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ただ守りたい… 155話

金曜日

放課後


美月: でね、私がこう提案したわけよ。仕事ができる大人って感じのオーラを醸し出すような表情で、みんなで席に座ろう!って。


○○: 笑、その仕事ができる大人って感じの表情とは?


美月: こんな感じ笑………ニコッ


○○: おぉ……確かに、この顔で生徒会室のあの机に座ってたら、仕事できる感というか、そういうオーラが凄そう。


美月: でしょ!笑



水曜日の放課後、いつも通りに風紀委員の見回りを、○○と美月は、昨日の新生徒会役員の3人を迎え入れた時の話をしながら、行っていた。



○○: それで、その7人でその表情を作って、迎え入れた時の、かっきー達のリアクションは?


美月: かっきーは笑顔だったね。璃果ちゃん…ロボ研の部長で、璃勇君の双子の妹ちゃんは、ほぉ〜って感心してた感じ。


○○: あ、璃勇君って、妹いたんだ。


美月: そうだよ。


○○: へぇ〜璃勇君はさ、あんまり自分の話をしないから、初耳だったよ。


美月: 朝から聞いた感じ、璃勇君と璃果ちゃんの兄妹仲は結構冷めてるというか、その、お互いの話をほとんど出さないんだよね。


○○: ふ〜ん。その、生意気だって言ってた、1年生の…宮瀬利空君だっけ。その子はどんな反応だったの?


美月: 笑、宮瀬君は1番驚いてたよ。頑張って、隠そうとしてたけど。


○○: 1番驚いてたんだ。


美月: うん笑。でね、軽い自己紹介の後、史緒里が3人に役員になって欲しい、って言った時は、宮瀬君、イライラが溢れ出しちゃってて。


○○: イライラか……その宮瀬君は、選挙で史緒里に負けたことが、相当悔しかったんだろうね。まぁ、宮瀬君は自分が最も優秀であることに、ものすごくこだわってるみたいだし。だから、史緒里に情けをかけられたように感じて、苛立ったのかも。


美月: かもね……その、宮瀬君が優秀さにこだわってる的な話を、謙心君もしててさ。まず、宮瀬君が、なんで自分を役員に?みたいな質問をしたの。で、史緒里は、宮瀬君を推薦した謙心君に話を振ったのね。そしたら、そこから謙心君の独壇場が始まって。


○○: 独壇場?


美月: 私達が話に入って来ないように視線を送りながら、宮瀬君を煽りに煽ったの。


○○: ……君じゃ、1番優秀にはなれない!みたいな?


美月: そうそう。君がこのまま頑張っても、生徒会長になるどころか、この学校のトップ3に食い込めるかどうかってとこだろう、的なことを、宮瀬君に言って。


○○: うわぁ……それは、宮瀬君には効果抜群でしょ。


美月: うん。図星を突かれて驚きや落胆を感じると同時に、必死に謙心君の言葉を否定しようとして、頭に血が上ってる感じだったかな。


○○: …そして、煽りに煽った最後、役員になって、生徒会長が何たるかを学べば、生徒会長になれるかもしれない、みたいなことを言って、宮瀬君を役員入りさせたんじゃない?


美月: もうちょっと厳しかったかな。生徒会長になれるかもってことは言わなかったもん。


○○: 笑、灰崎君らしいね。


美月: いや、ほんと驚いたんだから。いきなりあんなことするし、私なんて、そこまで謙心君と話したことなくて、ただの仕事がすごくできる優男って思ってたからさ。


○○: 確かに優男ではあるけど、灰崎君はかなり賢いというか、強かだからね。どうしても、宮瀬君を役員に入れたくて、そんなことをしたんだよ。


美月: う〜ん、私や聖来ちゃんは、どうして謙心君が宮瀬君を生徒会に入れたかったのかが、まだ分からないんだよね〜〜すごい先輩を舐めてる感じがするし、仕事はできそうだけど、史緒里が必要だって言ってたコミュニケーションは、上手く取れそうにないし。


○○: ………それこそ、後輩育成ってやつじゃないかな。


美月: え?


