ただ守りたい… 162話
火曜日
生徒会室
新生徒会の面々は、それぞれのデスクで一生懸命に仕事をこなす。
入口の扉から見て、右手前には庶務のデスクがあり…
宮瀬: ……あぁ、くそっ!
大園: 宮瀬君。分からないなら、私に聞いてください。暴言を吐く前に。
宮瀬: ……すみません。
大園: どこが分からないんですか?
宮瀬: ここです。
大園: ……言葉でちゃんと伝えてください。
宮瀬: っ……教えてください。
大園: はい。ここは…
と、まだ仕事に慣れない宮瀬を、大園が指導している。
左手前の書記のデスクでは…
田村: ねぇねぇ、かっきー。
賀喜: なんですか?
田村: この作業にひと段落ついたらさ、ツチノコ探しに行かない?
賀喜: ツチノコですか……先輩は、あとどのくらいで終わりそうです?
田村: う〜ん……あと10分!
賀喜: え、ほんとですか?
田村: うん。かっきーは?
賀喜: 私は……まだまだ、かかりそうです…
田村: じゃあ、こっちが終わったら、少し手伝うよ。だから、一緒に早く終わらせて、ツチノコ探しに行こう!
賀喜: 笑、ありがとうございます!先輩!
田村: ヘヘ笑、頼もしいでしょ〜
賀喜: はい、頼もしいです!
1年生の賀喜に、田村が先輩風を吹かせていた。
左中間の会計のデスクには…
祐希: ……ウトウト
璃果: 祐希ちゃん、寝ないよ〜
祐希: う、うん………ウトウト
璃果: んもう〜〜ぽちっとな。
ペチンッ!!
祐希: わっ!……やっぱこれ、目覚めるね。
璃果: でしょ笑。ちゃんと叩く強さも調節できるようになってるから。
祐希: つまり……祐希がこの強さで起きなくなったら、もっと強くすると?
璃果: もちろん笑
祐希: が、頑張ります…
璃果: うん!一緒に頑張ろう!
眠気と戦いながら仕事をする祐希と、その祐希の椅子に、自作のお尻叩き装置を取り付け、眠らないよう目を光らせながら同じく仕事を頑張る璃果がいる。
左奥では…
早川: あ、またミス発見や。なんやこの先月の美化委員会の活動報告書は、記載ミスが多いな〜
監査である早川が。
右中間では…
灰崎: 交代してまだ日が経ってないから、慣れてないんだよ。
議長である灰崎が。
右奥では…
美月: 確か、文化祭のすぐ後に交代したんだよね。
副会長の美月が、それぞれで熱心に仕事をしている。
灰崎: うん。
早川: でも、委員長ならもっと気をつけて欲しいわ。ちょっと、文句言いに行こか。
美月: 笑、マジ?
早川: こういうのはな、早めに言っとかんと、全く治らんのよ。
灰崎: まぁ、言いに行くのは構わないけど、それなら……
そして、入口の扉から見て、正面奥には…
灰崎: 史緒里さん。
久保: ん、なに?
生徒会長である久保が、皆の様子を見つつ、自分の仕事をこなしていた。
灰崎: そろそろ今月の部活動報告書を、各部活動に配布しに行こう。
久保: あぁ、確かに。今月は会議も後ろに詰まってるし、クリスマスの企画もあるし、早めに配っといた方が良いね。
灰崎: うん。それで、去年は各部長、次期部長との繋がりを作っとくためってことで、1年生が配りに行ったんだよね。
久保: じゃあ、謙心君が行ったんだ。
灰崎: 僕と真佑さんが一緒に。
田村: ん?呼んだ?!
灰崎: いや、去年、一緒に各部活動に、報告書を配りがてら、挨拶をしに行ったよね、って話。
田村: ……あ、うん!行った行った!
賀喜: ……先輩、ほんとに覚えてます?笑
田村: お、覚えてるよ〜
灰崎: 笑、まぁとにかく、今年も1年生に部活動報告書の配布を任せたらどうかな、って思って。で、それを見守るついでに、聖来さんは美化委員会に文句を言いに行ったら?という提案。
早川: なるほど。それええな。仕事のついでに済ませろってことやな。
灰崎: うん。そっちの方が効率的だし、無駄がないから。
久保: 分かった。なら……そうだね、聖来ちゃんとかっきー。あと、宮瀬君。
宮瀬: …僕も行かないとなんですか?
久保: うん。行ってきて。
宮瀬: ……大園先輩。
大園: 史緒里ちゃんの言う通り、各部活動への挨拶に行ってください。
宮瀬: …分かりました。
久保: よし。じゃあ早速、どこの部活から回っていくか、話し合って。
早川: はーい。かっきーと宮瀬君、おいで〜
賀喜: 真佑先輩、残りをお願いできます?
