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ただ守りたい… 156話

放課後



美月: ねぇ、飛鳥。


飛鳥: ん?



帰りのホームルームが終わり、○○はバイトへ、日奈子は部活へ行き、飛鳥も席を立とうとしたところで、美月が引き止める。



美月: あのさ、飛鳥のバイト先の店長さん?って、ここのOGなんだよね?


飛鳥: うん。


美月: しかも、お姉ちゃんの1つ上で……


飛鳥: …あ、そういうことか。



美月の言葉の途中で、質問の意図に気づいた飛鳥は、逆に聞き返す。



飛鳥: 新内さんに、○○のお姉さん…まいまいのことを聞きたいんでしょ?


美月: …うん。その新内さんなら、深川麻衣さんのことを知ってるんじゃないかって思って。でも、その感じだと、飛鳥は聞いたことあるんだ。


飛鳥: まぁね。でも……


美月: でも?


飛鳥: 途中で聞くのを止めちゃった。



そう言う飛鳥の表情が暗くなる。



美月: え、なんで?


飛鳥: …だって、私はまいまいの今を知らないんだもん。


美月: どういうこと?


飛鳥: ……話してみたら分かると思うよ。でも、美月は私と違って、○○と一緒に病院に行って、今のまいまいの様子を知ってるから、色んなことを聞けると思う。


美月: とりあえず、分かった。


飛鳥: すぐが良いんでしょ?なら、20時にゴールデンマーケット4階奥にあるジコチューカフェに行って。閉店時間だから人もいないし、私からも連絡しとくから、新内さんと話しな。


美月: 飛鳥は一緒に来てくれないの?


飛鳥: 笑、私は今日バイト休みだし、私は私でやることがあるの。それともなに?1人じゃ聞きに行けないのかな?美月は。お子様だね。


美月: はぁ?別に1人で行けるし。単純に、飛鳥もいた方が話が早いと思っただけだし。


飛鳥: じゃ、1人で行ってきて。


美月: うん!ありがと。


飛鳥: いいえ。さ、私はもう行くから。


美月: どこに行くの?


飛鳥: まぁ、ちょっとね。私のことは良いから、美月は新内さんに何を聞くのかをちゃんと考えときな。


美月: はーい。



という美月の返事を聞きながら、飛鳥は席を立ち上がる。



飛鳥: あ、新内さんは、可愛い後輩が大好きだから笑


美月: 笑、了解。



そして、最後に短い言葉をやり取りして、飛鳥は教室を出て行った。



美月: ……


春時: 飛鳥のやつ、なんか決心してる顔だったな。



扉を出て行く飛鳥の背中を、じっと見ていた美月に、先程のやり取りを少し離れた席から眺めていた春時が、話しかける。



美月: うん。


春時: ここ最近は、ずっとどこかで悩んでる表情をしてたから、それの解決のために、とうとう動き出したのかも。


美月: ……○○かな…


春時: …やっぱり?


美月: あれ、春時も気づいてたんだ。


春時: いや、俺の場合は気づいてたというか何と言うか……まぁ、とにかく、○○と七瀬先輩の関係がおかしくなってるってことには気づいてた。


美月: ふ〜ん…


春時: 笑、美月も一緒に行きたかった?


美月: そりゃそうだよ。○○のために私も何かしたかった。


春時: しょうがないって。美月は生徒会関連で忙しかったんだから。ここは飛鳥に任せて、美月は自分のことに集中しようぜ。


美月: あ〜あ、これで、飛鳥がその○○の問題を解決して、一歩先に行っちゃったら、嫌だな〜


春時: …先に行ったら、か。


美月: なに?


春時: いや、なんでもない。


美月: 何よ、気になるじゃん笑


春時: ほんとになんでもない。さ、俺も帰らないと。お袋に買い物頼まれてるし。


美月: わっかりやすい話の逸らし方。


春時: うるせぇ笑。じゃあな。


美月: うん。また明日。



そうして、春時も教室を出て行き、美月も麻衣に遅くなるという旨の連絡をしてから、教室を出てゴールデンマーケットに向かうのだった。






20時少し前


ゴールデンマーケット

ジコチューカフェの前


ガチャ



客: ありがとね。また明日も来るよ。


美月: ……



今、お客さんが出ていったし、多分、もう大丈夫だよね。

飛鳥も連絡してくれてるだろうし。



と、ほぼ初対面に近い新内に、しかも閉店作業途中であろう時間に話を聞きに行く、という行動に対して、緊張している美月は、客であろう好々爺がお店を出て行ったのを見て、お店に近づく。



美月: ふぅ……



ガチャ



新内: あ、すみません。もう今日は閉店で……


美月: あの…


新内: ん、乃木高の制服だ。ってことは、飛鳥ちゃんが言ってた子?


