【小説】俺らなりの青春
「母さん、行ってきます!」
「行ってきます! ママ」
そう言って、俺は小学生の妹のせなと家を出た。
今日は、年に一度の俺の高校の文化祭。
だけど、今年は例年とは違う。
どうやら、学校の近くの大きな公園のイベント広場を貸し切りにして、そこで文化祭を行うらしい。
……どんな学校だよ(笑)
とりあえず学校に向かうため、電車に乗っていた。
「お兄ちゃん、楽しみだね! お祭り」
「えっ、あぁそうだな。実は、せなの大好きな焼きそばもあるって噂もあるよ」
「えっ、やったぁ! 焼きそば大好き」
せなはとても嬉しそうだ。
やっぱ、連れてくるのは正解かな?
今日は、本来俺1人で行くつもりだった。
でも、母さんが仕事で、家にせなを1人置いておくわけにいかないから、せなも連れてくることにした。
ただ、せなを連れてくるということは、俺がせなの面倒を見ないといけない。
ということは、あまりゆっくり廻ることはできないかもしれない。
……まぁ、今はそんなことは忘れて、楽しもう!
学校に着いた。
「おはようございます!」
「おはよう真瀬くん……この子は?」
「僕の妹の、せなです」
俺は担任の先生にせなをしょうかいする。
「あぁ、妹ちゃん! こんにちは、山田です」
山田先生は屈んで、せなに挨拶する。
「……こ……こんにちは、せなです。9歳です」
せな、少し緊張してるみたいだな。
朝のホームルームを終え、会場の公園まで歩いて行く。
「せな、楽しみ?」
「うん! だって、お兄ちゃんの学校のお祭りだもん」
「ありがとな」
そんな話をしながら、せなと手を繋いで公園まで歩いていた。
公園のイベント広場に着く。朝早くに実行委員会がたくさんのテントを張っていた。
まるで、近所のお祭りみたいだ。
広場の奥には、特設ステージがある。
……フェスやん。
文化祭が始まる。
「わぁ、すごい! いっぱいお店が並んでる。お兄ちゃん、早く!」
「あっ、せな! 走ると転ぶよ」
せなが先に走っていきそうだったから、慌てて止める。
友達と廻りたいが、これじゃ無理だな。
「おっ、真瀬じゃん」
普段仲良い友達が話しかけてきた。
「おう、みんな」
「あれ、この子が前言ってた、妹?」
「うん!」
「可愛いじゃん!」
「せな、お兄ちゃんの友達だよ」
俺はせなを友達に紹介する。
「……せなです。9歳です」
やっぱり、せなは緊張している。
「ごめん、やっぱり初対面だと緊張するのかも」
俺は友達に事情を話す。
ステージ発表が始まった。
俺はせなと焼きそばを食べながら観ている。
「美味しいね。お兄ちゃん」
「うん、そうだね」
そんな会話をしながら、
軽音、コント、ヒーローショーなどを観ていた。
「……寒いね」
「そうだな」
11月の下旬、気温は13度、外でやるには少し寒い。
「せな、さっき屋台であったかい飲み物売ってたから、買いに行く?」
「うん、そうする」
俺とせなは立ち上がり、屋台が並ぶところへ戻った。
「何飲みたい? コーンスープ、おしるこ、豚汁もあるよ」
「コーンスープ!」
せなは嬉しそうに言う。
「じゃあ、俺も」
2人で温かいコーンスープを飲むことにした。
「熱いから、気をつけろよ」
「……ふぅ、ふぅ」
「大丈夫? 熱くない?」
「……平気、ありがとう」
せなは嬉しそうにコーンスープを飲んでいた。
友達みんなと廻る予定だったけど、仲良しの妹の面倒を見ながら廻る文化祭もいいな。
しかし、楽しかったのも束の間、
「ちょっと、お兄ちゃんトイレに行ってくるね。1人で待てる?」
「うん、もう9歳だもん!」
俺はせなを置いて、トイレに行く。
しばらくすると、何だか外が騒がしい。
外に出ると、
「……えっ?」
大雨とまではいかないが、強めの雨が降っていた。
……せな。
俺は真っ先に、せなが居た場所に走った。
……居ない。
辺りを見渡すと、みんな屋台のテントに避難している。
「真瀬くん、早く屋根に!」
先生がそう促す。
でも、そんなのはどうでもいい!!
大事な妹を1人してはいけない。
俺は辺りのテントをハシゴした。
どこに居るんだ? せな。
一生懸命、探した。
……居ないか。
そう思って、また探しに行こうとした時、
「お兄ちゃん!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、俺の友達と一緒にせなが居た。
せなは俺に駆け寄ってきた。
「良かった! 大丈夫だった? せな」
「うん、最初は怖かったけど、お兄ちゃんの友達がわたしを見つけてくれて、慰めてくれた」
「ありがとう! みんな」
俺は友達にお礼を言う。
「全然大丈夫。泣いてる女の子が居て、よく見たら真瀬の妹だったから」
「ごめんな。1人にして」
俺はせなに謝った。
雨が上がり、ダンス部の発表が始まった。
1曲披露した後、
「次の曲は、みんなが知ってるあの曲です! ぜひ、一緒に踊ってください」
ダンス部の部長がそう言うと、曲が流れた。
「あっ、これわたしの好きなやつ!」
せなが喜ぶ。
そして次々と、客席から舞台にみんな上がり、踊り出す。
……俺は、
「せな、一緒に踊ってきな」
背中を押す。
「えっ、恥ずかしいよ……」
「好きな曲だろ? じゃあ、お兄ちゃんも一緒に行くから」
俺はせなの手を取り、一緒に舞台に上がった。
せなは最初は恥ずかしがっていたが、途中から夢中で踊っていた。
ダンス部の人たちとハイタッチもしていた。
そして、なんだかんだで、文化祭は終わった。
帰り道、
「お兄ちゃん、楽しかった! お兄ちゃんの学校の人、みんな優しいし」
「それは、良かった」
「わたしも、将来お兄ちゃんの高校行く!」
「ありがとな」
そんな話をしながら、兄妹仲良く、帰路についた。
〜完〜