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ただ守りたい… 194話

歓楽街

路地裏



○○: こっちはまだ余裕だが、お前の方は中々にキツいんじゃねぇの?そんな刀を振り回して。


阿墨: んなわけあるかよw。逆に、そっちの方がヤバいんじゃないのか?これにビビってんのか、やけに大きく避けるし。


○○: 念には念を入れてだよ。それに、バテてるわけがないだろ。息も切れてないし。



手の持つ短刀を動かしながら言う阿墨と、拳を握り直し、構える足のスタンスを変えつつ答える○○。



阿墨: あっそw(しっかし、コイツ……マジでどんな体力してやがんだ。普通、こんなに動いたら、バテるはずだが、ケロッとしてやがる。)


○○: ……



とは言いながらも、かなりキツイよな。


師範や春時との稽古のおかげで、戦闘を持続する体力が十分に付いて、このまま戦い続けることに関しては、別に問題ない。


ただ、あの武器が厄介過ぎる。


こんな狭い場所で振り回されちゃ、そう簡単には接近できないし、接近できたところで、相当、あの武器…短刀を使い慣れてるアイツに、まともに攻撃を加えるには、こっちもダメージを負う…捨て身の攻撃をするしかない。

実際、それによって、俺の体にも切り傷を作ったが、それだけアイツにもダメージを与えられてる。


が、それを続けて、先に倒れるのは、確実に俺の方だ。


なんたって、少しでも深く切られたり、出血が多くなれば、その時点で、負けが確定するからな。


ってことは、早めにケリをつける必要がある。


それで、そのために1番手っ取り早いのは、武器破壊か武装解除を狙って、アイツの武器を無くすことなんだが…



○○: ……


阿墨: ……



2人の視界に映るのは、お互いの表情や手元、足の動きなど、次の動作とそのタイミングを測るための場所。


一瞬の油断もできない警戒状態が続く。



阿墨: …


ズザ


○○: …



地面を擦り、一歩、右足を前に出し、短刀の切っ先を○○の方に向ける阿墨に対し、○○も一歩下がることで、距離を保つ。



○○: …ふぅ……



こんな中で、それを狙うのは、あまりにもリスクが高すぎる。

まずもって、アイツは短刀の殺傷力だけに頼り、他の攻撃をしないような奴でもないし、むしろ、短刀での斬撃を囮に使って、強烈な打撃を放ってくるような手練だ。

そんな相手に対して、武器破壊や武装解除を狙うっていうのは、かなり……


でも、やんないと着実に敗北に近づいてくだけだもんな。



なら、やるしかない。


俺がそれを狙っているって、アイツに悟られた瞬間に終わりだと思え。

そこらの奴らなら、悟られても、またそれをダミーとして攻撃を加えることができるだろうが、コイツには通じない。


俺の意識がある内に戦った敵の中でも、黒峰に次いで強い、コイツにはな。



……



○○: ふっ笑


阿墨: 何がおかしいんだ?


○○: いや、すまん。黒峰と戦った時のことを思い出してな。


阿墨: ほぉ……学校外で戦った時のか?w


○○: 文化祭の時に決まってんだろ。


阿墨: ……ま、いいや。で、その戦いの中で、どんな面白いことがあったんだよ。



足取りを変えたり、重心を変えたりすることで、お互いを牽制し合いながら、会話を続ける。



○○: 別に、戦いの中で面白いことがあったわけじゃない。


阿墨: じゃあ、なんで思い出し笑いなんかしたんだよ。


○○: それは……黒峰に比べれば、お前はまだマシだな、って思ってよ笑



文化祭の時、そして工場跡地で戦った黒峰から感じられた、殺気に近いレベルのプレッシャーと、自分が防御することしかできず、渾身の攻撃を当てても、全く効かないという絶望感。

これを既に経験している○○は、その黒峰との戦いと、目の前にいる敵…阿墨との今の戦いを比べて、思わず笑ってしまったのだ。



いつまでも、危険を恐れてるんじゃねぇよ。

黒峰の時は、覚悟のを決めて、更なる一歩を踏み出せていただろ。


大切な人を守るために、覚悟を決めろ!



と、自分に対して。



阿墨: 俺の方が弱いってか?


