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草刈機で紫陽花を刈ると、枝に刃が跳ねられて怖い

高知・土佐山での旅づくりワークショップ。今回は草刈りマスターズ本番。草刈りマスターズとは、草刈りをお手伝いしながら、スポーツ・エクササイズ的にも楽しんでしまおうという企画である。企画・運営は筆者とNPO法人・土佐山アカデミー。

土佐山に住む人なら、自宅周りの草刈りは各自やっているが、集落のみんなが揃ってやるのが、県道の草刈り整備である。これは県から委託金が出る。面白いのは、いったん集落の事務局が受けて、その資金を、懇親会の飲食費、燃料費、機材費にして、コミュニティ全体がうれしくなるように再分配されているところ。

土佐山アカデミーのコネクションにより、前日の懇親会であるお月見にも参戦。県会議員や市議会議員のお歴々が長々と挨拶をしてからの宴会も新鮮かつDEEP。土佐山の一集落が多く集まる機会は少なく、地元の代議士や役所の人々はこぞってこういう場に顔を出すのだ。カジュアルに住人と政治が対話の場を持っていることで、むしろ自治が保たれているような気がした。県道を車で登ると、草刈り注意の電光掲示板が輝いていた。

ちなみに、土佐山には月見をしたいがためだけに山の途中を削って平らにした月見台がある。あいにく前夜は小雨が降っており公民館での月見となったが、本来は外で杯に映る月を見ながら英気を養うのだ。余談だが、むかし、NTTが土佐山にアンテナを建てようとした時、唯一平坦だったのがその月見台横スペースであり、その結果、このようにスマホでネットにアクセスすることが可能となっている。

お月見の料理はかなり土佐山色が強く、婦人会の皆さんによる素晴らしい手料理が並んだ。ススキは一升瓶に入れ、熱燗はやかんで沸かす。豪快である。モクズガニと呼ばれる上海蟹の一種が大量に盛られていた。地元の人たちは上手に割って食べる。その出汁でそうめんをたべる。殻に桂月という酒を入れて飲む。来月には柚子が収穫され、その皮をおちょこにして飲む。豪快である。そのために山を削る人たちである。

二日酔いという概念を知らない人たちが翌朝早くから草刈りに精を出している。草刈機はガソリンとエンジンで刃を回す。危険だ。危険だが、今回の参加者は事前に講習を受け、現地でのオンザジョブトレーニングによって、ぐんぐん扱いがうまくなっていく。刈った草は谷側に落としていく。その時に役立つのが「べんりなぼう」である。側溝から草をかき出し、谷に押し出す。ただ二股に分かれただけの棒は、前日にノコギリやナタで切ってつくっている。

朝の8時ごろから12時まで草刈りをすると、弁当が待ち遠しくてたまらなくなってくる。草刈機は重さと振動で左手がプルプル震えるし、風で吹き飛ばすブロワーもまた重さで腕がヤバい状態になる。べんりなぼうやカマ、レーキと呼ばれるトンボ状のほうきで草を谷に落としていくのも、何度もやると飽きてくる。飽きてからが勝負だと土佐山アカデミーの吉冨さんは語っていた。

待ちに待った休憩を挟み、午後からは今回のワークショップチームだけで月見台の草を刈る。つまり、これが、草刈りマスターズの認定試験なのだ。参加者全員が草刈機を駆使して小さな公園のような平地をキレイに刈り込んでいく。まるで外資系保険営業の後頭部から側頭部にかけての刈り上げのように精緻に刈られた大地は、100点満点であるとのお褒めの言葉をいただいた。

途中、サワガニを大量に捕獲したり、蛇の抜け殻を見つけたり、ミミズの動きにビビったりもしたが、みんな、草刈りという重労働をなんとか学び、または、遊びに変換し、前向きにやり抜いた。地元の人たちとも仲良くなり、アケビをもらったりもした。辛くて苦かったため、母なる大地にお返ししました。

土佐山の人たちの不思議なところは、余所者に対しての心の開き具合がすごいところだ。もちろん、媒介者としてこの地で活動を続けている土佐山アカデミーの信頼資産あってのものだと思うけど、当たり前のように草刈機の使い方を教えてくれたり、軽トラに乗せてくれたり、ブロワーを貸してくれたりする。その助け合いが血と肉に染みている感じだ。移住希望の方々が順番待ちをしているのも頷ける。

今回のワークショップは、自分は観察者に回り、アカデミーの運営に全て乗っかる形で参加した。事前のオリエンテーションで語られた「計画的偶発性」が印象深い。うまくいかないことを、予定通りいかないことを、どう仕掛け、どう楽しんでいくか。旅だけではなく、何事にも当てはまる冒険的好奇心の話だ。

唯一の仕事としては「草刈り初級認定証」があると、嬉しいのではないか、という企画部分であった。しかし、初級の次が何級なのか、ビギナーの次は何なのか。そのへんを考えずに進めてしまったので、週刊連載のような辻褄の合わない事が今後起こるだろう。それもまた、計画的偶発性なのかもしれない。旅も残り少なくなってきた。土佐山の魅力の一端でも形にできると嬉しい。

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