○○: 宮瀬君は、成績はトップで、能力も高いけど、ナルシスト気味で、自分が1番優秀であることに固執してる。


美月: ……


○○: でも、そのために…1番優秀であるためには、努力を欠かさない人。あ、これは選挙の時に、桜井先輩が言ってたことなんだけど。だから、自分が優秀になるためだったら、宮瀬君は真面目に必死に仕事をするし、それと同時に、灰崎君に言われたように、生徒会長に必要なものを一生懸命に探す。


美月: ……っ!その結果、宮瀬君が生徒会長に相応しい心を身につけたら…


○○: 良い生徒会長になるでしょ?ま、かっきーも良い生徒会長になると思うから、そのどっちかかな〜って感じだけど、とにかく、灰崎君は未来の生徒会長を育てるために、動いたんだと思うな。



という自分の考えを、○○が話すと、それを聞いた美月の顔が暗くなる。



美月: …はぁ……ダメだね、私。今の生徒会しか考えられてなかった。副会長なのに。


○○: そう自分を責めないの。生徒会に入ったばっかで、自分のことに集中してる美月が、後輩育成にまで意識が回らないのは当然だし、まずもって、灰崎君や大園さん、まゆたんは持ってる経験値が違うんだから。それに、灰崎君達は、桜井先輩達による後輩育成の賜物なわけで、それもあって、より後輩育成に対して強い気持ちを持ってたんだよ。


美月: ○○……


○○: 笑、美月は、自分の仕事に余裕を持てるようになってからで良い。宮瀬君を直接指導するのは、僕にもこの前まで指導してくれてた大園さんなんだから、安心しな。


美月: そうだね…


○○: あ、でも、コミュニケーション能力はやっぱり、人と喋ることで伸びるから、宮瀬君が大園さんのスパルタ指導を受けて悩んでたりしたら、積極的に明るく話しかけてあげて笑


美月: 笑、分かった。ありがと、○○。


○○: いえいえ。何か悩みができたら、すぐに相談して良いからね。


美月: うん!


○○: 笑……さ、見回りも残り半分だし、他に悩みがあったらどんどん話して。


美月: じゃあ〜……ある女の子…下の名前をまゆちゃんって言うんだけど、ある男の子がね、その子のことを特別なあだ名で呼んでるらしくて。しかも、そのあだ名はその男の子だけが呼んでるみたいなんだ。


○○: え、それって……


ガシッ


○○: っ!!


美月: ねぇ、どうして?


○○: ちょっ、怖いよ、美月。


美月: どうしてなのかな?○○?



と、両腕をしっかりと掴んだ上で、顔を近づけ、大きな目を見開いた美月に、そう問い詰められ始めた○○であった。





同時刻


空き教室


ガラガラ



七瀬: 笑、呼んどいて、5分も待たせるのはどうなん?


桜井: いや〜ちょっと、先生に呼び止められちゃってさ。私達の仲なんだから、許して笑


七瀬: どうしようかな〜


桜井: え〜許してよ〜


七瀬: 笑、で何の話なん?



元生徒会長と元副会長が集まる、放課後のとある空き教室。

昼休みに、話がある、というメッセージを受け取った七瀬が、少し遅れてやってきた桜井を迎える。



桜井: …そういえば、聞いた?新生徒会が動き出したんだってよ。


七瀬: …うん、聞いたで。今回の生徒会は、最大人数まで入るみたいやな。


桜井: 久保ちゃんが会長、早川ちゃんが監査。あと美月が副会長、謙心が議長、桃ちゃんが庶務、まゆちゃんが書記、までは確定。あと、理事の指定枠の祐希ちゃんが、何の役職になるかだけど……


七瀬: 会計みたいやで。昨日、聞いたわ。


桜井: そっか。となると、あと庶務、書記、会計に1人ずつ。噂によると、ロボ研の部長の佐藤璃果ちゃんと、1年生の賀喜遥香ちゃん、それと宮瀬利空君らしいよ。


七瀬: ほぇ〜璃果ちゃんに、かっきーに、あのナルシスト君か。思い切った判断をしたもんやな笑


桜井: 多分、謙心じゃないかな。あの子、宮瀬君が生徒会長に立候補した時から、何気に目をつけてたし。


七瀬: 謙心の企みが上手くいくかどうか、楽しみや笑


桜井: だね…


七瀬: …


桜井: ……にしてもさ。


七瀬: ん?


桜井: 理事の指定枠が、祐希ちゃんになるとは思ってなかったでしょ。


七瀬: うん、ほんとびっくりしたで笑


桜井: だよね〜まさか、姉妹揃って、理事の指定枠で生徒会役員になるとはね。


七瀬: こんな偶然もあるもんなんやな〜


桜井: ……なぁちゃんはさ、理事の指定枠には、何の基準があると思う?


七瀬: う〜ん、そうやな〜…生徒会に相応しい…とか?笑


桜井: …本当にそう思ってるの?


七瀬: 笑、なんで?


桜井: …はぁ……やっぱ、単刀直入に話すべきだね。私は、今回、理事の指定枠に祐希ちゃんが選ばれたことに違和感を覚えてる。そして、その指定枠の基準を、なぁちゃんが知ってるんじゃないかって思ってる。



これまで、七瀬に抱いていた疑問をぶつけるかのように、桜井は、真剣に真っ直ぐに、七瀬を見て言う。



七瀬: ふ〜ん。じゃあ、なんで、祐希が指定枠に選ばれたことに、違和感を覚えるん?