○○: いやいや。ただ、ここからだぞってな!!



改めて強い意志を宿した○○は、短刀の刃の位置と、敵の四肢の動きを、正確に捉えながら、接近する。



阿墨: w、いきなりかよ!!


○○: ふんっ!!



地面を強く踏み、体全体で捻り出した○○の右ストレートに対し、阿墨は左腕を内から外に動かし、拳の軌道を逸らす。



阿墨: そんなに軽く間合いに入っていいのかよ!!



そして、無防備となった右腕に、短刀を振り下ろそうとするが…



○○: ふっ!


ダッ!!



地面を弾き、右膝を阿墨の腹に向かって引き上げる。



阿墨: っ!


バシッ!!



咄嗟に、短刀の柄で、向かってきた膝を打ち下ろし、胸への刺突に切り替える。


それに対し、○○は左足を軸に回転し、ちょうど短刀が○○の体がある場所を通るタイミングで、半身になり、背中スレスレで刃を回避。

そのまま、右脚を胸の近くまで引き寄せ、後ろ回し蹴りの体勢に入る。



阿墨: 近すぎるんじゃねぇのか?!w



空ぶった刺突により、伸ばし切った状態になっている右手から、短刀を空中に投げつつ、腰を回転。

左手で短刀を逆手に持ち、○○の蹴りよりも先に、斬撃を当てようとする。


ここで、阿墨が考えた、○○の蹴りの軌道は2つ。


1つは、当てればかなりのダメージを与えることができるだろう、顔を狙った軌道。


ただ、これをやるには、あまりにも距離が近すぎて、顔に当たるとしても踵ではなく、脹脛の裏。

そのため、この軌道で蹴りを成功させるためには、左の軸足の位置を無理やり変える必要がある。


そんなこと、常人なら不可能に近い。

だが、これまでに見た、○○の身体能力を持ってすれば可能であると判断する。


しかしながら、軸足を移動させる分、蹴りのヒットが遅くなるため、短刀をこのまま振り下ろせば、対処可能である。



もう1つは、縮まり過ぎた距離を離すための、腹部に向けた軌道。


阿墨は、十中八九、この軌道で来ると考えている。

なぜなら、現状で最も効果的であり、自分からしてもかなり対処が難しいからだ。


蹴り足を引き付けた状態から、ただ突き出すだけのため、蹴りのヒットまでが早く、今の段階で、どれだけ早く、短刀を振り下ろしても、おそらく同時にお互いの攻撃が当たる。

となると、こちらもダメージを受けることになるが、より大きなダメージを受けるのは、○○の方である。


ならば、空いた右腕を腹に添え、蹴りに備えつつ、できる限り速く、短刀を○○の身体に当てるのが、最適解。


そう考え、阿墨は右手を腹の前に置き、防御の形を取りつつ、腰を回転させて、短刀を振り下ろす。



が……



○○: はぁっ!!


阿墨: なっ!!



○○が選択した蹴りの軌道は、阿墨が予想していたものとは全く違っていた。


回し蹴りを放つには、近すぎる距離。

左手に持ち替えた短刀を振り下ろす阿墨。


この2つを正確に捉えていた○○は、左肩を下げることで、蹴りの軌道を横から縦にし、下から上へと突き上げるような軌道で、阿墨に一撃を……短刀を持つ左腕に強烈な一撃を与えた。



ドンッ!!


阿墨: くっ…


○○: ここっ!!



そして、さらに体の回転速度を上げ、短刀を手放しはしなかったものの、左腕を突き上げられ、右腕も予想外の蹴りを喰らった衝撃で離れていて、ガラ空きとなっている阿墨の腹に、右脚の蹴りを撃ち込んだ。



ドスンッ!!!!!


阿墨: グハッ!!!



力強い蹴りの直撃を許してしまった阿墨は、数メートル後方に飛ばされてしまう。



阿墨: …はぁはぁ……


○○: このまま押し通す!!



腹に響く痛みに耐え、未だに痺れたままの左手から、右手に短刀を移し、呼吸を整えようとする阿墨に、追撃を仕掛ける○○。


地面を蹴り、離れている距離を、攻撃しやすい距離まで縮めるために、接近しようとする。


しかし…



阿墨: 正面からは安直過ぎるだろ!!