田村: うん!任せて!
宮瀬: …いってきます。
大園: 礼儀正しく、聖来ちゃんの言うことをちゃんと聞くんですよ。
宮瀬: はい。
そうして、各部活動へ部活動報告書の配布をすると共に挨拶をしに行く3人は、中央の机に集まって話し合いを始める。
久保: 謙心君、ありがと、教えてくれて。
灰崎: いえいえ。
と、話を終わらせて、灰崎が自分のデスクに戻ったところで…
プルルルル
携帯の音が生徒会室に鳴り響く。
美月: あ、私のだ。ちょっとごめんね〜
久保: うん。
ピ
美月: はい、もしもし。どうしたの?春時。
春時 T: ごめんな、仕事中に。
美月: 大丈夫よ。それで?
春時 T: いや、○○が例の病院に行くモードになったから、一応、伝えとこうと思って。
美月: え、マジ?!
春時 T: おう。ついさっき教室で駄弁ってたら、そうなって、今、教室を出て行った。
美月: 分かった。ありがとね、連絡。
春時 T: 行くんだろ?
美月: そのつもり。
春時 T: 改めて、○○のこと、よろしくな。
美月: うん!じゃ。
ピ
電話を切った美月は、椅子から立ち上がり、久保の方を見る。
久保: 何かあった?
美月: いや〜あの〜〜今日はこれで帰ります!
久保: え?それは別にいいけど……自己判断だし。
美月: では……
会長である久保に、一応の許可を貰った美月は、すぐにデスク上の荷物をカバンに放り込む。
美月: みんな!おつかれ!!また明日ね!
田村: もう帰るの?!バイバイ!
大園: さようなら。
璃果: またね〜
祐希: ウトウト……わっ!!…ば、バイバイ〜
賀喜: 美月先輩!さようなら!
早川: また明日な〜
宮瀬: ……ペコッ
灰崎: 笑、さようなら。
久保: じゃあね。
こうして、生徒会役員の皆に見送られて、美月は生徒会室を大慌てで出て行った。
灰崎: 笑、すっごい急いでたね。
久保: ね笑。どうせ、○○関係なんだろうけど。
早川: …深川○○か……
賀喜: ん?○○先輩がどうかしたんですか?
早川: いや、なんでもない。さぁ、はよ決めようや。かっきーはどこの部活から行きたい?やっぱ、運動部?
賀喜: そうですね〜〜回りやすさで言ったら、文化部の方が、みんな部室にいるから、そっちの方が良さそうですけど、運動部もなんか楽しそうで良いです!
宮瀬: 楽しいって……仕事なんだから。
賀喜: 笑、そだね。ごめん。
宮瀬: ……
早川: まぁまぁ。確かにこれは仕事やけど、仕事も楽しまな、やっていけんからな。宮瀬君はどこから回りたいん?
宮瀬: ……最も効率的な方法は、実習校舎にある部室を回ること。そして、運動部は部活の時間の最初と最後にしか部室にはいないので、最初に運動部に行き、終わり際の時間まで文化部を回って、最後に再び運動部に行くのが、1番良いでしょうね。ただ、その方法だと文化部を先に回り切って、運動部が残るってことになりますが。
賀喜: おぉ、確かに。
早川: せやな。じゃあ、第4と第5で活動をしている運動部を優先的に、その宮瀬君が言った最初と最後に回る部活動に持ってきて、余った運動部はそのグラウンドや体育館に直接行こうか。
宮瀬: っ…ですね。
賀喜: 分かりました!
早川: なら早速、各部活動の活動場所の資料を参考にしながら、予定を組み立てて行こうか〜
賀喜: はい!
宮瀬: ……
早川: ………
宮瀬: ?
早川: …宮瀬君。活動場所の資料を持ってきてくれるか?
宮瀬: あ……はい。
わざわざ早川が参考資料を口に出した意味、何かを待つように自分をじっと見ていた意味を、やっと理解した宮瀬は、席を立ち上がり、自分のデスクの後ろにある棚を見る。
宮瀬: えっと……
大園: 部活動関係なら右端です。
宮瀬: …ありがとうございます。
大園: 会計資料は会計が。報告書関係は監査が。議事録は書記が。そして、その他の資料…最も多い数の資料を私達庶務が管理しているんですから。他の役員がその資料を求めた時には、すぐに持って行けるようにしないとですよ。
宮瀬: …分かりました。
パソコンに向かって仕事をしている大園にアドバイスを貰いつつ、宮瀬は目的の資料を探し出し、中央の机に戻る。
宮瀬: これ…ですよね?
早川: うん。ありがとう。じゃ、話し合うで〜
賀喜: はい!
