動画広告 「HOW」 の前に考えるヒント〜印象に残った「コイニー」「エアペイ」「PayPay」「シェフズレシピ」CM比較〜
ブランドのロゴ、色、デザインはいわゆる象徴(シンボル)だ。そのブランドの機能的ベネフィット、情緒的ベネフィット、ペルソナとベネフィットの関係性を表したコンセプトを養分とし、消費者がそのブランドを識別できる象徴的な記号としてのロゴが存在する。
よく言われている話として、ブランディングとはCI(コーポレート・アイデンティティ)をセットにしたロゴ変更だと勘違いしていることも多い。しかし、ブランドとは消費者の心の中にあるものだから、決してロゴだけではなく商品やサービスに対する認知や体験そのものに働きかける全てがブランディングといえる。その認知や体験の中の一つとしてブランドを識別する象徴としてのロゴがある。
動画広告を作るときに、そのサービスが消費者にまだ認知されていないケースがある。その時に、まだ知られていないサービスだからという理由で、ブランドロゴを軽視することがある。まだ知られていないからむしろ識別記号としてのロゴを覚えてもらう必要がある。しかし、どこの馬の骨ともわからないブランドロゴをどうせ覚えていないだろうから、限られた時間の中ではベネフィットが中心の展開となり、最後に「○○」で検索と誘導するケースが多い。それ自体を決して否定はしないけれども、強烈な印象に残るベネフィット、コンセプト、サービス名、ロゴが合わさり記憶に吸着すると、消費者と対峙するあらゆる接点でそのブランドが想起しやすくなり効率がよくなる。ブランドが知られていないからこそ、Indeedは「Indeed」と連呼し、バイト探しや仕事探しの求人数No.1のベネフィットとサービス名、青のロゴを記憶に吸着させた。もちろん、あまりにくどいと押し売りになるので、好感がもてる見せ方の工夫が必要である。
いくつか印象に残るCMを挙げよう。例えば決済端末「コイニー」のCM。
全てのシーンでロゴとサービス名が表示されている。「コイニー」というサービス名を認知している人の数は少ないだろうから、機能的ベネフィットとサービス名、ロゴが記憶に吸着するようなシンプルな構成となっている。コイニーで決済したことがないから推測にすぎないが、おそらく決済音もCMで鳴らしている独自の音に違いない。Google Trendsを見ると、おそらくCM効果により検索ボリュームが急増しているので、一定の成果があったといえる。
一方、「コイニー」の競合である「エアペイ」のCMをみてみる。
オダギリジョー扮する店員が、憧れの外国人バンドが店に訪れる奇跡に興奮するものの、電子決済に対応していないがために決済対応している隣の昔ながらの居酒屋に逃げられるという滑稽なCMだ。年間2000万人を超す外国人観光客は飲食店にとっては貴重な収入源の一つだ。電子決済に対応していないために逃げられるネガティブな状況を解決する決済端末であることを認知させたい。そのために、オダギリジョーという違和感、謎の外国人バンド、例え入口はぴったりな飲み屋であっても、出口の決済が対応していないと逃げられますよ、とメッセージをコミカルに伝え、「このCM、どこかで見たことがある」と記憶に残りやすくさせる。最後にオダギリがパンク口調で「エアペイ」と悔しさを吐露するシーンは秀逸だ。とはいえ、ブランド名「エアペイ」の露出が全体的に少ない。CMが面白くても、どこのサービスなのかは意外と覚えていないので、このCMが果たして「エアペイ」と結びついているかどうかは怪しいと私は思っていた。しかし、Google Trendsで見ててみると、おそらくCM効果により検索ボリュームが急増している。
「コイニー」と比較しても「エアペイ」のほうが検索ボリュームは多い。
この差はCM投下量の差なのか、クリエイティブの差なのか、リクルート社の強力な営業力の差なのかはわからない。しかし、CM効果により問い合わせ数が急増したと思われる点ではどちらも成功したといえるのではないだろうか。個人的にはCMの中で「エアペイ」をもっと露出させる見せ方をしたほうが伸びたのではないかと思っている。
「PayPay」のCMを見てみよう。
このCMは、これでもかというほど「PayPay」と連呼し、ロゴが全シーンに表れている。Google Trendsを見てみると、100億円あげちゃうキャンペーンほどの麻薬的な威力はないが、飲食店に対してPayPay対応店が急激に拡大していることを伝え、PayPay対応しないと時代遅れであるかのような勢いを感じさせる。
私の身近な店でもこの赤いPマーク対応店が増えているが、ロゴは「PayPay」を想起させる効率的な象徴(シンボル)となっている。
最後にイトーヨーカドーのCM「シェフズレシピ」を見てみよう。
「シェフになりたかった主婦」「主夫になりたかったシェフ」が出会って生まれた「時短でシェフクオリティ」「フライパンで焼くだけ」の商品「シェフズレシピ」。シェフになりたかった主婦と主夫になりたかったシェフが出会うというチャーミングなダジャレを含有したわかりやすい商品コンセプト、シェフクオリティの料理をフライパンで焼くだけで食べることができるベネフィットが記憶に結びつく。右上にイトーヨーカドーロゴが常時表示されていることから、それはイトーヨーカドーで買えることがわかる。このCMの凄さは商品の誕生コンセプトが記憶に吸着しやすく、ベネフィットが明快に伝わる点にある。
優れたCMは、ベネフィットやサービス名はもちろんのこと、コンセプトやロゴを含んだ全てを15秒に凝縮して消費者の記憶に吸着させ、認識や行動を促すことができるCMだ。コンセプトに独自性があり明快なほど、そのメッセージはより伝わりやすくなるだろう。動画広告を作る前に、今一度、WHO(ペルソナ、コミュニケーションターゲット、プロモーションターゲット)、WHAT(サービスのベネフィット、コンセプト)に立ち返り、HOW(クリエイティブ)のアイデアを考えてみるとよいだろう。
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