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Tabi. #1979 009-3

Tabi. 009-2 より続く

宿へ着く。
扉の前に立ち、ふと考えた。
これは、無断で開けるものか?
チャイムを鳴らすべきか?

大きな宿の名前が書かれた看板に勇気をもらい、
えい、と引き戸を開く。
地方特有というべきか
扉には、鍵がかかっていない。
(東北に住む祖父は、生前
寝る時しか鍵をかけていなかった)

ガラガラと音を立てながら扉は開く。
しばし玄関で待つ。
しかし、誰も出てこない。
「ごめんください」と
一言。

それでも何もない。
自分は、小さな声で上がりますよ、と
言いながら、玄関でサンダルを脱ぎ、
数歩、暖簾がある方まで進んだ。

もう一度、「ごめんください」
と言ってみる。
久しぶりにこんな言葉を使ったな、と思っていると
奥からぬっと主人が出てきた。

「今日、宿泊予定の者ですが…」
そう伝えると、主人が鍵を渡してきた。

透明でブルー、プラスチック製。
長方形のその先に鍵がついている。
シティホテルではカードキーが当たり前のせいか、
おっと、思ってしまう。
そう、ここは民宿だ。

ジャラジャラと音を立てつつ鍵を持って階段を登る。
2階。
似たような部屋が並ぶその一室のドアを開く。
6畳ほどの部屋。
置物といえば、ちゃぶ台とテレビぐらいだ。
窓がある。
開くと、むんとした風が入り込んだ。

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