キコニアのなく頃に 世界観考察 ~A3Wってどんなところ?~
ノベルゲーム「キコニアのなく頃に」のA3W世界の成り立ちに関するネタバレ考察です。本記事は絶対の真実を保証しません。
~概要~
A3W世界は、「第三次世界大戦によって人が住めない環境になってしまった地球で、超技術を駆使してなんとか人々が暮らしている世界……を繰り返しシミュレートしている世界」であると考えられる。
この仮定によって、「パラレルプロセッシングの仕組み」「ガントレットナイトの能力の仕組み」「霊素の正体」「脳髄工場エンドが起きる理由」「世界がループする理由」「各陣営の行動原理」などを簡潔に説明、あるいは予想することができる。
1. A3Wで起きていること
まず、A3Wがどんな世界かを想像するために、この世界が「満たすべき条件」を整理すると、以下の要素が挙げられる。
・「霊素」という新エネルギーが活用されている。
・地球環境はナノマシン「8MS」によって維持されている。
・ガントレットナイトが現代物理法則を超越した動きを行える。
・世界は「脳髄工場エンド」を迎える。
・世界はループしている。
これらを満たす世界設定は複数考えられるが、個人的に一番納得できたものが「世界は仮想現実で繰り返しシミュレートされている」というSF的舞台だった。
そう考えるとまず、ガントレットナイトの超人的な動きと世界がループしているという現象をシンプルに「仮想世界なので可能」と説明できるからだ。しかし、なんでも「仮想世界だから」と説明してしまうとそれで話が終わってしまうので、その必然性について考察を進めたい。
そもそも「仮想世界がなんでもあり」ならば、滅びかけている地球で無理やり生きている設定にする必要など無いし、その結果「肉体を捨てれば幸せ」という結論に至るという流れは起きないであろう。つまり、この世界は「なんでもありではない仮想世界である」と考えると辻褄が合う。そしてこの世界は「肉体を捨てるという結論を良しとはしない」という理由でループが発生しているように見える。
以上をまとめ、「A3Wはどのような世界なのか?」という解いに答える仮説を整理する。
・A3Wは、「本来人が住めない環境の地球で人類が肉体を保ったまま存続できるのか?」という問いに答えるために繰り返しシミュレートされた世界である。
・仮想世界の計算に使われているのは「現実世界の人間の脳髄」である。現実世界では地球が人の住める環境になるまで人間が冷凍睡眠されており、「今度こそ地球を滅ぼさない、愚かではない人類の社会のありかた」をシミュレートしながら目覚めの時を待っているのではないだろうか。
・シミュレーションの結果「やっぱり人類は肉体を捨てて電脳世界のユートピアで暮らし続けるのが最善である」という結論が出てしまった場合、別の可能性を模索するために世界がリセットされ、ループが発生してしまう。
・シミュレーションの方法が原因で、「霊素」「ガントレットナイト」と言った現代物理法則だけでは説明できない現象が発生している。
・仮想現実内で世界の真相を知るものが暗躍し、人類を肉体を捨てさせないで存続するよう導く勢力(藤治郎、セシャト等)と、文明を滅ぼすことで人類に肉体を捨てさせループを発生させようとする勢力(スリーパーソン、ジェストレス等)の戦いが発生している。
以降はこの世界観を前提に、A3Wの技術に関する要素を考察していく。
2. 脳髄シミュレーションとパラレルプロセッシングの関係
A3Wが人間の脳髄によって動かされる仮想世界であると考える場合、「1つの脳髄で一人の人間をアバターとして動かす」と考えるのがシンプルである。
だがその場合、仮想世界の中でアバターの人間が死亡してしまったとき、それを動かしていた脳髄は余ってしまう。例えて言うなら、ネットゲームのキャラクターが死亡して活動できなくなった時の操作プレイヤーのような状況だ。
その余剰の脳は本来は新しく誕生する次の世代の人間アバターを動かすために使われるのだろう。だが、それを別の用途に活用する技術が産まれてしまった。それが「パラレルプロセッシング」である。
複数の脳髄で一人の人間のアバターを動かせるなら、その人物は常人の何倍もの思考を並列して行うことができる。「もしも自分が2人いれば勉強をしながらゲームもできるのに……」という望みを叶えてしまうのがパラレルプロセッシングだ。
こう考えると、それに必要な「他人の脳を自分の脳として使用するための資質の高さ」が「P3値」であると説明できるし、「他人の脳の人格が紛れ込んでしまう」という副作用が「CPP」であるということも説明できる。
では全ての脳が「生者」として人間を動かすのに使われているのか? ――この問に関しての反例が「霊素」に関する仮説である。
3. 霊素とドライツィヒ変換
現実世界には存在するが、仮想世界に登場しない人物――すなわち「仮想現実内の死者」に対応している現実世界の人間の脳のうち、パラレルプロセッシングによるアバター操作に使われないものが「霊素」であると考えられる。
パラレルプロセッシングが「一人の人間」を動かす機能であるのに対し、「霊素」は幽霊のような非現実的な現象を引き起こす機能であるのではないか?
原作設定によると、霊素は「人間の脳をフィルターとして使用して行われるドライツィヒ変換」によって利用可能になるエネルギーらしい。つまりこれは原理的にはパラレルプロセッシングと類似性があるシステムなのである。
余剰の脳髄の計算リソースで人間以外……おそらく環境内の8MSを操作し、様々な現象を引き起こすためのパラレルプロセッシングが「ドライツィヒ変換」なのだろう。A3Wはまさに死者の力によって維持されている世界なのだ。ドライツィヒ変換によって発生するアンモニア臭――すなわち死臭がそれを示唆しているのではないか。
4. ガントレットナイトの特殊能力
ドライツィヒ変換の原理が分かると、ガントレットナイトの超常的な機能――飛行能力、リジェクションシールド、ディメンジョンコンテナについても筋の通った仮説を立てることができる。
・飛行能力
これは作中でも説明されているが、8MSの操作によって発生した力場によって加速度を得ているらしい。その8MSの操作に使われているのが死者の脳髄の計算リソースなのだろう。
・リジェクションシールド
これも飛行能力と同じ力場の発生で説明できるが、意味合いとして「幽霊が身を挺して宿り主を守護している」と考えると意味深、あるいは情緒的な比喩が成立するのかもしれない。
・ディメンジョンコンテナ
「霊素」を「幽霊の力」と捉え、「幽霊に武器を持ってもらう」ことを実現できてしまった場合、それは不可視の武器コンテナとなる。仮想世界の人物の視覚は世界のルールからの干渉を受けるこめ、「死者の行為は不可視である」というルールがあるならばこの奇妙な現象が成立する可能性はあるだろう。意図的に引き起こすのが困難であるため、事故も多発するはずだ。
これらの仮説は多少強引なところもあるが、「幽霊」の存在を考えることでこの先の物語に「死者の干渉」という要素を追加することが可能なため、とても面白いと感じたので考察に含めることとした。
また、「死者」という存在はセシャトが示唆する「エジプトの死生観」というテーマから語られる話も多そうだ。こちらは考察が別にまとまったらいずれ紹介したい。
~まとめ~
A3Wを現実世界の人間の脳髄によってシミュレートされた特殊な仮想世界であると仮定したことで、脳と肉体の関係からパラレルプロセッシングと霊素について一貫性のある仮説を立てることができ、今後の展開で注目するポイントを新たに得ることができた。
今後はこの仮説を踏まえてPhase1を再読し、展開や人物、勢力についての細部に関する具体的な考察を進めていきたい。