桜井: それは……祐希ちゃんが、それに相応しいだけの能力を持ち合わせてないって思ったから。


七瀬: 笑、祐希のことを見くびり過ぎやな。あの子は、生徒会の仕事をやっていけるだけの能力を持っとる。普段は寝てばっかで、中々そんな一面を見せへんけど、やる時はやる子や。


桜井: …うん、そこは分かってるよ。役員として仕事ができるぐらいの能力は持ってる。でも、理事の指定枠に選ばれるだけの能力……同じく指定枠に選ばれた、なぁちゃんや、遡れば橋本先輩と同等レベルの能力を持ってない。


七瀬: そんなことは……


桜井: なぁちゃんがそれを言って良いの?


七瀬: っ……


桜井: …とにかく、そういう理由で、私は祐希ちゃんが理事の指定枠に選ばれたことに違和感を感じたの。そして、次に、理事の指定枠がなぜ存在しているのか、を考えた。



口を閉じてしまった七瀬を前に、桜井は言葉を続ける。



桜井: 会議はたまにあるけど、普段は、そこまで生徒会活動に干渉してこない理事会による役員の指定枠が、なぜ存在しているのか。まぁ、単純に考えれば、生徒会にも理事会の意思を通しやすくするため。だけど、それは教師陣だけでも十分だろうし、わざわざ指定枠を作る必要もなく、会議中に生徒会に要望を出せば良いはず。理事の要望はほぼ命令に近いからね。


七瀬: ……


桜井: ということは、理事会が入れさせた役員を通して、生徒会に理事会の意思を反映させるために、理事の指定枠が存在しているのではなく、生徒会に理事会が入れさせた役員がいる、という事実自体が必要だから、か、その生徒が役員である、という状況を作りだすため、のどちらか。


七瀬: …


桜井: 前者だった場合は、理事会が教師だけではなく、生徒会の活動にも干渉していますよ、ということを表面的にも示すためだろうね。そして、後者だった場合は、その指定枠に選ばれた生徒自身に何かある可能性が高い。そして、その何かは、歴代の指定枠に選ばれた生徒にも共通してるはず。となると、今回、祐希ちゃんが指定枠に選ばれた理由にも説明が付く。ってことで、私は後者の可能性……指定枠に選ばれた生徒が役員になること自体に意味があり、指定枠に選ばれた歴代の生徒には共通の何かがある、という可能性が高いと思った。どう?



自分の考えが正しいかどうかを確認するように、七瀬を見る。



七瀬: …ふぅ…さすがやな、玲香は。


桜井: ってことは…


七瀬: その考えで合ってんで。


桜井: じゃあ、なぁちゃんは、なんで自分や祐希ちゃんが、指定枠に選ばれたのかを知ってるんだよね?


七瀬: もちろん。


桜井: …教えてよ。


七瀬: それは秘密や。


桜井: またそれ?


七瀬: そう、また、家庭の事情ということで、秘密。


桜井: …


七瀬: ごめんな。


桜井: ……ちぇっ、1年間も生徒会で一緒に仕事をした今なら、その家庭の事情による秘密を突破できると思ったんだけどな〜笑


七瀬: 笑…でも、ほんとにすごいで、玲香は。


桜井: そりゃあ、元乃木高生徒会長ですから笑


七瀬: 笑。これで話は終わりか?


桜井: うん………あ、いや、もう1つあった。


七瀬: なんや?答えられる質問やったら、答えるで。


桜井: 笑、多分答えられる質問なのかな〜



ニヤニヤとしながら、玲香は七瀬に一歩近づく。



桜井: なんで○○と気まずい感じになってるの?



この質問に対して、七瀬は一瞬だけ考えた後に、こう答えた。



七瀬: 残念、秘密や。






風紀委員室


ガラガラ



○○ 美月: 失礼します。


若月: お、帰ってきたか。



楽しく?見回りを終わらせた○○と美月は、若月に見回りの報告をするために、風紀委員室に戻ってきた。



若月: 報告を頼む。


○○: はい。公道で大騒ぎしていた生徒達に注意をした以外に、特に何もありませんでした。


若月: そうか……笑、注意だけで済ませたんだろうな?


○○: え?


美月: 笑、大丈夫ですよ。その生徒達は○○を見た瞬間に、大人しくなっちゃったので。


○○: いや、おそらく、美月の眼圧にビビったからだと思います。


若月: 笑、どっちでも良いよ。注意だけで解決したんなら。


○○: …もしかして、若月さんの今の僕の印象って、すぐに暴力振るう感じになってます?


