アドレナリンと麻酔 #5

前回(#4)は、アドレナリン受容体の種類について書いた。
そして、記事の最後に#5ではデクスメデトミジンについて書くことも予告していたので、予告通りに書き進める。
ただ、ほぼ毎回言っている通り、この記事は理系科目が苦手な方でも読めるように書いていくつもりなので、知っている人にはじれったい記事になることをご了承いただきたい。

前回までに説明して今回サラっと使う専門用語について簡単におさらいをすると、「受容体」は特定の物質(これをリガンドと呼んだ)をくっつけるとスイッチが切り替わるタンパク質のことで、スイッチが切り替わることで受容体がついている細胞は化学反応を起こすというものであった。だから、アドレナリン受容体というのは、アドレナリンをリガンドとする受容体のことで、そのアドレナリン受容体にも種類があり、そのうちの1つがα2というタイプである、という話を前回までにした。
麻酔薬の話の前に、このα2という受容体について、その特徴を説明したい。
α2受容体は、アドレナリンやノルアドレナリンがくっつくと、細胞内の情報伝達を抑制する方向に化学反応を進める。これは、他のタイプのアドレナリン受容体が細胞の情報伝達を促進する方向に化学反応を進めるのに対し、逆の働きをする受容体であると言ってもいいかもしれない。
興奮したことを言いかえる表現として「アドレナリンが出ちゃってさ~」みたいなものがあるように、基本、アドレナリンはアッパーなイメージがあるかもしれないが、α2にアドレナリンがくっついた場合はダウナーな反応が起こるというわけである。
実際、アドレナリンα1受容体にアドレナリンが作用すると血圧は上がるが、α2に作用する場合は血圧は下がる方向に働くので、アドレナリンの代わりにα2だけを狙って作用させる血圧降下剤もある。

ここから、麻酔薬デクスメデトミジンについてだが、この麻酔はα2受容体にくっつきやすいようデザインされており(α1受容体よりも1300倍親和性がある)、静脈から投与することで脳に届き、脳の青斑核という部分にある神経のα2受容体にくっつくことで、その神経からノルアドレナリンが放出されるのを抑制する。
青斑核の神経からノルアドレナリンが出る状態とは、大脳皮質が覚醒・興奮している状態であり、これが抑制されるというのは意識が遠のく、つまり、眠くなる状態である。
麻酔薬は神経の電気的な伝達を阻害することで麻酔状態を誘導する仕組みのものが多いが、デクスメデトミジンはノルアドレナリンを抑制するという化学物質による伝達を阻害することで麻酔状態を誘導している。
このデクスメデトミジンによる鎮静作用は自然の睡眠に近い状態であり、投与された患者は意識がうっすら残り、呼びかけに応答してコミュニケーションが出来る(意識化鎮静状態)。このコミュニケーションが取れるだけの認知機能を残しての鎮静状態というのは特徴的で、他の鎮静剤や麻酔には無い、異質な麻酔状態である。
デクスメデトミジンには鎮痛作用もあるが、これ単独だと弱いので他の鎮痛薬(医療用の麻薬)を併用するケースが多いものの、鎮痛薬の量が少なくて済み、脳を抑制し過ぎて呼吸が止まる副作用(呼吸抑制)が少ないのも特徴である。
ただ、弱点としては効果が出るのに時間がかかる点があげられる。
他の静脈麻酔薬が打ってから1分ちょっとで意識消失するが、デクスメデトミジンの場合、鎮静状態になるまで15分ほどかかってしまう。

ちょっといつもより長くなってしまったが、以上がデクスメデトミジンについての説明で、これを説明したいが為に「アドレナリンと麻酔」という一連の記事を書いてきたので、今回をもってこのシリーズは一旦完結とする。

参考:

http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-1_20170227s.pdf

https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-4900-7.pdf


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