宮瀬: …
そうして、3人は予定を考え始め、他の役員達も各々、一生懸命、仕事に取り組んでいくのだった。
乃木坂病院
○○: こんにちは。
美月: こんにちは〜
幸村: あ、深川君に美月さん。こんにちは。
春時から連絡をもらい、生徒会室から飛び出した美月は、何とか正門前で○○と合流し、共に乃木坂病院までやってきた。
そして、その道中で、美月はとあることにすごく驚いていた。
幸村: 12月になって、気温が急激に下がりましたが、体調は崩していませんか?
○○: はい。大丈夫です。
幸村: 笑、それは良かったです。
美月: …
やっぱ、かなり変わったよね。
ロボットっぽさが完全に抜けたわけじゃないけど、前よりも、表情が変化するようになったし、普通に会話をするようになってる。
前は、あんまり喋らなかったし、ほとんど無表情から表情が変わらなかったのに。
何があったんだろう…
いや、これぞ、私達の愛の力と言うやつなのでは…
幸村: 美月さんは?
美月: っ!!は、はい、私も大丈夫です。
幸村: そう笑。では行きましょう。
防衛団戦闘部1級団員兼看護師の幸村から、特別入院棟入場許可証を受け取った2人は、幸村に続いて、エレベーターに乗り込む。
幸村: あちらを向いていてくださいね。
○○: はい。
美月: はい…
改めて考えれば、この後ろ……まぁ、こっち側の扉が開くんだけど…とにかく、こうやって幸村さんに背中を向けさせられるのは、特別入院棟への行き方を私達に教えないためなんだろうな。
幸村: …先月は、美月さんは忙しかったんですか?
美月: え?まぁ、そうですね。学校の方で色々とあって。
幸村: そうなんですね。いえ、先月は深川君1人でいらっしゃったので。
美月: ○○は、病院に行くことを事前に教えてくれませんから。教えてくれてれば、何としてでも予定を開けてたんですけど笑
○○: 先月は無理があったでしょ。美月、ずっと忙しかったし。
美月: いや、それは○○も同じね。
幸村: ……笑、お疲れ様です。
チーン
幸村: では、どうぞ。
美月: はい、ありがとうございます。
○○: ありがとうございます。
エレベーターが開き、○○と美月は幸村を残して、深川麻衣の病室に向かって歩き出す。
美月: …
相変わらず、人がいないな〜
前回来た時は、1人男の人に会ったけど、その人も……
もう退院しちゃった…みたい?…かな。
病室の外から見て、なんとなくだけど。
誰もいない無機質な廊下を歩き、その中間辺りにある病室の扉を開ける。
ガラガラ
○○: 失礼します。
美月: 失礼します。こんにちは、まいまいさん。
扉を開けると、広い病室の中央にベッドが1つだけ置いてあり、そこには○○の姉である深川麻衣が、点滴を繋がれて横になっている。
病室に入った2人は、壁際にある椅子をベッドの近くに運び、そこに座った。
○○: 早速、この1ヶ月にあったことを話すね。まず1番話したいことは……チラッ
いつも通りに、前に来た時から今日までにあった出来事について話し始めた○○は、隣に座る美月を見る。
美月: え、私?
○○: そりゃそうだよ。なんと、美月が乃木高の生徒会副会長になったんだ。すごくない?
美月: ……笑、今の会長に選んでもらっただけなんですけどね。
○○: いや、確かにそれはそうなんだけど、前に来た時に言ったように、美月は今の会長…久保史緒里っていう子なんだけど、その子の選挙活動を、美月は一生懸命に手助けして、その結果が、生徒会副会長に選ばれたってことだと思うんだ。姉ちゃんもそう思わない?
美月: ちょっと笑、私のことを褒めすぎ。
○○: だって、副会長に美月が任命されたのは、僕も嬉しかったから、姉ちゃんにも伝えたくて。
美月: …そっか笑。あ、じゃあそれで言えば、ほんと○○はすごくて。
○○: え、次は僕の話?
美月: 当たり前じゃん。まいまいさんは、大好きな弟である○○の話を1番聞きたいだろうし。
○○: そうかな〜
美月: 絶対そうだよ。まいまいさんは……学校でも○○のことを話すぐらいに、○○のことを大好きだったんだから。
ここで、美月は考えていた行動に出る。
先週、新内から聞いた深川麻衣の情報を○○に伝えることで、無理やりにでも○○の記憶を取り戻させようと美月はする。
○○: え、学校でも?
美月: うん。聞いたことなかった?
○○: うん……姉ちゃんは、聞けば答えてくれたけど、あんまり自分から学校のことは話さなかったから。というより、僕の話をよく聞いてくれてたからさ。
美月: なるほど……
まいまいさんは、自分の話をするよりも、○○の話を聞きたかったんだな。
美月: じゃあ、学校でのまいまいさんのことは、私が教えてあげる。
○○: 美月が?……なんで、姉ちゃんの学校でのことを美月が知ってるの?