美月: はい。白石美月と言います。


新内: うん、聞いてる聞いてる。私に話があるんだよね?


美月: ほんと、すみません。こんな時間に。


新内: 別に良いのよ。私、店長だし……独り身だし…



と言いながら、哀愁を漂わせ始める新内。



美月: そ、そうですか……


新内: いや、ほんとさ。あ、私、一人暮らしをしてるんだけどね、こう家に帰った時に、誰も迎えてくれないっていうのが、中々にキツくて。一人暮らしを始めた頃は、1人の自由を謳歌して、楽しいってことしかなかったんだけど、時間が経つにつれてさ。1人って、こんなに寂しいんだな〜なんて、思っちゃって。


美月: ……


新内: でも、親に啖呵を切って家を飛び出したのに、寂しいからって理由で実家に戻るのはダサいじゃん。だから、その1人暮らしによる寂しさを何とかできないかって考えたんだけど、まずペット禁止のアパートだから、ペットは飼えなくて、となると彼氏になるじゃん。彼氏ができて、同棲まで話が進めば、その寂しさもなくなるし、一石二鳥なわけで。だけどさ、こうやって店長として働いてると、時間がないわけ。合コンにも行けないし、マッチングアプリもよく分かんないしってことで、とにかく出会いの場がないわけよ。



レジ台に肘をつき、手に顎を乗せた状態で、死んだ目をしてそう語る新内に対して、美月は動いた。



美月: ……でも、新内先輩は凄いです。まだお若いのに、こうやって店長としてお店を切り盛りしていて。私じゃ絶対にできないです。ほんとに尊敬します!



目をキラキラとさせながら、美月はそう言う。


すると…



新内: っ!!!せ、先輩……そ、尊敬………


美月: はい!新内先輩!


新内: くふっ!!………み、美月ちゃん……先輩が何でも相談に乗ってあげるからね!!聞きたいことがあったら、なんでも聞いて!!


美月: 笑、よろしくお願いします。



よしっ!!

上手くいった。


まさか、新内さんがああやって身の上を語り出すとは思ってなかったけど、逆にそれが良い方向に働いてくれたよ。

飛鳥が言ってた通りに、可愛い後輩を演じたら、一気に距離を縮められた。



新内: って、そもそも美月ちゃんは、私に聞きたいことがあって来たんだよね。


美月: 聞いても良いですか?先輩。


新内: っ!もちろん!さぁ、ここに座って。



コロコロと美月の手の平の上で転がされている新内は、カウンター席に美月を座らせる。



新内: 何か、飲みたいものとかある?


美月: え、いや、申し訳ないですよ。閉店時間を過ぎてるのに……


新内: 笑、ここは先輩に甘えなさい。それに、私はここの店長なんだから、私の好きにやっても良いの。ほら、何が飲みたい?


美月: じゃ、じゃあ……オリジナルコーヒーでお願いします。


新内: 分かったわ。ちょっと待ってね。



そう言って、新内は意気揚々とコーヒーを用意し始める。



美月: キョロキョロ



やっぱ、同じカフェでも雰囲気は違うもんなんだな〜

ここは、BINGO!よりも大人というか、上品な感じがする。



新内: どう?このカフェは笑


美月: あっ、その、雰囲気が上品というか落ち着いていて、こうやって座ってるだけで、凄く心が安らぎます。


新内: 笑、そっか。それは良かった。


美月: 新内先輩は、こういうお店を作りたかったんですか?


新内: そうだね。本店の店長から2号店の店長を任せるって言われた時に、このゴルマにお店を置くって聞いたのね。で、翌日にはここの視察に来たの。まぁ、まだゴルマ自体は営業開始前で、無理やり入れさせてもらったんだけど。


美月: …大丈夫だったんですか?


新内: まぁ、大丈夫だったかな……なんか怖い人達もいたし、本店の店長にちょっぴり怒られちゃったけど笑。でも、2号店を任される身としては必要なことだったから、後悔はしてない。


美月: さすがです!


新内: 笑、そう?ま、それは置いといて。ここの視察に来た時に、同じ4階にゲームセンターやフードコートがあるって分かって、こう思ったわけよ。もし、ここに、周りの喧騒から抜け出し、落ち着くことのできるような空間があれば良いのでは、ってね。ドヤッ


美月: おぉ……


新内: だから、私はこのお店の工事にもガンガンに口を出して、壁は防音にすることで静かな空間を作りつつ、黒色を基調とした内装で、落ち着けるような空間のお店を作ったの。


美月: ほぉ……つまり、このお店のターゲット層は、子供がゲームセンターで遊んでいる間に、ちょっと休憩したいという親達と、静かな空間で食事をしたいという人達……ですね?


新内: っ!み、美月ちゃん!


