歌うおじさんと笑いをこらえる少女たち【2022年ふつうの旅 #16イタリア】
観光、仕事、生活していく #2022年ふつうの旅
イタリアに来ました。
しかし、旅に、飽きてしまった。
遺跡、絶景、社会、文化、芸術、コミュニケーション。ひとつひとつ飽きていって、ついに旅に飽きちゃった。ヨーロッパそのものが大きな観光地だからかもしれない。有名なアイコンをスタンプラリーのように巡っている気さえしてきた。
しかし、しかし、帰国はもっとめんどくさい。
だから、自分を奮い立たせて、好奇心と行動力をとりもどすために、新たな手法を使うことになる。
前はトルコの湖畔でのんびりすることで、ちょっと回復した。今回は自分1人の力では無理っぽい。だから、「約束」の力を使わせてもらった。
具体的には、アフリカ、タンザニアのサファリに行こうとしている日本人の方にTwitter経由で連絡し、ご一緒させてもらうことに。
これによって、ヨーロッパ→アフリカ→南米の飛行機と宿を決める必要が出て、ぐっと推進力が出てきた。
サファリが高価ということもあり、仕事へのモチベーションもわいた。そうすると、不思議なことに2つ3つ仕事の相談が舞い込む。こういうのなんて言うんだっけ?ひきよせ?
南米で仕事仲間と合流する可能性もでてきた。アメリカでは2人の先輩と会う約束がある。今、俺のやる気は約束によって保たれている。
個人や企業が大層に掲げるもの。夢や目標やミッションやビジョン。それらはすべて、約束である。仕事は約束を守り続ける営みであるとも言える。旅は約束から解き放たれて、自由と無責任を謳歌するもの、と捉えると、約束は旅にとって不純物となる。
しかし、これは2022年における、自分なりのふつうの旅。純粋な観光でも、自分探しでも、冒険と修行でも、リゾート旅行でもない。平熱の暮らしと仕事と移動を続けていくにあたり、実社会と同じく、約束で自分を駆動していくことに落ち着いた。
そして、マラソンや富士登山同様、ただやってみたかったから、という動機で始めたことなので、途中で多少しんどくなっても、それも踏まえて、続行は続行なのである。ラーメン食べたい。
前置きが長くなりました。旅のことを書きます。
ザルツブルクから電車に乗って、アルプスを横目に見ながらベネツィアに辿り着く。なぜか喉が痛い。体調がそんなによくない。
しかし、水の都ベネツィアはすぐそこで待っている。水上バスに並ぶこと30分。「マスクないの?乗っちゃダメ!」と言われる。この旅初のマスク着用ルールだ。薬局へ行き、マスク購入。並んだ時間に腹を立て、腹が減る。
イタリアでは節約せずに食べようと思っていたので、生ハム、チーズ、パスタを食べる。うまい。たしかにうまいが、東京でも食える。
ベネツィア全体は島であり、もっというとお台場である。そのことに気づき、キレイだけど、なんか混んでてやだな、と思いながら、散策する。世界最古のカフェで、ここで産まれたと言われているカフェラテを飲む。なんかイタリアのコーヒーはうまい。コクがあるというか。
飲みながらイタリア音楽の演奏を楽しむ。バイオリン、コントラバス、ピアノ、クラリネットのカルテットだ。なめらかな音階が心をダイレクトに揺らす。悲しくて明るくて美しい。心に余裕を持てば、空の青さも、木々の緑も、赤い土壁も、すべてが黄色くアンバーに染まっていて、懐かしいような心地よい感覚に襲われる。
しかし、喉は痛い。頭も痛くなってきた。ドミトリーで他人がいる中で寝るのもストレスである。そういえば、9月の頭から1ヶ月の間、ずっと他人と一緒だったのだ。
そこで、次に向かう予定だったフィレンツェのドミトリーをやめて、1時間ほど離れたアレッツォの個室をとることにした。
アレッツォは「ライフイズビューティフル」のロケ地でもある小さな街。偶然10月の第一日曜日は世界規模の骨董市が開かれるという。ここに2日間ほどのんびり滞在し、フィレンツェは最終日に遠征した。
個室では、体力だけではないMPのようなものが回復したのを感じた。体調もよくなった。(ここから先、郊外での個室にハマることになる。)
街を歩くとすべてのデザインは曲線が特徴的で、無理のない自然な美しさがそこら中にあふれている。動物を飼っている人が多く、泊まったエアビーのホストは肩にインコが乗っていた。
電車の中でサンタルチアっぽいのを歌うおじさんと、それを見て笑いをこらえられなくなる思春期の少女たち。幸せが車内に溢れていた。
この感じはなんだろう?きっと生命賛歌なのではないか、と思い至った。ルネサンスの人間性回帰ともつながるような、命を楽しむことが、この国の美学なのではないか、と感じた。
ローマでは、まさに名所だけを巡る行程になったが、一時は世界の中心とも言える場所であったので、その歴史を存分に味わう。
いちばん感動したのは、カルボナーラである。というのも、銀座のイタリー亭で食べた味とほぼ同じだったから。あの店、本当に本格派だったんだなあ、と、逆ウミガメのスープ的感動を得ました。
こうして、旅に飽きながらも、前に進む理由をつくり、体調は完全に回復しました。退屈とどうつきあうか。新しい旅のテーマです。
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