美月: その…まいまいさんの友達の人から聞いたの。
○○: ふ〜ん……なら、お願い。
美月: うん笑
眠っている本人を目の前に、美月は新内から聞いた深川麻衣についてのことを、○○に話し始めた。
数十分後…
○○: よし。帰ろうか。
美月: うん。
しばらくの間、楽しく話をした2人は、椅子から立ち上がり、扉の方へ。
○○: じゃあね。姉ちゃん。
美月: まいまいさん。また来月。
ガラガラ
美月: ふぅ……
○○: …改めて、ありがとね、美月。姉ちゃんのことを教えてくれて。
美月: 笑、何言ってるの。家族なんだから当たり前。
○○: そう…家族か……
美月: さ、行こう!
○○: うん。
深川麻衣に別れを告げ、病室を出た2人は、再び無機質な廊下を歩き、幸村のいるエレベーターに戻ってくる。
○○: また、お願いします。
幸村: はい。乗ってください。
そして、開いたままのエレベーターに乗り込み、来た時と同じように、幸村がいる、エレベーターのボタンがある方向に背を向けて立つ。
幸村: 今日は、何を話されたんですか?
○○: 今日は、いつものここ最近の出来事を話した後に、美月が姉ちゃんについての話をしてくれたんです。
幸村: 美月さんが?
美月: はい。深川麻衣さんの友達の方と会う機会がありまして。その方に聞いた話を、○○にしたんです。
幸村: それは……深川君も嬉しかったでしょう。お姉さんの話を聞けて。
○○: はい。とっても嬉しかったです。
チーン
幸村: 笑…どうぞ。
○○: ありがとうございました。
美月: ありがとうございました笑
幸村: また来月ですね。良いお年を。
○○: 良いお年を。
そう言葉を返して、○○は歩き出す。
幸村: 美月さんも、良いお年を。
美月: はい!良いお年を。
と言って、続けて美月も幸村に背を向け…
幸村: …見た通り、深川君は着実に変わっていっています。そして、先月、直接本人に尋ねたところ、深川麻衣さんについての記憶はほぼ取り戻しています。
美月: っ!!
幸村: ただの看護師である私が言うのもおかしいですが……美月さん、ありがとうございます。あなた達が深川君の家族になり、その暖かみや幸せを深川君に伝えたからこその、今の深川君だと思います。
美月: ……
幸村: これからもどうか、深川君のことをよろしくお願いします。
美月: …はい!笑
振り向いて、笑顔で大きく返事をした後、病院を先に出ていた○○に追いつくのだった。
その日の夜
七瀬の家
祐希: ふぅ……お尻痛い……モグモグ
七瀬: なんでやねん笑…パクッ
生徒会の仕事を終え、疲れて帰ってきた祐希は、姉である七瀬と共に、テーブルについて、晩御飯のカレーライスを食べていた。
祐希: いや、同じ会計の子がさ…
七瀬: 佐藤璃果ちゃん?
祐希: うん。その子が作ったお尻叩き装置を、祐希の椅子に取り付けられて、祐希が寝そうになったら、それでお尻を叩かれてさ…パクッ
七瀬: 笑、なんやそれ。お尻叩き装置って。さすがロボ研の部長やな。
祐希: モグモグ…だよね。昨日、史緒里が言ったら、今日の昼には完成させて来たんだもん。
七瀬: すっご。パクッ…モグモグ……生徒会、大変?
祐希: まぁね。でも……楽しいよ。
七瀬: そりゃ良かった…パクッ
祐希: ……ってか、○○とはどうなったわけ?
七瀬: っ…そ、それはやな…
祐希: 飛鳥に目を覚まさせられたんでしょ?
七瀬: ……うん。そろそろ動こうと思っとるところや。
祐希: ふ〜ん……パクッ…モグモグ
七瀬: ………ふぅ……
祐希: ……文化祭のやつを使うの?
七瀬: そのつもり。
祐希: うん…パクッ…モグモグ……
七瀬: パクッ…モグモグ………直接とメッセージ、どっちがええと思う?笑
祐希: っ…そんなのどっちでもいいよ。どっちにしろ、○○はちゃんと答えてくれるだろうし。パクッ…モグモグ…モグモグ……ご馳走様でした。
七瀬: 笑、皿は水につけとき。
祐希: 分かってる。
早くカレーライスを食べ終わった祐希は、食器をシンクに持っていき、そのまま脱衣所の方に向かっていく。
七瀬: ………はぁ……メッセージやろうな〜
1人になったリビングで、そう呟いた七瀬は、早速携帯を取り出し…
七瀬: さ、ななも覚悟決めよ。
○○へのメッセージを送った。
七瀬 M: 日曜日の朝10時に駅前集合で、一緒にテーマパークに行こうや
to be continued