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【ネタバレなし感想】「竜とそばかすの姫」は最高の"邦画"だ

先日観に行った、細田守監督の最新作。

▼観に行った感想
「アニメ映画」の枠を超えた、最高の「日本映画」

どんなアニメよりも豊かな色彩。馴染みがありそうなのに新鮮な歌。一瞬しか映らないオブジェクト・キャラクターすら緻密な描写。王道ストーリーを進化させた脚本。

その迫力と展開に、3回くらい涙が流れた。

自分なりに、この映画の魅力を書き出したい。
※note途中に出てくる画像は、予告ムービーからキャプチャ撮った

▼予告ムービー


(1)何度も波が起こる感情曲線

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すーごく偏見だけれど、歌中心の映画って後半の展開がダレる物が多い気がする(某雪の女王とか某グレイテストとか)。
「この映画も歌が中心になりそうだ」という点で、観る前に不安を抱いた。

ところがこの映画は違った。起承転結の「転」が、何度もやってきた
これでひと段落...と思いきや、また新たな「転」がやってくる。
この「転」が起こる度、観る側の感情が揺さぶられた。そして、それぞれの「転」が解決に向かう時、解決の過程で、僕はたびたび涙した。
その「転」は、最初は非現実的だ。でも後半になるほど、「転」は現実的な話となる。

見始めた時は「近からず遠い世界の話」だったのに、終盤では「リアルの話」となる
これにより、僕は時間が経つごとに、自分の心を強く奪われていった。


(2)映画館で観る事の一体感が凄まじい

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映画館は真っ暗で、あらゆる方向から音響を受けとれる。そして観客は、一つの大きな画面を、同じ方向に向かってみる。
「映画を映画館で観る事」の大きなメリットが、映画館の一体感だ。

この映画には、モブキャラ(名前不詳の群衆)がたくさん出てくる。そしてモブキャラたちの言動は、現代社会の人々、つまり僕たち観客にソックリだ
このモブキャラたちの存在によって、映画の主軸となるストーリーを「見守る」という気持ちがより高ぶる。

『映画を観る僕たち×映画の中に居る僕たち』という公式が成り立ち、主人公たちへの共感が強くなる。

そして映画の途中、観客の中から聞こえてくるすすり泣き。それも相まって、僕の感情が文字通り湧き出てきた。


(3)無音シーンの衝撃

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この映画は、歌(音楽)が主軸となる。そのため、基本的にほとんどのシーンでBGMが流れる。しかしこの映画には、「環境音だけのシーン」や「キャラクター1人だけの語りシーン」が存在する。
この手法があるからこそ、メインの歌が強烈な印象に残り、ストーリーに緩急が起こり、特定のシーンをリアルに共感できた。

BGMの緩急をストーリー展開に差し込むことで、そのシーンの情景・キャラクター心情を、観客に鮮明に焼き付ける。
音楽中心の映像作品としては、かなり勇気のいるディレクションだと思う。本当にアッパレ。


(4)「理想の世界」と「誰もが持つ"あの頃"」

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主な舞台は、仮想空間・田舎・学校。
これらの舞台を分解すると、下記の通りになる。

仮想空間:いわば「理想の世界」
田舎:人によっては「思い出の場所」であり、人によってはいつか住んでみたい「理想の場所」
学校:ほとんどの人にとって「かつて居た場所」

仮想空間では、非現実的な景観や人間の形が存在する。空想の世界でしかあり得ない世界観を、様々なキャラクターが生きている。人間が考える「理想的な未来像」が描かれている

いっぽう田舎や学校では、リアルな学生や大人たちが存在する。現実的な等身大模様が描かれている。キャラクターたちのセリフや設定や景観など、どれを観ても、それらは間違いなく「僕ら」だ

この全体的な設定によって、観る側は「もし自分がSF世界に行けたなら」をより強く、そして無意識に感じられる。だからこそ、ストーリーに強く共感する。


(5)誰もが感じうる「孤独」というテーマ

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この映画の最大のテーマは、おそらく「孤独」についてだと思う。インターネットの発展・パンデミック・自己責任社会、といった影響により、僕たち現代日本人は孤独を感じやすくなっている

もちろん「孤独とは無縁だ」という人も居るはず。でも少なくとも、孤独を感じる人は貴方の周りに必ず存在する。また、この映画を通して、「孤独とは?」を知ることが出来る。間違いなく。

そもそも僕たち人間は、一人では生きられない。食物やツールを生産する人たち、運ぶ人たち、売る人たち、看護する人たち、遊ぶ人たち...。どんな現実のシーンにおいても、他人の存在が必要不可欠。もしもたった一人で無人島に送り出されたら、果たして何日間生きられるだろうか。

他人に共感する機会は、SNSの発展で増えているはず。ZOOM等のツールによって、離れていても誰かと働ける。なのにやっぱり、リアルに会う時とは感覚が異なる

人間は孤独では生きられない。しかし現代社会は、孤独を感じやすい世界になっている。この映画は、孤独を社会問題として提起している。この点にも、観る側は共感を得やすい。


(6)歌や音楽のパワーは無限大

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どんな時でも気軽に体験することができる娯楽。それが歌・音楽。

この映画の歌は本当に素敵。「聴いたことがある雰囲気なのに新鮮な歌」が多く出てくる。そして、途中でたくさんのキャラクターが合唱するシーンが出てくる。このシーンは本当に圧巻。泣く。自分も口ずさみたくなる。

「音楽は、こんなに手軽に触れられる娯楽なのに、触れた人をこんなにも共鳴させられる」

僕はそう思わされた。やっぱり音楽は凄い。
(とても蛇足だけど、「僕はやっぱり音楽に一生携わりたい」と改めて思った)


(7)気弱な僕らの背中を後押ししてくれる

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主人公は気弱な性格。人によっては、この時点で「自分と似てる」と思うはず。
でもそもそも、不安を全く感じない人間が、この世に果たして居るんだろうか

新しいことに挑戦するとき、大なり小なり不安を感じるはず。そういう意味では、この映画の主人公は、誰もが自分を投影しやすいキャラクターだ。

そして主人公は、たいていの物語と同様にだんだん成長する。でもその成長のほとんどは自己鍛錬によるものではない。時の流れや偶然、主人公の周りの人達の影響によって成長する。
「人間は一人では生きられない」というテーマを、主人公の成長においても表している。

観る側の僕たちは、「誰かに頼っても良いんだ」「自分にも出来るかも」という気持ちにさせてくれる。勇気を出させてくれる。


(さいごに)この映画そのものが、現代を生きる僕ら

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この映画に出てくるキャラクターは、主人公も、サブキャラも、モブキャラも、全てが現代を生きる僕ら自身。

だからこそストーリーに共感して、キャラクターに同情して、喜んで、怒って、悲しんで...。自分の内側から感情が湧き出てくる。この体験は何物にも変え難い

そして、映画の最初から終わりまで、あらゆる要素が、一気通貫なテーマで表現されている。

完全なフィクション映画にも関わらず、まるで自分ごとの様に時間を過ごせる。まさに、今年最高の日本映画だと思う。

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