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ダイナミック格差と聖なる牛糞【2022年ふつうの旅 #2インド】
仕事も、観光も、ふつうの生活リズムで旅していく #2022年ふつうの旅
2つ目の国はインド。
神秘の国、カレーの国、貧困の国、IT大国、カースト制度、ガンジス川、ガンジー。あまりにもたくさんのイメージでタグ付けされる国、インド。
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短い滞在ではインドのこと何もつかめてないだろうけど、五感で味わったことを書き残しておこうと思う。
まず思ったのは、10倍だなあ、ということ。すべての目盛りが10倍なのだ。音、人、光、牛、熱、水、ゴミ、車、リキシャー、なんだか振り切れてる。
まず、人が多い。人口は13億に達し、もうすぐ中国を抜くと言われている。首都デリーは、人だらけだ。ソーシャルディスタンスなんてとれない。人は我先にと道をゆき、列に並ばず、クラクションを鳴らす。常に鳴っているので、うるさいと思う暇がないくらいうるさい。途中で気がついた。ノイズキャンセリングイヤホン持ってるなと。装着してみてびっくりした。ちょうどいい。喧騒が普通くらいの街の音にソフィスティケイトされ、にぎやかで楽しい街に生まれ変わった。これからインドに行く人には、ノイズキャンセリングできるなんらかの持参をおすすめします。
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そして一泊目の安宿は1000ルピー、10分ほどタクシーで移動して入ったスタバの食事も1000ルピーだった。いきなりダイナミックな格差を感じながら街をぶらぶらする。すると、牛や犬や山羊が道路にいる。動物を大切にするということは、どういうことか。
それは、そこら中に、うんこがある、ということである。だから、歩きスマホは、うんこ踏む。
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はっと気づく。日本に野良犬がおらず殺処分されているのは、狂犬病予防もさることながら、清潔を支えるための施策であるということに。だから保健所が管轄なのだ。清潔をコントロールし、人間にとっての快適さを維持するためには、目に見えないところで汚れ仕事に従事する人がいる。
そして、湿度が高く、うんこが多い街には、ハエが大量に湧く。どんな高級ホテルでも、料理にはハエが寄ってくる。ウエイターはテニスのラケットのような電気でハエを殺す武器を持ってうろついてくれる。
もちろん、気温はとても暑い。ただ、日陰は涼しい。ビル街と違って風は抜ける。日中に出歩くのは体力の消耗が激しいので、朝か夜が活動時間だ。
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ここでも、テクノロジーが役に立った。
Uberを使って、リキシャーやタクシーを呼ぶ。料金交渉が必要ないので快適だ。ただ、目的地が近いとタクシーが来ない。ドライバーとマッチングはしてるが、メッセージや電話でどこに行くんだ?と聞いてくる。あまりに近いと儲からないので来てくれず、こちらからキャンセルするしかない。これもインドあるあるらしい。急ぎの時はUberで相場を調べて、そのへんのリキシャーに交渉するのがいい。Uberの1.2〜1.5倍くらいが許容範囲だろうか。
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そして、ストリートフードである。炎天下の中で、ハエがたかる街中で、使い古された漆黒の油で揚げたものや、絶対に飲んではいけないでおなじみの水道水でつくった氷。これらは徹底的に避けた。おかげでお腹は快調だ。レストランに行くか、スーパーで買う。そして、現代においてはウーバーイーツ的なアプリがある。zomatoだ。これでホテルを指定して持ってきてもらうのだ。なんて便利なんでしょう。
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Wi-Fiがない街中でもUberを呼べるように、e-simをアプリ経由で購入し、快適に過ごした。ここでもテクノロジーによる恩恵は大きい。
インドはIT大国だとか言われているが、それは一部の裕福で高カーストで学問にアクセスできる層だけで、ほとんどの層は貧しい暮らしをよぎなくされている。
