、ソファに座っていた○○は、手に持っていた携帯を慌てて隠した。
○○: あ、アイス?それなら、冷凍庫に…
蓮加: 今、何やってたの?
あまりにその様子が不自然であったため、蓮加は○○に尋ねる。
○○: いや、えーっと…
斜め上に視線を向け、何を言うか考えているらしき○○を見て、蓮加は自分を誤魔化そうとしていると、確信づく。
さらに、○○は自分に何を隠して、誤魔化そうとしているのかを考えた瞬間に、綾乃に言われた言葉を思い返す。
「このままだと、彼氏君から愛想をつかされるかもよ。」
○○: あ!そう、ゲームをやってたんだよ!ゲーム!
蓮加: …誤魔化さないでよ…
○○: 誤魔化してなんか…
蓮加: …グスン
○○: え?
突然、大きな目いっぱいに涙を溜めた蓮加に、○○は驚き戸惑う。
○○: ちょっ泣かないでよ、蓮加。
すぐに、ソファから立ち上がり、近くに駆け寄って、抱きしめる。
ギュッ
蓮加: ごめんなさい …
○○: え?なんで蓮加が謝るの?
蓮加: ごめんなさい…だから…蓮加を置いてかないで…
溢れてくる涙に邪魔されつつも、なんとか言葉を紡ぐ。
○○: 蓮加を置いてく?一体、なんのことを…
蓮加: これからも…一緒に…いてよ…
○○: っ!あ、うん、それはもちろんなんだけど…ちょっと落ち着こう。落ち着いて、話をしよう。
そう言って、○○は自分の言葉を聞かず、泣き続ける蓮加に苦戦しつつも、なんとか慰め、涙を止めさせて、ソファに座らせる。
蓮加: …
○○: えっと…ごめんね、あんまり状況が掴めてなくて…その〜
蓮加: …○○、他の女の子と連絡を取ってたんでしょ?
○○: ん?!
あまりに予想外の言葉が、蓮加の口から放たれたため、自分も落ち着けようと窓の外を見ていた○○は、驚愕し二度見する。
蓮加: だって、蓮加が来た瞬間に、携帯隠したんだもん…
○○: いやいやいやいやいやいやいやいや…違うよ!
蓮加: …じゃあ、何してたの?
○○: …う〜ん…ここはもう、言うしかないな。
そうして、○○は蓮加へサプライズにしようとしていたことを、話し始めた。
その話を聞き、自分の勘違いで涙を流してしまったことに、顔を赤くする蓮加に対し、○○はどこか、決心づいた表情をしていた。
およそ、1ヶ月後…
とある馴染み深い名前の豪華客船のラウンジで、綺麗な夜景が見える席に座る蓮加の隣へ、○○がやって来る。
○○: はい、どうぞ。
蓮加: 笑、ありがとう。
○○が持ってきてくれたグラスを受け取りつつ、○○に笑顔を向ける蓮加。
○○: ふぅ…
蓮加: …夜景、綺麗だね。
○○: うん。やっぱり、ここを選んで良かった。
蓮加: ありがとう。
○○: いいえ笑……
蓮加: …
2人の間に、一瞬の沈黙が訪れた後、○○は、期待を隠しきれないような表情の蓮加の目を見て、ずっと心に秘めていた言葉を発した。
○○: 僕と、結婚してください。
蓮加: はい笑
End
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