若月: 別にそんなことはないけど、○○は強くなったからね。念の為の確認。


美月: 安心してください、若月先輩。○○は、私が責任を持って、面倒を見てるので。姉、として。


○○: なっ……ほぼ、美月に姉の要素は感じないけどな〜


美月: はぁ?正真正銘、私は○○の姉!



と、ちょっとした言い争いを目の前で始める2人を見て、若月は笑う。



若月: 笑、ほんと、面白いなお前達は。


○○: あ、すみません、若月さん。


美月: すみません。


若月: 良いよ笑。でも、1つだけ言っとかないといけないことがある。


○○: なんですか?


若月: 美月。まずは、生徒会副会長、就任おめでとう。


美月: あ、ありがとうございます。


若月: それでだ。分かってると思うが、まず、来年度、次の4月から美月は委員会に所属できない。そして、本来であれば、副会長になった時点で、今の委員会を辞めて、所属を生徒会に変える必要がある。


美月: え……


若月: つまり、今日で美月は風紀委員会を辞め、これからは、生徒会副会長の仕事のみを行っていく必要があるんだ。


美月: ってことは……今日で、○○との見回りは終わりで……これからは一緒に仕事ができない?


若月: あぁ。残念ながらな。


美月: う、嘘……



残念そうな顔の若月の言葉に、美月は絶望する。



美月: 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……○○と仕事をするのが、今さっきので最後だったなんて……嘘、絶対に嘘、私は信じない…信じない……



が…



○○: …そろそろ良いんじゃないですか?なんか、可哀想になってきましたし。


若月: 笑、それもそうだな。


美月: え?


若月: 嘘だよ笑



してやったりというような笑顔の若月がそう言った。



美月: で、でも…


若月: ちゃんと話を聞いてたか?私は、本来であれば、って言ったぞ。


美月: じゃあ、私は風紀委員を辞める必要はないんですか?


若月: あぁ。選挙で選ばれる会長や監査はまだしも、その2人によって突然選ばれる、他の役員が、いきなり今の委員会を辞めるとなると、仕事の引き継ぎとかが上手くいかない可能性があるからってことで、しばらくの間は、兼任が許されているんだ。


美月: ふぅ〜なんだぁ〜〜って、そのしばらくの間とは?


若月: 笑、最長で、3月末まで。それ以降の兼任は許されてない。まぁ、そもそも、来年4月の委員会決定の時に、美月は委員会を選べないんだが。


美月: はっ!じゃあ、どちらにしろ、私が○○と一緒に見回りができるのは、3月まで……


若月: そうなるな。でも、もし美月が副会長になってなくても、来年のクラスが○○と別になったら、たとえ同じ風紀委員会に入っても、今のようにペアにはなれないから、卒業するまで○○と見回りを一緒にできる確率は、6分の1だぞ笑


美月: いや、その場合は、何がなんでも○○とペアになるんで。


若月: あっそ笑。だが、副会長になった以上、来年からは○○と一緒に見回りはできないから、3月までに悔いがないようにしておきなよ。


美月: はい!


ギュッ!



元気に返事をした美月は、思いっきり○○に抱きつく。



○○: ちょっと。


美月: 次の見回りからは、○○に抱きついた状態で、見回りをします!


○○: ダメだよ。動きにくいし。ですよね?若月さん。


若月: いや、そこかよって感じだけど、まぁ、良いんじゃない?2人なら許されるだろうし、あとは、ちゃんと仕事がこなせるかどうかの問題だから。


美月: 仕事は必ずやり遂げます!


若月: じゃあ、OK。


○○: いや、OKじゃないです!


美月: やったね!○○!


ギュー


若月: 笑、ただ、兼任の状態だと、優先すべきは副会長の仕事だから、そこは忘れないように。


美月: はい!見回りの日は仕事を入れないように、史緒里に言っときます!


若月: そこは任せるよ笑。さ、話は終わりだから、帰って良いよ。


美月: 分かりました。



と言った後、○○の顔を見た美月の表情が変わる。



美月: さてと、○○。私に嘘をついた罰を与えなきゃだね。


○○: え、嘘をついたのは僕じゃなくて若月さん…


美月: って、○○は言ってますけど?


若月: そうだったかな〜○○じゃなかったか?


○○: わ、若月さん!


美月: 笑、さぁ、○○、覚悟しなさい!必殺、スーパーミラクルギャラクシーパワーバインド!!!


ギューーー!!!!!


○○: いてててててて…


美月: おりゃぁぁああ!!!!


若月: 笑、仲良いな。



こんな感じで、若月が暖かく見守る中、必殺技を受けた○○は、やり返しとばかりに美月の頭を強めに締め、痛みで美月が腕を離した瞬間に、急いで風紀委員室を出て、美月もそれを追って慌ただしく出ていくのであった。



to be continued

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