若者達は国産のバイクと中国製のスマホを買い、新しいビジネスを始めることができる。カーストに関係なく。でも、そもそも地図や字が読めないと、zomatoもUberのドライバーにもなれない。ダリットと呼ばれる下層カーストの人々は、清掃人などヒンズー教的に不浄であるとされる仕事を代々引き継いでいくのだ。
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デリーのAirB&B宿は、心理学専攻で大学で先生をしている女性のアパートメントだった。趣味がよく、広く、客室とは別のバスルームがあり、毎朝1時間ほどメイドが掃除に来る。メイドは月5000ルピーの契約だ。日本円にして約8,000円くらいか。これくらいの支払いができてエアビーの宿主になれる人はかなり特殊だろう。彼女は南インドのケーララ州出身。ケーララ州は学問に力を入れている。日本の一般的な家庭よりもよっぽどいい暮らしである。
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Wi-Fiもつながるので、いくつかの仕事をリビングでさせてもらった。どこにいても仕事仲間と同じようにテレカンや企画打合せや企画書やコピーやデザインやディレクションや見積やスケジュールを進めていく。旅先での仕事が、精神安定上とてもいい。旅を休んで、回復する感じというか。宿主がいない日もメイドは毎日やってきて、掃除して、帰っていく。
掃除や、重い荷物を運ぶなどの仕事は、人に外注した方が安いことが多い。家電を買うよりも。それは、格差によって成立するスキームだ。その快適さと、心のどこかに感じるうしろめたさのようなものを抱えて、デリーを離れ、チェンナイへ飛んだ。
心にもやもやを感じ、考えた時、もっと深く知りたくなる。だから、旅しながら、いくつかのインドの社会学的な本を読んだ。それは、旅する前に知っておいてもよかったのかもしれないが、なんていうか、浸透度が違う。やはり、感じる▶︎考える▶︎知るの順序が良かったようだ。心が動いてからじゃないと、好奇心がわかないし、疑問も感じない。そして、知識が体にインストールされてはじめて思った。もしかして勉強って、面白いんじゃないか、と。やたら時間もお金もかかる贅沢な行程だが、学ぶということの最適解を感じた気がした。
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北インドから、南インドへ。インドのデトロイトと呼ばれるチェンナイは港町で、昔はマドラスと呼ばれていた。自動車などの工業メーカーが多く進出しており、大学時代の先輩が駐在しているのだ。facebookでコメントを残していただいたので、突発的に会いにいくことにした。こういう動きができるので、予定を立てすぎない旅はとても楽しい。
マーサー指数というものがある。駐在先のランクによって、どれくらい大変なのか、どれくらいケアすべきなのか、どれくらい補償されるのかを決める指数だ。チェンナイ在住の家族には、高級住宅街のアパートメントと、ドライバー付きのクルマが与えられる。
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先輩に教えてもらった駐在員の遊び方はダイナミックだ。例えば自転車にハマると、家からバンガロールまでの数百キロを自転車で行く。そこにドライバーは車で帯同し、飲み物や休憩などは車でとる。そしてようやく辿り着いたら、自転車を車に積み、自身は飛行機で帰るのである。もちろんドライバーは車を運転して帰る。まるで24時間テレビのマラソンだ。
このような駐在員ライフを数年送ると、もはや日本には帰りたくなくなるらしい。小学生のあいだインドで過ごし、日本に帰った家庭のお子さんは、タクシー運転手などに対して召使いに話しかけるような態度をとってしまい、問題になっていたとか。
日本の役員室で、インドには伸び代がある、と決めるのは簡単だが、実際に生活すると、やはり仕事の考え方やクオリティの差に愕然とするらしい。紙の資料がタテヨコバラバラだったり、ロゴが中心にきていなかったり、日本だと当たり前のことがインドでは成立しない。原料となる成分が勝手に変わったり、設計とは違う部品が使われていたり。製造業ならではの苦労が多々あるという。
先輩と、大学時代のバンドや軽音楽部の面々の話などして、リゾート地域でご飯をご馳走になり、写真を撮って別れた。20年ぶりであったが、お互い人生のコンディションがいい時に会えてよかったね、という話をした。昔の友人たちはいま、何をしているのだろうか。それぞれのやりがいと幸せと苦悩を抱えて生きているのだろうか。