ビュンッ!!



○○: っ!!!!



持っていた短刀を、近づいてきていた○○に向かって投げる。


目的として、阿墨の手元から短刀を離すことを考えていた○○にとって、その阿墨の行動は願ったり叶ったりだが、あまりにも急過ぎた。


短刀の切っ先がこちらに向かってきているのを、視覚で確認すると同時に、ほぼ反射で、膝を曲げ、しゃがむことで、何とか回避に成功するが、体勢が崩れてしまう。



阿墨: 隙だらけだぞ!!



そこに、○○の斜め前に踏み出していた阿墨の蹴りが、顔目掛けて飛んでくる。



○○: マズっ!



咄嗟に防御するが、その衝撃を逃がしきれず、大きなダメージを顔面に喰らいながら、○○は蹴り飛ばされた。



○○: くっ…そ……



一瞬、地面に背中をつけたが、すぐに立ち上がり、唇を切ったのか、口の端から流れる血を拭う。



阿墨: お互いに良いのが一発ずつって感じか?w


○○: …ふぅ………



まだ続いている、頬への痛みを感じながら、次の展開を考える。


阿墨が持っていて、1番厄介だった短刀は、自分の背面側にあり、阿墨が再びそれを手元に戻すためには、自分の横を通り抜けるか、倒すかしないといけない。

だから、これから考えるべきことは、いかに阿墨を後ろに通さず、阿墨を倒すことができるか。



阿墨: ちなみに、お前も戦ったことがあるから分かると思うが、俺は素手でも強いぜ。



そう言って、拳を握る阿墨。



○○: ……



それと向かい合う○○は、さらに集中力を深めるのだった。





同時刻


歓楽街入口



美月: えっと……ここからが歓楽街なんだよね?



星野から聞いた情報で、風紀委員がオフィス街か歓楽街に向かった、ということを聞き、○○レーダーを使った結果、歓楽街にいる可能性が高いと考えた美月。


裏門を通り、住宅街を抜け、乃木坂橋を渡って、ずっと早歩きで歩き、やっと歓楽街へと辿り着いたのだった。



美月: 風紀委員の姿は……



歓楽街の中に入り、通りを歩きつつ、周りを見渡して、風紀委員を探す。



美月: …この辺にはいなそう……ってか、みなみちゃんが見た風紀委員が誰か聞いておけば良かったなぁ、マジで。



陸上部の練習中で、携帯が触れない状況にあるのか、メッセージを送っても既読がつかない、星野とのメッセージ欄を見て、そう呟く美月。



美月: う〜ん………



全く来たことがないからか、中々進まない足を、一旦止めて、自分がどう動くべきか、考える。



美月: …あ、もう1回、○○の気配を探ってみるか。歓楽街にいるなら、多分、大体の方向が分かるだろうし。



という考えに至った美月は、すぐに目を瞑り、○○の気配を感じ取ろうと集中する。


すると……



美月: …ん!あっちの方だ!



○○の気配を強く感じる方向を見つける。



美月: でも、位置的には建物を突っ切って行かないと……よし、できる限り最短で行きたいからね。路地裏を通っていこう!



そう言って、自分を奮い立たせた美月は、入口から真っ直ぐに伸びている大きな通りから外れ、路地裏の中に入り、○○の気配を強く感じる方向へと…



美月: めっちゃ怖いから、急いでね!



素早く移動して行った。


そして、3分程度、早足で歩いた先に…



阿墨: おらっ!!!


○○: このっ!!



お互いの拳が、頬を撃ち抜き合う。


2人は、2、3歩、後ろに下がりつつも、睨み合う。



そんな様子が、美月の目の中に入ってきた。



美月: ま、○○?


○○: えっ…美月?!


阿墨: あ?



が、探していた○○の姿は、こちらを振り向く男の向こう側にあった。



○○: なんでここに……って、そんなことよりも…



なぜ、こんなところに美月が来たのか。

それはおそらく、自分を探してなんだろうが、それでどうやって、ここが分かったのか。


という疑問が、一瞬だけ頭を過ぎったが、すぐに切り替わる。



○○: 早く逃げて!!