ダンッ!



自分のことを、尊敬する先輩扱いしてくれた美月が、少しの会話だけで、店のターゲット層を的中させる程に賢く、自分と同じような考え方を持っていると分かり、コーヒーを用意していた手を止め、新内はキッチンからカウンター席に身を乗り出す。



新内: 一緒に働こう!!


美月: え?い、いえ、私はまだ高校生なので。


新内: バイトでも良いから!あ、お友達の飛鳥ちゃんもいるんだしさ!!


美月: …すみません。誘っていただけたのは、すごく嬉しいんですが、学校の方が忙しくて。


新内: そっか……それは残念。



自分のことを、尊敬する先輩扱いしてくれる美月を、これ以上、困らせるわけにはいかないということに思い至った新内は、すぐに引き下がり、準備を再開する。



新内: 美月ちゃんと一緒に働けたら、楽しいに違いないし、美月ちゃんは可愛いから、飛鳥ちゃんに続いて2人目の看板娘ってことで、売上が今よりも跳ね上がると思ったんだけど、しょうがないね……って、部活か何かやってるの?


美月: いえ。部活に入ってないんですが………一応、副会長をやってまして。


新内: え、マジ?!美月ちゃん、めっちゃ優秀じゃん!


美月: そんなことはないんですけど、やっぱ忙しくてですね。


新内: うんうん、あそこの生徒会の働き具合は半端じゃないからね。絶対にバイトするとか無理だわ。


美月: すみません…


新内: 笑、もう謝らないで。それよりも、働き過ぎて、体を壊さないようにするんだよ。頼れる仕事は他の役員にも頼ってさ。


美月: はい。みんなで生徒会ですから。ガンガンに頼っていきます!


新内: その調子、その調子!っと、よし、できた。はい、お待たせしました、オリジナルコーヒーです。



話しながらも完璧な状態に仕上げたコーヒーを、美月の前に出す。



美月: ありがとうございます。うわぁ……ここからでも香ってくる良い香り……


新内: 笑、飲んでみて。


美月: はい!いただきます………ゴクン……


新内: …


美月: …新内先輩…


新内: ん?


美月: これ、最高に美味しいです。これまでに飲んだコーヒーの中でも1番美味しいです。


新内: 笑、良かった。さ、私も失礼ながらコーヒーを飲ませていただきつつ、その美月ちゃんが聞きたいことっていうのに、答えていきましょうかね。



同じオリジナルコーヒーの入ったカップを持って、美月の隣の席に座った新内がそう言い、美月は手に持っていたカップをテーブルに置き、一呼吸を置いてから、口を開いた。



美月: …深川麻衣さんって、どんな人だったんですか?


新内: っ!!………なんで?


美月: えっと…少し複雑なんですけど、親の再婚で、今年の4月に弟ができまして、その子の実の姉が……


新内: …まいまい?


美月: っ…はい。



隣の新内の目が、変わったことに美月は驚く。



新内: ……そっか……美月ちゃんがまいまいのことを聞きたいのは、その弟君のため?


美月: まぁ、そうですね。


新内: 笑、その弟君は姉に愛される運命にあるというか……まいまいも弟君の話を、よく楽しそうにしてたんだよ。


美月: そうなんですね。


新内: ……まいまいは、私の大親友で、いっつも一緒にいたの。笑、ちょっと教室で私が騒いじゃって、それにまいまいが乗っかった瞬間に、教室に入って来た先生に見られて以降、私とまいまいは、その先生からゴールデンコンビって呼ばれてた。まぁ、そんなぐらいに、とにかく仲良しだったの。


美月: ゴールデンコンビ…


新内: ダサいでしょ笑。でも、名前は確かにダサかったけど、ペアの名前というか、そういうのがつけられたことが凄く嬉しかったの。まいまいとの仲良しの証明というか、そんな感じで。


美月: なんか分かります。もちろん、ちゃんと仲良しなんですけど、そこにペアの名前とか、お揃いの物とかがあったら、さらに仲が深まるというか、仲良しの証みたいなものができたようで、嬉しいですよね。


新内: うん笑。それで、まいまいがどんな人か、だよね。


美月: はい。


新内: う〜ん、まず一言で表すと、聖母、だね。


美月: 飛鳥もそう言ってました。


新内: 笑、だよね。もはや、聖母という言葉自体が、まいまいのために作られたんじゃないかってぐらいに、まいまいは優しかったから。


美月: 言動が優しい感じなんですか?


新内: もちろんそれもあるけど、纏ってるオーラって言えば良いのかな、なんかまいまいの近くにだけ、心が安らぐような空間があるのよ、伝わってるかは分かんないけど笑


美月: とにかく、まいまいさんの近くにいると、癒されるってことですよね?