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港町では、農業機械のトラクターが船を引っ張り、海に送ったり、引き上げたりしている。トラクター1台あれば港になる、というわけだ。炎天下で魚を並べて売るおばちゃんと、それを狙うカラスがすごかった。何年住んだとしてもここでは買えないな…。
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遺跡には飽きているのだが、いくつかの世界遺産は見に行った。現地人40ルピー、外国人600ルピーである。そして気づく。お金を払うことで、静寂、安全、清潔が手に入ることに。日本ではあたりまえだったことが、ここでは贅沢品なのだ。広大な庭園で芝生を見ていると、権力が手に入れたかったのは、この憩いだったのかもしれない、と思った。
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カレーはもちろん、南国なのでフルーツがうまい。そしてお酒を飲まない人が多いのでノンアルが充実している。助かる。モヒートのノンアル版である、モロッカンスカッシュは夏を感じて最高だった。帰国してからもつくりたい。スイカジュースもうまかった。ただ、コーヒーはエスプレッソが中心で、ローストされた甘くないドリップは貴重だ。
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いちばんおいしかったのは、ビリヤニだ。ゆでたまごがうれしい。お米が食べられるのも日本人としてほっとする。ただ量が多い。食べ過ぎて次の日ガスピタンのお世話になった。
湿度が高く、下水の処理が整っていない。つまり、物が腐りやすい土地においては、カレーはスパイスによる殺菌効果から生まれた物であると言える。京都の漬物や韓国のキムチと同類の食文化であるとも感じた。
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インドの予定は狂いがちである。こんなことがあった。エアビーのホストに朝食をごちそうになり、瞑想の20分を待って、別れを告げる。頼んでいたUberが来ないのでたまらずリキシャーに乗ったが道が大渋滞していて、空港までに思ったより時間がかかる。やっと着いたと思ったら、ここから先はシャトルバスで行ってくれ、俺はターミナルには入れないんだと告白される。
搭乗時間まであと5分。すると、バス乗り場の謎の男にお金を渡すことで、謎のドライバーが登場し、ターミナルまで車をぶっ飛ばしてくれた。両方の男に500ルピーを渡し、ダッシュで保安検査へ。搭乗時間はとっくに過ぎている。検査は空軍が行い、やたら執拗に荷物をチェックされる。カメラはやり直し、このワイヤーはなんだ?ロック?中身を出せなどなど。完全に間に合わないのでは?と思いつつ口から日本語が出始める。「ええからはよしてくれ」人は焦ると故郷の言葉が出る。
なんとか搭乗口まで辿り着くと、グランドスタッフが「まだ乗る人いますか〜」の最後のやつをやっていてなんとか滑り込んだ。そして無事、大学時代の先輩がいるチェンナイへ飛んだ。ギリギリセーフ。先輩には、インドでは国内でも2時間前に空港に着くべし、と言われた。それを守って今、搭乗時間の2時間前にここにいる。
教訓:インドでは2時間前行動
1週間で駆け抜けたカンボジアと違って、インドにはあと数日いる。今は空港のラウンジでこの記事を書いていて、次は旅人がみんな体調崩すでおなじみのバラナシだ。もちろんガンジス川で沐浴はしないし、ストリートフードも極力避ける。この先は長い。ふつうの体調で、ふつうに旅したいのだ。チャイとバナナはストリートでも買っちゃうと思うけど。
インド人たちは、総じてこうである、なんてとても言えない。人によって違うし。あまりに多様で、あまりに階層が多く、一般的にこうである、というのがあまり感じられない。ルールもグレーであることが多く、車線と車線の間を走るリキシャーのように、すべてのスキマにまたオルタナティブな人と仕事と文化がある。あえて言うなら、なんでもありで、エネルギーがあり、そして、親切な人たちだった。インドは広い。今度来るならバンガロールやムンバイなど、別の街にも来てみたい。もちろん、蚊除けクリームとトイレットペーパーは必須で。
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