大切な家族である美月を、阿墨から守るため。

アンチの構成員がうじゃうじゃといる、このエリアから出させるため。


○○は必死の形相で、そう叫んだ。



美月: っ!!



その○○の表情を見て、これは本当に危険なんだ、と思った美月は、急いで来た道を戻ろうとしたが…



阿墨: なに?彼女?w



この男が、それを許すわけがなかった。

瞬時に、美月に近づき、腕を掴む。



美月: いやっ!離して!


阿墨: ちょっとそれはできないなぁw。どうやら君は、コイツにとっての弱点みたいだし。



口角を上げ、○○の方を見ながらも、阿墨は掴んだ腕を後ろ手に持ってこさせ、もう片方の手で美月の顎を掴む。



ガシッ


美月: っ!


○○: おいっ!み…その子は関係ないだろ!


阿墨: ww、今更名前を隠しても意味ないだろ。君の名前は美月ちゃんって言うんだ。なに?コイツのこと好きなの?


美月: ギロッ



顔を横に向けて、背後にいる阿墨の姿は完全には見えないが、阿墨を睨みつける美月。



阿墨: おぉ、凄い眼圧。良いねぇ。そういう気の強い子は嫌いじゃないよ。あ、俺さ、気持ちよくなれる薬を持ってんだけど、使ってみない?w


○○: この…



チラチラと○○の方に視線を向けながら、そう美月に言うことで、人質がいて動けない○○を煽る。



美月: そんなのいらない!


阿墨: ほんと?凄い気持ちよくなれるんだよ。まるで天国にいるみたいなさ。しかも、使うのがめっちゃ簡単なんだ。



これまでに○○や他の男に向かって発していた声とは違う、いかにも優しそうな声を、阿墨は美月にかけ、それを聞いている○○は、悔しさと怒りと共に、不気味さ、気持ち悪さを感じる。



阿墨: 水によく溶かして、それを飲むだけで良いんだ。


美月: っ!!…それって……



阿墨の言葉により、美月は過去の恐怖を呼び起こされる。



阿墨: え、何その反応………まさか、使ったことあんの?ww



お前、知ってた?という視線を、○○の方に送る。



○○: ……


阿墨: 答えない…か……じゃあ、ちょっと気になるし、君の口から聞いてみようかな。


美月: いっ…



顎を掴む力を強めて、美月に話させようとする。



○○: っ!!


美月: ま、○○…



助けを求める視線が突き刺さる。

しかし、○○は動くことができない。


なぜなら、今、少しでも動いたら、阿墨が躊躇なく、美月を痛めつけることが分かっているからだ。



阿墨: いや、話してくれるだけで良いから。今は。


美月: …チラッ……去年の5月……男達に誘拐されて……そんな薬を飲まされかけた…



悔しそうな○○の表情を見た後、美月はポツリポツリと、あの時のことを話した。



阿墨: へぇ……あ、そういえば、前に黒峰が、5月頃にディスオルが外に漏れた、みたいなことを言ってたな。しかも、中位と下位が数十人捕まったみたいなことも。



美月の顎を掴む力を弱めつつ、視線を○○に向ける。



阿墨: それやったのも、お前?…ってか、○○君よぉ?w


○○: …


阿墨: 答えないと…


○○: …あぁ。



拳を強く握り締めながら、○○は肯定した。



阿墨: あっそうww。この子のおかげで、お前の名前も分かっちゃったな。苗字まで聞こうかなw


○○: …もう良いだろ、早く離せ!


阿墨: いやいや、そんな勿体ないことはできねぇよw


○○: これは、俺とお前の戦いだろ!関係ない人を巻き込むな!!


阿墨: お前さw、それ俺に向かって言うか?



自分が、堅気を巻き込むまいとする暴力団や、他の組織とは違う、目的の為だったら、たとえ一般人でも巻き込むことを厭わないアンチという組織に所属していることを、正確に理解している阿墨は、そう言う。



阿墨: もうこの組織に入ってから、長く経つんだ。関係ない奴を巻き込むことも、それを利用することも、今の俺からしたら、当然のことなんだよw


○○: …


阿墨: なに?まさか俺に期待してたの?男同士の喧嘩に義理を持ち込むような馬鹿野郎だと。んなわけあるかよ。そんな馬鹿野郎は、強さがイカれてるか、頭がイカれてるかのどっちかしかいねぇんだ。


○○: 目的の為なら、どんなに卑怯なことでもすると?


