デザインは無から生まれた資源だった【2022年ふつうの旅 #12デンマーク】
観光、仕事、生活を楽しむ #2022年ふつうの旅
オスロからフェリーに乗って、コペンハーゲンへ到着した。
船の中は既にデンマーク通貨。しかし、デンマークらしいデザインというより、昔仕事で乗ったイタリア船にそっくりだった。ボーイングやエアバスのように、いくつかの造船会社による寡占なのだろうか。
アンデルセンやノーベルを産んだデンマーク。宿敵スウェーデンとの幾度もの戦いや、南に国境を接するドイツとの確執、いつ攻めてくるかわからないロシアに囲まれ、翻弄された歴史を持つ。
それらの国々とのいちばんの違いは資源がないことである。森林や鉄鉱が豊富なスウェーデン、工業国であり小麦など穀倉も豊かなドイツ、エネルギー資源国であるロシアと比して、デンマークには何もない。
とても平坦な土地であり山や森などのアウトドア観光資源はない。エネルギーもない。唯一の観光名所「人魚姫の像」は世界3大がっかりと言われる始末。
しかし、だからこそ、この国は、0から1を産む「デザイン」を産業化した。ニールポールセンの照明、バングアンドオルフセンのオーディオ、ロイヤルコペンハーゲンの陶器はもちろん、HAYやBoConceptの名前を聞いたことのある人も多いのではないだろうか。
訪れたデザインミュージアムはとても見応えがあって、近くの通りにあるギネス博物館の5,000倍はよかった。最新のインスタレーション、プロダクト、ファッション、刀剣の鍔のコレクションまであって壮観だった。
「ない」ことは悪いことではなく、だからこそ生まれる想像力がある。アンデルセンは恵まれない生涯を送ったが、だからこそ数々の名作を残した。山のないデンマークでは、太った人がほとんどいない。みんなが自転車に乗っているから(かどうか、確かなことはいえないが)。
家にいる時間が長いから、Hygge(ヒュッゲ)と呼ばれる、家の中でのゆったりとした時間を大切にするのだ、なんてことが日本国内でも語られ、本が出版されたりと流行していたが、まったく納得できていなかった。じゃあ同じように冬が厳しいアラスカは?カナダは?ロシアは?
だから、バウハウスが生まれたドイツに近く、かつ、産業が酪農と水産に限られ、観光資源もエネルギー資源もない、という国の状況からデザイン産業が生まれた。そうせざるを得なかった、という仮説にはとても納得がいった。
この議論は、大学時代の鳥人間サークルの先輩G氏から紹介いただいたデンマーク在住のL&N夫妻と、ニシンの酢漬けをごちそうしてもらいながら話した事柄である。冬が長く、1年を通して豊かな食生活を送るためには、保存食を発達させる必要があった。そのため、酢漬けが名物料理となったのだ。酸っぱいもの好きな自分としては、この旅No.1のおいしさであった。京都にいた頃よく食べていたさば寿司を思い出したりもした。
コペンハーゲン案内ということで、フリータウン・クリスチャニア(Chritiania)を案内してもらう。「i」が3つあるため、3dotsがこの街のシンボルだ。クリスチャニアは、1971年に建国された850人の住人が住む「自由地区」。当時は大麻が合法で、ヒッピーが集まる楽園として発展した。
今では毎年50万人が訪れる観光地であり、古い建物やDIYの施設、独特の雰囲気が散歩するのにちょうどいい。Pusher Streetと名付けられた10メートル程度の小道は撮影禁止となっており、今でも大麻が公然と販売されている。
煙をふかす人々やギターを弾く人々を見て、エストニアでも同じようなゾーンがあったなと思い出す。あちらは政府主導で、こちらは住民自治であり、よりイリーガルだが。自由という言葉はとてもハードであり、不便と自己責任が伴う。ここまでの自由を求めるよりも、どれくらいの自由と制約を自分が選ぶのか、というバランスなんだろうな、とぼんやり思った。クリスチャニアの主のようにまるまると太ったネコは、人間が決めたルールや地区のことなんか興味なさそうだった。
ないことが資源になる。島国で資源がないため、加工産業が得意である、と習ったのが日本だったことを思い出した。
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