新内: まぁ、そんな感じ。近くにいるだけで、こっちも穏やかな優しい気持ちになれるし、どんなにオラついてる人も、まいまいの近くに行けば落ち着いて、一言交わせば、改心しちゃうんだ笑。これ、別に盛ってないからね。実際、まいまいがいたおかげで、乃木高の治安が守られてたって言っても、過言じゃないんだから。知る人ぞ知るっていう話ではあるんだけど。


美月: 知る人ぞ知る……ってことは、まいまいさんはその、学年を越えて知られてる人って感じではなかったんですか?その、荒れてる人を改心させてたのに。


新内: うん。まいまいは、凄く謙虚だからさ。たとえ、そういう展開になっても、自分の名前を言わなかったり、さっさとどっかに行っちゃうの。だから、名前が知れ渡ることはなかったんだよね。


美月: なるほど…


新内: 他にも、まいまいの聖母エピソードはあってね、例えば、昼食を忘れたって子がいれば、自分のお弁当を半分、分けてあげたりとか、先生のお説教で職員室に行かないといけない子が、怖くて中々踏み出せなかったら、一緒に職員室まで行って、なんなら一緒にお説教を聞いてたこともあったよ笑


美月: それはなんというか…


新内: 変でしょ笑。でも、それがまいまいなんだ。あと、聖母エピソードと言えば………


美月: …


新内: ………うん…2年生の終わり頃、ほんと終業式の前日とかに、私が自分の手鏡を忘れて、まいまいに手鏡を借りたの。で、そのまいまいが貸してくれた手鏡っていうのは、お母さんからの誕生日プレゼントだったみたいで、まいまいはずっと大事にしていたんだけど……私が歩きながら使ってたら、落として、割っちゃったんだ。



当時のことを思い起こし、新内は悲しげな表情となる。



新内: その時、私はもう頭がパニクっちゃって、何も言えなくて固まってたら、まいまいは怒るのでもなく呆れるのでもなく、怪我してない?って、私のことを心配してくれたの。何とかそれに、うんって返事は返せたけど、まいまいの大事な物を壊しちゃったことが、ショック過ぎて、それ以降、まいまいが何を言ってたかは覚えてない……


美月: …新内先輩……


新内: 私、その後も、まいまいと話せなくて……あ、それは、まいまいが怖いとか、怒られそうとかじゃなくて、私が罪悪感と後悔で押し潰されてて、話しかけられなくて、まいまいも話しかけてくれてたけど、適当に返事をして流しちゃってたんだ。それで、そのまま終業式が終わって、春休みに入って。その春休み中に心の整理がついたから、まいまいに謝ろうと思って、3年生として登校したら………もう、まいまいはいなかった。


美月: 転校、ですか?


新内: 先生からはそう聞いた。でも、信じたくなかったから、色々と聞き回ったりしてみたんだけど、そもそも私は、まいまいの家にも行ったこともなければ、家族とも会ったことがないんだよね。だから、結局、まいまいが突然転校した理由も、今、何をしているかも知らないし、そして、手鏡を壊したことも、未だに謝れてないの。


美月: ……



これは……新内先輩もまいまいさんが寝たきりになった原因は知らなさそうだな…



新内: …ねぇ、美月ちゃん。今のまいまいについて、何か知らない?



その、暗く沈んだような、助けを求めているような目を、美月に向ける。



美月: っ……



飛鳥が言ってたことが分かった気がする。


新内先輩は、心の奥に、大親友が突然いなくなってしまったことへの疑問と不安、そして、大親友の大事な物を壊してしまったという罪悪感と後悔を抱え込んでいる。

しかも、それは、時間が経つほどに、どんどん大きくなっていったんだと思う。


それと同時に、新内先輩は、まいまいさんが目の前からいなくなって以降、感じ続けている苦しみから解放されたい、と無意識のうちに考えてる。


だから、まいまいさんと会うこと、まいまいさんの今を知ることに救いを求めているんだ。


けど、飛鳥は今のまいまいさんを知らない。

どうしているかは知っているけど、実際に見たわけじゃないから、飛鳥はそれを、この新内先輩に伝えるのは、止めとくべきだと、そして、これ以上、新内先輩の心の闇の部分を、まいまいさんの話で刺激するのもマズいって考えたから、途中でまいまいさんのことを聞くのを止めたんだろう。



美月: ……知ってます。


新内: え……



でも、私は、今のまいまいさんを知ってる。

実際に話したことはないけど、どんな所でどんな感じで過ごしているのかは、しっかりと説明できる。

私の説明は、新内先輩にとって、望んでいたものではないかもしれないけど、進歩にはなるはず。



そう考えた美月は、真実をそのまま、新内に伝えるのだった。



美月: …まいまいさんは今、病院で寝たきりの状態になっています。




to be continued 

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