阿墨: あぁ、もちろんだ。こっちもこんな組織に所属している以上、仕事の失敗は命に関わるんだよ。だから、使えるものはなんでも使う。今みたいになw



美月を人質に取ったまま、阿墨は一歩前に出る。



○○: くっ…



これまでの阿墨の言動から、自ら美月を解放してくれることはない、と考え、○○は必死に思考を回す。


どうすれば、美月を助けることができるのか。

どうすれば、現状を切り抜けることができるのか。

どうすれば、阿墨を倒すことができるのか。


視界の中心にいる、阿墨の細かい挙動と、美月の怖がる表情を見る。



阿墨: よし、まだまだ聞きたいことはあるんだが、先にもっとこっちに有利な状況を作ろうかなw。おい、その俺の刀よりも後ろに下がれ。



○○の背後にある短刀を、首で指しながらそう言う。

すると、○○はゆっくりと、後ろに下がり始めた。



阿墨: いやぁw、そんなにこの子が大事なんだね。これはカップル確定かな。


美月: っ……



本来なら、高速で首を縦に振るところだが、美月はあまりの恐怖に、体を少しも動かすことができない。



○○: これで良いだろ。



短刀の後ろまで下がった○○は、阿墨を睨みつけながら言う。



阿墨: お、じゃあ、そのまま動くなよw


○○: …



歯を食いしばり、拳を握り締め、○○は動きたい衝動に耐える。

そして、阿墨がニヤニヤしながら、○○の目の前まで来て、素早く短刀を回収すると共に、美月の首筋に刃先を添わせる。



美月: っ!!い、いや…


阿墨: さて。これで更に素直になってくれるよな?w


○○: っ…



朝方だと言うのに、建物の影で薄暗く、狭い路地裏。

そこで、勝ち誇った笑みを浮かべる阿墨と、首に光る刃を当てられて、顔が青ざめ、恐怖で潤んだ瞳…助けを求める瞳で、こちらを見ている美月。


しかし、動けない。

美月を助けられない。



○○: ……



この状況を切り抜ける為には、今の俺の力じゃ足りない。

今どれだけ機転を効かせても、予想外の行動に出ても、俺が何かしらの行動を起こすよりも早く、阿墨が美月を殺してしまう。



くそっ、マジでどうすれば良いんだ…



力が欲しい…


今以上の速さが、力が……欲しい。




阿墨: まずは、まともに動けないぐらいに弱らせる必要があるから……よし、両手を後ろに組んで、こっちに寄れ。



ここで、美月に○○の名前を聞き、深川○○かどうかを確認するのもありだが、それは面白味がないと考えた阿墨。

だから、拠点に連れ帰って拷問でもして吐かせようと考え、そう指示を出し、○○も美月を傷つけられないために、黙って従う。



美月: ○○……


○○: …


阿墨: ふっw、さっきまでの威勢が嘘みたいだぜw。じゃあ、一発……



ザシュッ!



○○: グッ!!



短刀が、○○の右腕を切り、血が零れる。



美月: きゃっ!!


阿墨: そのまま、動くなよ。次は左腕だw



ザシュッ!



○○: ガァッ!



今度は、左腕を切られ、○○の両腕からは血が流れ、地面に垂れる。



美月: お願いだからやめてよ!!私のことはどうしたっていいから!!お願い!!



愛する人が、自分の為で、傷つけられていく様子、血だらけになっていく様子に耐えられず、美月は涙を流しながら、そう訴えかける。



阿墨: それは聞けないお願いだなぁw。俺はコイツを攫う必要があるんだよ。そのためには、コイツを動けなくしないといけないんだ。ってことで、次は右足を…



短刀を再び振り上げる。





美月: ○○!!!!





その叫びが…


大切な人の悲痛な叫びが……





○○: っ!!!!!!!





痛みと悔しさと怒りが混ざり合い、それで満たされていた頭を、貫く。


そして…





「絶対に守る」





ガチ





2つ目の扉が開いた。




to be continued

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